高い秋空の下風が冷たくなりつつある日、ある墓石の前に二人の女性が立っていた。
片方の女性が振り返りもの悲しそうな目で言った。
「ここが我が父、グレンの眠る墓です」
そこは彼女の一族が眠る墓、墓石にフレイガードの名が刻まれている。
真っ赤に染まる長い髪に、オレンジの瞳、美しく整った顔立ちからキレのある目つきは身に纏う全身鎧と相まって正しく高潔な騎士を体現していた。
「お忙しい中、ここまで案内して下さりありがとうございますロゼさん」
ロゼに対しお礼を述べたもう一人の女性、こちらもロゼと同様に目を見張る美人であり、髪色は間反対の深い緑色で金色の瞳、そして目立つ特徴的な横に尖った耳。
「いえ、まさか遥々父を訪ねて来て下さる人を無下にできません、それに少々意外でした父がエルフの御仁とお知り合いだとは、聞いたことがなかったゆえ」
「知り合いと言うほどではありません、きっとグレン様は覚えていらっしゃらなかったと思います、それでも一言お礼を言いたかったのです」
「ありがとうございます、父もかの空の上で喜んでくれていることでしょう」
その日初めてロゼは笑みを浮かべた、物思いにふけるように遠くを見つめる。
ロゼの心の中で父との思い出が溢れてくる、楽しかった思い出に貴族として厳しく教育を受けたのも良き思い出だ。
「グレン様は素晴らしい御仁でした、強く気高く正義心溢れる方で彼らグレン様率いる騎士団がいなければ私たちはとうにこの世を去っていたはずです、村を代表してお礼をします、私たちを救って下さりありがとうございます」
エルフの女性はロゼの心情を慮ってか、優しく語り掛け、最後は亡きグレンの墓に向け黙祷を捧げた。
「その話は父から聞いています、生前最後の自慢話でした、村を襲う邪悪なアンデッド『リッチ』討伐のことですね」
「『エルダーリッチ』です、……えっと正確には……。近隣の村々は多大な被害が出ましたが私たちの村はグレン様たちのおかげで一人の犠牲もなくすみました」
「お聞きしたいのですが、エルフの村だったのですか? 人里と聞いていたので」
「あぁっ、すみません誤解されるようなことを、その村でエルフなのは私だけです、数年ほど前から村にはお世話になっていまして」
人種問題はどの世界でも根強く残っている、大きな国だとしても主体の人種は決まっておりその種族が優先される制度がある、この西街でもそれがあるのだ村の単位ではより露骨に人種の差別があるだろう。
ロゼは人間の村にエルフの少女が一人で生活するのを想像し、その大変さを考えるも、どうやらそこまで人間関係で困ることは起きなかったと彼女は語る。
「村での生活は全てが順調であったとはいいません、それでも村の人たちは皆が優しく接してくれてなんの心配もいりませんでした、アンデッドの襲来でゴタゴタが続きましたが復旧も一段落つきまして、騎士団の方たちに改めてお礼をと思っていたのですが、……一番お礼を言いたかったお人に直接言葉を届けられないのは残念です、すみませんもっと早く来れていれば…」
「そんなことはありません、こうして訪ねて来てくださっただけでも父は報われます、最近はめっきり人が来なくなってしまったので父も寂しかったでしょうから」
「…つかぬことをお伺いしたいのですが、グレン様の死因はなんだったのでしょう?」
「……自殺です」
「……え?」
「父は...…獄中で自殺しました」
ロゼは静かに目を伏せた、出来ることなら知ってほしくはなかった、父の最後があんな形で終わってしまったことを。
しかし遥々訪ねて来てくれた方に誤魔化すような真似はロゼには出来なかった。
調べればいくらでも分かることでもあるし、後々知るくらいなら娘の自分から教えた方が誤解なく伝えられる、逆にこれでよかったとさえ思えた。
「…そうだったんですね、だから街の人は教えてくれなかったのですね」
彼女は西街に着いてグレン騎士団長の居場所を聞いて回った、騎士団長になれるのだから貴族であろうことは察しはついたが、いきなり貴族街に行くことは憚られまずは軽く情報収集と思い平民に聞いてみたところ、すでに亡くなっていることがわかった。
