目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。
カーテンの隙間から漏れる日の光に顔を照らされ、眩しさのあまり意識が覚醒した。
自然に起床出来た割には気分はまったく優れない、ぼーっとするし、体はダルい。
なぜかは分からないが床で寝ていたのが原因だろうか。
「どうして、床で…って頭痛テェ!」
体を起こすとズキズキと頭に響く痛み、この感覚に覚えはありあまる、……二日酔いだ。
昨夜のことをだんだんと思い出してきた。
今俺がいる部屋は通称『ヤリ部屋』最近になって女とヤるためだけに借りた部屋だ。
二階建ての建物の端の部屋にあたる。
ちなみに自室は隣だ。
そして俺は昨日ここに女を連れ込もうとして、……失敗した。
「自分が酔って目ぇ回してちゃ世話無いな」
昨日の女は酒が異様に強かった、飲ませるつもりが飲まされた、気が付けばベロベロに酔っぱらい女は消えた。
その後はヤケ酒で飲んだくれていた、溜まった性欲を発散させようともしたが、ヤリ部屋に入ると虚しさが上回りオナニーをする気が失せてしまった。
しかし昨日ヌいていないせいで性欲はさらに高まってしまった。
気分は最悪だが、下半身は元気だ。
ヤりたい、この際誰でもいいから。
いや、誰でもはなし、綺麗で可愛い女がいい。
「…とりあえず、起きるか」
どれだけ望んだところで女がいなければ意味が無い、……風俗にでも行くか。
散らかっていた部屋を粗方片付けてから、一階に降りる。
二階は宿泊部屋で、一階は酒場になっている。
宿泊もできる酒場だな、飲みたい時や単純に腹が減ったら一階に降りればそこで済む便利さがある一方で、夜は酒を求めてくる客が煩いため、騒音を気にする人間は長期で住むことは出来ないだろう。
「ン、マンハッドか、遅いな、もう昼に近いぞ」
話しかけて来たのはこの店の店主リィロだ、中肉中背白髪混じりの焦げ茶色の髪、この世界基準では初老にあたる年齢の男性。
「もうそんな時間だったか、昨日は飲みすぎちまった」
「フン、少し自堕落なんじゃないか? 女はどうした、部屋に残したままか?」
「見てなかったのか? 昨日は逃げられたよ」
「はっ、なんだ間抜けな奴め日頃の行いが悪いからだ、……財布は無事か?」
「……ハッ!」
完全に油断した、酒とともに危機感も酔っていたのか考え至らなかった。
前世の日本と違いこの世界ではスリや窃盗は日常茶飯事だ。
「…な、ない、…金がない」
慌てて財布の中身を確認すると、銅貨が数個のみ、銀色も金色も見つからない。
「あー、取られていたか、ま、今回はお前さんの落ち度で…」
「いや、取られてない」
「ん? …は?」
「取られてねぇよ」
「ん? いやまさか、最初からすっからかんか?」
よくよく考えてみれば、金は使い果たしていた。
その日暮らしの冒険者に多くいる、金が入ればその分使ってしまう不思議な現象。
例に漏れず俺もそう、そして貯金もない。
……これじゃ風俗にいけねぇよ。
「なぁ、マンハッドよ、お前さんのために部屋だの酒だのと協力するのはいいが、金が支払えないのであれば話は別だ」
「…わかってるよ、なんとかする」
「フン、ならさっさとギルドに行って稼いでこい」
酒場を追い出され、青空下放り出される。
「ちッ、ド変態のクソジジイが、一丁前に説教たれやがって」
悪態はつくものの奴の言う通り、金がないのでは女を抱くどころか明日食うものにも困る。
重い足取りで冒険者ギルドに向かことにする。
ここは人類種の栄える王国、その西の街、皆そのまま『西街』と呼んでいる。
国の中央に巨大な川が流れ、そこを境に西と東に別れている。
西から東に行くには、これもまた大きな橋がかかっており、それを通らねばならない。
また川はいくつかに枝分かれしているため、他にも細々と橋がかかっている。
初めてこの国に訪れた人は、ここを川と橋の国と思うだろう。
俺がこれから行く冒険者ギルドもその橋の一つを通ることになる。
大きな川なので生き物も豊富だ、橋の途中で釣りをしている人が割かしいる、その中に顔見知りの人物がいるので声をかけた。
「よう!じぃさん、今日も釣りか?」
