※この作品はR-18です。

ガールズ・ドランク   作:藤木・メイトリスク・五郎

13 / 16
気づけば二か月ほど間が空いてしまいました。
遅筆なおしたい……


第七話 女騎士:ロゼ(前)

 

 

 俺の目の前には怒り心頭といったご様子のギルドの冒険者、リゼルダがいた。

 イライライラと擬音が聞こえてきそうなほどに怒りの表情が隠せていない、頭に血が上っていて血管が浮き出ている。

 ピンク色をした髪まで赤く染まって逆立って見える。

 

 怖い。

 少し距離を取ろうと一歩下がったとたん。

 

 ゲシッ!

 

「いってぇ!何すんだよ!」

 

「うっせぇ!イライラしてんだよアタシは!」

 

 ただ見ていただけなのに脛を蹴りあげられた。

 ハッキリ言っておくがこれはただの八つ当たりだ。俺は何もしていない。

 女性関係でかなりの問題ごとが起きていそうだと思われているかもしれないが、それは偏見である。

 今回に限って言えば、リゼルダには一切手を出していないのだから。

 こいつはただの同じギルドの冒険者ってだけだ、しかも既婚者だしな。

 

「リゼルダさんは旦那さんに浮気されたそうなんです」

 

 近くにいた女性冒険者、シャルがそっと耳打ちをする。

 

「知ってるぜ、既に聞いたからよ、でもよー浮気つったって風俗店に行っただけだろ?騒ぎすぎじゃねぇか?」

 

「えぇ!? 本気で言ってますか先輩!!」

 

 心底信じられないと言った顔のシャル、期待していた反応と違って驚いたのと軽蔑の色が混じって見える。

 マズイ、こっちに飛び火しそうだ。

 

 何かいい訳を口にしようとする前に、リゼルダの眼光がキッと刺すように見つめた。

 

「おいマンハット、アンタさぁ…知ってたよなぁ?」

 

「はぁ?…な、なにを言って」

 

「うちの旦那が風俗店に通ってたの知っててアタシに黙ってたよなぁ?」

 

「え、そうなんですか?」

 

 リゼルダの瞳から光が消える。

 表情が抜け落ち幽鬼の如く冷たい圧力を感じる。

 同僚にここまでの殺意をぶつけるなんて、どれだけ怒ってるんだよ。

 

 厄介なのはリゼルダの懸念が当たってることだ。

 コイツの旦那ロデリックが風俗に通っていることは知っていた、以前夜に売春婦と一緒にいるのを見かけたことがあるのだ、嫁一筋の真面目な野郎だと思っていた男がまさかと思って驚いたが、結婚していようと男としてのサガからは逃れられないってことだな、俺は逆に安心したね。だから黙っていたんだ。

 わざわざリゼルダに報告する義務ないしな、俺は男の味方だぜ。

 

 しかし結構上手くやっていたと思ったが、ついにバレたか。

 俺からしたら風俗なんて金の関係でしかないんだから浮気とまで言うのは大袈裟だと思うが、女性からしたら違うんだろうな。

 どうするんだろうねこれから、ガキもまだ小さいだろうに。

 

「こっちを見ろマンハット、アタシの目を見て話せ」

 

「…………」

 

 まずはこの危機的状況をどうするかだ。

 なんでこんなに殺気だってるんだよ、怖ぇよ。

 

「目ぇそらすなこっち見ろ」

 

「先輩、ちゃんと答えて下さい」

 

 なぜか女二人に攻めたてられる、シャルは完全にリゼルダに味方しているようだ。

 

 え? これ俺が悪いの?

 俺何もしてないぞ、何もしなかっただけで怒られるのか?

 何故コイツら夫婦の痴話喧嘩に俺が巻き込まれなければならんのか。

 

 どうにか上手い言い訳を探していると、意外な救援が現れた。

 

「失礼!取り込み中のところ申し訳ない、少々よろしいでしょうか?」

 

 騎士の甲冑にそれに合わせた制服、街の巡回騎士である第五騎士団の人間だ。

 それもこの世界においても珍しい女騎士がそこにいた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「…ロゼ!? なんだよ久しいな!」

 

「はい、お久しぶりですマンハット殿。お話の最中にすみません…」

 

 誰かと思えば知り合いの騎士だった。

 父親譲りの赤い髪を腰まで伸ばし、切れのある強い意思を感じる瞳。

 ビシッと騎士制服を着こなし、絵に描いたような誠実な騎士である。

 

 ロゼとは昔からの付き合いだ。

 関係としては知り合いの娘さんでしかないので、そこまで深い間柄ではないが、この子の父親には生前よくお世話になっていた、その時に何回か顔を合わせたこともあるし一緒に仕事したこともあった。

 こうして会うのも久しい、最後に会ったのはいつだったか?

