※この作品はR-18です。

ある女   作:ねじとれた

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冬の始まり

 

「転院…ですか?」

 

古びた診察室で音無響子は大きな声を上げてしまった。

 

「ええ、東京の病院で画期的な治療方法が考案されたんですよ!」

 

まだ若い医師は紅潮した顔で響子に吉報を伝える。

 

病魔に侵された夫、惣一郎の転地療養として

響子が岐阜の山奥にある温泉街に来たのは

昨年のちょうど今頃だった。

 

あの当時は治療方法が無く

気分転換なくらいの転居だったが

何より惣一郎が入院してくれたのは幸いだった。

 

結婚した頃は物静かな優しい人だと思っていたが

病魔が侵行して行く内に惣一郎は疑り深く変質してしまった。

テレビに少しでも笑えば惣一郎に睨まれる

電話が長引けば浮気を疑われた。

 

惣一郎の入院中、それらから解放される時間が

響子に与えられた。

 

だが、それも数日で終わる。

 

響子と惣一郎が、おしどり夫婦と思っている看護婦達は

しきりに「良かった良かった」を連呼するが

響子の胸の奥は砂が流れるような感覚しか無い。

 

病院から出ると冬の太陽は急速に西へ落ちていく。

 

響子の足は温泉街に向かった。

 

(辞めること…店長に言わなきゃ…)

 

彼女には仕事があった。

 

入院している惣一郎の世話が終わった空き時間を

響子はアルバイトに充てていたのだ。

 

昨年から1年近く続いたアルバイトも終わらせなければならない…

彼女は温泉街を抜け繁華街を越えた。

 

ギラギラとしたネオンや看板が所狭しとひしめき合う

好色な男達が響子を舐め回すように見つめる。

 

灯りを避け彼女は店舗の裏側に回ると鉄製の階段を上がった。

 

数人の男達が響子のスカートを覗こうと

階段下に群がったが膝丈のスカートと陽が落ちた今では

響子のパンティを拝むのは不可能だろう。

 

階段の終わりにある古い鉄製の扉を開けた途端、怒声がひびいた。

 

「ばっきゃろう!客待たすんじゃねぇ!!」

 

店長の飯岡は鬼の形相で響子に詰め寄る。

事務所の壁にかかった時計を見ると仕事が始まる5分前だった。

 

あれこれ考えている内に響子は遅刻しかけてしまっていたのだった。

 

「早く着替えやがれ!」

 

「きゃあ!」

いきなり飯岡は響子のスカートを捲り上げた。

ブルーのスカートは腰まで捲れ上がり

ベージュのパンストに包まれた響子の下半身を露出させた。

 

「何が、きゃあだよ!」

飯岡のゴツゴツした指先がパンストの上から響子の下腹部を撫で回した。

 

「余所事を考えてんじゃねぇ!」

 

「あっ…ダメ、店長…」

 

「チッ!オメーは何度言っても地味なナリは直せねーな!」

 

ピンクのセーターに白いシャツ、膝丈のブルーのスカート 白いソックスにサンダル。

 

そう、風俗街にはあまりに不釣り合いな出で立ちだった。

 

「かまわねぇ!そのまま行け!」

 

響子は飯岡から突き飛ばされる様にステージに投げ出された。

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