※この作品はR-18です。

Rewinded Soldier M   作:とも667

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 わためぇ回です。


だからこそ、今度こそ

(はぁっ、はぁっ……!!)

 

 走る。ただひたすらに走る。脇目も振らずに、角巻わためは守男を探していた。

 

(このままじゃ、また……)

 

 『ああなって』しまう。わためはそれを目の前で見たのだ。あんなに強かった守男ですら、薄い紙一枚になって、この世から消える。彼にあるのは、不必要な栄光と期待だけ。

 

(そんなこと、絶対させない!!)

 

 わためはまた走り出す。守男がいそうな場所を回る……走っている間、わためは過去のことを思い出していた。

 

『なにかお困りですか?』

 

『うぇっ!? て、店員さん!?』

 

『いえ、違いますよ。困っているようだったので……つい』

 

 あの日もこう言ってくれた。それからバトロワで戦って、負けて……今思えば当然だなと、わためは笑みを浮かべた。

 

(でも、守男にとったら全然嬉しくないよ……)

 

 それから一緒に帰ったり、美味しいお弁当を分けてもらったり。自分が一番苦しいのに、あんなことを言って……わための顔が、複雑な表情を浮かべる。

 

『なんだよわため、愛の告白か? 軽々しくするもんじゃないぜ? それともなにか? 俺に惚れたのかい?』

 

(……あの時は気づいてなかったな)

 

『守男、わためのこと好きになってくれるかな? どんな子がタイプなんだろう……』

 

 あんな風に思っていた。だが、事実は違った……現実はわためにとって、とても残酷なものだったのだ。

 

(それからラプちゃんとこよちゃん、いろはちゃんが加わって……みんなで仲良くするようになって。楽しくなりそうだなって、思ってたけど……)

 

『守るためには犠牲が必要なんだ。その代償としてまずは腕1本、それだけのことだ』

 

(彼はとっくの昔に壊れちゃってた。何度もやめさせてあげたいと思ったけど、ダメだった……力が足りなかったから)

 

 彼は自分達のことを思って戦っていた。それはわためも理解している……だが、一つだけどうしても、悲しいことがあった。

 

『……好きだった、みたいですよ。恋人としてじゃなくて、守る対象としてですけど……』

 

(守男は恋してなかった。わため達のこと、好きじゃなかった……でも)

 

『守男くんを、よろしくね』

 

 わため達はそれでも、ルサンチマン夫妻を倒しに向かった。何故なのか、答えは単純。

 

(それでもわためは、守男が好き……みんなだってそうだった)

 

『よし、終わり。ごめんな……俺がボロボロだったから……もう、大丈夫だ。俺が片付けるからさ……地図、貰うな?』

 

(いつだって、わため達のことを……あの時もあの時も)

 

 それはもちろん、嬉しかった。大切にされていることが伝わったから。でも……それと同じくらい、悲しかった。

 

『足は取れちまったよ……気をつけろ……みんなも悪人に、される……』

 

(自分のことなんて、彼はどうでもいいと思ってる。わため達の気持ちも知らないで……)

 

『行ってくる』

 

 一言そう言って、いつもボロボロで帰ってくる。無理矢理自分を納得させていたけど、我慢にも限度がある。魔王を命懸けで倒して、人間世界は救われたはずなのに、今度は人間同士の殺し合いに駆り出される。

 

(わためのことはいい……でも、守男への仕打ちは許せなかった。だから、守男にも言ったんだ……)

 

『もう、やめようよ……守男は、このままじゃ……絶対、幸せになれないよ……』

 

(泣きながら言った。けど、守男は……暗い目で、冷たく返してきた)

 

 守男の答えは、シンプルで残酷なものだった。

 

『俺は軍人だ』

 

(それだけ言って、守男は去っていった。そんなの理屈になってない。そう言おうとした時には、守男はもういなかった……)

 

『どうして、守男ばっかり……』

 

 力には責任が伴う。それは当たり前のことだ、わためも理解している。だが、それを捨ててはいけないとはどういうことだ。自分と大切な人の身を守るだけじゃ、いけないのか。職業選択の自由すら、守男にはないのか?

 

(守男はそれを受け入れてたけど、わためは絶対認めない……!! 今度こそ、絶対に!!)

 

『また始まるようだな……』

 

(どんどん無感情になっていく守男が、見ていられなかった。軍人を志願したわけでもない、戦うのが好きだったわけでもない……地獄に送り込まれて、殺し合いをして……守男が何したの?)

