「そんなことない。だって俺も女になるけど、そんな……誰かが消えたり出たりとかは」
「佑から話を聞かなかったか? お前はかつて人格を分離しただろう?」
そう言って水輝が煙草の先で白銀をさし示す。白銀は額を押さえて懸命に記憶を辿った。そうだ。眠る前に佑は色んな話をしてくれたのだ。その中には白銀の過去の話も含まれていた。白銀自身がなくしてしまった記憶に含まれる過去だ。
「そこで、頼みがある」
おもむろにそう言って水輝が何かをテーブルに置く。懸命に考えをめぐらせていた白銀は何気なくテーブルの上を見て目を見開いた。置かれたのは銀色の龍宝珠だ。
「これ、要の……」
「おれはどうしてももう一度、佑に会いたい。お前は人格を分離する方法を本当は知っている筈だ。だから」
白銀の呟きを遮って水輝が言う。白銀はテーブルに置かれた自分の銀宝珠と水輝とを見比べた。どういう理由でこれがここにあるのかは判らないが、宝珠をなくした要は困っているのではないだろうか。
「あの少年が男に性を変質させた折、佑は消えてしまった。消えたくないと言っていたんだ」
深いため息を吐きながら水輝が言う。白銀は戸惑いの目で水輝を見つめた。うなだれた水輝の表情はうかがえないが、きっと随分と落ち込んでいるに違いない。白銀も昨日会ったばかりの佑のことを思い出して悲しみに顔を歪めた。
「でも」
「……そんなにあの娘が大事か?」
うなだれたまま、水輝が低い声で問う。それが要のことだと気付いて白銀は当り前だと頷いた。ゆっくりと水輝が顔を上げる。
「だがあの娘にとってお前はどうだろうな?」
それを聞いて白銀は顔を強張らせた。水輝がテーブルの上の銀宝珠を取り上げ、手の中で弄ぶ。
「周囲に多くの男を侍らせ、気が向いた時に男に奉仕をさせる。気に入らなければ側近からは外し、別に好みの男を見つければまた囲う。お前はそんな中の一人なんだろう?」
流れるような口調で水輝が語る。白銀は唇を引き結んで視線を下げた。そんな白銀に向かって水輝が言葉を継ぐ。
「可哀想にな。あの娘の側にいる他の男達はそれなりに大事にしてもらっているのにな。お前は小間使いのように働くだけ。娘に命じられてすることと言えば、荷物持ちくらいか? それも不条理な言いがかりをつけられて叱られる始末だしな。可哀想にな」
あ、と声を漏らして白銀は目を細めた。耳の奥にやけに水輝の声が響く。可哀想に。水輝の言葉が耳の奥で心地よくこだまする。
「たかが一介の使用人と同列に扱われ、それでも報われない。可哀想だろう?」
水輝の口許に嗤いが浮かぶ。だが白銀の目にはそれは見えていなかった。自分の鼓動が聞こえるほど、息を詰めて何度か目を細める。白銀の視界には水輝の弄ぶ銀色の宝珠が映っていた。右に左に、と宝珠が動くのを無意識に目で追いかける。
「誇り高い白銀の翼よ。可哀想にな。あの娘にとってお前の価値とはどこにあるんだろうな?」
「俺は……俺は」
白銀の目は忙しく宝珠を追いかけていた。熱に浮かされたような声で呟いた白銀に畳み掛けるように水輝が言葉を紡ぐ。
「なに、お前があの娘を好いてやっていることはよく知っている。憐れなあの娘にお前はわざわざ心を砕いてやっているのだろう?」
優しい声が耳の奥で甘くこだまする。白銀は魅入られたように宝珠を見つめたまま、何度も頷いた。
「少しの間、娘から目を離すことを誰が責める? お前はそれとも男を侍らせる娘の様を見ていたいのか?」
「嫌だ……俺は……」
震える声で白銀が呟いた瞬間、宝珠の動きがぴたりと止まる。ゆっくりと宝珠が浮かび上がる。それにつられて白銀は視線を上げ、のろのろと立ち上がった。
「心配はない。あの娘はもう、お前のことなど気にしてはいない。本来の主なのだろう? あの少年は」
深く心に響くその声を聞いた途端、白銀の目に仄かな昏いものが灯る。
「可哀想にな。お前は報われることはなく、娘は主の許に戻るという訳か。そして娘は主に自ら股をひらき、何度も」
中空に浮かんだ宝珠を見つめて白銀は何度も、と水輝の言葉を繰り返した。
「何度も、何度も」
ゆらりと立ち上がった水輝がぼんやりとした面持ちで佇む白銀に歩み寄る。耳元に唇を寄せた水輝が嗤い混じりに呟く。
「何度も犯される訳だ。はしたない声を上げ、痴態を演じ、快楽を貪る訳だな。お前ではない、別の男と」
「なんで」
白銀は息を潜めて目を細めた。昏い感情が胸の奥からこみ上げてくる。
「何故だろうな。可哀想に」
そう囁いて水輝が軽く白銀の頭をつかむ。されるがままに頭を傾けた白銀は掠れた声を漏らして身体の力を抜いた。心地よい快感がこみ上げてくる。
「思い出せ。さっきは気持ち良かっただろう? あの娘に組み敷かれた時と、比べてみろ」
白銀は熱い息を吐いて無意識に股間を探った。するりと何かが白銀の手に触れて勃起しかけていたペニスを引っ張り出す。生温かいものにペニスを撫でられて白銀は掠れた声を漏らした。
「おれの頼みをきいてくれればいい。手を伸ばせ。目に映るそれをつかめ」
背後から囁かれた白銀は操られるようにして宝珠に手を伸ばした。夢中で宝珠をつかんで白銀は熱い息を吐いた。腕に抱いた宝珠がゆっくりと白銀の胸に沈んでいく。
「よし、いいぞ。槙花。抜いてやれ」
白銀の背後で水輝が囁く。いつの間にか白銀の足元には槙花が膝をついて座っていた。剥き出しになった白銀のペニスを槙花が口に咥えて頭を揺すり始める。だが彼らの会話は白銀の耳には届いていなかった。白銀の首筋に水輝が顔を埋める。言いようのない強い快感に白銀は声を上げて仰け反った。迸った白銀の精液を槙花が喉を鳴らして飲み込んでいく。
ぼんやりと佇む白銀の背を水輝が軽く叩く。白銀はぎこちない足取りで歩き始めた。誰に案内されることもなく、ふらふらと部屋を出る。白銀は廊下を進んで一枚の扉の前に立ち止まった。ドアノブを回して扉を開く。
部屋の中には漆黒の檻があった。白銀は頼りない足取りで進み、檻から少し離れた場所で立ち止まった。檻の中にあるソファには一人の少年が横たわっている。白銀は虚ろな眼差しで少年をしばし見つめ、ゆらりと手を動かした。
白銀が手でなぞった宙に鏡が現れる。白銀は力を編んで鏡を徐々に大きくした。水面のように澄んだ鏡面に檻の様子が映りこむ。白銀はその場に鏡を固定してから、またふらりと歩き出した。
檻の後ろに回った白銀は鏡に映りこむ少年の姿をじっと見つめた。
白銀は色々と腑抜けになってるので、水輝の言葉だけであっさりと落ちました。
仕方ないデスネー(棒読み)
ちなみに白銀は昔は色々あって活躍したんですけども、記憶があるとマズいということで制限されたものと思われです。
活躍した話はどこかにいきました……(汗)