※ワカモ短編「籠の狐」とは別な時間軸のお話になります。もそ。
──シャーレに届いた一通の手紙。差出人のない封筒は丁寧に封蝋が押されていた。薄いピンク色の便箋を丁寧に開けると、綺麗に折り畳まれた手紙が顔を覗かせる。
『拝啓。学園都市キヴォトスでの日々。いかがお過ごしでしょうか。冬のひだまりがことのほか暖かく感じられる寒冷の候、貴方様におかれましては、いよいよご壮健のこととお喜び申し上げます』
……時候の挨拶から始まった堅苦しい文章に「誰だ?」と素直に疑問符を浮かべた。しかしその続きの文章に目を通した先生はますます首を傾げる。
『時計の針が巡る十二の時。
昨日が終わるその時に、明日を迎えるその時に。
境界線が重なり、世界が静まり返る。
貴方の安らぎを頂戴に参ります。
ご自愛專一にお過ごしくださいませ』
──慈愛の怪盗より。
そう締めくくられていた手紙に、先生はため息を吐いた。
慈愛の怪盗。その一文だけで差出人がわかる。
連邦生徒会より脱走した七囚人の一人。
自らの美学に則って行動し、違法競売にかけられた芸術品をことごとく盗むことから慈愛の怪盗と呼ばれ、自らもまたそれを受け入れている生徒の名を知るものはいない。
清澄アキラ。先生でさえ、彼女の所属を詳しくは知らなかった。それでも大事な生徒の一人であることに変わりはない。
(こんな回りくどい真似をしなくても、会いに来てくれればいいのに……)
先生はため息を吐き、丁寧に手紙を元通りに畳むと便箋をスーツの内ポケットに入れた。
タイミングを見計らったかのように本日の当番である生徒がシャーレに顔を覗かせる。
銀鏡イオリは顔を見るなり深いため息を吐いた。
「おはよ、先生。今日はよろしく」
「おはよう、イオリ。今日も綺麗な足だね」
「開口一番から変態的な発言をするな!」
「私は褒めているつもりなんだけどなぁ」
「もしそれを本気で言っているなら正気を疑う……」
はて。首を傾げる先生に銀鏡イオリはドン引きしている。だが仕事は仕事。当番は当番。嫌々ながら今日は一日一緒に行動しなければならないことに頭を抱えていた。
「こんなことならくじ引きなんかするんじゃなかった……」
「足だけじゃなくて、イオリの褒めるところなんかたくさんあるんだけど」
「いい。聞きたくない。求めてないからそういうの」
「そう? 残念だ。でも思っていることを素直に言ってくれるところ、私は好きだよ」
「あぁぁぁ、もうっ! 今は求めてないって言ったそばから! いいから仕事!」
ばしばしと机を叩けば山積みの書類が不安定な揺れをみせている。昨日の分から今日の分、それどころか期限の迫っている書類が連なる残業地獄に先生は肩を落とした。
「イオリ」
「なに?」
「もし遅くなったら泊まっていってもいいよ」
「……絶対やだ。何されるかわかんないし」
──シャーレの激務を終えた(終わってない)先生は、区切りのいいところまででその日の業務を切り上げた。もちろんイオリは日付が変わる前にゲヘナ学園に帰宅している。
先生とて毎日のようにシャーレの仮眠室を寝床にしているわけではない。ちゃんとキヴォトスに自宅がある。ただ滅多に帰宅することがないというだけで。
一人暮らしだというのに立派な二階建てのモダンハウス。電気ガス水道の請求は連邦生徒会に。固定資産税その他確定申告は自前で。助けて頼りになるセミナーの会計様、業務で手一杯でそこまで首と頭と手が足りないの。先生は千手觀音じゃないの。
「ただいま~、と言っても誰もいないんだけどね……」
玄関で靴を脱ぎ、ビジネスバッグをリビングのテーブルに載せる。灯りを点けようかとも思ったが、今夜のキヴォトスは晴天。
満天の星空に浮かぶ月から差し込む灯りだけで室内が青く照らされていた。全体の輪郭もはっきりと見える。
先生は時刻を確認した。
もうじき日付が変わる。
思い出したようにポケットに入れていた便箋を取り出して今一度眺めていると──日付が切り替わる。
不意に、部屋に陰が差した。月に雲がかかったのかリビングの輪郭が一斉に曖昧になる。ほんの一瞬の出来事。時間にして一分足らず、もしかすると数十秒、いや、数秒だったかもしれなかったが──先生が人の気配に振り返る。
白い影がそこに佇んでいた。音もなく、いつの間にか。
普通ならば驚き、素っ頓狂な声を出すかもしれない。だが先生にとって彼女の姿は見覚えのある生徒であることに違いなかった。知らない相手なら悲鳴のひとつ出したかもしれないが、見知った相手だ。
それに。
「──こんばんは、慈愛の怪盗さん。時間通りだね」