「マンハッドか、見ての通りじゃよ」
橋の上で静かに釣竿を握る、高齢の男性。
髪は全て白髪になっていて、肌には加齢による皺が刻まれている。
よくこの橋で釣りをする爺さんだ。
冒険者ギルドに行くにはこの橋を渡ることになるため、よくみかけ会えば自然と会話するような仲になっていた。
「釣果はどんなもんよ?」
「んーそこそこじゃな、良くも悪くも」
バケツを覗き込むと数ひきの川魚がいた。
大物はいないが、魚自体の釣果はよさそうだった。
「マンハッドはこれからギルドに?」
「おう、金がもうつきてな」
「そうか、…そういえばお前さんが前に組んでいた娘がおったじゃろ、名前は……出てこんが」
「組んで? いや、俺はしばらくはソロだったぞ、もっと前なら俺は第三騎士団で長いこと世話になってたし」
誰かと勘違いしているのか、女で一緒にいたやつは限られてるが。
爺の記憶力は当てにならない、最近の話のように言って実は十年くらい前の話だったりもする。
ぱっと頭に一人の女性を思い浮かべた。
「なんて名前じゃったかのぉ、あの新人の娘、栗色の髪の剣士」
「褐色肌か?」
「いや、白い」
「じゃあ多分シャルだな」
最初に思い浮かべた人物とは違った。
爺さんの言うその特徴なら一人しか思い浮かばない。
確かに彼女がギルドに来たばかりの頃に世話していた時もあったが、一度も組んだことはない。
「たぶんその娘じゃ、なにやらまたパーティー解散したみたいじゃぞ」
この国では橋は移動の要だ、そこにずっといれば何かしら目撃することも多いだろう。
前世の現代日本とは違い、ここは世間が狭い、人との繋がりは重要でコミュニケーション能力は大事だ、変な噂はあっという間に広まる。
今この時もその起こりが見えてくる、老人たちは噂が大好きだ。
「……またっていつの話だよ」
「昨日じゃ昨日! 言い争っているのを見たんじゃ」
「おおう、昨日かそらまた難儀なことに……」
人間関係は本当に難しいもので、些細な行き違いからパーティーが崩壊することはよくある。
シャルもまたそうで、何回か固定のパーティーを組んでは解散を繰り返していた。
ま、こればかりは運もあるからな、気を負わないで欲しいね。
「何を他人事みたいに言っとるんじゃ、お前さんの後輩じゃろうが、手を貸してやるのが先輩の務めであろう、助けてやれい」
爺さん特有の全く関係ない赤の他人を心配し、それを自分でなく他人に解決させる無茶ぶり。
俺とはそれなりに長い付き合いだからな、俺が冒険者なのもあるが、何かとめんどくさいことを平気で頼んでくる。
「ええぇ、んなこと言われても、それは繊細な問題であってだな他人がどうこう…」
「気の効かん男じゃな、そんなんだからルーナタシャにも…」
「待て待て! その話はするな! わかったよ気にかけておくから!」
逃げるように、俺はその場を立ち去った。
嫌だね爺さんは、誰彼構わず世話を焼こうとする、特に付き合いが長いと人の嫌な過去も平気で言ってくる。
爺さんにとって俺は出来の悪い息子のような存在なのだろうな。
気を取り直して先へ進む。
ギルドまでの距離はそこまで遠くない、橋を越え通りを渡り広場を通過すれば目の前だ。
ギルドの建物は魔物対策のためいざとなれば籠城出来るように頑丈に作られている、武骨だがその信頼性は高い。
俺はいつものようにギルドに入ろうとすると。
丁度その瞬間に扉は弾けるように開き、中から一人の少年が飛び出してきた。
「おおっと!」
「うわっ!」
咄嗟のことだったため避けることが出来ず正面からぶつかった。
勢いが強く倒れそうになる、がなんとか踏ん張りがきいて体勢を戻せた。
これでも剣士職の上位を自負している、体幹には自信があるのだ。
逆に飛び出してきた少年はもろに弾き飛ばされ体勢を崩し尻もちをついた。
尖ったようなツンツンヘアーの赤い髪、そばかす交じりで陽気そうな顔立ち、長いこと冒険者をやっているがこの少年は見たことがなかった。
かなり若そうだが新人の冒険者だろうか。
「大丈夫か、少年」
助け起そうと手を伸ばすと、彼は顔を真っ赤にしこちらを睨み付けながら吠えた。
「てめぇ何ぶつかって来やがるんだ! ふざけてんのか!!」
…は?
