※この作品はR-18です。

ドラゴンボーンの従者になりました   作:社会の星屑

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 1月22日17時頃、第3話のお着替えシーンに修正が入ってます。それ以前に読み終えていた方はもう一度読んでおくことをおすすめします。

 シーンの分割をミスった結果、戦闘描写が二つ入ってます。普通に読み疲れると思うので飛ばしてくだされ。


第4話 城砦からの脱出・後

 

「ま、待っ……!」

 

 双斧を掲げた男の暴挙に、ハドバルは腰を抜かしてしまった。

 同じノルドだ。きっと理解してくれるだろう。そう考えていた彼は、手負いの獣のように興奮した戦士の気迫におののき、その場で尻餅をついてしまった。

 今のストームクロークにとって、ハドバルがノルドか否かなど関係ない。彼の目的は生き延びること。帝国兵とドラゴンは、それを邪魔する敵だ。

 そして、目の前の相手は帝国兵の鎧を身にまとっている。ならば殺すだけだ。

 

 振り上げた右腕。握りしめるは鉄の斧。鋭く研いだ刃を叩きつけんと、膝を崩した腰抜けの脳天へと狙いを定める。

 だが、その刃が振り下ろされる直前で、一人の少女が割って入った。

 くくり上げた白銀の髪が勇ましく尾を引き、黄金の瞳に強い戦意を宿し、右手には鉄の長剣をしっかと握りしめている。

 

「やっ──!」

 

 少女──リーリヤは構えた剣で、縦一文字に振り落とされた手斧を受けた。だが止めたわけではない。斧の軌道に対して剣を斜めに向け、そのまま振り払って刃を反らしたのだ。

 渾身の一撃を軽やかに受け流され、男は体幹のバランスを崩してしまう。そこへ、リーリヤが肩で殴りつけるように当身をする。

 

「ぐぅ……っ⁉」

 

 ずん、と胸元を強く押し飛ばされる双斧のストームクローク。屈強なノルドからすれば矮躯な彼女の体当たりは、しかし男を後方へ飛ばした。

 男は倒れそうになる身体をすんでのところで踏ん張り、後退るだけに留める。それでも鳩尾に響いたのか、男は苦しそうに喘いで項垂れた。彼の背後からは、仲間のストームクロークが二人駆け寄ってくる。

 

「小娘──ッ」

 

 突如、双斧の戦士が顔を上げた。青筋をいくつも浮き立たせた顔は憤怒に染まっている。

 思わぬ反撃を、自分よりも華奢な少女に喰らわされたことで、ストームクロークの戦士は更に激昂していた。高まる怒りのままに、男は先程のドラゴンにも迫る勢いで叫び散らす。

 

 その眉間に、一本の矢が突き立った。

 

「がッ……⁈」

 

 着弾の衝撃で首を仰け反らせ、男は背中から倒れる。深々と鏃が刺さった傷口から、プシッと血が溢れ出ていた。

 二人のストームクロークが瞠目し、矢が飛来してきた広間の入り口へと目を向けた。

 左手に弓を握り締めた、逆立つ金の髪の青年が立っている。青い瞳の中に冷たい殺意を宿して、彼は素早く右手を背中に回した。引き抜いた矢を弓に番え、弦を引き絞っている。

 

「よくも!」

「うおおおおッ!」

 

 左右に並ぶ二人のストームクロークは弾けるように駆け出した。遠くで弓を構えるエイナルの狙いを散らすように、正面に立つリーリヤを挟み込むように、二手に分かれて大きく回り込みながら近づいていく。

 そこへ、盾を正面に構える女戦士の方へと、リーリヤは空手の左手を掲げた。白い肌の上を、パチリパチリと蛇のような光が瞬いている。元素へと変わりつつある魔力(マジカ)が、彼女の腕に収束しているのだ。

 少女の口から、荘厳な響きの呪言が紡がれる。

 

「“雷よ、矢のように鋭く貫け”!」

 

 瞬間、左手の先で紫光がひらめいた。蛇行するそれは音より速く宙を駆け抜け、盾ごと貫くかのように女戦士へと浴びせられる。

 

「ギ、ぁぁああアアッ⁉」

 

 全身を巡る強烈な電流に灼かれ、女戦士は金切り声を広間に響かせた。痺れた筋肉が弛緩して、両手にそれぞれ握る剣と盾を放してしまう。

 そこへ、少女は勢い良く踏み込んだ。両目は焦点を失い、膝を折った女戦士の下へ、一息で接近する。

 大きく振りかぶったリーリヤの長剣が、横薙ぎに振るわれた。鉄の刃は目にも止まらぬ速さで女の喉を裂き、横一線に開いた肉の隙間から鮮血を迸らせる。

 

「貴様アッ!」

 

 女の首を斬り払ったリーリヤの背中に、鋭い怒声が浴びせられた。大剣を手にした最後のストームクロークが、大上段に得物を構えて迫っている。

 しかし、振り下ろされる直前で、右の手首を鉄の鏃が刺し貫いた。

 エイナルによってすかさず放たれた矢だ。柄を握り締めていた右手の腱は引き裂かれ、大剣を放るように床へと落としてしまう。

 