彼女からはすでに“予告状”を受け取っている。
薄桃色の髪。上下ともに純白の衣装。顔には白いドミノマスク。猫耳と猫の尻尾が小さく揺れている。素性も本名も不明。ただ唯一、先生だけを除いては。
“くすり”と薄く微笑むと、慈愛の怪盗はマスクを外した。
白く長いまつ毛に隠れていた瞳は紅色に染まっている。
「予告状通り。貴方の安らぎを頂戴に来ました──驚かれないんですね、先生」
「君が来るならこの時間だと思っていたからね」
昨日が終わる時間。明日を迎える時間。それはつまり、今日という一日が切り替わるその瞬間を指している。深夜0時。
そして世界が静まり返る。これは一人でいることの条件付だ。
安らぎを頂戴する、という一文についても先生はアキラに推理を説明する。
「安息を奪う。つまり眠っている時間だ。これらを組み合わせると「深夜0時、一人で眠る貴方のもとへ参ります」ということになる。合っているかな、アキラ」
「えぇ、えぇ。その通り。流石は先生です──少々予定とは違いますが、些細なことです」
「シャーレの仕事が中々片付かなくてね。もっと早く帰ってくる予定だったんだけど。でもアキラなら、私がどこにいてもすぐわかるよね? この封蝋の中に細工がされてるみたいだし」
「お気づきでしたか」
シャワーも浴びていないことにアキラは気づいたのか、猫のように足音を立てずに近くへ歩み寄ってくると、すん、と鼻を鳴らした。
頬を紅潮させる。
「あぁ……確かに、これは……少々美しくない香りですね。嫌いではありませんよ。ただ貴方に相応しいかと問われれば、どうでしょう」
「君のお眼鏡には叶わないかな」
「そうですね。で、あれば簡単なこと──先生。私が彩ってさしあげます」
──アキラが先生の家に来ることは、なにも今回が初めてのことではない。
元々どこに住んでいるのかも、何をしているのかもわからない生徒で気がかりだった。
それがある日、突然接触を試みるようになってきた。隙を見て、折を見て、ヴァルキューレ警察の包囲網も監視網もすり抜けて、あらゆる警備網を搦め手で素通りしてくる。だがアキラはキヴォトスでは珍しく争いを好まない性格だ。
他愛のない話。とりとめのない会話。雑談。お互いの時間に花を咲かせているうちに──アキラは、生徒としての一線を越えてきた。
こちらが望む望まないにせよ、それは一種の背信。だが咎めるにも憚られた。
それに、こうしてそばにいる限り彼女は犯行に及ぶことはない。目の届く場所にいてくれることは先生にとっても都合が良かった。
シャワーヘッドから浴びせられる熱湯が浴室を湯気で包み込む。
その中に一組の男女が素肌をすり合わせていた。重なる吐息と唇の熱っぽさから、粘液が絡み合う音が室内で微かに反響する。
短い息継ぎの合間に離した唇から舌が覗いていた。それはヘビの交尾のように相手の口内を弄る。密着させた素肌から滴る熱い水滴に混じって、色気を誘う粒がアキラの太ももを伝う。
「……んッ♡ 先生、今夜はとても情熱的ですね」
「そうかな。最近はアキラの顔が見れなかったからね」
耳元に顔を近づけて、先生は呟く。
「君に会えて嬉しいんだ」
「────♡」
身体を小さく振るわせる姿が、たまらなく愛おしくなる。
お互いの首に手を回して抱きしめ合いながら何度もキスを繰り返す。相手の体温と溶け合うくらい、感じながらアキラの肢体を堪能する。
唇を離せば、かすかに乱れた吐息が艶を帯びていた。糸を引く唾液を舐め取り、首に回していた手で背中を撫でる。そのままゆっくりと臀部を手のひら全体で鷲掴みにするとアキラが身体を小さく震わせた。
「んっ、う……」
猫の尻尾も驚いてピンと伸びたかと思うと、すぐにリラックスして左右にゆっくりと揺れる。
密着させた身体。下腹部に違和感を覚えたのかアキラの視線が下に向けられた。そこではすでに準備万端、といった様子で鈴口と目が合う。
「ふふっ。先生……♡ 今夜はお疲れのようですし、僭越ながら私に任せていただいても?」
「それならご厚意に甘えることにしようかな」
先生が購入した覚えのない青いバスマットは、気づいたら自宅に届いていた。おそらくアキラの手配した物なのだろう。それでなくとも私物が少しずつではあるが増えてきている気がした。しかし不思議なことにアキラがいなくなると同時にそれらも忽然と姿を消す。まるで魔術のようだが、そうでなくては怪盗は務まらないということか。
クッション性の高い、縁が丸みをおびた青いマットに先生がうつ伏せになる。
アキラは手にボディソープを垂らすとしっかりと泡立ててから、先生の背中に手を添えた。
