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「まっかちゃんって言ったっけ? あたしもついてっていい?」
久しぶりに顔見たいし。そう言って少女が槙花に笑みかける。すると槙花が困ったような顔をして少女を上目遣いに見る。
「あのぉ、まきか、なんですけどぉ……」
小声で少女の言葉を否定してから槙花は白銀を横目に見た。
「ええと、ご主人様には白銀様を拾ってこいと申し付けられているだけなので」
そう言って槙花がすみません、と少女に頭を下げる。そこで白銀ははっと我に返って慌てて手を振った。
「いや! あの、よく判んないけど、俺は今から大学に戻らないと」
これ以上、要を怒らせるのは良くない気がする。そんな思いから白銀は早口でそう言った。すると槙花が困ったような顔をして首を傾げる。
「思考だだ漏れ……。気配も読めないし……。よく座位取り上げられないわねえ」
白衣の少女が小声で言ってから言葉を継ぐ。
「まっかちゃんの言う事聞いたほうがいいわよ。ミサイル胸のアホも優い……佑には逆らえないんだから」
「それって要のこと?」
ミサイル胸、という少女の言葉にかちんと来て白銀は荒い声で言い返した。確かに要のバストはたっぷりとした重量があり、形もどことなく砲弾を思わせるが、触れるとまるで違うことがよく判る。白銀は握りこぶしを固めてそう力説した。語り終えた白銀がふと目をやると唖然とした顔をした二人が見えた。特に槙花の方は頬を赤く染めて恥ずかしそうにしている。
「や、あの! ほんとに要の胸は凄いんだよ!」
「いやぁぁああ、恥ずかしいですぅ」
頬を手で包んで槙花がいやいやをするように頭を振る。
「ミサイル胸ってのは誉め言葉なんだけど……。こう、ばいーんとミサイルみたいに飛び出してる胸って事よ! あれ? ロケット胸だったっけ?」
まあ、どっちでもかわんないか。そう言いながら白衣の少女ががりがりと頭をかく。確かに要のバストのサイズは他ではちょっとお目にかかれないくらいには凄い。うんうん、と頷いてから白銀ははたと気付いた。
「え。あの、要のことも知ってるのか?」
急に我に返って訊ねた白銀を少女が呆れたように見つめる。白銀は少女に見られていることが何故か恥ずかしくなり、そっぽを向いた。するとそれまでいやいやをしていた槙花の姿が目に留まる。槙花はいつの間にか携帯電話で誰かと話をしていた。はい、はい、と小さな声で返事をしながら頷いている。頷くたびに二つのお下げが揺れる様を白銀はぼんやりと見つめた。
「まあね。あのアホは、あたしの事をライバルだって言ってるみたいだけど」
ま、一度とは言えあたしを負かした根性は認めてあげてもいいかなあ。そう言って複雑な顔をした少女にふうん、と答えてから白銀は槙花に目を戻した。真面目な顔で話し込む槙花を見つめて思わずため息を吐く。
槙花はふんわりとした綿菓子のようなイメージがある。愛らしくて触れるとふわふわしていそうで、何とも言えない感じがある。可愛いなあ、彼女。ついつい白銀は素直な感想を呟いた。
「……あんたがなんでモテナイ君なのか、凄く良くわかってきたわ……」
ひくりと頬を引きつらせて少女が言う。白銀ははっと我に返って慌てて少女を見た。そこで停止していた思考回路が動き出す。さっきの少女の言葉を思い出してから白銀はぽん、と手を叩いた。
「ああ、吉良絵美佳さん?」
やっと思い出して白銀は少女を指差した。要がライバルと称しているのは一人きりだし、かつて戦って勝った相手といえばやっぱり一人きりだ。
「あたしの事、知ってるんだ」
感心したように言った絵美佳に白銀は頷いてみせた。要から話だけは聞いている。そう説明して白銀はまじまじと絵美佳を見た。要はいつも絵美佳をこき下ろしているのだが、白銀の目には絵美佳はごく普通の少女に見えた。要は年はそう変わらないと言っていたから、恐らく絵美佳は童顔なのだろう。
「どうせあいつの事だから、洗濯板だとか、えぐれ胸だとか、好き勝手言ってるんでしょ?」
笑って顎をしゃくってみせた絵美佳に頷き、白銀は言葉を継いだ。
「史上最悪の不細工とか、短足とか、ドラム缶とか」
かつて要から聞いた絵美佳の評価を白銀はさらりと口に乗せた。すると目に見えて絵美佳が引きつる。
「あのアホそこまで言うかー。まあ、勝負に負けた身としては諦めて罵られとくしかないけどねえ」
苦笑しながら言う絵美佳をまじまじと見つめてから白銀は肩を竦めた。
「綺麗なのに」
すらっと言ってから白銀は槙花を見た。どうやら話は終わったらしい。携帯電話をエプロンのポケットに戻した槙花が二人に向き直り、一礼する。
「お待たせ致しました。白銀様と絵美佳様を吉良瀬別邸にご案内させて頂くようにとご主人様が」
にっこりと笑って槙花が言う。そこで白銀は慌てて首を横に振った。
「いや、だから、俺はあれを大学に運ばなきゃならなくて」
そう言いつつ、白銀は置きっぱなしにされているクーラーを指差した。すると槙花は笑みを浮かべたまま言った。
「ご主人様が拝見したいと仰っておられますので、後ほど運ばせて頂きます」
丁寧にお辞儀をした槙花につられて白銀は頭を下げた。いや、違うって。そう言って両手を横に振った白銀をじっと槙花が見つめる。白銀は言葉に詰まって視線を彷徨わせた。
「あんたね。誉めるのはいいのよ。誉めるのは。正直なのも悪いことでもないけど」
安売りしてたら価値も半減するわけ? わかる? それまで黙っていた絵美佳が急に白銀に向かって言う。白銀は何度か瞬きをして首を傾げた。俺、誉めたっけ。そんなことを呟いた白銀を絵美佳が呆れた顔で見る。
白銀が人間ならなんの問題もな……まあ、問題はあるのですが、絵美佳もここまで言わないというか……(汗)