「ぐゥッ⁈ ……ンの、舐めるなぁッ!」

 

 しかし、それで止まるような戦士ではない。男は残った左手で拳を作り、尚もリーリヤを狙って殴り掛かる。身の丈ほどの剣を振り回していた剛腕だ。少女の頭蓋など容易く粉砕できる威力を秘めている。

 リーリヤは、空いた左手で腰の短剣を引き抜き、振り向きざまに身を屈めた。後頭部を横殴りにするはずだった拳を紙一重で躱し、素早い足運びでそのまま男の背後へとくぐり抜ける。

 

 すれ違う巨漢の戦士と白銀の少女。

 見事に回避された盛大な空振りは、男の身体を前のめりに傾けさせていた。

 反対に、リーリヤは跳ねるように沈んでいた姿勢を高く戻す。くるりと振り向いた金の瞳が、目線より下がった男のうなじを捉えていた。

 がら空きになったその箇所へ、高く掲げた左手を叩き込むように振り落とす。裏手に握りしめた短剣の、両刃の切っ先がぞぶりと刺し込まれた。貫通した刃が内側から喉を割り開いて出てくる。

 

「ごふっ」

 

 裂けた喉と口から血を吐き出し、小さく痙攣するストームクロークの戦士。リーリヤが左手から短剣を離すと、彼は石造りの床に倒れ伏した。

 しばらく眺めて、動く気配がないことを確認してから、少女は深く息を吸って吐く。右手の剣を腰の鞘にパチンと納め、くるりと振り返った。雄々しささえあった先程までとは打って変わり、にへらと綻んだ表情を浮かべている。

 

「援護ありがと! 助かったよ、エイナル」

 

 一方で、エイナルはぶんぶんと手を振る彼女をじっと見つめながら、構えていた弓を下ろす。

 

「……お前、強いのな。ノルドの戦士三人を相手に一歩も引かないなんてよ」

「まーね。剣の方はお父さんにちょっとだけ教えてもらってたから。あ、魔法は独学だけど」

「ちょっとだけねぇ……」

「それとさっきも言ったけどエイナルのおかげでもあるしね。最後の人なんて、射ってくれなかったら私背中をバッサリやられてたし」

「いや、それはお前……まあ、今はいいか」

 

 それ以上の追及は諦めて、エイナルはかぶりを振った。二人の間には未だ呆気に取られて座り込んでいるハドバルの姿がある。その傍まで歩み寄り、右手を差し出した。

 

「ハドバル、大丈夫か?」

「あ、ああ……」

 

 その手を素直に取って、引っ張られながらハドバルは立ち上がる。

 

「ごめんね~ハドバルさん。絶対襲われるでしょって思ってたから隠れてたんだ」

「いや……俺が甘い考えをしていた。奴らが冷静でない可能性を見落としてたよ」

「向こうも生きるか死ぬかの瀬戸際だからね。そもそも帝国軍はさっきまで自分達を処刑しようとしてた相手だし、話し合いに持ち込んでも信用されないと思うな……と、よいっ……しょ……!」

 

 リーリヤは言いながら、うつ伏せに倒れた死体から自分の短剣を回収する。

 エイナルの方もハドバルから離れて、自分が放った矢を二つ、男の戦士二人から抜き取って検分していた。どうやら、手首に刺した矢の方がまだ無事なようで、そちらを矢筒に納めていた。

 

「だからね、今更だけどごめん。私は自分の身を優先して動くことにするから」

「……そうだな。確かにその通りだ」

 

 ハドバルは痛ましげな視線で、倒れた三人のストームクロークを見る。ほんの数秒、そこに立ち尽くしていたが、やがて顔を上げた。

 

「すまなかった、二人とも。次は躊躇しない。必ず、君達を無事に脱出させる」

 

 決意を新たに、ハドバルはエイナルとリーリヤに誓う。二人もそれに頷いて答えた。

 

◆

 

 三人が入ってきた入り口の向かいには、木ではなく鉄でできた格子の扉があった。

 ハドバルがそれを自前の鍵で開けると、奥に続いていたのは下へと続く螺旋状の階段だった。それほど長い階段ではなく、ほんの少し歩いただけですぐに地下の廊下へと辿り着く。

 しかし、その時通路全体が激しく揺れ動いた。

 

「うぉっ⁈」

「っ、と……!」

「わ、わっ⁉」

 

 あまりの揺れ幅に、歩いていた三人が思わずよろめいて膝をつく。

 直後、向かっていた通路の先が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた瓦礫で塞がってしまった。

 目の前で積み上げられた岩塊を見つめながら、ハドバルは憎々しく毒づく。

 

「くそ、ドラゴンの仕業か……? まだまだ外で暴れてるみたいだな……」

「ほ、ホントに大丈夫? このまま私達生き埋めにされたりとかしたらやだよ?」

「だ、大丈夫だ! 出口に続く道は他にもある! ほら、こっちだ!」

 

