※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

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初体験と言ってもエロシーンはありません。


白銀、いろいろ初体験 1

 大きなドアが静かに開く。白銀は息を飲んで家の中を見回した。落ち着いた雰囲気の玄関だけ見ても、まるで美術館か何かのように思える。うわあ、と素直に歓声を上げて白銀は天井を見上げた。柔らかな陽光の差し込む吹き抜けの天井は硝子張りになっている。

 

「白銀様をお連れ致しました」

 

 白銀の横に立っていた執事らしい男が恭しく頭を下げる。白銀ははっとして男が頭を下げた方向を見た。広々とした玄関から伸びた大きな階段からゆっくりと一人の女性が降りてくる。淡い水色のニットのスーツを身に着けた女性に白銀は思わず目を奪われた。

 

「ようこそ、いらっしゃいませ。吉良瀬佑と申します」

 

 階段を降りた女性がにこやかな笑みを浮かべて挨拶する。白銀は緊張に背筋を伸ばしてこんにちは、とお辞儀した。

 

「どちらに御案内致しましょう?」

 

 執事に問われた佑が微笑みを浮かべて首を軽く傾げる。白銀はそんな佑を凝視していた。柔らかそうな髪は長く、肩の下辺りまで伸びている。肌は透けるように白い。だが決して不健康なイメージはどこにもなく、赤い唇がよく映えている。すらりと伸びた手足は長い。

 

「まずはお食事を。白銀さんは何も食べていらっしゃらないのでしょう?」

「あっ、はい」

 

 話を振られて白銀は慌てて頷いた。そこで急いで口を手で覆う。今のは図々しかっただろうか。そんなことを思いながらちらりと佑を見る。佑はだが微笑みを浮かべて白銀に頷き返した。

 

「それでは食堂の方へ御案内させて頂きます」

 

 丁重に礼をして執事がこちらへどうぞ、と手を差し伸べる。白銀は慌てて頷いてから横にいた槙花を見た。槙花は少し困ったような顔をしている。

 

「あの、あたしは……」

 

 口ごもった槙花に佑がにっこりと笑みかける。

 

「あなたには、水輝さんのほうから特別なお仕事があるそうよ」

「え、水輝様もいらっしゃるんですか?」

 

 不思議そうな顔をして槙花が首を傾げる。ええ、と頷いてから佑がちらりと執事の方を見る。執事は佑に一礼してから白銀を促した。何となく槙花を気にしつつも白銀は大人しく執事の後に続いた。

 

 広い玄関から廊下に向かう。この家はあちこちに絵画が飾られている。所々には花が活けられた立派な花瓶も置かれている。白銀は物珍しさに任せて周囲を眺めながら歩いた。

 

 やがて執事が大きな扉の前で足を止める。こちらでございます、と執事が恭しく礼をして扉を開ける。目の前に広がった光景に白銀は思わず息を飲んだ。要の家とは比べ物にならないくらいに広い食堂がある。大きな机は長く、大勢の人が同時に食事を出来るように椅子も幾つも並んでいる。燭台には蝋燭が灯り、火が揺らめいている。白銀はふらふらとした足取りで食堂に入った。待ち構えていたメイドの数人がいらっしゃいませ、と行儀よくお辞儀をする。白銀は勧められるままに部屋の奥に向かった。執事が引いてくれた椅子に恐々と腰を下ろす。傍に控えていたメイドの一人が白銀の足の上にナプキンを広げておく。かと思うと、別のメイドが白銀の前のグラスに透明なワインを注ぐ。白銀は驚きに目を白黒させて何度も瞬きした。

 

「それでは、主人が参りますまで今しばらくの間、おくつろぎくださいませ」

 

 恭しく礼をした執事が静かに部屋の奥に引っ込んでいく。白銀は息を潜めて周囲を見回した。天井は二階まであるのではないかというほど高い。その天井には鮮やかな色彩の絵が描かれている。ぶら下がっているシャンデリアについているのは、もしかして硝子玉ではなく、本物の宝石ではないだろうか。明かりを照り返して煌いている。

 

 やがてメイドが静々と銀色の大きなトレイを手に白銀に歩み寄る。選ぶように言われて白銀はトレイの上を覗き込んで仰天した。

 

「きゃびあ……?」

「はい、左様でございます」

 

 にっこりと微笑んでメイドがトレイに乗せられたオードブルの説明を始める。だがその説明は白銀の耳を右から左に流れてしまった。キャビアにフォアグラ、伊勢えび、ずわいがに。白銀はクラッカーの上に盛られた食材を見つめてくらりとする頭を押さえた。

 

 よく判らないままに白銀は幾つかのクラッカーを選んだ。恐る恐る白銀が指差したオードブルをメイドが皿に乗せる。その皿を目の前に出された白銀は震える手でクラッカーをつまんだ。トレイを持ったメイドが深々と礼をして白銀から離れ、今度は違うメイドが近づいてくる。次に白銀はまた選べと言われてトレイを覗き込んで頭を抱えた。見たことのない料理がずらりと並んでいる。それぞれは小さいのだが、やたらと高級そうに見えるそれを白銀は恐々と見た。

 

「あの……これって」

「オードブルでございます」

 

 にこやかな笑みを浮かべてメイドが言う。どうでもいいが、どうしてここのメイドはいちいち可愛いのだろう。槙花といい、見目で選ばれているとしか思えない。白銀はやけくそ気味に何点かの料理を選んだ。それを皿に盛り付けたメイドが下がると、今度は違うメイドが寄ってきて料理にソースをかけてくれる。

 

 こ、これは手で食べるのだろうか。入れ替わりにやってきたメイド達が離れてから白銀は目の前にずらりと並んだ皿を見つめて引きつった。

 

「おーどぶる……」

 

 メイドたちは白銀の皿に料理を乗せてはオードブルでございます、と口を揃えて言っていた。だがこれだけで腹が膨れてしまうのではないだろうか。そんなことを考えていた白銀は物音にはっとしてそちらを向いた。にこやかな笑みを浮かべた佑が執事に伴われてやってくる。




そもそも要の家にいるはずなのに白銀が無知すぎるw
どういう扱いを受けてるかお察し下さい。
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