※この作品はR-18です。

レズビアーカイブ   作:フレナハテス

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私雨、混沌を鎮める

 

湿った空気が身を包む。

 

頬や額からたれた雫が、顔を全体を伝っていって…落ちていくのを感じる。

 

羽織っているコートが、やけに重く感じる。ジャケットも、ブーツも、水を吸って気持ち悪い。

 

──デストロイヤー、問題無く動くかしら。

 

空転………よし、問題ない。よかった。

 

 

「夜間、かつ雨天下での待ち伏せ作戦……体調が心配になりますね。委員長、大丈夫ですか?」

 

 

眼鏡が雨粒で台無しになるせいか、珍しく眼鏡を外しているチナツが、心配そうに声をかけてくれた。

 

……私なんかより、他の皆を気にかけてほしい。

 

なんて言うと誤解を招きそうだから──

 

 

「私は大丈夫。それより、他の皆の体調を診てあげて。連日働き詰めで、きっと疲れてるから」

 

「ですがそれは委員長もっ…!」

 

 

……あぁ…そういえばそうかしら。

 

最後に寝たのがいつだか思い出せないわ──たしか、委員長室のソファで仮眠をとって…それっきりだったかしら。

 

………それが何日前の何時か、を思い出せないし、覚えていないのだけど──その寝起きも、マコトに叩き起こされて……

 

あぁ、頭が痛い。それどころじゃないのに。

 

 

「うん──ありがとう、チナツ。安心して、私は慣れてるから。だけど、隊の皆は今の環境にも連勤にも慣れていない。全員が作戦の一部だから、彼女達のケアはチナツにしかできない──だから、お願いね」

 

 

「──わかりました。委員長も、体調が優れなくなったら、無理せず即座に撤退を」

 

「わかった」

 

 

軽く会釈だけをして、チナツは人が最も多いポジションへと移動を始めた──これで、ここには私一人。

 

……慣れない、スナイピングポジションを務めている。本来ならイオリが就くはずだけど、別の現場で活躍中だから。

 

出力を調整すれば、デストロイヤーでも狙撃はできる。加えて、今いる場所からは、待ち伏せているターゲットがどういう動きをしようと──確実に対処できる。

 

だから、私が居る。

 

 

「……だけど…ずっと立ちっぱなしだと、流石に寒いわね──もう少し厚着してくるべきだったかしら」

 

『──聞こえますか、委員長』

 

 

頼れる行政官の声──ターゲットに動きがあったのかしら……それとも。

 

 

「ええ、聞こえているわ」

 

 

『ターゲットが包囲網の突破を始めました。攻撃をお願いします』

 

 

──どうやら、狙撃しなきゃいけないようね。

 

めんどくさいけど、仕方ない……そうしなきゃ、奴らはずっと引きこもって、もっとめんどくさくなるから──

 

 

「了解。アコ、敵の配置は?」

 

『委員長から見て──1時に金髪、2時にブロンド、12時に赤髪。包囲網は1分ほどで突破される予想です』

 

 

……人質のフウカと先生が居ない?それに、ハルナが見当たらない──嫌な予感がするわね。

 

 

「……まあいい。攻撃を開始する──アコ、人質2名と主犯を探しつつ、救急医学部に連絡を」

 

 

『やっています』

 

 

セーフティ解除──出力最大──空転開始──羽を広げ、重心を整え、反動に備えて……狙撃しやすい姿勢へ。

 

あとは引き金を引くだけ。

 

まずは、獅子堂イズミ──命中。

 

次に、鰐渕アカリ──命中。

 

最後、赤司ジュン──

『委員長!!主犯が人質2名を連れて車両で逃走中です!!そちらから目視できるかと!!!』

 

即座に建物の屋上から飛び上がり、周囲を見渡す──結局……プランAとB、どちらもやる羽目になったわね。

 

ジュンコ1人なら向こうで対処できるだろうし……めんどくさい事になる前に、先生とフウカを助けないと。

 

──見つけた。

 

 

給食部と書かれた、車両のボンネットへ急速降下し──着地。同時に、運転席のハルナへ銃口を向ける。

 

……着地の衝撃で車両と地面が壊れたけど、結果的に追い詰めることに成功した。

 

 

「黒舘ハルナ──投降し、人質を解放しなさい。貴方の仲間は全員無力化済みよ。もちろん、逃げ場は無いわ」

 

 

「ふふっ……ええ、お手上げ侍ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後…先生とフウカの拘束を解いて、逆にハルナとジュンコを拘束し、イズミとアカリは救急医学部によって輸送される事になった──これで、美食研究会が引き起こした誘拐事件は解決した。

 

そうこうしているうちに雨は止んで……深夜の暗闇と、肌寒い空気だけが辺りに残っている。

 

 

「いつも迷惑かけるわね、セナ」

 

 

「いえ、死た…患者が増える分には問題ありません。そちらこそ…ゲヘナの治安維持、お疲れさまです」

 

 