噂好きのおしゃべりな街の住人がグレンの死因を答えなかったのはひとえに彼の名誉を傷つけないためだとロゼは思った。
「父がリッチ討伐の後捕まって裁判にかけられたのはご存知でしょうか?」
「エルダーリッチです、…えっと、それも街の人に聞きました、ただ皆なんの罪を犯したのか答えがバラバラでよく要領を得なかったのですが…」
「そうですね、それは錯綜していたでしょう、あらぬ噂もありますが大体は真実です、汚職、横領、騎士団の不正利用、聖剣の紛失、他国のスパイ疑惑、他にも色々と罪が重なっています」
「そ、そんなに!?」
「私も父が清廉潔白とは言いません、貴族ですから汚いことの一つや二つしていたと思っています、しかしこれはあまりにも露骨に父を貶めようとする思惑が透けて見えます」
ロゼは正直のところ手を汚していない貴族はいないと考えている、そうでもしなければ自分の領土を守ることなど誰にも不可能だからだ、しかし幾らなんでもこれ程の罪を犯しているのはあり得ないだろう。
そもそも聖剣の紛失なんてものはリッチとの戦闘で呪われ朽ち果てたのだ、断じて紛失ではない。他国のスパイ疑惑も密会していたと証拠を出されたがどう見ても捏造が見られた。
当然ロゼ自身や一族総出で抗議したし、騎士たちも皆が声を上げてくれた。
しかし聞き入られることはなく、グレンの罪は確定した。
第三騎士団は一度解体され新たな騎士団長が就任のもと新しく編成し直された。
そこにロゼの名前はなく、ロゼは第五騎士団に異動となる。
第五騎士団は巡回騎士と言われる街の中を警備巡回する役割の騎士であり、第三騎士団のような直接外敵と戦闘をする花形ではない、また巡回場所も平民区の担当にされた、誰が見ても閑職に追いやられたとわかった。
普通貴族出身の騎士が第五騎士団に配属となっても平民区の担当することは稀だが、ロゼはもはや貴族ですらなくなった。
父の犯罪行為の罰則により、領土や財産を没収され、平民へと転落した。
フレイガードの名は地に落ちた。
「それは、…なんと言っていいのか、その…」
「大丈夫ですよ気遣いは無用です、全て終わってしまったことですから」
悲しそうな表情を見せるロゼ、そこにはある種の達観した者の目付きであり、もう何もかも諦め落胆しているのだろうと彼女は思った。
怒りや憎しみは湧かなかったのか、それとも出しきってしまったのだろうか。
「達観してますね、その…没落したにしては」
「そうですね、割かしどうでもよいことですので」
「ど、どうでもいいんですか!? お家無くなってるんですよね!?」
もしかして、あまり貴族の生活はロゼにとってよくなかったのかもしれない。
よくある薄暗い噂を彼女は想像した、しかしロゼはそんなことはないと言い。
「我がフレイガード家の家訓は名を惜しまず命を惜しめです。珍しいですよね普通は逆ですから」
そっと一族の墓標に手を当て続けて言う。
「自分の評価をつけるのは自分ではなく他人である、他者の付けた価値観に左右され自身の信念を曲げてはならない。他人がどう思うかで自分の行動を決定してはいけないと言うことです、小さい頃から父に口を酸っぱくして言われました。だから私は例え家が無くなろうと汚名を着せられようと私の行動原理は変わりません」
そして手を離し、弱々しく握り込む。
「父もそうだと思ってました。自分で自分の娘に家訓を教えた人間なんですよ、だから……」
ロゼは言葉につまった、続く言葉が出てこなかった。
変わりに彼女が言う。
「…だから自殺するとは思わなかった」
「…………」
「…ごめんなさい、言いすぎました」
「……いいんですその通りです。私は気づかなかった、父が汚名を着せられ冤罪で捕まって家も無くなって、どれ程の絶望だったのか。国家に尽くして来たこれまでの献身がこんな形で返ってきて、耐えられなかったのでしょうね」