「ハッ、何だよよく見たらCランクの雑魚かよ、いい年したオッサンがまだそこなのか!」
少年は首にかかっているエンブレムを見ていた、これはギルドに所属している証と共にそのランクが一目でわかるようになっている。
このランクとはEから始まり、DCBAと上がって行き最高ランクはSとなる、俺のCの階級はほぼ中央に位置していて人数もCランクが一番多い。
初心者からは抜け出しているが、上級者ではない。
それがCランクの一般的な印象だろう、俺みたいな30代の人間がそのランクにいれば、まぁ才能がないと思われてしまうだろうな。
「ちょっとレオ!何してるの!」
ギルドの扉の中から少年に続いて一人の女性が現れる、まさしく飛び出した少年を追いかけて来たのだろう。
一目でこの状況を察したのか、レオと呼んだ少年を押しのけ目の前まで来て、すぐに頭を下げて謝罪を口にした。
「すみません、お怪我はありませんか」
レオと呼ばれる少年とは違い、かなりまともそうな人物だ。
保護者的な立ち位置か、その所作からは自分の子の代わりに謝る母親を想起させる。
謝り慣れた感じが取れて、何と言うかこんな状況になるのは一度や二度ではないと察してしまう。
そしてかなり美人さんだ、肩までの長さの金髪で服の上からでもそのスタイルの良さがわかる。
「あ、あぁ、こちらは大丈夫だ」
つい意図せずに言葉が自然と出てしまった。
そもそも子供のしたことだから怒るのは大人げないが、美人に言われて気圧されてしまった。
やっぱり男は美人に謝れると弱い、それだけで大抵のことは許せてしまう。
「よかった、ごめんなさいこの子最近ずっとこの調子で…」
「おい! エミリーあまりそのオッサンに近づくな! 何してくるかわかんねぇぞ!」
……イラッ。
「レオあなたからぶつかったのに失礼なこと言わないで」
「違う、そのオッサンが扉の前でぼーっと突っ立てんのが悪い」
女がせっかく取り成しているのに全てを台無しにしてくるなコイツは。
よく若い男の冒険者で自身を異常なほど過信したガキがいるが、ここまでの奴は久方ぶりに見る。
何と言うか厄介そうな奴らが入ってきたな、遠くで見てる分には面白いが、自分が絡まれるとムカついてくる。
しかしやはりどちら共に見覚えない姿だ、少年はともかく、ここまで美人な女の冒険者を忘れるなんてありえないだろうし、やはり新人の冒険者に違いないか。
……おっぱいデカいな。
美人で年上のお姉さんが相方で冒険か、羨ましいのにも程があるぞガキ。
俺だったらこんな女が傍に居たら仕事なんて手がつかなくなって、一晩中犯してるぞ。
……クソ、昨日失敗したせいでどうも性欲が抑え込めない、適当に仕事して金もらったら風俗に行こう。
「おいオッサン! いやらしい目でエミリーを見るな!」
……ここまで人をイラつかせるのが上手な奴は初めてだよ。
「レオー!」
「エミリーよく見ろ、こいつCランクだぞ、この年で! どうせろくな奴じゃない!」
あぁ、うん…ここじゃダメだな、俺の沽券に関わる。
ガキに手を出したとなると、長く冒険者をやってきた俺の信頼性がなくなる。
どこか、人目のつかないとこで。
「やめてよレオ、私もあなたもまだDランクになったばかりなのよ」
「今はまだな! 俺ならすぐにSランクにだって到達出来る! 行くぞエミリー! こんなオッサンにいつまでも構うな!」
「ちょ、ちょっと待ってレオ!」
止める間もなく嵐のように少年は駆けてい行った、残されたエミリーと呼ばれていた女性は少年と俺の方を交互に見ると、一言こちらに謝り、少年を追いかけて行った。
「いったい何だったんだ」
失礼なクソガキにあの美人な女性の方は姉か? いや家族と言うには似ていないから血の繋がりはなさそうだ。
となると……いや詮索はよそう、どうせこれ以上関わりになることもないだろうしな。