 慌てて扉を開いた先には広々とした部屋があった。炎が燃え盛る炉や、いくつも並べられたテーブルや椅子を見るに、食堂か何かなのだろう。部屋の奥には樽が並べられている。

 部屋の中は無人だった。つい今しがた崩落の危機感を煽られたこともあって、ゆっくり物色するようなことはせず、足早に部屋を通り抜けていく。

 奥の方の出入り口は手前側と同じ通路に繋がっており、瓦礫で塞がれた反対側の方へ出ることが出来た。

 

 そのまま道なりに進んでいくと、更に地下への階段があり、それも下っていく。

 果たして、三人が辿り着いたのはついさっき通り過ぎた食堂と同じぐらいの広い部屋だった。

 入ってきた彼らを迎えるのは、まさしく“血生臭い”と表現するに相応しい悪臭。広間の隅には人一人を閉じ込めるのに十分な大きさの、鉄格子の箱が並んでいる。そして部屋の中央には、悪臭の原因と思しき拘束台があった。誰かが磔にされているわけではないが、おびただしい量の血痕で赤黒く染まっている。

 拷問部屋。言われるまでもなく、ここがそうであると、エイナル達は悟った。

 

「ひどい……」

 

 リーリヤの呟きが聞こえる。それを指すのが匂いなのか部屋の光景なのか、あるいはそこから連想される囚人への扱いなのかまでは、エイナルには分からない。だがいずれにしても同感だと思った。

 ハドバルも面白くなさそうに眉を潜めている。

 そんな彼らに、部屋の奥から声が掛けられた。

 

「おや、誰かと思えばハドバル君じゃあないか」

 

 奥から歩いてきたのは、帝国式の鎧に身を包んだ二人の男。一人は頭巾を目深にかぶった老人で、もう一人は禿頭の中年だ。

 老齢の男は頭巾の陰から卑屈な目を覗かせてハドバルを見る。

 

「新進気鋭の優秀なエースが、こんな汚らしい場所に何か用かな?」

「アンタらこそ何ここでくつろいでるんだ? ドラゴンが襲ってきていることに気づいていないのか⁉」

 

 侮蔑を含んだ視線を隠そうともせず、ハドバルは言う。拷問官らしき老人もまた、心底おかしそうに笑った。

 

「カカカッ! 何を言い出すかと思えば、ドラゴン? 本の読み過ぎで妄想でも見えちまったのかね?」

「本当のことだ! 今も外で兵士達が市民を逃がそうと奮戦してる! アンタらが呑気にしている間にな!」

「バカも休み休み言え。確かに外から大きな音はしたが……」

 

 そのまま言い争いにでもなりそうなところで、禿頭の中年男がエイナルとリーリヤを見て指を差す。

 

「それよりも、こいつらは誰だ? 軍の鎧を着てるようだが……ウチの人員じゃないな?」

「……彼らは避難民だ。ストームクロークが砦内に侵入している。身を守るためにこちらの責任で装備を提供しているんだ」

「何? ストームクロークだと……!」

 

 囚人ということは明かさず、ハドバルは答えた。だが、二人の拷問官は依然として疑わしげな視線を二人に向けている。

 ……やがて、彼らの目がリーリヤの方をより注視し、僅かに好奇の色が瞳に宿った。

 

「いや、どうにも怪しいな。こいつらが侵入したストームクロークだという可能性だってあるかもしれない。どれ、こちらで軽く取り調べしてやろう」

 

 老齢の拷問官がニヤリと笑みを浮かべて、隣の中年男に「おい」と合図を出す。彼はその意図を汲んでか、リーリヤの方へと近づいた。年齢差も鑑みると、彼は老人の部下なのだろう。

 

「悪いが、そこのお嬢ちゃんはこっちに来てもらおうか。そっちの坊やは後でな」

 

 エイナルを無視してにじり寄る禿頭の男に、リーリヤは頬を引きつらせて後退る。

 

「い、いやぁ~……あの、ちょっと遠慮したいかなって……」

「断るなら後ろめたいことがあるってことになるんだぞ? これは徹底的に調べる必要がありそうだな……」

 

 禿頭の男は欲望を隠そうともしない下卑た表情で、リーリヤの肩へと手を伸ばす。

 流石に黙っていられないと、ハドバルが声を上げようとしたその時。

 

「おい」

 

 鼻息を荒くした拷問官がリーリヤに触れる直前で、エイナルがその腕を掴み取っていた。

 

「何の真似だ? 放せ」

「アンタこそこの手を引っ込めろ。こっちは一分一秒でも早くここから出て行かなくちゃならない。まどろっこしい取り調べなんか受けてる暇はないんだよ」

「貴様……帝国の公務を邪魔しようというのか? それがどういう意味を持つかわかっているのか?」

 

 威圧的に問う中年男に対し、エイナルは冷たい表情で、掴んだ手に力をこめる。

 

「い゙ッ……⁉」

「試してみるか? 今……ここで……!」

「は、放せぇッ! ……わかった! わかったよ、どこへなりとも行けばいいだろッ!」

 