ロゼとてなんとも思わなかった訳ではない、しかし恨み憎しみ絶望することはフレイガードの振る舞いではない。それは騎士ではない。
父の教えに従い、自分を律して普段通りの自分を出した。
だがグレンはそれが出来なかった、先祖からの教えに忠実で自分の子にしっかりと受け継がせることが出来ても、自分の代で家を潰して全てを失ったときに、その家訓さえも失った。
「申し訳ない、こんなつまらない話を。折角父に会いに来てくれたと言うのに、こんな最後で…」
「いえ、どのような最後であってもグレン様は変わらず私たちの英雄です」
「ありがとうございます、そう言って下さって父も報われます」
父は死んでしまった、汚名と共にその死因も広がり、もうかつての英雄として見てくれる人は少なくなってしまったが、こうして父を知るものがいてくれる、それだけでロゼは救われた気分だった。
「あのロゼさん、グレン様ともう一人の、村を救ってくれた騎士を教えてくれませんか?」
「ええ、もちろんです、騎士団は解散しましたが騎士たちとは繋がりがあります、名前はお分かりですか?」
「すみません、恐らく副団長の方と思うのですが」
「副団長はフィラックですね、この間老年で引退しました、老体の騎士は彼だけですので間違いありませんか?」
「いえ、そこまで歳は取っていないように見えました、あの時あの恐るべきエルダーリッチに立ち向かったグレン様ともう一人の騎士の方なのですが…」
「すみません、その戦いに私は参加していないもので…何か特徴はございますか?」
「黒髪の大きなメイスを持った男性でした、かなりの実力者と思いますが」
「あぁ…その方であれば恐らくマンハット殿でしょうね。彼は騎士ではありません」
「え?……騎士じゃないんですか。あっ…元騎士とか」
「いいえ、元々も騎士ではありません、彼は冒険者です」
「そうだったのですね、……すみません私てっきり騎士の方と思っていて」
「あの状況では勘違いしても仕方ないでしょう、実際父は彼をいずれ騎士にするつもりだったみたいですし、フレイガードの末席の騎士家にする話もありましたが、…全て流れてしまいました」
ロゼは思い出す、彼もまた父が捕まったとき一緒に抗議してくれたことを、あの時は頼りたくてつい甘えてしまったが、その父との距離感が近いせいで彼もまた関与を疑われた。関係のない冒険者の彼にまでペナルティが下ってしまった。
「彼にもご迷惑をかけてしまいました、あの出来事で彼のランクはAからCに降格して、婚約者とも別れることになったと聞きます」
「その方は今でも冒険者を?」
「そうですね、今でも冒険者を続けているはずです。ギルドに訪ねてみてください」
「分かりました、そういたします」
「それでは私はこれで、仕事に戻らねばなりません」
「忙しい中で時間を作ってくださりありがとうございましたロゼさん」
「いいんです、したくてしたことですから、それではまたどこかでお会いしましょうオルファスカ殿」
ロゼは別れの挨拶と共に深々と頭を下げ去っていく。その所作の一つ一つが高潔な騎士であった。
姿が見えなくなるまで見守り、完全に視界から居なくなってから重々しく口を開いた。
「ザマァみろニンゲンごときが…」
オルファスカは憎々しげに墓石を睨む。足蹴にしようと足を上げ、隣に教会があることを思いだし踏み止まる。
神官どもは油断ならない。
「フン、呪殺したかと思ったが、まさか味方に裏切られ死んでるとはどこまで愚かなのだニンゲンは」
オルファスカは思い出す、あの日我が師エルダーリッチのガルドローグ師が騎士どもに打ち倒され、最後にあの二人に呪いをかけた。
村に潜入していたオルファスカは師が皆殺しにした神官どもに変わり精霊術を使うと言って欺き呪いを隠蔽するだけで手一杯だった。
呪いが機能したか、もし失敗していたら今度こそは自らの手でと考えていて、来てみたら政戦で負けくたばっていた。いやもしかしたら師の呪いが精神に作用し、自殺に追い込んだかもしれない。であれば師の勝利だ。
あとはもう一人の騎士。いや冒険者だったか。
