VRフルダイブが当たり前になったこの世界で、ネット世界の深層部——『UNDER GROUND』と呼ばれる場所で拾ってきたネタを発信するのが俺の趣味であり、ささやかな収入源でもあった。
「今日のネタは……まあまあか」
ドタドタと廊下から足音が聞こえてきた。
(M∀LICEの誰かか……? ホワイトラビット か マーチヘアあたりだろうな……)
俺が所有するカードの精霊たち——M∀LICE
普通の精霊は干渉はできないが、自立型AIの精霊である彼女らはVR空間では実体として認識でき交流ができ、まるで生身の人間のように触れ合うことさえ可能だ。
ドガァァァン!!!
「うわっ!」
背後のドアが蹴破られる轟音が響く。振り返るまでもなく、この乱暴な登場の仕方で犯人は確定した。
「お~茶会の話の時間だウサァァァァァ!!!!」
ドアを破壊して入って来たのは、満面の笑みを浮かべたロップイヤーをもつ左目のスペードのフェイスペイント少女である。相変わらず破天荒である。
満面の笑みを浮かべながら、手に持った剣にも見えるその大きな鍵が、俺に向かって大きく振りかぶられている。笑顔は無邪気で可愛らしいが、その行動は明らかに物騒である。
「え、ちょっ——」
「はい! マスターにドーン♠」
ゴツン。
鈍い音と共に、首元に衝撃が走る。痛みというより、何か冷たいものが首に触れた感覚。視界がぐにゃりと歪み、意識が急速に遠のいていく。
「マスター捕獲完了ウサ☆ これから楽しいことするウサよ〜!」
身体に何かを押し当てられているような感覚はあったが、それが何なのか、何をされているのか、もはや理解する余裕はなくまどろみに沈んでいった……
♥♦♣♠ ♥♦♣♠ ♥♦♣♠ ♥♦♣♠
VR独特の脳に直接錯覚される芳香剤の香りが鼻腔をくすぐり、ゆっくりと意識が浮上してくる。まぶたが重い。体もだるい。そして、妙な違和感に包まれていた。
薄目を開けると——
「あ、起きたウサ?」
「うわあああぁぁっ!?」
目の前、ほんの数センチという至近距離に、いかもの元気で可愛らしい見慣れた顔があった。しかし、あまりの近さに反射的に悲鳴を上げてしまった。
「ぎゃあああ!? …って、マスターがいきなり大声出すから、ボクまでびっくりしちゃったウサ 」
マーチヘアがぷくっと頬を膨らませて、長い耳をぴこぴこと揺らしながら抗議してきた。理不尽だ。驚かせたのはどっちだよ、と心の中でツッコミを入れる。
深呼吸をして冷静さを取り戻す。周囲を見回すと、ここは俺の作業部屋ではなく、ターコイズブルーの壁紙に囲まれた可愛らしい部屋だった。
よくわからない鉄塔のオブジェ、透明なドクロ、よくわからない模様が書かれている石——意味不明なものがあるのでマーチヘアのプライベート空間
だろう。
「マーチヘア……悪いけど、俺は仕事の途中なんだ。部屋に戻らせてもらうぞ」
そう言ってベッドから降り、ドアへと向かう。足を一歩、二歩と進めて——
——気づいたら、ベッドの上に座っていた。
「……は?」
今、確かに歩いていたはずだ。
ドアに向かって、ちゃんと足を動かしていた。
なのに、なぜベッドに戻っている?