この仕事では自分を過信した人間は必ず痛い目を見る、戦いに身を置く仕事は決して慢心や油断しては長く続けられないものだ。
あの手の新人冒険者は気づけば居なくなっていることが大半だな。
気を取り直して、ギルドの中に入る。
ギルドとは正確には『冒険者』ギルドのことだ、商人ギルド、建築ギルド、などの全て人括りにしてギルドと一般的には呼ばれているが。
いかにも、な見た目をした奴らがギルドと言っていたら、それは冒険者ギルドのことなので他と勘違いしないように。
そんな荒くれ者の多い冒険者ギルドの中は、意外にも清潔感ある内装だ。
受付に、クエストボード、ちょっとした酒場、二階には資料室まである。
魔物の素材等の汚れ物は裏側に運ぶようになっている、ということもあるが女性の冒険者が実は多いのが要因だと俺は思っている。
この世界はスキルや魔法があるため戦える女性が多い、細身で小さいからと油断していたら大魔法をぶっぱなして来る女もいる、人を安易に見かけで判断してはいけない。
もちろんそれは魔物側にも言えることだ。
冒険者ギルドの入り口の側では一人の女性が心配そうな表情でこちらを見ていた。
彼女はギルドの受付嬢の一人で名前はシンディア、とてもお世話になっている人だ。
「よう、もしかして今の見てた?」
「ええ、中からでも聞こえてきてましたよ」
チラチラと扉の先に目線を向けている、その反応であの少年は俺にだけでなくギルドの中でもあの態度だったことが何となく伝わってくる。
「あれはいったいなんだ? 新人だよな」
「そうですね最近来られた方達です、Dランクに昇格したばかりで気が上がっているみたいで…少し困ったところですが、優しく見守ってくれると助かります」
「まぁ、子供相手に大人げないことはしないが」
新人ならばよくあることだと言われればそれまでだ。
実際手上げなかったからな、子供には優しいぜ俺は。
「それで本日は依頼の受注に来られたんですよね、実は受けて欲しい討伐依頼がありまして…」
そう言ってシンディアは依頼を持ってくる。
なるほど目的はこっちだったか、新人の対応にしては妙に援護してくると思っていたが、この依頼を頼むついでに話の切り出しに使っただけのようだ。
シンディアが持ってきた依頼内容を確認する。
内容はよくある増えすぎた魔物の間引きの依頼だ、まだ実害が出ないうちに対処すべきもので重要な仕事ではあるが、まだ実害が出てないために報酬金はこの内容にしては少なめだ。
だが本来であれば複数人でやるものを俺なら単独で解決出来るだろう、俺にとっては依頼料も総取りでおいしい仕事になる。
さっそくこの依頼を受けようと思ったところ、ふと視界の端に見知った姿が写った。
シャルだ。
周りに人はおらず、独りでクエストボードを眺めている。
真剣な眼差しだ、単独で受けるものとなれば必要以上に気を払わなくてはならない。
俺みたいに変に実力だけあれば、暢気に依頼を受けて金を稼げるが、まだまだひよっこのそれも女の子がしていいことじゃない。
パーティーを作って受けるべきだがそれが出来ないのであれば……。
彼女の後ろ姿はどこか寂しく見える。
じいさんに言われてたしな、見かけちまったら声をかけるしかない。
シンディアに一言断りを入れシャルの方に向かった。
「ようシャル! 久しいな、元気していたか?」
「あっ!先輩!マンハッド先輩だ! えへへっお久しぶりです!」
声をかけると、満面の笑みで返事が返ってきた。
爺さんからはかなり荒れてパーティーが解散したと聞いていたが、見たところあまり落ち込んだ様子もない、杞憂だったみたいだな、まったく年寄りは話を盛るからいけねぇぜ。
だが一人で依頼を受けようとするのはいただけないな、それは普通に心配だ。
「おうおう、どうやら元気そうだなぁ、安心したぜ」
「先輩はお変わりなさそうですね」
しかし暫く見ないうちに成長したなぁ、ちょっと前まではちんちくりんだったのに、もう大人の女性だ。
