前半はエピタイ通りなので!
エロシーンはありません。
アルコールが完全に回って心地よい寝息を立てて眠る白銀の横で佑は目を吊り上げた。
「さいってー! なによ、こいつ! 信じられない!」
佑は怒りを込めて白銀を見下ろした。佑に圧し掛かった格好のまま、うつ伏せで白銀は安らかな寝息を立てて眠り続けている。佑の罵倒の声にも気付いた様子はない。
「水輝さんの、命なのに」
しょんぼりとした顔をして佑はベッドを降りた。広々としたベッドのあるこの部屋は佑の部屋より少し広い。窓は大きく作られていて外の景色がよく見える。佑は破れた服を合わせ、乱れた髪を指で梳いて整えた。
あれから白銀は昂奮した顔で佑の服を引き裂き、その直後に眠ってしまった。少しほっとしつつ佑は肩越しに白銀を見返った。幸せそうな顔をして眠る白銀を見ると少しだけ怒りが和らぐ。
「水輝さんに……報告しなきゃ」
もしかしたら水輝は怒るだろうか。怯えた目で呟いて佑はため息を吐いた。眠る白銀の身体にそっと毛布をかけ、着替えを終えて部屋を出る。
ふと目をやるとメイドたちが数人がかりで蒼を抱えて運んでいるのが見えた。続いて二人のメイドが槙花を運ぶ。廊下を行く彼女たちを目で見送ってから佑は水輝のいる部屋に向かった。深い茶色の扉を緊張した面持ちでノックする。中から水輝の返事があったことを確認してから佑はドアを開けた。
「水輝さん、ごめんなさい」
部屋に入ってドアを閉めてから佑は真っ先に水輝に頭を下げた。眠るように目を閉じてソファに横たわっていた水輝は反応しない。さっき返事をしたのだから起きてはいる筈だ。そう思いながら佑は恐る恐る部屋の奥に進んだ。暖炉で薪がはぜた音に思わずびくんと肩を竦める。
水輝が片方の目を開けて佑を見る。佑は慌てて水輝に向き直った。水輝は何も言わずにまた目を閉じてしまう。
「水輝さん?」
「落とせなかったのか」
佑の呼びかけに水輝が静かに告げる。佑は緊張に身を強張らせて長いスカートを両手に握りしめた。
「落したと思ったんだけど、押し倒されて、服破かれた後、寝ちゃったの」
多少の屈辱を覚えつつも佑は正直にそう説明した。目を閉じて横たわっていた水輝が静かに瞼を開ける。
「そうらしいな」
大きく伸びをして水輝は髪を指でかきあげた。声からは感情を読むことが出来ず、水輝がどう思っているのかを佑は知ることが出来なかった。もしかして水輝は怒っているのだろうか。そう思った佑は慌てて水輝に一歩近づいた。
「水輝さん、ごめんなさい。わたし、どうすればいい?」
水輝に嫌われるのは耐えられない。佑は必死の面持ちで水輝に訊ねた。それまで天井を見つめていた水輝が横目に佑を見る。
「案外と役に立たないな」
そう言ってから水輝が勢いをつけて身を起こす。佑は驚きに目を見張って呆然と水輝を見つめた。欠伸をして煙草を咥えて水輝が上目遣いに佑を見る。
「ごめん……なさい」
悲しみに囚われた佑は涙を流しながら詫びた。水輝が少し眉を寄せて佑を見つめてから急に吹き出す。唐突に笑い始めた水輝を佑は驚きの目で見下ろした。しばし笑ってから水輝が煙草の火を点ける。
「冗談だ。あれだけ酒を食らえば眠ってしまうことは判っていたからな。疲れていたらしいし」
喉の奥で笑って水輝が言う。佑は涙を拭いて拗ねて唇を尖らせた。
「もうっ! 水輝さんったら」
頬を膨らませてそっぽを向きながらも、佑は内心で安堵の息を吐いた。悪い、と詫びて水輝が佑の腰を軽く叩く。小さな悲鳴を上げて佑は身を捩った。
「水輝さんっ」
良かった。嫌われちゃったのかと思った。そう呟いて佑は上目遣いに水輝を見た。すると水輝が不思議そうに首を傾げる。
「何だ。おれはそんなに狭量な男に見えるのか」
半ば呆れたように言って水輝が佑の腕を引く。佑は愛らしい声を上げて水輝の上に倒れこんだ。胸に抱いた佑の頭を水輝が撫でる。佑は静かに首を横に振って目を閉じた。
「わたしが水輝さんに相応しいかどうか……。いえ、水輝さんが望むことの役にたてるかどうか。それが心配なの」
もしかしたら役に立てていないのかも知れない。そんな不安が常に佑の胸にはある。自分はただ自己満足のためにこうしているのかも知れない。そう思うたびに胸が締め付けられるのだ。
「心配するな。佑は十分に役に立っているさ」
耳をぴったりと付けた水輝の胸の奥から声が聞こえてくる。佑はうっとりと目を閉じて水輝の声の響いた器に耳を押し付けた。こうしていると器の中の力の流れを感じることが出来る。
「だって、わたし! 以前の水輝さんの願いは叶えることができなかったもの! だから……」
寂しさに顔を僅かに歪めて佑は深い息を吐いた。佑の頭を撫でていた水輝がぴたりと手を止める。不思議に思って佑は閉じていた目を開けて顔を上げた。
「以前のおれ?」
不思議そうな顔をして水輝が言う。佑は最初、水輝が冗談を言っているのだと思って笑おうとした。だが水輝は怪訝そうな顔をして首を捻っている。
「変なこといって、ごめんなさい。とにかく! 必用ならもっと水輝さんのお役に立てるように努力もするわ。だから、必用なことは言ってね」
無意識に佑の纏う気配が澄んでいく。水輝はしばし黙ってから軽く眉を寄せた。まじまじと佑を見つめて水輝が舌打ちをする。佑は変なことを言ってしまったかと焦った。
「水輝さん、あの、わたし、何か変なこと言った?」
「何故余計なことをする?」
心底、不快そうな顔をして水輝が佑を放す。佑は驚きに息を飲んで何度か瞬きをした。だが佑の意識とは関わりなく、纏う景色が澄んで煌く。微かに視界の隅で自分の気配の変化を捉えてから佑は慌てて周囲を見回した。
「違うわ。わたしじゃない。これは……きゃっ!」
悲鳴を上げて佑は床に転がった。水輝が乱暴に佑を押し退けたのだ。慌てて起き上がった佑は焦って水輝を見つめた。水輝は横を向いて煙草をふかしている。相当、機嫌を損ねてしまったらしい。
「水輝さん! ごめんなさい。すぐ、抑えるから」
佑は必死の面持ちで言って澄んだ気配を抑え込もうとした。少しずつ透明な気配が減っていく。だがそれに伴って佑の気配そのものが減る。抑えられないのだ。
白銀ヘタレ。