 

 わためはだからこそ、救われて欲しかった。軍人ではなく……堀川守男という人間に。だけど……それは、遂に叶うことはなかった。

 

(せめて守男には笑顔を見せたくて、笑顔でいたけど……守男にはバレてたんだろうな。そうじゃないなら、昨日はあんな反応しない)

 

『行ってくる』

 

(いつものことだった。いつも通り行って、帰ってくると思ってた……それなのに)

 

 守男は死んだ。一枚の薄い紙に変わった。遺品すら渡されず、ウルカヌスは見せ物にされている始末だ。トワは叫んだ、こよりは発狂した。わためも残酷な現実に泣き叫んだ……

 

(死ぬより酷い目に遭って、殺し合って。奴隷にされて、必死に演技して……文句も言わずに戦って最後がこれ? ふざけるな……!!)

 

『守男……わためは、諦めないよ』

 

(こんなの認めない。守男の死を、戦争を続ける言い訳にさせやしない。そう思ってたんだったな)

 

 わための決意は固かった。わためは軍人を引退し、わためは食べ物やおもちゃを子供に配ったり、得意な歌で民衆を励ましたりするようになった。

 

(歌姫だなんて呼ばれて、大きなイベントに呼ばれたこともあった。苦しいこともあったけど……守男を思えば、頑張れた)

 

『見ててね、守男』

 

『わため、頑張るから』

 

『……そっちに行った時、たくさん褒めてね?』

 

 角巻わためは、強かった。きっと、この世界の誰よりも。だが現実は残酷だった。ある日、いつものように路上でみんなのために歌っていた時……

 

 ──ウゥゥゥゥ、ウゥゥゥゥゥ……

 

『く、空襲だ!! みんな逃げろぉぉ!!』

 

『こんな時に……!! みんな、防空壕に落ち着いて避難して!!』

 

『あぅっ……!!』

 

 そこでわためは、一人の子供が転んでしまったのを見た。容赦なく降り注ぐ、焼夷弾の雨……わためは咄嗟に、男の子を抱えて走り出す。

 

『諦めちゃダメだよ!! わためも、諦めないから!!』

 

『お姉さん……!! あ、危ない!!』

 

『ッ……!?』

 

 自分の真上に降ってきた、焼夷弾。当たれば、子供は死んでしまうだろう。わためはそう思って子供を、前方に投げた。

 

『わっ……!?』

 

 ──ドゴォォォォン!!!

 

 炸裂音、広がる閃光と爆炎。子供はそれを見て叫んだ。

 

『お姉さんっ!!』

 

『ゴホッ……わためなら、大丈夫だから!! ほら、走って!!』

 

『うん、わかった……!!』

 

 子供は素直に言うことを聞いて、走っていく。それを見て、わためは安心した。そして……

 

『うぐっ、ぎ……』

 

 ──ドサッ。

 

『やっぱり、無理があった、か……』

 

 わための羊毛は厚く、防御性能だけなら上位に位置する。しかし、唯一の弱点として……炎に弱いのだ。つまり、焼夷弾を喰らえば焼死は免れない。体が燃えていくのを感じながら、酸欠で意識が朦朧とする。

 

『守男、わため……上手く、できたかな……』

 

 ──ヒュルルルル……

 

 ──ズドドドォォォォォン!!!

 

『あの子、助かった、かな……』

 

 わためは最期に、残された二人のことを考える。彼女達は何をしているだろうか。まだ生きているだろうか?

 

『ごめん……二人とも、あとは……お願い……』

 

 そのままわためは、炎に包まれて目を閉じた。角巻わためは、こうして人知れず焼死したのだ。そして、今に至る。

 

(これはきっと、最後のチャンス……神様がくれた一度きりの機会!! 絶対に逃さない!!)

 

 やり直す機会を神様にもらえた。守男も、自分も。だから、わためは走る。今度こそ、みんなで幸せになるために。

 

「はぁ、はぁ……ここにいた!!」

 

「ッ……!?」

 

「さっき来た時はいなかったけど……もしかして、帰ってこないと思った?」

 

 守男はわためを見て、冷や汗を流す。どうして追いかけてくるのか。

 

「どうして、追いかけてくる……?」

 

「当たり前でしょ。せっかく会えたんだもん」

 

「そんなことして、何になるんだよ」

 

 守男とわためは店を出て、すっかり人がいなくなった夜の公園のベンチに座る。守男の問いに、わためが即答した。

 

「好きな人に会えたのに、追いかけちゃいけないの?」

 

「俺と関わってどうなったか、忘れたのか?」

 

「忘れてないよ。確かに辛かった、悲しかった」

 

 守男はそれを聞いて、溢れてくる吐き気と罪悪感を抑えて言う。

 

「なら、俺のことは忘れて……」

 

「でも、何より辛かったのは」

 

「えっ?」

 

 わためが立ち上がって、守男に言う。ずっと、言いたかったことを。

 

「守男が、自分を幸せにしようとしなかった。それが、一番嫌なの」

 

「そんなの……みんなが死ぬよりは……」

 