「あははっ! マスターがバグったNPCみたいで最高ウサ〜!」
マーチヘアがお腹を抱えて笑い転げている。
「お前な~、俺のアバターに何したんだ……」
「ちょっとだけ弄らせてもらったウ・サ♡ ほら、マスター自分の身体見てみるウサよ〜」
促されるままに視線を落として——俺は絶句した。
胸元が、少し膨らんでいる。
手足は細く、腰はくびれ、太ももはしなやかな曲線を描いている。どこからどう見ても、M∀LICE素体の少女の身体だった。
「……………………は?」
「本日二度目の『は?』いただきましたウサ!!」
マーチヘアが再び笑い転げる。俺は呆然と自分の——いや、自分のものではない体を見つめていた。
(これが、さっきの声の違和感の正体か……)
ジト目でマーチヘアを睨む。彼女は相変わらずケラケラと笑っていたが、一瞬だけ目を細め、一瞬で真剣な顔つきに変わる。
「マスター、チェシャとヤったでしょ?」
「——っ」
心臓が跳ねる。
動揺が顔に出ないよう必死に取り繕うが、きっと失敗しているだろう。
「な、なんのことだ……」
「隠さなくていいウサよ〜。バ・レ・バ・レ・ウサ♡」
マーチヘアはくすくすと笑う。まるですべて見ていた見透かすような目をしていて、ゾクッとしてしまう。
(なんでバレた……チェシャが言ったのか? いや、あいつはそういうタイプじゃないし……)
焦る俺をよそに、マーチヘアは意外にもあっさりとした様子で続けた。
「別にチェシャとヤったことは気にしてないウサ。でもね〜」
すっと、距離が詰められる。
ベッドの上を四つん這いで近づいてきた彼女の顔が、再び目前に迫った。
「M∀LICEの中で一人だけってのは、ちょ〜っと不公平だと思わない?」
俺の隣にぴょんと飛び乗ってきた。ベッドが軋む音がする。
「だから、わたしとも交尾するウサ♡」
甘い吐息が頬をくすぐる。整った顔立ちが、至近距離にある。普段の破天荒な言動からは想像できないほど、その瞳は真剣だった。
「でも~、ふつうにエッチなことするだけじゃ面白くないウサ」
マーチヘアは俺の頬に手を伸ばし、くすくすと笑った。
「だ・か・ら、マスターを可愛い女の子に変えてから、女の子の気持ちいいところ、ぜ〜んぶ教えてあげるウサ♡」
背筋に冷たいものが走った。今の俺のアバターはM∀LICEシリーズの素体。特別な能力もない弱い少女の身体である。
逃げる間もなく、マーチヘアの手が俺の肩を押しすろ、ふわりと身体が浮き背中はシーツに沈み込んでいた。
「やめっ……!」
抵抗しようと腕に力を込めるが、この華奢な身体では話にならない。マーチヘアに両手首を片手で押さえられ、完全に組み伏せられてしまった。
「んふふ〜、いつもは男らしいマスターなのに——」
見下ろしてくるマーチヘアの瞳が、愉悦に細められる。
「今はこ~んなに可愛い女の子ウサね~、悔しがって涙目にマスターの顔も新鮮で誘ってるウサ?」
言われて初めて、目尻に熱いものが滲んでいることに気づいた。
三月うさぎがベースのM∀LICEゆえ、性格は吹っ飛んでいる。何をしでかすか分からない不安が、胸の奥でじわじわと不安が膨らんでいく。
(ヤバい、ヤバい! マーチヘアは俺に何をする気だなんだ……)
「そんなに怯えた顔しなくていいウサ、ちょっとへこむウサ……ただ、吹っ飛ぶくらい気持ちよくしてあげるだけウサ♡」
その言葉の直後だった。マーチヘアの空いている手が、俺の胸元に触れた。
「へ?……ひゃっ……!?」
思わず変な声が漏れた。指先が薄い布越しに柔らかな膨らみを撫でただけで、背筋に電流が走ったような感覚。感度が異常すぎる。
「あ、やっ……ちょっ、待っ——」
「待ってと言われて、先行展開止めるプレイヤーはいないウサ〜♡」
抗議の言葉を遮るように、マーチヘアの手が強めに揉みしだいてくる。
「んっっ!?……あぁぁぁぁ!!!!」
どのように抵抗しようと考えていた頭から、気持ち良すぎて馬鹿になってしまう。頭の中が真っ白になりかけて、必死に意識を繋ぎとめる。たった少し触れられただけなのにバチバチと背筋から電子ノイズが駆け巡る。
「アバターの感度は3000倍……は流石に壊れるので5倍くらいにしてあるから楽しめると思うウサ♡」
マーチヘアがケラケラと笑いながら説明する。俺は涙目で睨みつけたが、全く効果はなかった。
「あ~、反抗的な目ウサね? もっと攻めてふにゃふにゃにしてあげるウサ♡」
