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小走りに駆けて来た少女が白衣の少女の隣でぴたりと足を止めて白銀に向かってお辞儀をする。
「おはようございます、白銀様! 伊東槙花と申します!」
にこにこと笑う槙花と名乗った少女と白衣の少女を見比べて白銀は混乱に頭を押さえた。それまで白銀を指差していた白衣の少女が槙花をじろじろと眺め回す。白衣の少女とはまた違う意味で槙花は変わった格好をしていた。黒いふんわりとスカートの広がったワンピースに白いフリルのついたエプロンを身につけ、頭にはカチューシャをつけている。一見してメイドとわかる格好だ。その上、槙花の首には白銀と同じように首輪が着いている。
「あの、ええと……」
白銀は頭をかきながら何とか考えをまとめようとした。
「ふーん。あなた、あのバカのお手付きなのね」
ふむふむ、と白衣の少女が納得したように頷く。だが槙花は何を言われたのか判らない、と言った顔で首を傾げた。
「それでは参りましょう、白銀様」
隣に立つ少女にはさして興味もないのか、槙花は白銀ににっこりと笑みかける。白銀は何が何だかさっぱり判らず、待ってくれと槙花に声をかけた。手にしていた小さな紙片をエプロンにしまいこんで槙花が首を傾げる。
「その、ええと、あんたたち、何なんだ?」
痛む頭を押さえて白銀は目の前の少女たちをかわるがわるに指差した。すると槙花と少女が顔を見合わせる。
「あたしはええと、ここに白銀様が落ちているから拾ってくるようにって」
ずれた眼鏡を指で押し上げながら槙花がさらりと言う。落ちて、と白銀は思わず口の中で呟いた。
「どっちの指示で来たのよ? あの馬……水輝か、それとも優い……佑か」
渋い顔をして白衣の少女が腕組みをする。槙花は不思議そうに首を傾げて微笑みを浮かべた。思わず可愛い、と呟きかけて白銀は慌てて口を手で覆った。目の前に立つどちらの少女も見た目はかなり整っている。白衣の少女は多少きつい印象はあるが、顔立ちは綺麗な部類に入る。対する槙花の方は綺麗というよりは愛らしい顔立ちをしているのだ。
「お二人をご存知なんですか?」
それまで白衣の少女には少しも興味を覚えていないらしかった槙花は、急に親しみのこもった笑みを浮かべて嬉しそうに頷く。白銀はそこで漸く聞き覚えのある名前を見つけてはたと我に返った。
「水輝?」
「あっ、白銀様も水輝様のことをご存知なんですね!」
嬉しそうに微笑んだ槙花につられて白銀は何となく頷いた。
「水輝とは腐れ縁っていうか。まあどうでもいいじゃない。佑とは、そうね。血は繋がってないけど姉よ!」
そう言って少女がふんぞり返る。この少女が姉、ということは佑という人物は随分と幼いのだろうか。そんなことを考えながら白銀は銀杏の木にしっかりともたれた。
「ええとですね。ご主人様……佑様のご命令です」
唇に指を当てて槙花が言う。それを聞いた白衣の少女がじっと腕組みをしたままで考えるような顔をする。その間に槙花は白銀に向き直ってにっこりと笑った。ついつい、その笑みに見とれた白銀の頬が無意識に赤くなる。
「何にしても、早期治療は基本だから、いくわよ」
そう言って白衣の少女が白銀に歩み寄る。ぼんやりと槙花に見とれていた白銀は首をつかまれて慌てた。白銀の首を片手に抱いた白衣の少女が強引に唇を合わせる。白銀は驚きに目を見張り、何かが流れ込んでくる感覚に身を任せた。自然と目を閉じると何故か多輝に治療されている時と同じ感じがする。
「多輝の味がする」
顔を上げた白衣の少女が唇を舐めて呟く。白銀は驚いて慌てて目を開いた。
「多輝さんのこと知ってるのか?」
そう言ってから白銀はあれ、と呟いた。いつの間にか身体が軽くなっている。それどころかさっきまでの頭痛も綺麗さっぱりなくなっていた。
「まあね。しかし、あいつも女の子らしくなったものねぇ」
まあ、もともとそーゆー可愛い性質あったけどねえ。苦笑する少女を見つめて白銀は首を傾げた。確かに多輝は性別を変えることが多いが、女の姿をしていても女の子らしいと感じたことはない。
「喋り方も乱暴だし……女の子らしいとは思わないけど」
とにかく治してもらったのは確からしい。白銀はそのことに気付いて慌てて立ち上がり、少女にありがとうと頭を下げた。
「男っぽいのは喋り方だけだってば。行動見てたら、優しい女の子ーって感じじゃない?」
あんたも治療してもらったり、優しくしてもらってるみたいじゃない。そう言われて白銀は思わず顔をしかめた。確かに多輝は外見は女の姿になることはあるが、あれは機械に過ぎない。女の子などではない。だが白銀はその思いを口にはしなかった。どうやらこの白衣の少女は多輝のことについてもよく知っているようだが、隣の槙花は二人の会話を不思議そうな顔をして聞いているのだ。恐らくヒューマノイドについても知らないのではないか。その危惧から白銀は曖昧に言葉を濁すだけに留めた。
「まあ、わからないのならいいけど」
そゆ観察力の無さがモテナイ君のモテナイ君たる所以なのかなあ。ぽつりと呟いて少女がため息を吐く。もてない、という言葉がぐさりと胸に刺さり、白銀は情けない笑いを浮かべて頭をかいた。例え相手は白銀のことを知っていても、白銀にとっては見ず知らずの少女だ。そんな通りすがりの少女に気にしていることを言われ、白銀は疲れたため息を吐いてがっくりと肩を落とした。
注:白銀は人間ではありません。
一応、龍神です。しかも強いはずの!
なのにヘタレすぎて絵美佳が困ってます。