デスクワークと長時間向き合うだけに、肩周りの筋肉をしっかりとほぐすようにアキラは揉みほぐしていく。その力加減も絶妙なもので、ぐっと強張った筋肉が伸ばされていく感覚に先生の口からも極楽といった声が漏れる。
「痛くありませんか、先生?」
「気持ちいいくらいだよ。その調子で頼めるかな」
「フフ、もちろんです」
腰の負担も多い事務作業。それだけでなく外回り、学園への出向もあるためふくらはぎ、太ももの筋肉も酷使する。全身に溜まった疲労を少しずつ和らげて押し流すようなマッサージに先生も体の力を抜いてアキラに身を任せていた。
不意に、全身を優しく揉んでいた手が離れる。
「アキラ?」
「ふぅ。さすがに先生の全身をマッサージするのは骨が折れますね。手が疲れてしまいました」
「はは、ごめんね」
「ですので、少し……失礼しますね」
仰向けにされた先生の上に跨るようにして、アキラは腰を落ち着かせていた。
浴室のライトに照らされる慈愛の怪盗その人の肢体に目が釘付けになる。
「……先生。そのように熱っぽい視線で見つめていただかなくても逃げませんよ♡」
白亜のように白い体。陶器のように滑らかな素肌。熱に浮かされ、ほんのりと赤みを帯びて火照る少女の肢体は扇情的で、蠱惑的で、神秘的に思えた。
「……いつ見ても綺麗な身体をしていると思って、つい」
口をついて出る正直な感想にアキラは頬を赤らめ、自然な笑みを向ける。照明の影にならないように、少しだけ胸をそらしてよく見えるようにしていた。
「先生は、私の身体の……どこがお好きですか?」
全部、と答えるのは簡単だ。誰でも言える。しかしそれでは思慮にも配慮にも欠ける浅慮で軽薄な言動ともとれる。清澄アキラという少女が求めているのは、そんな浅ましい言葉ではなく、もっと愛情の込められた──慈愛に満ちた感想だ。
「君の身体はどこも好きだけれども、そうだね……例えば、こことか」
「……ッ♡」
手を伸ばした先生の指が、ゆっくりとアキラの素肌をなぞる。指先が触れるか触れないかの際を攻めるようなフェザータッチ。下腹部から始まり、柔らかな腹筋、みぞおち、横にそれて慎ましやかな胸の輪郭に指を添える。
そこからさらにゆっくりと滑らかな曲線を描く乳房を登り、その先端。綺麗な薄いピンク色の乳輪に円を描く。
「アキラの胸が好きかな。小ぶりだけど、しっかりと主張してくる先端なんて特にかわいいよ……こんな風に」
「ん、──」
ふっくらとした蕾を優しく指で弾くと弾力性が見て取れるように控えめな胸が揺れる。左右の胸に手を添えて撫でるように上下させるとアキラは腰を浮かせて小刻みに震えていた。声を我慢しようと手の甲で口元を遮っている。
「ん♡ んッ、んん──……!」
「かわいい声なんだから、もっと聞かせてほしいな。でもそんな風に声を我慢する顔も好き」
「~~……」
「アキラ。君の身体が全部好きなのは本心だよ。胸も、細い腰のくびれも、なだらかなお腹も、このおしりも、毛並みの整った綺麗な尻尾も、細い足首も。全部好き」
「はッ──♡ ぁ、ん……!」
声を押さえていた手は、真っ赤な顔を隠すように頬に当てていた。しかしそれでもとめどなく紡がれる賛美の声に耐えきれず、耳を塞ごうとする。
「君の背中のヴィーナスラインも、うなじの線も、かわいい猫耳も、白くて長いまつげも、清澄アキラの全部が好き」
「ぅ……ぁ……ぅぅ……♡」
「アキラ」
身体をよがらせるアキラの太ももを撫でて、先生は内股に指を滑らせていく。
そこは微かに生え揃った陰毛が滴る熱湯だけでなく、濡れそぼつ陰部からの愛液によって房になって分かれていた。
「ぁっ、そこ……は」
「君のことは全部好きだよ。もちろん“ここ”もね」
指で梳きながら、優しい声色で囁く。
「んッ♡ ん、ッ……♡」
浴室に木霊する淫らな水音。“ぴちゃぴちゃ”と子どもの遊び心をくすぐる音と、指先に感じる熱く湿った感触。柔らかく、しかし熱く濡れた大陰唇を先生の指が優しく前後する。
「アキラはどこが好き? 私に触られる場所」
「先、生に……触れられる場所は、全部……ぜんぶ好き、です……♡」
羞恥に染まる眼には涙が浮かんでいた。そんな風に恥ずかしがりながらも肌を重ねることをねだってくる相手がたまらなく愛おしい。
「私もアキラの身体は全部好きだよ。信じてもらえるかな?」
「は、イ……っ♡ はい、信じっ、ます♡」
「ほら、見てごらん。アキラ。こんなにぐしょぐしょになっちゃった」
「ぁ──やめて、ください。そんな、見せないでください、先生……意地悪です」