 

「いやいや!重要な話じゃないんだ、もしかして俺に用事か?聞くぜ!聞くぜ!」

 

 わざわざ俺に会いにギルドに訪れるとは一体なんの用件か検討もつかないがタイミングがいい。

 

「ええ実は折り入って頼みがありまして…」

 

 ロゼは神妙な顔をして話し始めようとするも、近くの冒険者を前にして躊躇いを見せる。

 

「チッ、覚えてろよ…」

 

 流石に騎士を前にして口論は続けられないだろうリゼルダは舌打ちを残し引き下がった。

 助かったー。

 

 残るシャルもパーティーの仲間と思われる人に声をかけられている。

 

「おーいシャルちゃん! なにしてんのー?いくよー?」

 

「あっ…………はーい……」

 

 シャルは何度か視線を俺と相手と交互に行ききし、何か言いたげな顔をするも、終ぞ何も言わず再度の呼びかけに答え立ち去った。

 

 なんだかチャラそうな仲間たちに見えたが、今度こそ上手くいくことを願う。

 

「すみませんやはり突然来て、お邪魔でしたよね」

 

「いやいや!そんなことないぞ!逆に助かったよ!」

 

「もしかして揉め事でしたか? 相談に乗りますよ」

 

「騎士が出張るほどのことじゃないよ、個人間のことだから」

 

 それも俺と関係ない他人の家庭問題だからな、リゼルダもイライラするのはわかるが他人を巻き込まないでほしい。

 

「それにしても元気そうで何よりだわ、あれからどうしてるか心配していたんだ」

 

「ご心配をおかけしました、おかげさまでこの通りなんとか騎士を続けさせて頂けております、マンハット殿には多大なご迷惑を……その、え? Cランク?マンハット殿が? ……まさかギルドから昇格出来ないよう目をつけられて?」

 

 ロゼは話している途中で俺の首からぶら下がっているギルドのCランクのエンブレムに気がついたようで、動揺を隠せない様子だ

 おそらくギルドからCランク以上に昇格出来ないように嫌がらせを受けていると勘違いしていると思われる。

 

「違う違う、これは自分で昇格を拒否してるんだ、……団長のことで俺も色々と考え方が変わってな、昇級はこれ以上しないことにした」

 

 話すと長くなるし、理解してもらおうとも思わない。ただ俺自身がそうしたいからと納得してもらった。

 

 ロゼはグレン騎士団長の娘さんである。

 昔第三騎士団とよく仕事をしていた時には交流があったが、いろいろあって第三騎士団が一度解散しツテが無くなってからは会ってはいなかった。

 俺の方では降級したりとバタバタしていたが、ロゼの方では比較にならないくらいの騒動があっただろう、何せ家が潰れたからな。その時何もしてやれなかった罪悪感から避けていたがこうして元気な姿を見れて安心した。

 

 当時から幼いながらも有望で、将来は絶対に美人になると確信していたが、たった数年で驚くほど大人びてしまったな。

 父親譲りの赤い髪をたなびかせ、どこか影のある表情は見惚れてしまうほど美しい。

 

 昔冗談でグレン団長に娘さんを嫁にくれと言ったときは、本気の殺意をぶつけられたものだ。

 過保護に溺愛していた子だったからな、世話になった恩人の娘さんだ、困っているなら出来る限り助けてやりたい。

 

「それで要件はなんだって? なにか頼みごとつったか? 依頼ではなく? まぁ内容にもよるが…」

 

「ええ、マンハット殿には心苦しいのですが、公務故ギルドを通さず直接手伝っていただきたいのです」

 

 俺はチラリと職員たちの顔色を伺う。

 特段気にもしていなさそうなのでこのまま続けるが、当然ギルドを通さず直接依頼するのは原則禁止だ。

 ちょっとくらいのやり取りなら目を瞑ってくれるが、ガッツリやってれば最悪破門を喰らう。民間のやり取りなら尚更だ。

 騎士からの仕事であれば国絡みの案件と言うのもありギルドを通すことが出来ない場合もある。

 