まさか騎士でなく冒険者ごときに師が打ち倒されていたとは。しかしそいつも勝手に落ちぶれているとはニンゲンとはどこまでも愚かなのか。
「しかしマンハットってあの時声かけてきたアイツか、クソ全然気がつかなかった」
ただの冒険者の一人と思っていた、この見た目だから変な奴に声をかけられることはよくある、そのバカの一人と思っていたが。
「と言うかあの吟遊詩人め分かっていて黙っていたな、ふざけるなよアイツ」
あのニヤケ面を思い出しただけでも腹が立ってくる、この街にくるまでも散々からかわれたのだ、あの双子がいなければ呪い殺してやったものを…。
オルファスカの人生は呪われていた、エルフとして生まれたのにもかかわらず精霊術を使えない者がどういう扱いを受けるのか、迫害に耐えられず逃げ出したところでガルドローグ師に拾われなければ死んでいただろう。
死霊術を学びようやく師に恩返しが出来ると思ったところで、その師は目の前で殺された。
分かるだろうかこの気持ちが、育ての親が、恩人が、愛する人が目の前で打ち倒されて行くのを指を加えて見ているしかなかったのを。
「マンハットだったな、殺してやる必ず」
今でも生きているなら呪いは効いていなかったのだろう、高レベルのニンゲンは耐えてしまうから、私がこの手で呪いをかけなければならない。
敵は高レベルでこちらはまだまだ発展途上、師の呪いが効果なかった相手となれば私程度の力量ではまず呪殺など出来ようはずもないが、此度ようやく見つけ出した秘宝を使う、これがあれば確実だ、しかも相手は一人に減った。
天が味方をしている、偉大なるアンデッドたる師が助力して下さっている。
「見ていて下さい師よ、彼のニンゲンに死を与えます」
◆◆◆◇◇◇
冒険者ギルドに向かうため、そそくさと墓地を立ち去る。ここは臭くてたまらない。
教会が隣接されていて気色の悪い聖属性が蔓延している、沢山の死体が埋まっているのにどれもこれも聖別されていてろくに触媒にならない。そもそも厳重な結界が施された教会で死霊術を使えば神官がすっ飛んでくるだろう。
しかしまさかまた冒険者ギルドに行くことになるとは思わなかった、付き合いで仕方なくあの時は行ったが、すぐ側に敵がいたとは。
…どんな顔をしていたか思い出せない、そもそも言われるまで思い出したこともないからパッとしない男の印象しか残っていない。
まぁ黒髪は珍しいしすぐ見つかるだろ。
ギルドに到着し取りあえずぐるりと見て回ろうと食堂に足を向けると、いた。
普通にいた、昼間からジョッキを手に持ち飲んだくれている。
何だか凄く落ちぶれていないか?
村で見たときは本当に騎士だと勘違いするくらいの立派な装いだったのに、こんな薄汚れたドブネズミみたいになって…。
本当にコイツで合っているんだよな?
「話しかけて確かめればいいか…だけど問題は……」
その後どうしたらいいかだ、人気のないところに連れ出したいが、出来れば夜に。
待つか、いずれここから出るまで。いや私の容姿は目立つ、いや既に目立っている。
誘い出すか、…よし私なら行ける、男なんてどいつもこいつも似たようなものでしょ。
「あの、すみませんマンハット様であってますか?」
声をかけると驚きながら男はこちらを振り返る。
特徴のない平凡な顔立ちをしている、あの時の奴のようなそうでないような。
ニンゲンの男はどいつも同じに見えてしまう。
「うお!びっくりした! ……君はいつぞやのエルフ! ……なんで様?」
「覚えてますか私のこと? 一年ほど前エルダーリッチを討伐された際村にいたのですが…」
「…あぁ! 覚えてるよ、あの時のコがキミだったのか!」
「オルファスカといいます、あの時のお礼が言いたくてお伺いしました。すみませんこの間は、私てっきり騎士様だと思っておりまして…」
「いやこちらも全然気がつかなかったよ、どうだいあの後村は?もう大丈夫なのか?」
「ええ、お陰さまで最近ようやく落ち着きました」
軽薄そうな男だ、間抜け面だしどうにも覇気を感じない。本当にこいつがあの時の奴か?