 骨が握り潰されそうな痛みに耐えかねて、男は悲鳴混じりの声を上げる。エイナルが手を離すと、彼は手を引っ込めてそのまま逃げるように老齢の拷問官の方へと戻る。

 ハドバルはホッと息をついて、二人の帝国兵に言った。

 

「それじゃあ、俺達はこのまま裏の洞窟から抜けさせてもらう。アンタらも荷を纏めてここから出てった方がいい」

「ふん、若造が生意気に……」

「よせ、爺さん。こいつらの言う通り、ストームクロークが暴れ回ってるなら、さっさとずらかる支度をしないとまずい」

 

 不機嫌な老人はハドバルに食って掛かろうとするも、禿頭の部下がそれをなだめる。

 その間に、三人は部屋の中を突っ切って、向かいに伸びる通路へと去った。

 通路は細長く、両側の壁には鉄格子で区切られた牢屋が並んでいる。拷問部屋が遠のく頃になって、先頭のハドバルが口を開いた。

 

「まさかエイナルがあそこまで喧嘩腰になるとはな。肝を冷やしたよ」

「……悪かった」

 

 今回は拷問官が小心者だったからこそ切り抜けられたようなものだ。彼らがもう少し強気なら、帝国兵二名と事を構えることになっただろう。そうすれば同じ帝国兵のハドバルも、立場を危うくする羽目になる。

 自分の行動が短慮だったのは間違いない。エイナルは素直に謝った。

 

「気にしなくていい。過ぎたことだし、俺から見てもあの二人の言動は目に余ったからな。これで少しは懲りただろ」

 

 ハドバルは軽く笑って流す。隣ではリーリヤがにんまりとした笑みでエイナルを見ていた。

 

「また助けてくれたんだね?」

「……余計なお世話だったか?」

 

 またからかってくるのだろうと思って、エイナルはむすっとした表情でそっぽを向く。

 しかし、リーリヤは「ううん」と首を振った。

 

「ありがと! 凄く助かった!」

 

 向けられるのは、眩しいほどの笑顔。

 息を呑むほどに、少女の口にした純真な思いが青年の不意を突く。そのまっすぐさに適う言葉が見つからなくて、一瞬押し黙ってしまう。

 

「このぐらい、お安い御用だ」

 

 結局、返せた言葉はただの強がり。それがエイナルにできる精一杯だった。

 

◆

 

 地下の廊下は入り組んでおり、進むたびに何度も分かれ道に突き当たった。砦の構造を把握しているであろうハドバルがいなければ、迷っていたのは間違いない。

 その長い廊下も、やがて石畳が途切れ、天井や壁も含めて岩肌が露出した通路へと切り替わる。抜け道の洞窟にまで無事辿り着けたのだ。湿気った空気が肌にまとわりつくようだった。

 

「よかった。ここまで来ればあと少しだ」

 

 安堵のこもったハドバルの声。彼とて不安はあったのだ。無事に抜け出せる保証はない。出口に着くまでに、崩落に巻き込まれたりストームクロークに殺される可能性だって充分にあった。だが、もうその心配もなくなる。

 通路を進んでいくと曲がり角にぶつかり、そこを曲がると空洞に出た。

 四角く広がった空間で、平らに整えられた道は左手側の壁に沿ってぐるりと迂回するように続いている。右手側は崖になっており、一人分の高さを隔てて、地下水が流れる岩場があった。出口はその向かい側に続いている。

 

 だが、その向かい側の道に人影があった。一塊に集まったそのシルエットは、一人や二人では足りない。明らかに四人以上はいる。

 燭台でおぼろに照らされているだけの薄暗い洞窟内だ。ハドバルの目にはその人影の正体がわからない。気づいて声を上げたのはエイナルの方だ。

 

「あいつら、ストームクロークだ……!」

「何だと……⁉︎」

 

 それと同時に、人影の方も近づいてくる三人に気づく。空洞の奥がにわかにざわめき始めた。

 

「まずい、帝国軍だ!」

「追手が来たぞ!」

「俺らに待つのは自由かソブンガルデだ! 気張れ!」

 

 武器を手に取りいきり立つ跳ね橋前のストームクローク達。ハドバルも応じて剣を抜きながら、苦々しく歯噛みしていた。

 

「くそ、奴らこんなところにまで踏み込んでたなんて……!」

 

 その横で、エイナルも右手で矢を抜きながら、崖を挟んだ向かい側のストームクローク達を注視する。ほんのしばらくの睥睨の末に、彼は口を開いた。

 

「数は六人! 白兵が四人と弓兵二人だ!」

 

 その時、三人の耳に風を切る音が届く。

 

「伏せてッ!」

 

 そう叫んだリーリヤを含め、三人が身を屈ませた。彼らのすぐそばを、カツンと音を鳴らして落ちてきたのは二本の矢。岩肌の床に刺さることはなく転がっている。

 

「放て! 帝国の狗どもを殺せぇ!」

 