「そのためなら死んでもいいの? それはダメだよ、守男」

 

 守男がそう言われて、冷たい声で返す。

 

「何度も言わせるな。俺は軍人だ」

 

「それなら、私は守男の彼女だ」

 

「……仕事に私情を持ち込むなよ」

 

 守男が冷徹にそう言ったが、わためはそれでも続ける。

 

「今はお仕事中じゃないでしょ? 軍人さんにはプライベートがあっちゃいけないの?」

 

「それは……」

 

「わためは、幸せになって欲しかった。守男が、わため達に思ってくれてるより、ずっと」

 

 そう言われて、守男が俯いた。わかっているのだ、そんなことは。

 

「そんなこと、言われたって……」

 

「守男は、幸せになる権利……いや、義務がある。世界一不幸なまま終わるなんて、他でもないわためが認めない」

 

「俺は別に不幸なんかじゃない」

 

 守男はそう言ったが、わためはそれを強い口調で否定した。

 

「そんなわけないでしょ!!!」

 

「えっ……?」

 

「死ぬより酷い目に遭って、親には道具扱いされて、地獄に送られてお荷物扱いされて、まともな人生の欠片もないまま、孤独に死ぬ……!! これのどこが幸せなの!?」

 

 守男はそう言われて、反論できなかった。その代わり、心の底からの諦観を口にする。

 

「……不幸だっていくら言っても、俺は幸せにはなれない。自分を救えるのは自分だけなんだ。それが無理だったんだから、無理だよ」

 

「人は一人じゃ生きていけないよ、守男。それにその理論は、守男には当て嵌らない……何事にも、例外があるからね」

 

「俺がその例外だって?」

 

 そう言われて、わためが大きく頷いた。

 

「うん、だから守男は幸せになっていい!! わためが幸せにしてあげる!!」

 

「……何を言ってるのか、わかってるのか。死にに行くって言ってるようなものだぞ」

 

「守男と一緒に死ねるなら、それでいいよ」

 

 そこで初めて、守男が声を荒らげた。

 

「馬鹿なこと抜かすな!! 死んでどうなる、何が幸せにするだ!! わためが、わためが死んだら……俺は何を守ればいいんだ!!」

 

「守らなくていい。自分の身は自分で守るから」

 

「守らなくて、いい……? そんな、じゃあ……俺は何のために……?」

 

 立っていた守男が、膝をつく。当然だ、戦えばみんなを守れる……そう思って戦っていた守男は、その中心を打ち砕かれてしまった。

 

「わため達を守ってくれたのは嬉しい。だけど、もういいの。お休みしようよ、軍人の仕事は……」

 

「俺には、それしかない……他に、何もないんだよ……軍人じゃないなら、俺はただの……役立たずじゃないか……」

 

 わためはしゃがんで、頭を抱えている守男の頬を撫でた。

 

「そんなことない。守男には、わためがいるじゃん。守男にしかできないことがあるよ」

 

「わため……?」

 

「これからも、わためは頑張る。守男と一緒に、幸せになれるように。守男は、わためをいっぱい褒めて欲しい。よく頑張った、偉いねって。そうしてくれるだけで、わためは嬉しいの」

 

 守男はそう言われて、顔を上げた。

 

「そんなことで、いいのか……?」

 

「小さなことじゃないよ、とっても大事なこと。それがあるだけで、わためはすっごく頑張れる!! わためが代わりに戦うから、その代わり……たくさん褒めてね?」

 

「どうして、そこまで……あんなに苦しんだのに、辛かっただろうに……」

 

 守男はそう言ったが、そこでわためが満面の笑みで言う。

 

「そんなの、決まってるでしょ? 守男のこと、今でも大好きなんだよ!!」

 

「……は、ははっ。俺は、バカだな。こんないい子放って死ぬなんて……」

 

「ホントにそうだよ。だから、ちゃんと反省すること!!」

 

 わためにそう言われて、守男が笑顔を浮かべる。

 

「あぁ、そうだな……」

 

「あ、笑った!! 笑顔見るの、久しぶりだね!!」

 

「俺、今笑ってるのか……? ははっ。笑うのも、久しぶりだな……」

 

 辛くても苦しくても、たとえその先に悲しみが待っていても。それでも彼女は、自分と一緒にいたいのだと。守男はそれを、ようやく理解した。

 

「……わため。やっぱり俺も戦うよ」

 

「えっ?」

 

「でも、この国の軍人としてじゃないぞ。わための彼氏として、だ……いいか?」

 

 守男がそう言うと、わためは笑顔で言った。

 

「それじゃ、約束ね!! 戦う時は、わためも一緒だよ!!」

 

「うん、わかった。約束する」

 

「これは嘘じゃない……よね?」

 