 まぁ大概の理由はギルドのポイントにしたくないと言うせせこましい理由だ、騎士団だけで解決しましたと言うポーズがとりたいのだろう。

 ギルドとしては非常に腹立たしいだろうが、表だって騎士に逆らうことも出来ないので暗黙している。

 ロゼはそんなことをする人間でないことは分かっているので安心だが、となるとそれ相応の内容になるだろうから逆に不安になる。

 

「実はある犯罪者の捕縛に手を貸して欲しいのです」

 

 大捕物か。

 しかも捜査の協力ではなく、捕縛に直接関わると……確かにそれはギルドを通せない。

 言ってしまえば冒険者は一般人だから捜査に協力は出来ても逮捕権がない。

 それは騎士の領分だからギルドが関われないのだ。

 

 ただそれはギルドを通さなくても同じだ。一般人には変わりないのだから、通常こんなことを頼むこと事態が異例だ。

 

 ふとロゼ以外の騎士が居ないことを怪しむ。

 普通騎士は一人で行動しないだろう。

 特に捜査中ならば尚更大がかりになっても可笑しくないのに。

 

 嫌な予感がする。

 

「犯罪者…ね」

 

 ボソリと呟くと、それに応じるようにロゼは息巻いて語る。

 

「ご存知だと思いますが、近頃世間を賑わせている卑劣な犯行の奴です!ついに拠点を見つけ出しまして!!…」

 

「まてまてまて!知らないよソレ初耳だけど…」

 

 徐々にヒートアップしていく口上を途中で止める。ご存知と言ってたが一体なんの話なのか全くついていけない。

 

 するとロゼは目を丸く見開いて驚き、嘘のように鎮静化して固まった。

 そんな驚くことか? 聞いたこともないが…。

 

 すぐにハッと何かに気づいたロゼは恥ずかしそうに目を伏せた。

 どうやらお互いの認識に齟齬があることを今更ながら分かったらしい。

 

「…いえ、そうですね、被害に会うのは女性のみですから、知らないのも無理ありません」

 

「…………ほう」

 

 ふ、ふーん、そうか……偶然かな?俺も心当たりはあるかもな。

 

「既に何人もの女性が被害に会っているのです、一刻も早くこの性犯罪者を捕まえなければなりません!急ぎで申し訳ありませんが今から向かいます!」

 

「……そうか」

 

 一体誰のことなのだろうか。

 この街にそんな性犯罪者がいるなんて、うーんさっぱり聞いたことがない。

 それにしても急だな、今からって……念入りに捜査しているのだろうか。

 

「分かってると思うが、俺が出来るのはあくまで協力のみだ。だから…もう直接聞くが何人でやるんだ?」

 

「……諸事情ありまして、私とマンハット殿の二人で遂行します」

 

「えー」

 

 おかしいだろ!本当に一人で来たってのか!?

 街の巡回じゃないんだぞ、これから犯人逮捕するってのに騎士一人と協力者一人でやるのか。

 あまりにも怪しい、何か裏があるだろ。

 

「不安に思うのも仕方ありません、ですがご安心を、マンハット殿は見張りをして出入口を塞いで頂くだけで良いのです、後は私が逮捕いたしますので!」

 

「……そうだなぁ」

 

 嫌な想像を巡らせる。

 このロゼの空回り気味の熱量。

 わざわざ俺を訪ねてきた。

 警戒しないように一人で。しかも知人。

 

 これ、次の瞬間には「お前のことだよ!」と拳が飛んできても不思議ではないぞ。

 

 冷や汗が流れ心臓の鼓動が早まる。

 

 いやまだ決まった訳じゃない、もしそうならとっくに捕まっているはず。

 と言うことは少なくとも俺の犯行と断定されていない、ロゼは探りを入れてきている!

