※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

58 / 183
続きです。エロシーンはありません。
あ、このエピソードで三章は終わりです。


マジカルプリンセスいちご、始動! 2

『そうよ。この通信は会話やテレパシーよりもずっとセキュリティが高いから』

 

 それを聞いて多輝ははたと気付いた。確かに今は部屋は物静かで斎姫の声が聞こえている訳ではない。多輝も会話をしてはいるが、実際に声を出している訳ではないのだ。

 

『けっこーまどろっこしいんだなあ……何かやばいことでもあんのか?』

 

 オーバーニーソックスをはきながら多輝は唇を尖らせた。由梨佳と同時に通信を開くと今度は由梨佳の声も多輝の耳に聞こえてくる。

 

『暗号化もされてるのね。使い捨ての方式だから、たとえ盗聴できても解読はほぼ百パーセント不可能だわ』

 

 そんな由梨佳の言葉に多輝はなるほど、と頷いた。確かに傍受されたところでそれなら問題はないだろう。だが、それを言えば龍神の力を使った精神感応も問題ないのではないか。あれは傍受や盗聴は普通では無理だ。多輝はそう斎姫に言ってみた。すると斎姫が困ったようなため息を吐く。

 

『隠す相手が人間ならその通りね』

 

 それを聞いた多輝は慌てて言った。

 

「ちょっと待て。じゃあ……」

 

 そこまで言って多輝は慌てて口を噤んだ。由梨佳の差し出したジーンズのジャケットを身に着ける。

 

『じゃあなにか? 緊急で対応って、人相手じゃないのかよ』

 

 どうもまだ慣れないためについ口で話したくなる。反射的に動きかける唇を真横に引き結んで多輝はそう言った。

 

『ここまでの移動は普通の転移を使ってかまわないわ。それ以降はカードの魔法しか使っては駄目って、優くんが』

 

 斎姫に言われた多輝はぎょっとして目をむいた。多輝はええと、と呟いて無意識に使っている力を指折り数えた。転移も勿論そうだが、治療や思考を読むことはどうなのだろう。試しに多輝はそう訊ねてみた。するとしばしの間を置いて斎姫がため息を吐く。

 

『カードの魔法でほとんどは代用できるはずよ。優くんがインストールしてくれたプログラムに従ってわたしが指示するから安心して』

『とっ、とにかくそっちに行く』

 

 会って話を聞いてみなければ状況が理解出来ない。多輝は混乱する頭を押さえて由梨佳に頷いた。

 

 不意に背後ですすり泣く声が聞こえる。多輝は驚愕に首を竦めて恐る恐る振り返った。ハンカチを目許にあてがった蒼がわざとらしくしくしく、と口で言う。

 

「今朝は珍しく由梨佳様と眠っていらっしゃらないのですね」

「その手のカメラは何だ!」

 

 声高に叫んで多輝はびしりと蒼の右手のデジタルカメラを指差した。おや、と呟いて蒼がジャケットの胸のポケットにデジタルカメラを大事にしまいこむ。

 

「用事は何だ! おれは忙しいんだ!」

 

 苛々しながら多輝は促した。能天気な使い魔はえーと、と考えるような顔で天井を仰ぐ。これで蒼もやたらに見目が整っているのだから反則だ。

 

「寝顔をふらっしゅ!」

 

 当然のような顔をして蒼が言う。あまりの下らなさに多輝はこぶしを固めて振りかぶった。しかも何故か今日に限って蒼はタキシードに身を固めているのだ。長い薄青の髪は後ろで一つに束ねられている。

 

『蒼さんとは、普通に会話しててかまわないわ。とりあえず、来て』

『普通にっつったって……蒼も連れてくのか?』

 

 蒼を今にも殴ろうとしていた腕をぴたりと止めて多輝は斎姫に問い掛けた。生パンツでも可。などと蒼は訳の判らないことを言っている。多輝は同時に二人と会話が出来ず、自然と蒼には無言で応えることになった。

 

『こっちについたら、待っててもらうようにそれだけを命令して』

「生パンツ」

 

 斎姫の声と蒼の言葉が重なる。咄嗟のことで反応出来なかった多輝のキュロットスカートがめくれ、フラッシュがたかれる。眩しさに目を細めつつ多輝は勢いよく腕を振るって蒼を殴りつけた。勢いよく飛んだ蒼が頭からソファに突っ込む。

 

「実はしばしの暇を頂きにあがりました」

 

 だくだくと鼻血を流しながら蒼が身を起こす。

 

「はあ!?」

 

 まだ足りないか、とこぶしを握り固めていた多輝は意外な蒼の言葉に大声を上げた。蒼は握っていたハンカチで丁寧に鼻血を拭き取ってから生真面目な顔ではい、と頷く。実は、と呟いてから蒼はジャケットのポケットを探った。一体、みんなどうしたのだろう。そんな不安から多輝は黙って蒼のすることを見ていた。

 

 蒼が取り出したものを厳かに指に挟んで掲げてみせる。それを見た多輝は意味が判らず眉を寄せた。蒼が指に挟んでいるのは一枚のカードのようだ。

 

「何だ、それは」

 

 もしかしてとても大事なものなのだろうか。そう思いつつ多輝は自然に蒼に訊ねた。すると蒼がカードを掲げたまま声を張り上げる。

 

「実はわたくし! ついうっかり『イチゴチャンのきゃる~んなショットを集めよう!』の会の会員になってしまいまして!」

 

 多輝は無言で隣に立つ由梨佳の手を取った。

 

「これから試写会があるのです!」

「帰れ、お前は!」

 

 そう言い放って多輝はずかずかと蒼に歩み寄ってからげんこつを揮った。今度はベッドに蒼が頭から突っ込む。それを無視して多輝は清陵高校の地下施設に向かって転移した。あああ、多輝様、という蒼の情けない声が遠ざかる。




使い魔の蒼が変というか、前から変なのですが。
多輝大好きなので仕方ないです(棒読み)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。