 空洞に響くストームクロークの怒号。

 崖の向かいに立つ二人の弓兵は、次の矢を手に取って番え始めていた。残る四人の戦士達も、剣や斧を手に動き始める。壁沿いの道には入り口側と出口側、それぞれに崖下の岩場を行き来する階段がある。彼らはそこから直接接近しようとしていた。

 

「私が切り込むから、二人はフォローお願い!」

 

 足音とそれに伴う鎧の金属音が近づく中、そう言ったのはリーリヤだ。立ち上がった彼女の両腕は煌々と輝いている。目に見えるほどに練り上げられた魔力(マジカ)の光だ。

 再び対岸から二本の矢が飛来する。身を高くした少女を狙ったものだ。それが到達するよりも早く、彼女は呪文を口にする。

 

「“我が肉体に、石の如き守りを”!」

 

 唱えたのは防護の呪句。双腕を包む輝きは細かな粒子となって散り、リーリヤの全身を覆った。

 そうして、淡い輝きを纏う彼女の下に矢が迫る。

 狙い放たれた二本の内、命中したのは一本のみ。その一本も、肩口へ刺さったかと思いきや、石の表面を滑ったかのように軌道を反らして背後へと飛んでいく。

 

(変性魔法……! こいつ魔闘士とかいうヤツなのか⁉)

 

 地面へ這いつくばったままのエイナルが、驚いて少女を見上げる。だが呆けている暇はない。すぐに立ち上がり両手に持った弓矢を構え直した。ハドバルもまた、身を起こして剣を抜いている。

 リーリヤはそんな二人の様子を一瞥してから長剣を右手に抜き放ち、左手から更なる魔力(マジカ)を熾した。赤々と揺らめく輝きが、肘から先を包み込んでいる。

 彼女はそのまま階段へと走り、勢いよく跳躍して、崖下の岩場へと降り立った。軽やかな着地から流れるような疾駆で、既に地下水の小川を突っ切ろうとしていた四人の戦士へと迫る。

 

「な、女……⁉」

「子どもだと……⁈」

「まさか、共に捕まった囚人か……⁉」

「えぇい、躊躇うな!」

 

 飛び込んでくる少女の姿に戦士達は動揺する。だが敵意まで削がれることはない。自分達に向かってくるのは、帝国の装束を帯びた敵である。

 手の中の武器を強く握り直し、まず二人の戦士が躍り出た。携えるはそれぞれ、戦鎚と大剣。一人の少女を屠るには十分過ぎる得物だ。

 彼らは大きく踏み込んで、飛び掛かるように接近した少女を迎え撃たんと武器を構える。

 

 しかし、彼女が振るったのは右手の長剣ではない。赤い魔力(マジカ)をまとった左手だ。

 

「“炎よ、燃え盛れ”!」

 

 叫ぶように紡がれる呪文。途端に、弧を描くリーリヤの左手から炎が吹き荒れた。手の平から生成される炎の奔流が、鞭のようにうねりを上げて、並ぶ二人の戦士に浴びせられる。

 

「ぐぉおお⁉」

「ああ゙あ゙ッ‼」

 

 灼熱に炙られて悲鳴を上げる男達。まるでヘルゲンを襲うドラゴンが見せた炎のようでもあるが、人体を一瞬で炭にかえるほどの火力は、彼女の魔法にはない。

 だが、気迫をまとった戦士を怯ませ、その視界を眩むような火光で覆うには充分だ。

 左手を振るった勢いのまま、体を横へと流したリーリヤの背後から、一本の矢が戦鎚を握る男の首筋を貫く。

 隣の相方が喀血と共に倒れ、大剣の戦士は矢の飛んできた方向へと視線を投げた。

 

 入り口側の崖上から、エイナルが弓を構えて見下ろしている。背中に手を回し、手に取った矢は二本。その内の一本を番え始めていた。

 

 その間に、ハドバルもリーリヤを追って階段を駆け下りている。新たに飛び込んできた帝国兵の姿に、残る二人のストームクロークも動き出した。

 

 顔に負った火傷の痛みに耐えながら、リーリヤと対峙する戦士は、大剣を担ぐように構えて彼女へと踏み込んだ。

 対するリーリヤは、腰の短剣を左手で引き抜き、大小二振りを構えて応じる。

 ぶおん、とうねりを上げて斜めに振り落とされる鉄の大剣。それが、刃渡りの短い長剣と重なり合い、いともたやすく受け流された。

 よろめく戦士の懐に、少女の身体が潜り込み、下から突き上げられた短剣が、彼の喉笛を貫く。

 

 二合と続かず斃れる戦士。その姿を見て、リーリヤを真っ先に討たなければならぬと、高所に立つ二人の射手は弓を構えた。

 そこへ、鋭く真っ直ぐ飛来した矢が額へと直撃する。頭部に矢を突き立てられ、背中から転倒する仲間に、もう一人の射手が狼狽えながら振り向く。そのこめかみにも、間髪入れずに飛んできた第二射が刺し貫いた。

 

(これで射手は潰した。残るは──)

 

 立て続けに二度、矢を放って頭部へと命中させたエイナルは、冷静に残る敵の姿へと目を向ける。

 後二人。彼らはハドバルに応戦し、斬り結んでいた。

 

