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歪んだ視界が一瞬で構成しなおされる。瞬間的に多輝は斎姫のいる地下施設に姿を現した。斎姫がかたい表情で二人に会釈をしてみせる。斎姫が居たのは地下施設の底近くにある部屋だった。
「イチゴちゃん! 来てくれてありがとう!」
異様に浮かれた声で斎姫が言う。多輝は表情と口調のギャップに焦りつつ、いいえ、と頷いた。
『これからの移動はアースのカードを使って』
『判った。……けど、何なんだよ、一体』
多輝は顔をしかめて周囲を見回した。見慣れない部屋ではあるが、ここは客室の一つではなかっただろうか。
『待ってね。優くんからのメッセージを流すから』
そう言って斎姫が股間を操作する。今日の斎姫は学校に行かないのだろうか。平日の朝だというのに制服を着ていない。
『多輝、このメッセージは斎姫に仕込んだプログラムに記録されているものだ。きみがこれを聞いているということは、僕がなんらかの事情で動けない状態で、緊急事態が発生したということだ』
聞こえてきた優一郎の声に多輝は思わず呼びかけようとした。慌てて口を手で覆って声を殺す。今は優一郎はいないのだ。そう、自分に言い聞かせる。だが多輝の目尻にはうっすらと涙が浮かんだ。由梨佳と一緒に楽しく毎日を過ごしてはいるが、優一郎に会いたいというのも本音なのだ。多輝は声を殺して目許を拭った。
『実は僕の判断能力や、誓約者としての能力の多くは、分割されて斎姫の体内に格納されている。そして、斎姫にはそれを活用するためのプログラムがインストールしてある』
ゆっくりと語る優一郎の言葉を聞いて多輝は驚きの目で斎姫を見た。斎姫はだがかたい表情をしたままだ。
『そのシステムは斎姫を中心に、何体かのヒューマノイドやさまざまな場所に仕込んだ機械装置によって構成されている。龍神を相手取った情報収集には、かなりの威力を発揮するはずだ』
龍神を相手取った情報収集。多輝はその言葉に目を細めた。どうやら自分の知らないところで妙なことが起こっているのは確からしい。
『しかしこのシステムには問題点がある。情報収集を行って、危機の到来を判断しえたとしても、もっと詳細な情報を得るために具体的な行動を起こしたり、阻止する手段が無いことだ』
静かに語られる優一郎の声に多輝は無言で頷いた。今、ここで優一郎に説明されている訳ではない。だが多輝は真剣な表情で優一郎の言葉を聞いていた。
『多輝。そこで、僕に代わって具体的なアクションを起こす役目を君にお願いしたい。特にカードの魔法は有効だ』
カード。そう呟いて多輝はスカートのポケットを探った。女性の姿をしている時、多輝は常に何十枚かのカードを持っている。これは一年くらい前に水輝が多輝のために力を使いやすい形にしてくれたものだ。多輝はこのカードを介した魔法を使う時は、特に意識をすることもなく決められた杖を使うだけでいい。
『そのカードとステッキは、実は、もともと、水輝さんの依頼によって義父が作った玩具だ。父が言うには水輝さんはわざわざ女性の姿を取ってコスプレをしてその玩具で遊んでいた事があるらしい』
それを聞いた多輝はがくっ、とその場でずっこけた。こめかみを押さえて立ち直ってから、女装した水輝がアイドル歌手も真っ青な衣装をつけて杖を振り回しているところを想像する。思わず吹き出した多輝は手近なソファをばんばんと叩いた。
『水輝さんは一時期アニメにはまっていて、そのあたり、いろいろ武勇伝があるらしい。詳しくは戻った時にでも話そう』
話しているうちに優一郎もおかしくなったのか、言葉に笑い声が混ざる。道理で詳しい筈だ、と多輝はしみじみと頷いた。ちなみに多輝にカードの魔法を発動させるための呪文を伝授したのも水輝自身だ。
『玩具として作られたと言っても義父は天才だ。僕が貰ったスカウターやドラゴンレーダーは君も見た事があるだろう?』
ああ、と思わず呟いてから多輝は慌てて口を手で覆った。思わず周囲をこそこそと伺う。だが斎姫は相変わらずかたい顔をしたままだし、由梨佳はいつもと変わらない穏やかな表情で立っているだけだ。
優一郎の言ったのはアニメーション番組に出てきた機械の名前らしい。だがその名の道具は実在する。スカウターというのは龍神の力を測るための機械だし、ドラゴンレーダーは龍宝珠のありかを定められた範囲内に限って表示するための道具だ。
『そのカードとステッキには、龍神の力を完全に安定した状態で、魔法として変換し発動する能力がある。変換時のロスが全く発生しないため、魔法が発動されたことを他者が感知することが出来ないという特色がある』
多輝はスカートのポケットから引っ張り出したカードをじっと見つめた。指で上の方のカードだけずらしてみる。風。火。水。土。木。五枚のそのカードにはそれぞれに愛らしい漫画的な絵が描かれている。
『もちろん、良い事ばかりではない。カードとステッキで変換できる力は、その龍神が揮うことのできる力の数十分の一程度でしかない。通常の龍神が使ったならば、本当に玩具にしかならない代物だ』
淡々と語る優一郎の声を聞いていると、本当にこの場に優一郎が居るのではないかという気になってくる。だがどこを探しても優一郎は見当たらない。今は佑という女性として水輝の傍にいるからだ。
『しかし、君が使うなら話は別だ。雷龍は全龍神の中でも最高の力を、金龍をも上回る力を持つと言われているんだ』
それを聞いて多輝は訝りに眉を寄せた。そんなことはないだろう、と思わず言い返しそうになる。今の多輝は本気で手合わせをすると使い魔の蒼にすら負けてしまうのだ。
『ただ、過去の雷龍は、あまりにも大きすぎる力を持て余し、本気で力を揮うために命を磨り減らし、自滅した例も数多いらしい』
まさか、と笑いかけて多輝は俯いた。手の中のカードをじっと見つめてみる。優一郎がこの段で嘘を吐く理由はどこにもない。
カードキ○プターさ○ら、好きなんですよ……。作者が!w
水輝も一時期はまっていたようです。
ていうか、女性化してまで遊んでいたというのは筋金入りですね!w