「ありがとう…じゃあ、2人をお願い。治療したら、風紀委員会本部の地下牢に送っておいてくれると助かる」

 

 

「了解。では、私はこれで」

 

 

セナとの会話は楽ね…皆が彼女のように大人しければ、最近みたいな長丁場の現場は少なくなるのだけれど──いや、ゲヘナ学園にそれを期待するだけ無駄ね。

 

 

「あぁ………部の車が……」

 

 

「──すまない、フウカ。壊してしまって…」

 

「あぁいえ、ヒナ委員長のせいじゃないですよ……それに──もう、慣れちゃいましたから………」

 

 

とは言うけれど……大きい溜め息と、悲壮感漂う彼女の表情は…見るに堪えない──あぁ、そうだ。

 

 

「愛清フウカ──万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)に、車両分の部費を申請するといい。書類は…そっちの記入必須欄を開けて、明日まとめて送っておくから」

 

「えっ……良いんですか??!」

 

 

ま、眩しい笑顔──良かった。これで喜んでくれるなら、アコかチナツに書いてもらおう…都合悪そうなら、私が書けばいいし。

 

 

「ええ、風紀委員会からのお詫びだと思ってくれれば、それでいいから。万魔殿は風紀委員会からの書類以外は、ちゃんと対応すると思うから」

 

「あ、あ、あ、ありがとうございます!!このご恩は一生忘れません!!!」

 

 

「いや、補填だから…お返しは要らないから」

 

 

幸いにも荷台に積まれていたスクーターが無事だったためか、フウカはそれに乗ってそのまま帰って行った。何度も振り返ってはお辞儀をされた。

 

 

「……ふぅ。これで一段落かしら──」

「ヒーナちゃんっ♡」

 

「はひぃぁッッッ??!!!」

 

 

せ、せせせせ先生の声がッ…とととっ突然──み、耳元からっ……!!?フウカが見えなくなって、落ち着いたところでの不意打ち……もうっ。

 

 

「せっ、先生っ……やめてよ、もう…」

 

「えへへー。驚くヒナが見たっくて」

 

 

無邪気に笑う先生は、さっきまで監禁されていたのが嘘だったかのように振る舞う──いや、先生の事だから…どうせフウカやハルナ達との会話で、楽(・)し(・)い(・)こ(・)と(・)があったに違いない。

 

 

「先生も物好きね……それより、なんでフウカと一緒に、美食研究会に誘拐されてたの?」

 

 

「あぁ、それ?フウカと料理の練習してたら……"おふたりには、真の料理というものを教えて差し上げますわ!!"なんて言われて──いっしょに拐われちゃった。てへ」

 

「てへ、じゃないわよ…もう」

 

 

あぁ……なんだか、幸せだな。

 

先生と話してる時だけじゃない…この、至って普通の会話をしてる時──ひとりじゃない、と思えるからかな…すごく、落ち着く。

 

 

『ヒナ委員長、聞こえますか?』

 

「アコ──どうしたの、また事件?」

 

 

『いえ、全部隊撤収完了の連絡です。同時に、ようやく通報も事件も全て収まりました』

 

 

────……ほっ…長かったぁー………

 

 

「──ふぅ。お疲れさま、アコ。貴方も休んで」

 

『はい!迎えに行きますね!!』

 

 

「ちょっとアコ、話聞いて──」

 

 

──切られた…はぁ、ああなったアコは止まらないからなぁ……もう言葉に甘えて待つしかないか………

 

「ん?アコちゃんがどうしたの?」

 

「あ、えっと…先生は、このあと用事ある?」

 

 

質問を質問で返しちゃったけれど──先生は何やら考える素振りを見せた後…何かを企んだかのような顔を見せて……

 

 

「ううん、シャーレに帰るつもりだけど」

 

「じゃあ…アコに送らせようか?もうこんな時間だし、電車も動いてないでしょう?」

 

「あぁ、うん…そこは大丈夫!明日当番の子がなんとかできそうだから、連絡してみるよ〜」

 

 

かわされてる──意地でも私を頼らない気だ。

 

先生がそうしたいなら良いけど……

私は、先生の力になりたい。

 

 

「……顔に出てるよ、ヒナ」

 

「えっ──」

 

「そんなに力になりたいなら…こうだ〜!!」

 

 

先生がそう叫んだ瞬間……先生の両腕が、後(・)ろ(・)か(・)ら(・)私の両胸へと伸び──

 

 

「ッッッ──?!!」

 

 

同時に…背後──後ろ髪に異物感を感じる──私が知ってる先生なら……この後…ッッッ!!!!

 

 

「やめて先生っ!!!ずっとお風呂入ってないからッッ!!!雨が乾いた臭いでくさいから!!やめて!!!!嗅がないで!!!!!」

 

「スゥゥゥゥゥ…ハァァァァァーーー……スーハースーハースーハースーハースハスハスハスハスハスハスハ──」

 

 

このッ…!!私の胸を揉みながらっ……!!!