「く、ぅう……っ」

 

 エイナルとリーリヤが四人のストームクロークを倒している間に、ハドバルは大きく消耗していた。彼とて訓練を積んだ帝国の正規兵だが、対する相手も一人前の戦士である。技量として大差はなく、二対一という数的優勢を前にすれば防戦に徹するほかない。

 

 向かい合うは剣と盾を構えた一人と、長柄の戦斧を手にしたもう一人。剣一本で戦うハドバルでは有効打は与えられず、逆に相手の容赦ない猛攻によって体のあちこちに手傷を追わされている。

 散々受け続けた鉄の剣はボロボロに欠けて歪んでおり、止め切れなかった斬撃によって手足にはいくつものかすり傷が浮かんでいた。

 流れ出る血の量も無視できず、絶え間ない剣戟によって体力も底をつきかけている。

 

「いい加減、死ねやぁっ!」

 

 盾を構えた戦士が苛立ち混じりに剣を振るう。ハドバルはそれをほとんど反射的に受け切って、別方向からもう一人による戦斧が迫ってくることに気づいた。

 腹部を狙う一撃。革鎧では防ぎきれないだろう。ハドバルは強引に剣を引き戻して、自らの胴と振るわれる戦斧の間に捻じ込むように構え直す。

 

「ご、ふ、おぁ……ッ!」

 

 打ち込まれた一撃が、ハドバルの体を地面から離した。斬撃そのものは防げても、その衝撃に踏ん張って堪えるだけの体力が、彼にはもう残されていなかった。

 くの字に折れ曲がった身体は岩場の端の崖まで突き飛ばされ、背中を強く打ちつける。

 

「が、は……っ」

 

 意識まで飛んでいくような痛みに、ハドバルはずるずると地面へ座り込んで痙攣する。立ち上がることはおろか、剣を握ることさえできなくなっていた。

 霞がかかった彼の視界には、ようやく大人しくなった帝国兵にとどめを刺さんと近づく、二人のストームクロークの姿が映る。

 最早これまでか──ハドバルは全身を襲う苦痛の中で、己の死が近づくのを感じていた。

 

 ……だが。

 

「ぎぃいああアアッ!」

「──むっ⁈」

 

 ハドバルへ近づく二人の戦士の背後を、一条の雷光と一本の矢が襲う。

 剣を握り締めていた男は死角からの紫電を一身に浴びて、訳も分からぬままに内側から焼かれた。

 戦斧を手にした男は恐るべき耳の良さで矢を察知し、振り返って己の得物を振り回す。

 カァンと金属音を打ち鳴らして弾かれる鉄の矢。崖上からその矢を放ったエイナルは舌打ちし、距離を開けて雷撃を放ったリーリヤは再び呪文を唱えようとする。

 

「“雷よ──”」

「二度目を許すと思うか! 魔術師風情が!」

 

 隣で倒れた仲間を置き去りに、戦斧の男はリーリヤへと駆け出した。

 迷いのない突撃に、リーリヤは詠唱は間に合わないと悟る。魔術を放つために一度納めていた短剣を再び抜き、迎撃の構えを取った。

 

 疾駆の勢いを乗せた斧の一撃。リーリヤは後退と共にそれを受け流すが、しかし反撃は許さぬとばかりに男は更なる攻撃を繰り出してきた。

 三合、四合と刃を交わらせ、その度に半歩ずつ下がりながら、リーリヤはこの男がそれなりの手練れであることを認める。

 一撃一撃が重く、速く、隙がない。ハドバルの全身を痛めつけたのも、恐らくはこの男なのだ。

 リーリヤもまた、その凄まじい斧撃の連続を捌き切れず、体のあちこちを掠めることを許してしまっている。

 傷を負っていないのは、予め張っておいた防護の魔術の賜物であった。それでも、まともに直撃を受ければ魔力の膜は突破され、致命傷になるだろう。

 彼女一人では勝ち目は薄い。ならば──

 

「ふっ!」

 

 脳天を狙った男の振り下ろしを、リーリヤは大きく横に跳んで避けた。ほとんど離脱に近い、逃げるような回避だった。

 もちろんそれを逃がすつもりもない、戦斧の男は転がる彼女を追撃せんと得物を振りかざす。

 しかしそこへすかさず、矢が飛んでくる。

 

「くっ……!」

 

 踏み出そうとした足を留め、男は身を捩ってその矢を躱した。見れば、いつの間にか岩場に降りていたエイナルが、地べたに屈んだままのリーリヤの真後ろに立っている。

 そして、少女は相手の攻勢が緩んだのを見逃さず、飛び上がるように立って反撃を開始した。

 

「はぁっ!」

「この……!」

 

 左右の二刀による素早い連撃に、今度は男の方が受け身に回る。長物の重武器の強みは、十分な間合いがあってこそだ。その内側へと踏み込まれてしまえば切り返しの余地はなくなる。

 しかし、男が攻めあぐねているのは彼女だけが原因ではない。

 リーリヤの剣戟の合間に襲いかかってくる、エイナルの矢こそが厄介だった。

 彼女が二度三度と剣を振るう度、その陰から矢が飛んでくるのだ。攻撃に合わせて左右に揺らめく、その僅かな間隙を縫うように。

 一歩間違えれば誤射しかねない絶妙な援護だ。

 それを、他ならぬエイナル本人が胸中で愕然としていた。

 

(やっぱりだ……! やっぱりリーリヤ(アイツ)……俺(・)の(・)弓(・)に(・)息(・)を(・)合(・)わ(・)せ(・)て(・)や(・)が(・)る(・)!)