まだ夜になってないにも飲んでるし、どうしてここまでニンゲンは落ちぶれるんだ。
「そうか、それでグレン団長のことは?」
「はい、ついさっき会いに行きました、直接お礼を言いたかったのですが残念です」
「……しょうがねぇさ、…なにきっとあの世で楽しくやってるよ」
「そうですね私もそう思います。…改めてマンハット様、強大なアンデッドを打ち倒し、…村をお救い下さってありがとうございます」
お礼言って頭を下げた、話している途中で怒りと悲しみが涌き出てきてどうにも表情を取り繕えなかったからだ。
冷静になれ冷静になれ、私は大丈夫だ私は大丈夫だ。
「いいって~人として当然のことをしたまでよ! んでどうよオルファスカちゃん、これも何かの縁だし一杯つき合ってよ!」
「…もちろんですマンハット様、私でよければ」
「おっ!マジ? やったぜぇ美人ちゃんゲット!」
…こんな頭の軽そうな奴に我が師が討ち滅ぼされたのか、こんな馬鹿げた奴に。
我慢しろ私、今は耐えるんだ、時を見て隙を伺って油断したところを殺す。
必ず地獄を見せてやる。
しばらくの間この男のつまらない話しに付き合った。
内容のない下らない話題、興味なんて全く持てなかったが、どうにか笑顔を作り出せて話を合わせた。
もう作り笑顔に疲れた、口元引き攣りそうになる。
呪いをかけようと思えば何時でもかけられるが、こんな衆人環視のなかで呪術を使うのはあまりにリスキーだ。
しかも高レベル体に使うとなるといくら秘宝があるとはいえ、万全を期したい。
出来ればこの男もこのまま酔い潰れて弱ってくれれば尚良し。
しかし全然潰れる気配はない、酒瓶は何本か開けているのに最初とあまり変わらない。
「でさー俺は思ったわけよ、強さってのはランクじゃないんだ、ランクが上がったからってレベルも一緒に上がる訳じゃないだろう?」
「ええ、その通りですね」
「そう!ランクってのはただの表示であって、……っと、調子に乗って飲みすぎたな、オルファスカちゃんは大丈夫?酔ってない?」
「大丈夫ですよ、私まだまだマンハット様のお話聞きたいです」
「おっ、そーお? いや参ったなぁオルファスカちゃんとこんなに相性がいいなんてさぁ」
うざい。
勘違い野郎が、早く死ねよ。
さっきから距離が近くなっている、相手の息がかかるくらいに密着され肩に腕を回された。
気持ち悪い。
手の上に男の手がそっと重ねられた、ゾクッと心臓が縮こまるような悪寒がする。
気持ち悪い。
視線はずっと胸と腰回りをチラチラと集中的に行き来している。
気持ち悪い。
吐き気がする、何時になったらこの地獄は終わるのか。
「おい、オッサン! いい加減にしろよ、その子嫌がってるだろ!」
咄嗟に口元を抑えた、思わず自分が言ったのかと勘違いしてしまった。
目の前に若い男が立っていた、義憤に燃える表情をしていてマンハットに食って掛かっている。
誰だこいつは?