ローションのように粘り気のある液体で爪から手のひらまで濡れたのを見せつけると、アキラは泣きそうなほど顔を赤くしてしまった。少し意地悪をしすぎたかもしれない。
小さく頬を膨らませながらも、浮かせていた腰を落とす。
熱く滾る陰茎に上から優しく陰部を押しつけて、アキラはゆっくりと身体を重ねてきた。
触れ合う肌と肌。ボディーソープを潤滑剤にして、少しずつ泡立たせる。
「んっ……んっ、ふふ……先生。お加減の方は?」
「とても気持ちいいよ」
「そのようですね。先生のこちらも、御気に召してくれたみたいで何よりです」
怒張し、血管まで浮き上がるほど熱の籠もった陰茎に何度も下の柔らかな唇で舐めあげるゆったりとした腰遣い。舌なめずりのひとつでもしそうなほどアキラは恍惚としていた。だがそれを抑制して、あくまで目的である先生の身体を洗うことを優先する。
泡の残る太ももで腕を挟み、肩口から肘に。そのまま手首の方までアキラは素股を押しつけて愛液と石鹸を塗りたくる。
「はぁ……♡ 先生、どうですか……?」
「すごく焦らされている感じがして、私も我慢するのが辛くなってきたかな。このままじゃアキラのことを襲ってしまいそうだ」
「それほどまでに思ってくださるなら、私も獣の前に差し出された御馳走のように」
仰向けになったままの先生の眼前。
目と鼻の先に差し出された割れ目からは、言い逃れようがないほど濡れていた。性的興奮を覚えているのか、しきりに入口がすぼめられている。
アキラが自らの指で、その唇を開くとむせ返りそうなほど籠もった熱と蜜が溢れ出す。壺の中は綺麗な肉色をしており、まるでその空いた隙間を埋めてほしそうにしていた。
「貴方にこの身を捧げることも、やぶさかではありませんよ……せんせい♡」
ごくり、と。唾を飲み込む音が思った以上に大きくて、先生の顔が赤くなる。
「ただ、その……お願いがあるのですけれど……」
「なんだい、アキラ」
「……ぁ、あんまり……痛く、しないでいただけると、とても嬉しいです」
その言葉を果たして守れるか。理性が獣に屈する前に、すでに手が動いていた。
指先が膣口に触れる。そのまま肉の弾力に包まれながら沈み込んでいく指は、熱く熟れた窮屈な壺の中へと吸い込まれた。
「あっ、あぁ……! 先生の、指が……入ってきて……」
「アキラ。私のもお世話してくれるかい?」
「──はい♡」
互いの性器に顔を近づけて、舌を這わせる。
アキラの熱い唾液が陰茎に塗りたくられ、根本から裏スジまで丁寧に、丹念に舐め取る仕草は情欲をかき立てた。それをこらえるたびに陰茎が震え、それを見て嬉しそうな吐息をこぼす。
「先生、我慢は……んっ……お身体によくありませんよ? んっ、はぷ……」
亀頭を飴玉のように舌で転がして、傘の裏側を舌先でなぞる。触れられることのない敏感な場所を優しく刺激されるだけで腰が浮きそうだ。先生はそれを必死に堪えながらも、アキラの陰部を指で広げながら舌で陰核の周りを舐める。
小さく嬌声をもらしながらも、その愛撫を受け入れた。それでも刺激に負けて腰が浮くたびに足が小刻みに震えている。まだ絶頂の感覚に慣れていないのが、またいじらしい。
「アキラのここ、どんどん蜜が溢れてくるよ」
「やっ、あぁ……そんな、恥ずかしいことを言わないでください……」
太ももを伝う愛液を舐め取り、サラサラとした陰毛の舌触りを楽しみ、先生は陰核を集中的に舌で攻めていく。
皮の下に隠れたクリトリスを露出させると、小粒のそれを唇で甘く噛む。それだけでアキラが腰を浮かせて尻尾を丸めていた。
「ふっ、にゃっ……! せ、せんせ……!」
「どうしたの、アキラ。手が止まってるよ?」
そんな意地悪に頬を小さく膨らませながらも反撃に打って出る。
陰茎の根本を白く細い指で握ると、溜まった熱を吐き出させるようにしごきながら亀頭を咥え込む。鈴口から溢れてくるカウパーを吸い上げるようにしながら射精を促す。
「うっ、あ……アキラ──それ、すご……!」
「……♡ あら、先生。今度はそちらの手が随分と空いていますね♡」
「そんなこと言うと……、こうだ」
アキラの腰を掴み、顔を秘部に押しつけるように埋める。密着させた状態から舌で激しく陰核を左右に弾くと嬌声をあげていた。腰を浮かせて逃げようにもしっかりと抱きしめられては逃げることもできない。
「ひッ、いィ──♡ せん、せ! そんな急に、激しく……された、らぁ──! や、ぁ!」
辞めるように懇願してくる声を聞かないふりをして攻め続ける。
膣に舌を割り込ませると膣口を広げるように入口をねぶり、ほぐしていく。
(そろそろイキそうなのかな……?)