 

あぁっ……もうッッ!!!!!

 

 

「やめてっ…て──言ってるでしょッ!!!」

 

思わず反射的に、デストロイヤーの銃床で腹を軽く叩く──すると、先生は大砲でも食らったかのように地面にうずくまった。

 

 

「ぐえ──お゛っ…お゛ふッ……あっ、雨上がりの…日向の匂い………ごへぁ……」

 

 

血反吐を吐いてるわけじゃない──なら大丈夫。それくらいの痛みは受けてもらわないと気が済まない。

 

……でも、そこまでされると…ちょっと──もやもやする…私なんかじゃ、力不足なのかな。

 

そう思っていると──遠くから車のエンジン音がして……振り返ってみると、アコが乗っている迎えの車だった。

 

 

「委員長、お待たせしました!お迎えにあがりまし──って、先生??まだ現場に居たんですか?!!」

 

「あ…アコちゃん……や、やっほ〜…☆わ、私……死にそ〜☆」

 

 

「……おおかた、委員長にセクハラでもしたんでしょう?そうなって当然です。羨ましい」

 

「あ、アコ……?」

 

 

お腹を押さえて、情けなく悶絶している先生が、気絶したのを確認して──アコは私の手を取って、真っ直ぐに見つめてきた。

 

 

「え…えっと……アコ?」

 

 

「委員長──たった今から、おやすみまで……私がサポートしてもよろしいでしょうか?」

 

 

「──は?」

 

 

……突然言われたことの意味がわかっていない──わかっているのは…アコの手が震えてる事から、相当緊張して提案している、ということ……

 

 

「それ──って………」

 

「委員長…最後に寝た日、覚えていますか?」

 

 

「──えっと」

「覚えていませんよね。10日前です。以降、簡単な数十分程度の仮眠しか取れていません」

 

 

「………そ、そんなに起きてないから──」

「いいえ。私が委員長の事で間違える事はありません。服、靴、下着のサイズからスリーサイズ、終焉:デストロイヤーの点検周期、私服、パジャマ、勤務スケジュールまで──あらゆる委員長を知り尽くしている私が、委員長の生活リズムを把握していない訳がありません」

 

 

え…あ、アコに……下着はまだセーフ──じゃないけど──だとして、スリーサイズまで…知られてるの?!!

 

せ、先生よりヤバいかも…しれない……!!

 

 

「その…あ、アコ……もし…貴方のサポートを、私が断ったら……どうするつもりなの?」

 

 

……アコの表情が、だんだん暗いものになっていく──待って、そんな顔の貴方が見たいわけじゃない…言葉を間違えた?でも、何をされるのかわからない以上──

 

「……私は…委員長を──皆が寝てる間も戦ったり、あのバカタヌキ共にうざ絡みされたり、誰かの代わりを平然と務めたり──そんな委員長を…めちゃくちゃになるまで甘やかしたいんですよ!!」

 

「アコ…ちょっと……!?深夜テンションが過ぎるわ──落ち着いて……!!」

「いいえ!!!いくら委員長でもできない相談です!!!私がどれくらい苦しんでいたか、わかりますか?!ええわからなくて結構です!!委員長は私の事を気持ち悪い女と思って頂いて構いません!!!ご褒美なので!!!!」

 

すごい剣幕で話してきた──いや、これは…アコもアコで、壊れてる気がするわ……たぶん、私ほどではなくても、あんまり寝てない──顔が近くまで来てわかったけど、すごく目のクマがひどい……たぶん、私はもっと酷いのかもしれない。

 

 

「……す、すみません…委員長──部屋まで送って帰りますね…調子に乗ってすみません」

 

 

握っていた手を離し、目元を前髪で隠したアコは──そのまま車の運転席へと乗り、エンジンを掛け直した。

 

……天雨アコ。

 

自意識過剰な時もあって、それに伴う思い込みも激しくて、余計な事もしたりするけれど……大切な──私なんかを慕ってくれる……仲間。

 

あんな、自信がなさそうなアコ……何度か見たことが──いや…無いかもしれない。

 

 

「………ねむ」

 

 

急に──眠気が………これは、確かに……アコは私の事を、よく…知ってくれている──かも。助手席へと…ゆっくり歩き、ドアを開き……座る。

 

 

「──委員長、そこは助手席ですよ?」

 

 

「……サポートしてくれるんじゃなかったの?いつもの風紀委員会の仕事みたく、私の…おやすみまで」

 

 

……なにも、そこまで驚いた顔しなくても。はぁ…やっぱり、こういうところは──ちょっと呆れるわね。

 

そこが可愛いところ、と言えばそうなのかも。

 

 

「あ、あの……良いんですか?」

 

 

「安全運転でお願いね。飛ばしすぎないで」

 

 

「っ…!は、はいッ!!ヒナ委員長!!!」

 

 

車が走り出す。景色が動き出す。

 

そして、今になって──抑えていたはずの眠気が襲いかかってきた………アコ…意外と……運転が…上手い──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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