 

 前に立って剣を取る彼女の背を見守りながら、自身はタイミングを見計らって矢を放つ。その一連の動きを、エイナルは奇妙な感覚にとらわれつつ行っていた。

 リーリヤが次に何をするのかが、彼女の背中から伝わってくる。

 二人は今日出会ったばかりだ。家族ではなく、恋人ではなく、知り合いですらない。なのにどうしてこうも考えが読めるのか。

 疑問は尽きない。

 

(それでも、この感じは……悪くない!)

 

 僅かに口元に笑みを浮かべながら、エイナルは引き絞った弓から矢を放った。その矢は僅かに身を屈めていたリーリヤの頭上を通り抜け、男の右腕へと突き刺さる。

 

「ぐぅうッ!」

 

 呻きを上げる戦斧の男。そこへリーリヤが二刀を交互に三撃、男へと繰り出した。

 男は深く矢の刺さる腕を振り上げて、咄嗟に斧で防ぎにかかる。だが痛みによるものか腕の筋を切ったのか、その守りはあまりに脆い。一撃目の長剣で姿勢をよろめかせ、二撃目の短剣で掬われるように戦斧を弾かれ、長剣を横薙ぎにした三撃目で、男の首は半ばまで両断される。

 

「ぐ、ふ……つ……ぉ……」

 

 何事かを言おうとした最後のストームクロークは、裂けた首から激しく血を噴き出しながら倒れた。

 白銀の髪を返り血に染めたリーリヤは、刃についた血糊を振り払い、剣を納める。

 それからくるりと振り返って走り出した。向かう先は崖に背を預けたままのハドバルだ。

 

「ハドバルさん!」

 

 懐から水薬の瓶を取り出したリーリヤが、彼の傍で膝をつく。エイナルも彼女を追って、そのすぐ近くで足を止めた。

 

「ああ……二人とも……さっきといい……情けない姿ですまない……」

「そういうのいいから早く薬飲んで!」

 

 苦しげに喋るハドバルを急かして、リーリヤは蓋を開けた薬の瓶を口元に押し当てた。彼はそれに素直に従い、傾けられた瓶口から流れる薬液を飲み干す。

 青くなっていた顔に段々と赤みが差し、不安定だった呼吸も落ち着き始める。その様子を見て、二人はホッと息をついた。

 

「ありがとう。とはいえ肋骨にまだヒビが入ってるらしくてな。元々大して役に立っていないが、この先もそうなりそうだ」

「気にするな。生きてるだけでも儲けものだよ」

 

 エイナルは言いながら、ハドバルに肩を貸すようにして持ち上げる。そのまま彼を支え、先導はリーリヤが務めることになった。六人のストームクロークを切り抜けた彼らは、そのまま洞窟の奥へと向かうのだった。

 

◆

 

 道なりに洞窟を進んでいくと、やがて奥の方から光が視界に差し込んできた。その光に向かって進んでいくと、近づくにつれて若木の香る新鮮な空気が流れ込んでくる。

 洞窟の出口は間違いなく砦の外だった。辺りには草木が生い茂っており、地面は僅かに下に向かって傾斜が出来ている。ヘルゲンは高地にそびえる城砦だった。その地下道を通って出てきたのだから、恐らくは砦に続く山道の近くに出たのだろう。

 

「何とか無事に出てこれたね!」

 

 外の空気を目一杯吸い込んで、リーリヤが言う。

 ハドバルもエイナルも、ようやく無事に外に出られて胸を撫で下ろしていた。壁内の惨状がまるで嘘だったかのように、洞窟の外は平穏そのものだった。

 だが、安堵に息をつく三人の耳に、耳をつんざくような声が聞こえてきた。覚えのあるその声に、全員が表情を凍りつかせる。

 誰が言うでもなく、彼らはすぐさま近くにあった岩の陰に身を隠した。その頭上を、大きな影が通り過ぎていく。

 見上げれば、砦を襲ったあの黒い竜が、北の空へ向けて飛び去って行くのが見える。その姿が見えなくなるまで、一人として微動だにしなかった。

 

「……行ったみたいだな」

 

 最初に呟いたのはハドバルだった。隣で彼を支えるエイナルが問いかける。

 

「もう戻ってこないと思うか?」

「わからない。そもそも奴がどこから来たのかさえ……。だが、向かった先はわかったな。あの方角にはホワイトランがある」

「あ、聞いたことある! それってスカイリムの真ん中あたりにある街のことだよね?」

 