濡れた感触が耳を這う。舌先が耳たぶを舐め上げ、くすぐるように動き回る。同時に、胸への刺 激が変わった。クルクルと円を描くように、焦らすように撫でられる。
「ち、ちょっと待ってぇ!……っぅ!……おかしくなるっ……からぁ……ぅっ!……んんっ!!!」
マーチヘアの指が、双丘の頂を探り当てるようにねっとりと愛撫する。触るか触らないかの絶妙な加減で、焦らすようにフェザータッチを繰り返す。
「あ、ぁあっ、やめろぉぉぉっ! それ以上……俺が持たないから……!」
「ダメじゃないウサ♡ もっと気持ちよくなってよがっていいウサよ〜」
じれったい。もっと強く触ってほしい——そんな思考が浮かんで、慌てて打ち消した。
だが、身体は正直だった。無意識に胸を押し付けるように背中を反らせてしまい、その反応を見 たマーチヘアが嬉しそうに目を細める。
カリっ、と爪先が敏感な突起を引っ掻いた。
「かはっ——っっっぅ!?!!!??」
身体が大きく跳ねる。視界がチカチカと明滅し、腰の奥が疼くような感覚に襲われる。意識が空高く放り出されてもみくちゃにされる。あたまがまわらない。
「あっ、軽くイったウサ♡」
執拗に繰り返される刺激。ツンと立ち上がった先端を指の腹で転がされるたびに、頭の中が真っ白になっていく。
「ぁ、あぁ……っ、む、むり……っ、なにか、くるぅぅ……っ!!」
「思ったよりよわよわウサねぇ……でも、やさしいからちゃんとイかせてあげるウサ♡」
マーチヘアの唇が耳元に触れ、舌先で奥を突かれる。同時にカリカリッと自己主張が激しくなったピンクの突起を弾かれ……。
「ほら、初めてのアクメきめろウサ♠」
「あ゙っ! あ゙ああぁぁぁぁっ———!?!??」
声にならない声を上げながら、全身が痙攣する。男だった時には絶対に出さないような、甲高い嬌声が喉から迸った。まるで高所から急降下するような、脳髄を貫く異常な快感。抗う術もなく波に身を委ね、収まるのを待つしかなかった
「あ、あぁ………はぁ……っ、はぁ……っ」
荒い呼吸を繰り返しながら、ようやく意識が戻ってくる。全身から力が抜けて、指一本動かせない。これが、女性の……
——くちゅり。
思考を遮るように、下肢に湿った感触が走る。本来は無い場所を弄られている。そう自覚した瞬間、マーチヘアの指がそこに触れている。
「え! やっ、あぁっ!? 何して……っ~~~~!?!!??」
身体が理解した瞬間、先ほどよりも遥かに強い快感が下腹部から全身に広がる。腰が勝手に跳ね上がり、再びチカチカと目の前が白いで視界を覆い尽くされる。
ブシュリ、と音がして、下半身から何かが噴き出す感覚があった。
「わぁ、潮吹いたウサ〜♡ マスターってば、すっごく感じやすい変態さんウサね☆」
目の前にいるが遠くでマーチヘアの声が聞こえる。潮吹き。このアバターの身体でそんなことまで再現されているのかと、朦朧とする意識の片隅で思う。
「ん~、よく考えるとマスターばかり気持ちよくなってずるいウサ……腹が立ってきたウサ!」
マーチヘアが頬を膨らませながら、勢いよく立ち上がった。そして次の瞬間——
バサッ!
衣装を雑に脱ぎ始める。躊躇も恥じらいもない、あまりにも潔い脱ぎっぷりに言葉を失うが、それ以上に釘付けになる異質なモノがあった。驚きで少し体の火照りが鎮まったくらいの衝撃だった。
「ん? そんなに見つめられると照れるウサ〜♡」
マーチヘアが、恥ずかしそうに——いや、嬉しそうに身をくねらせる。
「あの~、マーチヘアさん……
視線は自然と、本来あるはずのない一点に吸い寄せられてしまう。女性型アバターのマーチヘアに、明らかに男性のそれが存在している。
「『UNDER GROUND』の散歩してたら、面白いプログラム見つけたウサ! 使ってみたら、おち〇ちんが生やせるようになったウサ☆」
「いや、プログラムの拾い食いはやめようよ……ウイルスとか入ってたらどうするんだ……」
マスターとして、やんわりと注意を促す。しかし、マーチヘアはケラケラと笑いながら首を振った。
「楽しければなんでもいいウサ〜♡ それより、マスター……」
ニヤリと笑みを深くする。その表情に、嫌な予感が背筋を駆け上がった。
「今から何されるか、分かるウサ?」
「…………ちょ、ちょっと待て! 冷静になれ! 早まるな!」
必死に制止の言葉を並べるが、マーチヘアは全く聞く耳を持たない。
「大丈夫ウサ〜♡ このプログラム、わたしも気持ちよくなるシステムついてるから、お互い楽しめるウサよ!」
「そういう問題じゃくなくて……やめっ……待って、本当に——」