 

「……ちなみに拠点を見つけたと言っていたが、それはどこなんだ?」

 

「マンハット殿にご協力頂きたいのはそこです、銀の杯亭です。奴はそこにいます!」

 

 よし、逃げよう。

 

 もう罠だろこれ、俺を捕まえるためにやってんだろ。

 わざわざ犯行現場まで行って自白させるのつもりか?趣味悪いぜ。

 

「マンハット殿はそこで寝泊まりしていると聞きました、現地を知る冒険者がいるのは心強い、是非ともご同行して頂きたい!」

 

「…………分かった、いいぜ……それでソイツは何をしたんだ? 性犯罪と言ってたが、具体的にはなんだよ?」

 

 少しでも時間を稼ごう。

 何とかこの状況を打開できる糸口を見つけるんだ。

 

「口で言うのも憚れる所業ですが、実は…」

 

「ロゼ!」

 

 突然会話に割って入ってくる男が現れた。ロゼと同じ騎士の装束、第五騎士団の人間だ。

 やっぱり仲間がいたか、一人と言って油断させて少しずつ騎士を増やしていく手法だろう。

 時間を稼いで逃げる隙をうかがいたいが、時間が立てば仲間が増えて逃げられなくなる。

 本当に不味いぞ。

 

「ガイウス!何故ここに!?」

 

「それはこっちのセリフだ!一人で行動するなとあれほど言っただろう!」

 

「仕方ないだろう……それに一人ではない信頼できる協力者と一緒だ」

 

「協力者? ……一人増やしただけじゃないか、危険すぎる! 少し待ってくれオレが何とかする!」

 

「これ以上は待てない、次の被害者を生むわけにはいかない、……ガイウスお前は仕事に戻れ」

 

「仕事はマグノスに押し付けて来た、……あぁクソっ!強情な奴め! ……オレも一緒に行く!」

 

 ガイウスと呼ばれた騎士、背丈が高く分厚い筋肉に覆われた熊のような体つき、一瞬獣人族かと見まがうほどの体躯をしているが普通の人族のようだ。

 みたところかなり強いだろうな、大きな盾を持っていることからおそらく騎士のクラスとガード系のスキルを予想する。

 ロゼも衛生騎士のクラスとしてかなり練度が高い、二人を同時に相手するのは骨が折れるだろうな。

 

 突然の出来事に置いてけぼりを喰らっているうちに話がまとまったようで、同行者が一人増えてしまった。

 

「初めまして私はガイウスと申します、ロゼと同じく第五騎士団の所属です。マンハット殿のお噂はかねがね聞き及んでおりますよ」

 

「ああ、マンハットだよろしく。騎士達がする噂って気になるね、嫌なことじゃなきゃいいが…」

 

 俺の噂ってなんだろうか、飲酒レイプの犯人として指名手配でもされてたか?

 

「良い方の噂ですよ、前第三騎士団の活躍にはマンハット殿の名前が必ずと言っていいほど載ってましたからね、特に凶悪なリッチを打倒した話は有名ですよ!」

 

「そ、そうか、そっちの話だったか、いやー恥ずかしいな」

 

 なかなか泳がしてくるじゃないか。

 しかしコイツら演技がうまいな、なんと言うか自然体で予定調和を感じさせない感じだ。

 俺だけテンパって冷や汗かいて恥ずかしいよ。

 見るからに怪しいだろうに「緊張しないで下さい」と優しく声をかけてくる。

 いっそすぐに捕まえてくる動きを見せてくれれば腹をくくって逃げ出すのに………。

 

 そのままなんだかんだ話しつつ気がつけば、もう酒場の前だ。

 移動中、他にも騎士が何人か周囲にいるだろうにいくら気配を探っても見つけられなかった、よほどの手練れを寄越しているのか、俺程度の人間を捕まえるためにそれは過剰だろうに。

 

 どうしよう、今からでも逃げ出すべきか。

 

「申し訳ない…マンハット殿もお忙しいでしょうが、我々に手を貸して下さい」

 

「ああ…うん、まぁ、ここまで来たしやるけど」

 

「不安ですか? 冒険者は普段人を相手にしないでしょうから仕方ありません。ですがご安心を危険な相手ではありません、ただ逃げられると少々厄介ですので包囲だけはお願いします」

 

「それはいいんだが…包囲するには三人じゃ足りないだろ、もっと人数連れて来るべきなのでは?」

 

「おっしゃる通りです、ですが…その、……諸事情により我々しかいないのです」

 

 他にも隠れている騎士がいるだろうに頑なに少人数アピールをするロゼたち。

 もっと近くで囲えばいいものを、それをしないのは俺が行動に移すのを待っているからだろうか。

 隙をついて逃げ出した俺を捕まえるために、あえてここには自分達しかいないと思わせている、その理由はなんだろうか。

 

「ハッ!」

 

「…どうされました?」

 

「い、いや何でもない…」

 

 まさかと思うが証拠がないからすぐに捕まえられないのでは?