「──♡ ッ~~!!」
腰を震わせて膣がきゅうきゅうと舌を締め付けてくる。先生はそこで顔を離し、愛撫を止めた。急に失われる快楽の波にアキラが困惑したように振り向いてくる。
「せ、先生……?」
「ダメだよ、アキラ。ちゃんとイキそうな時は言わないと、ね?」
「ぁ──、っん……でも……その、ぉ……」
「どうかした?」
「……まだ、あの……達する瞬間の、感覚に──慣れて、いなくて……」
顔を背けていてもわかるほど紅潮した顔は、耳まで赤くなっていた。猫耳も目と一緒に伏せられている。
境遇をこそ思えば理解はできた。慈愛の怪盗。その本当の名を知る人はおらず、清澄アキラは孤独な在り方をありのままに受け入れた。だから他者から与えられる快楽の波の頂上に達する感触の経験が浅く、どこか恐怖心から受け入れがたいものなのだろう。
「ごめんなさい。先生」
「いいよ。大丈夫だからね、アキラ。ちょっとずつ慣れていこっか」
目尻に涙を溜める姿を見て、なだめる。
お互いの身体から離れることはなく、互いの背中を洗うと脱衣所でも綺麗なタオル(これも不思議なことに先生の知らないところで畳まれていた)で火照る身体を拭いていく。
少しだけ俯くアキラは水を差したことに罪悪感を感じているのか、目を合わせてはくれなかった。彼女の耳元でやさしく囁く。
「アキラ。このままベッドに行こうか。収まりそうになくてさ」
言葉に偽りなく、アキラの視線の先では張り詰めた陰茎が今にも暴発しそうなほど精を滾らせていた。目が釘付けになっているのか、静かに頷くばかり。
しん、と静まり返る先生の自宅。明かりも点けずに暗い廊下に出る。互いの性器に手を伸ばしてさすり合いながら階段を前にして立ち止まると、先生は耳打ちした。
「このまま部屋に着いたら、君のことを目一杯愛してあげる」
「──♡」
「いいよね、アキラ?」
大陰唇を撫でていた手を止めて、腰に回して抱き寄せると唇を塞ぐ。舌を絡ませ、唾液を注ぎ込むとすぐに離す。ゆだったような視線がどこか夢見心地で彷徨っていた。
ゴクリと喉を鳴らして飲み込むと、アキラが小さく頷く。
一歩、また一歩と階段を登るたびに息が乱れる。
これから自分が何をされるのか自覚し、理解したうえで、自分から足を踏み入れることに背徳感と興奮を覚えて身体を震わせていた。
「えっちなこと考えてる?」
「~~~っ♡ わ、私がこれから先生に……どんな風に、辱められて、犯されるのかばかり……考えてしまいますっ♡」
「私も、どんな風にアキラを抱いてあげようか考えてるよ」
階段を登り終えて、二階の廊下に立つ。アキラの鼻息は荒い、だが平常心を保とうとしているのか唇を固くしていた。それを見て頬を擦り寄せると、すぐにアキラは舌を差し出してくる。何度もディープキスを挟みながらベッドへと向かう。
二階の自室の扉を開けると、そこは簡素な部屋だった。元々帰宅する機会もほとんどないため私物と呼べるものはほとんどない。それでも最低限の生活感としてベッドやソファー、ローテーブルといったものは揃っている。
窓際に置かれたシングルベッドはカーテンの隙間から漏れる月明かりで照らされていた。
ドアの仕切りをまたぎ、静かに閉められる扉の内鍵をかけるとアキラの身体が小さく跳ねる。
「……は、ぁ……はぁ……はぁ♡」
「アキラ。ほら、もうちょっとだよ。あのベッドだからね、見えるよね?」
「────。は、い。見えて、ます……せんせい♡」
「歩けるよね、アキラ」
不安そうな足取りでベッドの前に立つと、身体を震わせていた。
白いシーツ。まっさらなベッド。シワ一つないベッドメイキングは、誰がしてくれているのか先生も疑問だ。ハウスキーパーを雇った覚えはとんとないというのに。
──やがて。
“ギシッ”と音を立ててベッドのスプリングが軋む。アキラが四つん這いになりながら、猫のように振り向く。
華奢な身体に、小ぶりななお尻からは割れ目が覗いていた。ここに来るまで愛撫され続けていたからか、愛液ですっかりできあがっている。ヒクヒクといやらしく動いているのが自分でもわかるからかアキラも隠そうとしなかった。
仰向けに寝転がると、肢体を投げ出す。自らの身体を差し出すかのように。
ベッドに乗り出し、覆いかぶさる形で身体を重ねる。
アキラの手が背中に回されて、抱きしめてきた。
「先生──私のことを、めいっぱい。愛してください……♡」
「うん。大好きだよ、アキラ。愛してる」
その言葉だけでどれほどこみ上げてくる物があったのだろう。抱きしめる手に力が入るのがわかった。