ツッコミも空しく、マーチヘアが覆い被さってくる。何度もイかされて上手く動けない身体は、抵抗する術を持たない。足を開かされ、腰を固定され——
言葉が途切れる。何度もイかされて力の入らない体では、抵抗などできるはずもなく。
熱いものが、入り口に触れた。
「マスターの初めていただくウサ〜♡」
そして——押し込まれる。
「お゙っ゙——!!!」
瞬間、頭の中が真っ白になる。今まで感じたことのない、奥まで貫かれる感覚。そして——。
「『お゙っ゙』とかオホ声出していい声出せるマスターで嬉しいウサねぇ♡ 」
挿入れられただけで、またイッてしまった。
本来感じるはずのない感覚で身体の奥を押し広げられる圧迫感が、じわじわと広がる熱と、背筋を這い上がる快感が塗りつぶしていく。
「あー、もう無理ウサ……マスター、中すっごく締まってきてるしボクも気持ちよくなるウサ♡」
マーチヘアの顔は血走っていて、もう理性など残っていないのだと分かる。この時点で俺はマーチヘアに徹底的に犯されることは確定であると確信した。
満面の笑みを浮かべた瞬間、マーチヘアが一気に腰を動かし始めた。
バチュン、バチュンと腰を抑えただ本能のままに腰を打ち付けられる。
「ま゙、ま゙って……イ゙、イ゙ッでるからぁぁぁぁ!!!!」
目が眩むほどの快感が、波のように押し寄せてくる。
ずちゅ、ずちゅと響く生々しい水音が響き渡り、中をえぐるように、かき回すように、奥を突くように蹂躙していく。
「もうすこし、ゆっく……あ゙っ……またイ゙グイ゙グイ゙ッぐぅぅぅぅぅぅ!!!!」
抗議の声すら、まともに出せない。言葉を紡ごうとするたびに、イっている最中なのに次の絶頂が来る。本来ならあり得ない快感の
「マスター、チェシャだけずるいウサ!! ボクだって大好きなんだウサ!!!!」
マーチヘアが俺の名前を呼びながら、更に激しく腰を振る。彼女の中で普段は見せない一途な感情が、今は完全に表に出ていた。
「私も
限界を告げる言葉と共に、最後の一突きが奥深くまで達した。熱いものが身体の中に注がれる感覚。
血液が沸騰したかのような熱さ。全ての感覚が股間に集中し、今までとは次元の違う絶頂が襲いかかる。これが、いわゆる『深イキ』という前兆なのだろうか——そんなことを考える余裕もないまま、俺の意識は暗転した。
「あっっ……あ……あ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!」
その瞬間、白目を剥いてしまったのか前が見えなくなり、プツンとアバターの感覚がオーバーロードし、意識は完全に飛んだ……。
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重い瞼を持ち上げると、見慣れた光景だった。
「……ん」
無機質なデスクに複数のモニター。そして、書きかけの記事が表示されたまま止まっている画面が表示されている。
(それにしても、妙にリアルな夢だったな……)
思い返すと、あまりにも生々しい言葉にするのも恥ずかしい行為の数々が寝起きの回らない頭に浮かぶ。
(女性アバターも悪くないかも……って何考えてるんだ俺は……)
今の俺は男性アバターのままだ。ジャージ姿のいつもの自分。仕事部屋のデスクで、記事を書いている途中で寝落ちした——それだけのこと。
ピロン♪
メールの着信音で、俺は現実に引き戻された。画面の端に、新着メールのアイコンが点滅している。
「おっ、仕事の依頼かな?」
何気なくクリックすると、差出人の名前を見て固まった。
【From: M∀LICE<♠>March Hare】
嫌な予感がする。震える指でメールを開くと——
『マスター、お目覚めかな?
さっきは楽しかったね♠
記念に全部録画しちゃった♠ 名付けて『ふにゃにゃしてる弱いマスター』
PS: チェシャにも見せたら、次は一緒にって言ってたよ♡
[添付ファイル: ふにゃマス.mp4 (33.4GB)] 』
慌てて添付ファイルをクリックすると、サムネイルが表示される。そこには、恥ずかしい格好で喘いでいる俺——いや、アバター改変で女性化させられた俺の姿がはっきりと映っていた。行為もモザイクも何もない、無修正である。
「…………………………」
口が開いたまま、閉じられない。夢じゃなかった。全部、現実だった。
深呼吸をして、冷静になる。
そして、俺の指は右クリックを押し保存ボタンを押していた。