会話を続けながらもチラチラと横目で見てしまう。
サイドで纏めた茶色の髪、サラサラとしていて動くたび尻尾のように揺れている。
全体的にスラリとしているが、出るとこは出ている。
胸なんか明らかに以前より成長している、前はもっとぺったんこだった。
そのくせ腰は緩やかなカーブを描くくびれがある、腰周りが完全に女性としてのシルエットが完成されている。
……エロいなぁ。
「先輩?聞いてますか!」
「あ、あぁ…もちろんシャルは偉いよ」
「聞いてないじゃないですか!」
いかんな思考がオッサン染みてきたな、いやもうオッサンなんだが。
うーん、シャルは妹のような姪っ子のような存在だったんだが、どうにも意識してしまう。
昨日ヤレなかったことが響いてるな、ムラムラして性欲が抑えられん。
「今日はどうすんだ? 依頼がまだなら俺と一緒に受けないか?」
「え!? いいんですか!」
じっとしているのがよくない、体を動かしてればそんなことを考えている暇もないだろう。
人間忙しくしていれば余計な気を起さないものだ。
仕事して気を紛らわして、金を貰って風俗に行く、ついでに後輩も助けられる。一石三鳥だ。
依頼の方も一人増えたところで問題ないだろう、シャルの方でもソロよりは誰かと一緒の方が当たり前だが安全だ、どれだけ腕前が上がったか見たいしな。
「行きます行きます! 先輩とご一緒出来るなら何でもしますよ!」
「よーし、なら早速だが今受けようとしてる討伐依頼があってだな…」
討伐依頼の簡単な説明をして、シャルと依頼を受けることにした。
シンディアもシャルと一緒に依頼を受けるのは否定的でなかったが。
「マンハットさんわかってますね、シャルさんはあなたの後輩なんですからしっかり面倒見て下さいよ」
「わーてる、大丈夫だ」
釘を刺されてしまった。
心配なのはわかるが、大した依頼じゃないんだよな。
シャルもあの頃より実力は上がってるだろうし、楽に終わるはずだ。
ギルドを出ようとしたところに、一つのパーティーが目にはいる。
丁度今新メンバーを向かい入れた場面に鉢合わせたみたいだ。
「今日から新たに我ら『暁の星』に入ることになったアリエスさんだ! 喜べ諸君、念願の魔導師だぞ!」
「アリエスです、皆さんよろしくお願いします」
「う、うおぉぉ、女子だ」
「かわいい女の子だ…」
「俺たちのパーティーにも花が来たぞ」
男五人のパーティーに女が一人入るのか、大丈夫かアレ、パーティー崩壊の原因はほとんど男女のいざこざだぞ。
俺は怪しげに見ているが、シャルの方ではどうやら違うみたいだ。
結成したばかりのパーティー、どこか思うところがあるのか、その表情は少し寂しげに見えた。
◆◆◆◇◇◇
移動の最中は自然とパーティーについての話題になった。
シャルはうつらうつらと話してくれた、パーティー崩壊の原因はやはり男女間の問題らしい。
「男性三人女性一人のパーティーだったんです、ちょうど前衛が足りなかったみたいでわたしが入ったんです」
最初はうまく行っていたらしい、戦力的なバランスがよく男女比が同じくらいになったため既にパーティーにいた女性は喜んだ。
しかしその後、パーティーの男性メンバー全員がシャルに惚れ猛烈にアタックをしてきたらしい、既にいた女性はまったく相手にされなくなり、それに嫉妬しシャルに嫌がらせをするようになった。
そしてその行為を男性メンバーは黙っているはずもなく、言い争いに発展した。
シャルとしては仕事仲間としか見ていなかった彼らを、これ以上は無理だと判断しパーティーを抜けた。
その後のパーティーは、そんな状態で続けらるはずもなく全員解散してなくなってしまったらしい。
「わたしが入ってしまったばかりに、彼らの絆にヒビをいれてしまったんです」
「あぁーぅ、…うーん、まぁアレだ、そんなことでダメになるパーティーはシャルが入らなかったとしてもダメになってたと思うぞ」