「あ゛あ゛! 誰だよガキ!何の用だ!!」
マンハットは手に持っていた酒瓶をテーブルに叩きつけ、凶悪な顔で睨み付ける。
美人な女と楽しく飲んでいたところを何故か悪者扱いをされたのだ一瞬で沸点が吹っ切れた。ただし実際のところそこまで間違っていない模様。
「だ、だから、その子が迷惑しているんだ…その手を離せよ酔っぱらい!」
若者は一瞬怯んだものの、意を決してマンハットへ言い返す。
……なんだろうこの状況は。
マンハットの知り合いでもなさそうで、よく分からない男が絡んできて、どちらにせよ迷惑だ。
「なんか勘違いしてるな~、俺とこの子は知り合いだ、今だって二人で楽しく飲んでるんだぁ、……な?」
「……っ…」
肩に回されてた腕を今度は腰に伸ばしてきた。指先がお尻に掠めるように触れてきて鳥肌が立つ。
手を振りほどきたくなるが何とか我慢した。
「えぇ、そうです、彼とは知り合いでして…何の問題もありません」
「う…え、えぇ、どう見ても嫌そうにしてるだろ、……脅されているのか?」
「失礼な奴だなお前! モテないからって僻んでんじゃねぇぞ、この子が自分の口でそう言ってんだ、分かったらとっとと失せな!」
若い男は渋々と言った様子で席から離れて行った。
「クソっいい気分で酔っていたのに醒めちまった、…悪いなケチがついちまって、ここはああ言うバカが多くてよ」
「いえいえマンハット様のせいではありませんから」
にこやかな笑顔を作り返事する、上手いこと笑顔になっているだろうか。
しかし良い感じで酔わせていたのに台無しだ、周りから注目を集めてしまっているし殺りづらくなってしまった。
ここは酒を飲ませるにはいいが変な奴に絡まれるのはいただけない、出来れば場所を変えたいがどうしたらよいか考えていると。
「なぁオルファスカちゃん、実は俺良い店知っているんだけど、どう? そこで二人で飲み直さない?」
「ええ、もちろんご一緒します!」
「いやダメなら別に無理には………えっ、いいの!?」
渡りに船とはこの事だ、自分から死地を作り出すとは。
そこで決める、逃がしはしない。
「行きましょうマンハット様、もっとあなたのことが知りたいです」
「おおぅ、行こう行こう、……二人っきりでな」
「……ぅ…はい」
ニチャぁっと気持ちの悪い笑顔を浮かべ、それにひきつりながら返事を返す。
移動の最中も何かとベタベタと触ってきて気持ちが悪かった。
まるで売春婦のように自分が見え、心底嫌気がさす。だがそれもすぐ終わる。
エルフは酒に強い種族だ、ドワーフが異次元過ぎてあまり知られていないが人間種に比べ遥かに耐性を持っている。
今度こそ意識がなくなるまで酔わせ、確実に呪いをかけて苦しませて殺してやる。
「マスター! いつものー!」
酒場に着き席に座って、マンハットは店の店主に注文をした。
文言通りいつも頼んでいるものなのだろう、品名を言わずとも店主は二人分のグラスを持ってくる。
ピンク色の綺麗な見た目、店の照明に照らされ反射して色とりどりに輝く。
一体何のお酒なのだろう、自分の知識にない酒だ。
マンハットが口をつけたのを見計らって、私も飲んでみる。
「あっ…美味しい」
くどい味かと思いきやスッキリした甘味に爽やかなのど越し。
今までに飲んだことのない味わいだ、どうすればこの味が出来上がるのだろう使われている原料に検討もつかない。
「美味しいでしょ、俺のおすすめなんだよ」
「はい、これ高いお酒なのでは?」
「いやいや、珍しいってだけでそこまで値は張らないよ」
気付けば全て飲み干していた。
正直私の好みの味だった、苦いだけのエールに比べれば飲みやすくていくらでも行けそうだ。
だが出来ればもっと酒精の強いものがいい。
今は酒を楽しんでいる時ではない、こいつを殺すためガバガバ飲ませなくては。
そのためにもっと度数の強い酒を注文しよう。
「マンハット様、わたしもっとちゅよぃ……?……あれぇ?」
なんだろう、呂律が回らない。
視界が回るように揺れ動いて、頭までくらくらとしてきた。
全身が暑い、汗ばんできて動悸が早くなり息が切れてくる。
今、私、何を……。
「へっへっへっ、ちょろ~」
憎たらしい男の声を最後に、意識が落ちる。
本作の「ガールズドランク」FANZAに配信している体験版を更新しました。
追加したい要素、バグの修正を行い、また三話まで遊べるようにしてあります。
詳しくは概要欄に掲載します。よろしくお願いします。
FANZAリンク_https://www.dmm.co.jp/dc/doujin/-/detail/=/cid=d_514629/