 リーリヤが尋ねると、エイナルは神妙な顔をして頷いた。

 

「ああ。首長の一人が直接統治している城下町だな。もしドラゴンが次にあの街を襲うとなれば、被害はヘルゲンの比じゃすまないぞ」

 

 スカイリムは九つの地域に分かれており、それらは一人一人の首長によって治められている。ホワイトランもまたその一つで、スカイリムの中心に広がる穀倉地帯を示す地方であると同時に、そこを治める城塞都市の名でもあった。

 彼の都市の規模は、ヘルゲンとは比較にもならないほどに大きい。交易の要衝であり、多くの農場を擁し、人も民家も倍以上の差がある。そこが襲われるとなれば、事はスカイリムそのものに大きな損害を与えることになるだろう。

 

「マズいな……! 今からでも首長の下へ──ぐぅ……!」

 

 ハドバルも気が気でないのか、慌てて身じろぎをして、体に残った傷の痛みに呻き声を上げた。

 

「無茶はダメだよ、ハドバルさん! 急がないといけないのは分かるけど、まずは休まないと!」

「ぐ、ふ……確かに……そうだ。リーリヤの言う通りだな。まず俺達に必要なのは、休息だ」

 

 痛みで荒れた呼吸を整え、ハドバルは正面に向けて指を差す。

 

「ここから北、山道を降りた先に俺の故郷がある。今でも叔父が暮らしているはずだ。まずはそこへ向かおう。君達のことも、匿ってくれるかもしれない」

「いいのか?」

「ああ。君らの荷物は、帝国軍が没収しただろ? 多分もう燃やされてるか瓦礫の下だ。となれば、先立つものが必要になるはずだ。違うか?」

 

 いの一番に手を挙げて答えたのは、リーリヤだ。

 

「私は賛成! この先どうしようかって薄々思ってたしね。エイナルも来るでしょ?」

「え、いや、俺は……」

 

 当然のように言われて、エイナルは一瞬眉をひそめた。彼としては、砦を脱出したらそれまでの関係だと考えていたからだ。

 が、そこへずいっとリーリヤが顔を詰め寄せてくる。

 

「く・る・で・しょ?」

 

 有無を言わさぬ笑顔だった。エイナルはやがて諦めて肩をすくめる。

 

「まぁ……この状態のハドバルを放っておくわけにもいかないしな」

「よっし、じゃあ決まりだね! ハドバルさんはリバーウッドまでよろしくお願いします!」

「ははは……痛っ……! わ、わかったよ」

 

 強引なリーリヤとそれに押し切られるエイナルを見て、ハドバルはおかしそうに笑うも、折れかけの肋骨に響いて痛みに呻く。

 

「それじゃあ、行こうか」

「うん。──あ、やっぱちょっと待って」

 

 先を促そうとするハドバルだったが、それをリーリヤが留めた。彼女は踵を返して先程自分達が出て来たばかりの洞窟に振り向くと、両手を合わせて目を閉じる。

 それが、何を意味するのかエイナルとハドバルはすぐに理解した。

 

「……ストームクロークか?」

 

 エイナルの問いに、リーリヤは祈りを終えて振り返る。

 

「うん。私、あの人達のことはまだよくわかってないけど、レイロフさんとかを見るとそんなに悪い人たちじゃなかったと思うんだよね。だから……うん、せめてソブンガルデに行けるよう、タロス様にお願い、を……あ」

 

 その時、彼女の目がハドバルの方へ向いて「しまった」と口を噤んだ。

 現在の帝国法ではタロス──ノルドの信仰の中心である神の崇拝を禁じている。ノルドにとっては己の誇りの源を奪われたと言ってもいい。スカイリムで起こる内乱の、これがそもそものきっかけだった。

 だが、ハドバルは口元を緩めて首を振る。

 

「気にしなくていい。道を違えたといえ、同胞へ捧げてくれる祈りに、そんな野暮なことは言わないよ」

 

 そう言って、彼はリーリヤに感謝するように頭を下げる。

 

「じゃあ、お祈りも済んだなら、そろそろ行くか」

「うん、待たせてごめんね」

 

 エイナルの呼びかけにリーリヤが応じる。

 こうして、彼らはヘルゲンに背を向け山を降り始めた。

 




 原作ゲームやってる方はもうお気づきですね。
 はい、脱出イベントかなり端折ってます。クモさんとかクマさんとか。
 あれ全部再現しようとするとヘルゲン脱出に何話もかける羽目になるんで省略しました。許して。

 それでも冗長になってるのは主に戦闘描写のせいです。「最初だし気合い入れて書いたろ」の精神で書いた結果、ああなりました。
 次回から雑魚戦はもっとライトに書きます。
 あと多分最初の戦闘シーンは一週間後ぐらいに3話の方に移すと思います。

 今更な話になるんですけど、作劇の都合上原作ゲームとは異なる表現が入り混じってます。
 ドヴァキンちゃんが最初から強かったり序盤に覚えてないはずの魔法を覚えてたり。
 割とこういうのが今後もあると思うのでご了承ください……。
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