返す言葉が見つからねぇ、無難な返事になってしまった。
しかし驚くべきはパーティーの男全員を魅了したシャルの色香だな、嘘みたいな話だが今のコイツなら納得出来る。
俺でさえ不意に感じる女性らしい仕草にドキリとくる、同年代の若い男なら恋い焦がれても仕方ない。
「その前のパーティーも人間関係で解散だったっけか?」
「以前はパーティーに死者が出てしまったので…」
「あぁ…そうだったな」
色恋沙汰の次に多い解散原因だな、冒険者は危険と隣り合わせな仕事で、毎年何人かは死んでいる。
パーティーの支柱になるメンバーが死ねば、そのまま解散してギルドを去ってしまう人は多い。
人材の入れ替りが多くてな、新人の顔はなかなか覚えられん。
「暗い話になっちまったが、そろそろ気を引き締めるぞ」
「はい!」
街から離れた森のなか、ここはまだ浅いところだが、それでも緑は濃く生い茂り、文明を拒絶した超自然の楽園。
魔物の領域である。
依頼はオークとゴブリンの討伐。
この魔物は二種共にヒト型で二足歩行、知能は低いが簡単な武器なら扱える。
ゴブリンは人の子供くらいの大きさで、オークは成人男性かそれ以上の体躯がある。
雑食性で何でも食べる、もちろん人も食べる。
戦闘能力は魔物の中ではあまり高くないが生命力が強くしぶとい。
特にゴブリンは劣悪な環境でも生きて繁殖できる、オークよりも小柄な分弱いがあっという間に数を増やすから、ゴブリンの方が厄介だと言う者もいる。
今回の依頼はオークとゴブリンの群れの討伐。
先ほど戦闘能力は高くないと言ったがそれは危険性がないといことではない。
コイツらが群れを作ってその規模によっては、村や街が滅ぶことさえある。
依頼内容は森の浅瀬にオークとゴブリンの群れが確認されたため早急の対処を求めるものだった。
これは本来Cランク以上のパーティーが受ける内容で決してCとDランクの二人組が受けていいものではない。
しかし自分で言うのもなんだが、俺は結構強い、オークとゴブリンの小規模な群れ程度なら容易く蹴散らせる。
正直なところ今回の依頼は俺が正面で戦い、シャルは後ろからサポートになると思っていたが…。
「ハッア!」
シャルの持つ小盾が、脇から密かに狙っていたゴブリンの顔面を打つ。
スキルの乗った小盾は女の細身の腕からはあり得ないほどの威力を出し、ゴブリンの顔面は陥没し歯は折れ、目玉が眼孔から飛び出す。
次の瞬間にはオークが繰り出す大降りのなぎ払い、そこらの木から削り出して作ったであろう粗悪な棍棒だが人体を破壊するには十分過ぎる威力が出る。
それをシャルは大きく体勢を傾け、攻撃を避けると同時にショートソードの剣先が棍棒の持つ手を刺す。
「ギィぃ!」
たまらず棍棒を手放してしまったオークは、遠くに飛んでいく自分の得物に意識が向いてしまう。
その一瞬を逃すことなくシャルは瞬時に肉薄し、オークが気づく頃には首の動脈がスッパリと切られていた。
血の泡を吹き、ぐるりと白目を向きながら崩れ落ちるオーク。
止まることなく次々と剣は新たな軌道を描き敵を切り裂いていく。
…強いな。
率直な感想はそれだ。
安定した戦い方だ、自分の強みを生かしそれを実戦で発揮することが出来る。
女性らしい柔軟さをもち、男の俺からしたらあり得ない体勢で、あり得ない角度から剣を振っている。
既に自分の戦い方がわかっている、このレベルの剣士がDランクとは、ギルドも見る目がないな。
手本を見せるつもりが、見せられてしまった。
俺の戦い方は単純でパワーによるゴリ押し、各種スキルで身体能力を上げ、メイスを叩きつける。
でかくて頑丈なだけのメイスだが、その単純さが強みだ。
防御は考えず攻撃に全振り、大概の敵は木っ端微塵に出来る。
力こそパワーなところを見せて後輩にちやほやされるつもりだったが、思い止まってよかったな。