「君の心を、私がどれほど埋めてあげられるかはわからないけれども──たくさん感じてくれると嬉しいな」
「……は、い。はいっ、はい♡ 受け止めきれないくらい、愛してください」
──初めてアキラと一線を越えた日のことを思い出す。
──彼女はマスクを着けたまま、素顔を見せずに薬で眠らせた私を使っていた。
──違和感に目を覚まして、その事実が発覚した時、慈愛の怪盗は泣き出した。
──軽蔑も侮辱もしなかった。寂しかったのだろうから。
──なら先生として取れる道はとても限られるものだったけれども、それでいいと思った。
ベッドの上で重ねる身体が揺れ動く。
清澄アキラは身体をシーツの上で揺らしながら、先生の陰茎を受け止めていた。
「先生、せんせい──もっ、と♡」
「っ、アキラ──!」
愛液で満たされた肉壺を押し広げる感触に腰が抜けそうになる。半ばほどまで沈ませたところで動きを止めること数秒、じっくりと形が馴染むまで維持していた。
ゆっくりと浅瀬をかきだす仕草に、もどかしさを覚えるのかアキラが切なそうに身体をよがらせている。
少しずつ、少しずつ。奥に挿入していく。
なるべくアキラの体に負担をかけないようにして長引かせる。
「ん、あっ……! んんぅっ♡ せ、先生……はや、く……動いて……♡」
「ほら、アキラ。わかる? お腹のここまで届いてるの……」
下腹に手を当てて撫でれば、わずかに内側から盛り上がる肉の感触が伝わってきた。上から押しつけられて、より鮮明に陰茎の形を感じるのかアキラは小さく、何度も頷く。
「アキラのナカ、ざらざらしててすごく気持ちいいよ。アキラはどう? 痛くない? 平気かな」
「は、い……! 大丈夫、です……せ、先生……焦らさ、ないで」
「だめだよ、アキラ。だって君は──大事な生徒だからね」
耳元で囁かれる甘く優しい言葉に、アキラが膣を引き締めて身体をよがらせる。たった一言、それだけで軽く達してしまったのか恍惚とした表情を見せた。
紅潮させた頬、長いまつ毛からわずかに見える紅色の瞳、シーツに乱れる淡い桃色の長い髪。華奢で慎ましやかな肢体は白く、しかし病的と言えるほどではなく血色がよく、十代特有の肌の艶が月明かりで輝いている。
「はッ♡ へっ……♡ せ、んせい……! これ、ダメ……♡」
「アキラ。ちゃんと“イク”時は言ってね? じゃないと、やさしくしてあげられそうにないからさ……わかった?」
「イ……き、ます……! せ、先生……、せんせぇ!♡♡♡」
ぎゅうぅ~、と。まるで陰茎を搾り取るかのような膣圧。ざらざらとしたヒダに、つぶつぶとした突起が隙間なく埋め尽くす。
「ぅ、お……ぉお……アキラの──すご……!」
思わず声が口からこぼれる。
「あっ、く、うぅ~~……!! は、あ♡♡ ごめ……なさ……! あっ、ダメ……ま、た──!」
「く、っうぅ! そんなに、締めつけたら……!」
ガクガクと腰を震わせて痙攣する膣から熱い潮が吹き出す。立て続けに達したアキラは羞恥と困惑と謝罪の念が入り混じった顔を手で覆い隠していた。ヘイローも僅かに乱れている。
挿入されただけでこんな醜態を晒してしまったことに対する謝罪と、不甲斐なさで泣き出してしまいそうなアキラの頬を撫でながら先生は陰茎を奥までかき分けながら挿入した。
「あ──♡♡♡ あ、あ~!♡♡ せんっせ、なん……?♡♡」
「──動いてほしいんだよね、アキラ」
「えっ、あ……まっ──♡♡♡ いま、は、ぁああぁぁああ♡♡♡」
ミッチリと詰まった肉壺をかき分けて、満たされた愛液を亀頭の笠でかき出すように根本から先端まで深くストロークさせる腰の動きにアキラは絶え間なく襲い来る快楽に激しく身体をくねらせる。しかし、先生の身体を深く受け入れた体勢では逃れることもできずに犯されていた。
腰が沈むたびに、自分の膣内からは“ゴリゴリ”と擦れる音が響いてくる。
気持ちいいと同時に、こわい、とも感じていた。だがアキラは先生の身体にしがみつき、歯の根も合わない口をだらしなく開けたまま顔を見つめる。
「っ、ふぅ、ふっう……! アキラ、気持ちいい?」
悩ましそうに眉を寄せて、必死に気を遣いながら内に秘める獣を抑えつける顔はいつもより少し怖かった。それでも乱暴なことだけはしまいと、腰を打ちつけてくる。
頭の中がまっしろで、なにもかんがえられない。でも、きもちよくて。この人のことが大好きで、愛おしくてたまらないことだけはわかる。抱きしめたぬくもりが心地よくて、自分のことをこんなにも必死に求めて。
「アキラ──アキラ──! っ、
何度も名前を呼んでくれる先生のことを思うだけでアキラは、自分の全てを差し出してしまいそうになる。