 少し不安そうに言ったわために、守男が言う。

 

「もう、嘘はつきたくない。できる限りはな」

 

「わかった。守男が嘘をつかなくていいように、わためも頑張るね!!」

 

「……もう、角は折らせないから」

 

 守男がそう言うと、わためは嬉しそうに言う。

 

「それなら、わためはもう守男の四肢を飛ばさせないから!!」

 

「話してたら、すっかり遅くなっちゃったな……」

 

「ねぇ、守男のお家……行ってもいい?」

 

 それを聞いて、守男が尋ねる。

 

「いいけど、何しに来るんだ?」

 

「多分、まともなご飯食べてないでしょ? わためが作ってあげる!!」

 

「……俺も手伝うよ。久しぶりだから、上手くできるかわかんないけどな」

 

 守男とわためは食材を買い込んで、家に行く。それから、二人でお料理を始めた。

 

「守男、何食べたい~?」

 

「わためが食べたいものでいいよ」

 

「うーん……じゃあ、カレーにしよっか!!」

 

 そう言われて、カレーの材料を切り始める。

 

「……確か、こうやって……」

 

 ──トトトトトトッ……

 

「おぉ、流石だね……!!」

 

「だいぶ大きめになっちゃったな」

 

 久しぶりだったので、具はとても大きくなってしまった。しかし、わためは気にしていない。

 

「いいじゃん、入れちゃえ!!」

 

「そうだな、これくらいいいか……」

 

「あ、そうだ!! かぼちゃも入れていい?」

 

 守男が頷くと、刻んだかぼちゃをカレーの中に投入するわため。それから、グツグツ煮込んで……完成だ。

 

「できた……さて、味は……?」

 

「あ、美味しいっ!!」

 

「二人で一緒に作ったからかな?」

 

 そう言われて、わためは照れている。

 

「えへへ、そうかな? もっと褒めていいよ?」

 

「ありがとうわため、すごく助かった」

 

「よし、食べよっか!! いただきます!!」

 

 守男とわためが同時に食べ始めた。わためは、とても美味しそうにしている。

 

「美味しい~……かぼちゃも意外と合うねぇ」

 

「……やっぱりダメか」

 

「味、しないの?」

 

 守男が残念そうに頷くと、わためは守男を励ます。

 

「大丈夫、これからきっと戻るよ!!」

 

「うん……でも、なんだか美味しい気がする」

 

「……ごちそうさま!!」

 

 二人でごちそうさまを言ってから、綺麗に食器を洗う。そこでわためが、一言言った。

 

「ねぇ、守男」

 

「どうした?」

 

「もう、我慢しなくてもいいのかな……?」

 

 そう言ったわための目には、うっすら涙が浮かんでいる。それを見て、守男が静かに頷く。

 

「……一人にして、悪かったな」

 

「うっ、ぐすっ、うぅぅ……」

 

「謝って済む問題じゃないのは、わかってる。16年以上待たせたんだ」

 

 守男は19歳の時に付き合って、35歳で死亡した。つまり、経過時間は16年以上だ。

 

「わため、頑張ったよね……?」

 

「あぁ、本当によく頑張った。偉い、偉いよ……」

 

「頭、撫でてくれる……?」

 

 守男が、わための頭を撫でる。やっとわためは褒めてもらえたのである。

 

「わため。本当にありがとう……お前がいてくれてよかったよ」

 

「えへへ……ずっとこうしたかったんだ……」

 

「そんなに待ってたのか……俺の罪は重いな」

 

 守男はまた罪悪感を抱く。そこにわためが顔を上げて、言った。

 

「悪いと思うなら、今日からいっぱい甘やかしてね!!」

 

「うん、もちろ……ん……?」

 

「守男? どうしたの?」

 

 守男は突然、目の前の景色が揺れ始める。何事かと思ったが……すぐに、その原因に気がついた。

 

「すっごく、眠い……」

 

「も、守男? きゃっ!?」

 

「ごめ、ん……わため……」

 

 守男は眠すぎて、立つこともままならないようだ。それを見たわためが、座って膝の上に守男を寝かせる。

 

「きっと疲れちゃったんだよ。守男、寝てもいいよ?」

 

「……ぐぅ」

 

「あ、寝ちゃった……ふふっ、可愛い」

 

 わためが守男の頭を撫でる。守男の寝顔はとても安らかだ。

 

「幸せって、こういうものだよね……」

 

「すぅ、すぅ……」

 

「おやすみ、守男。悪い夢、見ないといいね」

 

 わためは守男の頭を撫でながら、優しく言った。

 

「わためは守男の味方だよ。今までも、これからも」

 

 それからわためは、自分も眠りに落ちるまで、ずっと守男の頭を撫で続けていた。




睡眠欲が戻ったようです。
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