最後の一匹を仕留め、討伐依頼は完了。
あっけなかったな、シャルもよく動いてくれたし、楽できちまった。
討伐証明部位を回収してさっさとずらかろう、暗くなる前には街に戻りたい。
オークとゴブリンは耳が証明部位になる、根元から切り取って回収袋に積めていく。
当たり前だが汚いし臭い、心を無にして作業をする。
「せんぱーい、このオーク両耳が潰れてるんですけが、この場合はどうしたらいいんですか?」
二人で手分けして剥ぎ取っていると、シャルの方で元々欠損していた個体を見つけたみたいだ。
厳しい自然界にいる魔物達は当然生傷の絶えない生活をしている、無傷の個体を探す方が難しいだろう。
今回は運悪く討伐証明部位をなくしてしまったオークだった。
「その場合は下顎の牙だ、ほらここの牙だけ異様に発達してるだろ、そ…れを…」
「なるほど!さすがです!」
血みどろの遺体群がる中、血と臓物の匂いが立ち込めていて鼻はとうにバカになっていた。
しかしシャルの背後に立つと、仄かに香る女性の汗の匂い。
頭の上からじっとその姿を見つめる、しゃがんだ体勢のシャルを真後ろから見下ろして、その女性らしい肉体に目が離せない。
動きやすさ重視の防具は全身ではなく一部の重要な部分のみ厚くしてその他は捨てることがある。
スキルや魔法があるこの世界特有の防具だ、例に漏れずシャルも腹部に脚部とほぼ素肌といっていいほどの軽量化をしている。この世界に馴染んでしまった後だと疑問に思わないが、改めて考えるとかなり命知らずの格好だ。
そんなシャルの姿は腹から腰周りのラインが丸見えで、魅惑的な曲線に理性が崩れそうになる。
軽く上気して汗で濡れた髪から、クラりと本能を刺激する芳醇な匂いが漂う。
先の戦闘を思い出す、綺麗な肉体、体の柔軟さ。
自身のイチモツは正直で、我慢なんぞ知らないとばかりにそそり立っている。
昨日からずっと意識して蓋をしていた欲望が無視できない熱を持って脳を侵食する。
ふと考えてしまう……今ここなら誰にもバレることなくこの女を犯せると。
「先輩? …どうしたんです?」
「……っあ、あぁ、何でもない大丈夫だ」
シャルの言葉にハッとして理性を取り戻す。
寸でのとこで理性が押し勝った。
未だに残る熱を頭を振って飛ばす、冷静にならなければ。
不思議そうにこちらを見つめるシャル、流石に挙動不審過ぎたか。
「いや、…強くなったなと思ってな、大分腕を上げたなシャル」
とっさに出た言い訳染みた言葉だったが。
その言葉に飛び上がって彼女は喜んだ。
「本当ですか! やっぱりそう思いますっ? ぅえへへー、先輩にそう言ってもらえるなんて、頑張った甲斐があったなー」
もしかしてコイツは俺に褒めてもらいたくて、それを待っていたのか。
どこかあざとさを感じるその仕草は、そういうことだったのか。
なんて可愛い奴なんだ。
「あぁ本当に強くなったよシャルは、もうCランクでも十分やっていけるぞ!」
言い訳でもあるが一応本音で俺は言っている、先の戦闘からはもう一端の剣士として扱うべきと思った。
DやEランクの上から守られるべき存在ではない。
どうやらそれは本人も十分わかっていることで。
「実はCランクの昇格試験を受けていて、もう承認されているんです」
後は簡単な審査だけでCランクになれるらしい。
俺からしたら慎重過ぎるくらいだな、この実力ならさっさとランクを上げて上位の(金払いのいい)依頼を受けるべきだ。
まぁその慎重さは大体の冒険者にとって足りてない部分だからな、シャルのその性格は都合がいいだろう。
「よかったな、じゃあお祝いしないとだな」
「え!? いいんですか!」
今ここで犯す? アホか俺は、何を考えてるんだ。
童貞のガキじゃあるまいし、焦り過ぎだ。
いつも通り、これまで通りでいいんだ。
「行きつけの店があるんだ、今日は俺の奢りだ!」
「やった! ゴチになります!!」