※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 一部 二人の水輝   作:伊駒辰葉

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エピタイは作者のもの!w
エロシーンはありません。


六章
色々動き出した予感


 カードを宙に放り投げた多輝が声を張る。

 

「盾よ! 我らを護りたまえ!」

 

 そう叫んだ多輝が杖を振り上げる。激しい揺れの中、多輝はカードを杖の先で叩いた。

 

「シールド!」

 

 多輝の叫びに応じて展開された魔法がその場にいた者たちを包み込む。色のない透明な球体のシールドの中で奈月は泣きそうな顔をして翠を揺すった。

 

「翠さん、起きてください! 翠さん」

 

 膝に抱えた翠を泣きべそをかきながら奈月は懸命に揺すった。翠はだが、大口を開けて涎を垂らしながらいびきをかいている。時折、口を窄めてむぐむぐと動かしてから、またいびきをかきはじめる。

 

 しまった。昨日の学校でも同じことがあったのに。奈月は涙ぐんだ目をして唇を噛んだ。翠は学校の午後の授業中、ずっと机にもたれて眠っていた。最初は翠を起こそうとしていた教師も、どうやっても起きないことに諦めたようで、じきに注意もしなくなった。

 

「金色の障壁よ! 我等を包み、守り給え!」

 

 奈月が声を張ると多輝の展開したシールドの周囲に金色の膜が生まれる。その後、シールドは中にいる皆と一緒に床から浮き上がった。するとそれまで感じていた激しい揺れが止まる。だがまだ部屋は振動していて、並んだ台や椅子などが大きく揺れている。

 

「くそ、むかついた。苺の恨み!」

 

 晴らさでおくべきか。低い低い声で呟いた多輝が屈めていた身を起こす。奈月は多輝の見ている方を何気なく見て目を細めた。シールドから離れたところに苺の乗っていた皿が割れているのが見える。ばらけた苺がころころと床を転がっては何かにぶつかり、中には倒れた台や椅子に押し潰されたものもある。

 

 悲鳴を上げて抱き合っていたちなりと巴がほっとしたようにへたり込む。凍りついた桜はシールドの中で固まったまま突っ伏している。冷静な顔をして立っているのは透だ。由梨佳は最初から多輝の傍に静かに控えている。

 

「ヘタレとはいえ、さすがに土龍だけあるな」

「地龍神だろうが!」

 

 しみじみと呟いた透に叫んで多輝がカードを宙に放り投げる。くるくると回ったカードに向かって多輝は声を張った。

 

「地よ! 地底に潜みし……バカどもを引きずりだせ!」

 

 乱暴な言葉を口にしてから多輝がバトンのように回した杖をカードに向ける。

 

「アース!」

 

 多輝が言葉を結んだ直後、部屋の床が大きくたわんだ。不規則に揺れる床に煽られて大きな台や棚がでたらめに吹っ飛ぶ。シールドに何かが当たるたびにちなりと巴が悲鳴を上げる。

 

「負けるかあ!」

 

 カードを杖で押さえたまま、多輝が目を吊り上げて叫ぶ。

 

「多輝。あまり熱くなるな。冷静さを失うと足元を掬われるぞ」

「うるせえ! おれの苺が!」

 

 涙の浮かんだ目で多輝が透に言い返す。どうやら苺を台無しにされて多輝は相当怒っているらしい。そんな多輝の肩をぽん、と透が叩く。

 

「横綱イチゴパフェを奢ってやるから。頭を冷やせ」

「パフェ……」

 

 そう呟いて多輝がぐすん、と鼻をすする。カードを杖で押さえたまま、多輝は上目遣いに透を見た。

 

「ぜったい?」

「ああ、食えるだけ奢ってやる」

 

 そう告げた透の周囲に冷気で出来た矢が次々に現れる。矢は鋭く空気を裂いて飛び、シールドを抜けて次々に床に飲まれていった。鼻をすすってから、多輝が杖を戻して別のカードを放る。

 

「木よ! 震える地を癒せ!」

 

 涙声で言ってから多輝は杖でカードを押さえた。

 

「ウッド!」

 

 多輝が声を張った瞬間、床のうねりが止み、地下深くから轟音が響き始める。やがて揺れる部屋の床から次々に木の芽が姿を現した。小さな木が生えるたびに床の揺れが鎮まっていく。

 

「これで、根が張ったから、当分は、大丈夫だ」

 

 涙を拭いて鼻をすすりながら多輝が言う。鼻が赤くなっているのはきっと泣いているからだろう。由梨佳がそんな多輝の鼻をかんでやっている。

 

「先制攻撃で、蟲の大半を葬っておいたのは正解だったな」

 

 そう呟いて透が床を見下ろす。すっかり荒れ果ててしまった部屋の様子に奈月は悲しみのため息を吐いた。ひどーい、と口々に言いながらちなりと巴はまだ抱き合っている。

 

「まあ、第一次攻撃としてはこんなもんだろ。お姫さん!」

 

 唐突に呼ばれた奈月は慌てて背筋を伸ばして透に返事をした。

 

「あ、あの、わたしですか?」

 

 そう言ってから奈月は何となく翠を抱く手に力をこめた。むにゅ、と不思議な呟きを漏らした翠が奈月の胸に頬擦りをする。

 

「ああ。防御に専念するなら大丈夫か?」

 

 そう問われて奈月は困惑に顔を歪めた。確かにさっきは咄嗟に金龍神の力を用いた魔法を使ったが、あれはあらかじめ渚に力を使ってもいいかと問い合わせていたからだ。本格的な防御壁を築くとなると、どうしても他の力も必要となる。

 

「あの、わたし……」

 

 そう呟いて奈月は俯いた。しばし答えを待っていた透が、やがてため息を吐いて奈月から視線をずらす。奈月は悲しみに暮れた顔で膝の上に眠る翠を抱く腕に力をこめた。

 

「今の、複数のヤツらが攻撃してきてたみたいだな」

 

 シールドが静かに荒れた床に降りる。多輝はやっと鼻声から元の声に戻ってそう言った。シールドが消えた後、早速ちなりと巴が部屋の片づけを始める。

 

「蟲だけでなく、人型の魔を使役しているのかもしれんな」

 

 あの淫魔のような。透の言葉を聞いた奈月はびくっと身体を竦めた。だが透は多輝と向き合って話を続けている。




寝込んでたり色々だったのでストックがなくなってました(汗)
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