こわい、と思ったのはそれが最後──。
「あっ♡ あ゙ぁ゙ッ♡ は、いっ♡♡♡ せんせぇ、出して……!!! 私を、染めてぇぇ!♡」
名前を呼び合いながら膣内で吐き出される性の勢いにアキラははしたない獣のような嬌声をあげてしまう。だがそこに恥じらいはない。自分の子宮に吐き出される熱湯のように煮え滾った子種の熱さに腰を浮かせて求める。
奥へ奥へと引き込む膣に先生は根元まで挿入させた陰茎を震わせて射精していた。湯水のごとく湧き上がってくる精をポンプのように吸い上げて注ぎ込む。脈を打つ度にアキラの膣を広げていくのがわかった。
どれほどそうしていたか。一分か、それとも数十秒か。もしかしたら数秒のことかもしれない。だが時の流れなどよりも確かに今こうして繋がっている事実だけが互いの愛を証明してくれる。
「くっ、うぅ……ふぅ……われながらすごい出た……! アキラ、だいじょうぶ?」
「はっ♡ はっ♡ は♡ ッ♡ ォ……お゙っ♡ せん、せんせい……イキ、ました♡♡♡ イクとこ……見てて、くださいましたか……♡」
「うん。見てたよ、すごくかわいかった。いい子だね、アキラ。いい子だ……本当に♡」
「はー♡ ハー、はっ♡ ぁ……♡ ん、んぅぅ……♡」
しきりに頬を撫でると、自ら摺り寄せてくる姿は人懐っこい猫のようだ。今にも喉を鳴らしてきそうなほど猫なで声をあげている。
引き抜いた陰茎の勃起はまだ収まりそうもなく、先生は張り詰めた感触に抗えずアキラのなだらかな曲線を描く下腹部に押しつけた。
「あ……♡」
「アキラ。ちょっと、治まらなさそうだからさ……もう一回、使わせてもらってもいいかな……?」
陰茎をじっと見つめていたアキラの目が、トロンと溶ける。恍惚とした表情で、足を広げるだけではない。自ら秘部を広げて見せている。注ぎ込んだばかりの精液が溢れ出し、愛液と混ざり合って半透明の白濁液が肉壺から垂れてきていた。
「は、はい……♡ 先生だけの、おまんこ……です♡」
羞恥心の壁を乗り越え、自らの性器を口に出す姿はたまらなく扇情的で、それだけで先生がこれまで抑え込んでいた理性の枷を外すには十分すぎる破壊力を秘めていた。
──ベッドで四つん這いになったアキラの腰を掴み、逃さないようにして先生は後ろから突き上げる。身体を労り、気遣い、優しい言葉を投げかけながらも覆いかぶさる形で激しく腰を前後させていた。
枕に頭を埋めて、口腔から言葉ともつかぬ嗚咽混じりの嬌声をあげるアキラは腰が抜けているのか卑猥な音を立てる陰部をされるがままにされている。
「あ゙っ♡ アッ♡ あ゙ぁ゙っ゙♡ お゙っ、ほぉ♡♡♡ せ、んせ♡ せんせいっ♡ はげし、すぎってっ♡♡ ああっ! ア゙、イ……クッ♡♡ イグ、イキま゙すっ、イッ~~~!!!♡♡♡」
「アキラ、アキラ! ちゃんとイケるようになって嬉しいよっ。もっと気持ちよくしてあげるからね──あぁ、また
「は、へ……! せんせ、いっぱい、くだ、さ──♡♡♡ アっ♡ アぁ゙! イ゙っグぅぅ!!!♡♡♡♡」
何度目かの射精を受け入れるアキラの膣は貪欲に飲み込み、膨らんだお腹から逆流した精液がボタボタとシーツに染みを作っていた。子鹿のように足を震わせておしりを突き出していたアキラはまるで糸が切れたかのようにベッドに伏せる。
「は、ぁ……♡ はー……♡ ハー、はっ……♡ 先生の、びゅー、びゅーと……たくさん……注いで、くださって……♡ ありがとう、ございます……♡」
「ふー、ふーっ……アキラ、今すごく幸せそうな顔をしてる」
「あ……あぁ……♡ そん、な……みないで、ください……♡ 私のことを……」
お互いの身体から湯気が立つほどの熱気が籠もった部屋で、一糸まとわぬ裸の二人は汗ばんだ素肌を抱き寄せた。
においを嗅いで、アキラは太ももを擦り寄せる。入り切らないほど注ぎ込まれた情熱と愛情と肉欲が、またふつふつと自分の中から湧き上がってきた。それを先生は感じ取ったのか、溢れ出る精液に蓋をするかのように膣に指を挿れる。
「んッ……! せ、先生……?」
「ほら、アキラ。聞こえる? 今すごくいやらしい音がしてるの」
耳を済ませるまでもなく、愛液と精液の混じった白濁液は“ぐぽぐぽ”と濡れた長靴のような音を立てていた。
先生の指は膣の天井をなぞり、違和感の感じる箇所を探り当てる。触れた瞬間アキラが身体を小さく跳ね上げた。“当たり”を見つけた先生は、下から押し上げるように小刻みになで上げる、短く素早いストロークで。
瞬間、アキラが絶頂する。小さくも主張するクリトリスが小柄な背丈を必死に伸ばして赤く充血していた。吹き出す潮が治まると、今度は小水を漏らしてアキラは細い腰を浮かせてガクガクと痙攣する。
ひときわ強い絶頂を味わった余韻からか腰が“ヘコヘコ”していた。もはやその小さな口からは人の声ではなく、性に乱れた子猫の嗚咽が漏れ出す。
「アキラ。アキラ、しっかり──だいじょうぶ?」
「はっ? へっ? え、あ……♡♡♡」
「ほら、これ。見えるかな?」
「…………? せん、せぇ……? それ、は……?♡」
ちりん。
鈴が鳴る。
「見てわからない? 首輪だよ。アキラに似合うと思って持ってきたんだ」
自分が短い間気絶していたことに、そこでようやくアキラは気付いた。
先生の手には新品のペットボトルと、赤い首輪。犬猫用の細い物ではなく、チョーカーのような作りのしっかりとした物。かわいらしいダイヤの名札には──『アキラ』とだけ書かれていた。先生の筆跡であるとすぐにわかる。
「せ、先生──♡」
「アキラを私のモノにしてあげようと思って、ね。ちょっと取り寄せたんだ」
かちゃかちゃとベルトを外して、首輪を広げて差し出された“それ”に目が釘付けになる。まるで魔法のように、それしか目に入らなかった。
言葉の意味がわからないほど子供ではない。
それが何を意味しているのかもわからないほど、清澄アキラは愚かではない。
だが。
だがそれが──どれほどの幸福なのかくらいわかる程度には、心酔していた。
「受け入れてくれる? アキラ。私“だけの”清澄アキラに、なってくれるかな」
「ぁっ……♡ ん、っ……♡」
頭がぼんやりとする。
──慈愛の怪盗という、風評で作られた『仮面』を脱ぎ捨てて。
──清澄アキラとして。先生のそばに身を置くことがどれだけ魅力的か。
「君が「慈愛の怪盗」として、価値ある芸術を手元に置くように。私も君の価値を認めて、私の手元に置いて、うんと愛でてあげたいんだ。ずっと」
「……ずっ、と? 私が、先生のおそばに……?」
──先生に、愛してもらえる。優しい声で、優しい手で、何度も名前を呼ばれて。
そう考えるだけで、アキラは細い首を差し出していた。望んで、願って、どれほどの生徒がそうされたいと思っているだろうか。関係のないことだ。
先生を私のモノにできないのなら、簡単な話。
私が。先生の“
──首に輪を着けて、アキラは惚気た顔でなぞる。桃色の吐息をこぼして。
「これで……せんせいの、モノ……です……♡ ずっと、ずぅっと……♡」
「ちゃんと言えるかな。“誰”が、先生のモノなのか?」
「あっ……♡」
服従の意思の証明。それを求められていることに、背中が“ぞわぞわ”と快楽が走り抜けた。
胸に手を当てて、息を呑む。
「は、はっ……♡ ──ん。わ、私……清澄アキラは、先生の……モノ、です。ずっと、ずぅっと……お手元で、大事に扱ってくださいね♡♡」
「……うん、やっぱりアキラはいい子だ。私が思っていた通りに。ほら、撫でてあげる。おいで、アキラ──」
──シャーレで待ち受ける終わらない残業の山を前に、先生は天井を仰ぐ。
そこに救いはなければないですね。
「はぁ。先生、しっかりしなよ……」
「ごめん。ごめんカヨコ。今だけちょっと休ませて……」
「……五分だけだよ?」
「ありがとぉぉぉ……」
ぐったりとソファーに倒れ込む先生に、便利屋68の鬼方カヨコは呆れていた。
「そうだ。カヨコ、猫好きだったよね?」
「え? ……まぁ普通に。なんで?」
「最近ちょっと、猫を飼い始めたんだけどさ」
「先生が? ちょっと意外。でもあんまり家に帰ってないから寂しがるんじゃないかな。どんな子なの?」
「かわいい子だよ。普段は放し飼いしているから大丈夫」
「…………お世話できてないじゃん。その子がかわいそうだよ」
呆れに重ねてため息一つ。だが先生は、笑いながら手を振る。
「元々そういう子だったから、大丈夫」
「ということは、野良猫だったんだ。へぇ。ちょっと……羨ましいかも」
「カヨコも私に飼われたいってこと?」
「いや、そういう意味じゃないんだけどさ……そういう趣味、ないし」
──“ちりん”と、鈴の音が鳴った。
その音にカヨコはシャーレのオフィスを見渡すが、どこにも猫はいない。
「……? 先生、今なにか聞こえなかった?」
「さぁ。気の所為じゃないかな。噂をしたから寂しがってるのかも」
「じゃあ、休んでる場合じゃないね。もうちょっとがんばろ、先生」
「そうだね。はやく帰ってかまってあげないと“いたずら”するかもしれないし」
重い腰を上げて、先生は再び机の上の山に対峙する。
──白猫に見られているような気がした。