 犯人は分かっているが証拠がないのでは逮捕出来ない、だから家宅捜査して証拠を押さえる、もしくは俺が怪しい行動をしたのを理由に捕まえて、後で証拠を揃える。

 

 そういうことなんじゃないか?

 

 だとするとまだ助かる!

 ヤリ部屋は掃除したばかりだし、自室には何も置いてない、誤魔化しきれる…はず。

 

 一抹の不安を胸に酒場に入る。

 

「店主、我々はこれから家宅捜査に入ります」

 

「ええ、先にも伝えた通り二階が貸家となっております、ご自由にどうぞ」

 

 店主のリィロには話が通っていてスムーズに騎士達を二階へと導く。

 騎士の後に続いて入った俺を一目見て。

 

「マンハット……お前」

 

 冷たい目で此方を見つめ、ボソリと呟く。

 こいつとうとう捕まるのか、そう言いたげな表情をしている。

 

 ふざけるなよっ…もし捕まるならお前がしてきた犯罪の数々もぶちまけてやるからな、死ねばもろともだ。

 

「…………」

 

 看板娘のミャロに関しては汚い物を見るような目付きで見てくる。

 こんなことならコイツも犯しておくんだった。

 

 二人の針を差すような視線を背にして二階へ上がる。

 緊張で冷や汗が止まらない、手汗が滲んで拭っても取れない。

 本当にいざとなればコイツらを倒して、外にいるだろうに騎士達を振り払い逃走しなければならない。そうなったら指名手配されるだろうからそこからは惨めな人生になるだろう。

 

「ここがマンハット殿の借りている部屋でしたね?」

 

 何気なく、本当に何の気もないと言った風で、扉の前に立ち止まりロゼは訪ねる。

 

「……ああ、そうだ…です」

 

「…?……マンハット殿!そう緊張なさらず、強大なアンデッドさえ打ち倒された貴殿であればこの程度のこと造作もないはず、さあ行きましょう!」

 

「…はい、わかりました…」

 

 気分はもう死刑台に送られる罪人だ。

 こんなことならもっと楽しんでおけばよかった。

 

 祈るような気持ちでロゼを見る。

 すると彼女は自室の扉に背を向け部屋を通りすぎて奥に進んだ。

 

 …………?

 

 何をしているんだ?どこに行く?

 

 そしてロゼは一つ隣の部屋の前に陣取った。

 謎の行動に訳が分からなくなる、当然だがそこは俺とは何の関係もない住人の部屋だ。

 

「では行きます、マンハット殿は入り口を押さえていて下さい。もし万が一犯人がそちらに逃げ込むようであれば捕えて下さい」

 

 ロゼは一方的にそう言った後、店主から預かっていた鍵で扉を開け蹴破る勢いで室内に飛び込んだ。

 それを、その後のことも俺は呆然と見守った。

 

「第五騎士団だ! 貴様を猥褻罪と住居侵入罪、及び窃盗の容疑で!?……た、逮捕する!」

 

 部屋へと踏み込んだロゼが見た光景は室内一面に女性物の下着類が散乱していてその中に一人佇む中年男性の姿だった。

 あまりにもの光景に体が硬直し絶句したロゼだが、すぐに気を取り戻し男を取り押さえる。

 

「ひぃぃ! …だ、誰ですかあなた! ぼ、ぼくに一体何の罪があるって言うんですか!?」

 

「黙れ変態が! この状況で言い逃れが出来ると思うなよ!!」

 

 男は手に持った下着を振り回して暴れるが、ロゼに素早く沈静化された。

 戦闘能力は皆無の一般人だった模様。

 醜い豚のごとき醜態を晒し地面に転がされている。

 

「違う!違う違う違うぅうう!これはもらって、いや借りたんだっ!後でちゃんと返そうと…」

 

「言い訳は詰め所で聞く」

 

 なおも豚は聞くに耐えない言い訳をいつまでも言い続け、哀れにさえ思えなくなった。

 

「ロ、ロゼ、…こいつは?」

 

「こいつこそが今巷を騒がせている下着泥棒の変態です、睨んだ通りここが拠点になってました。証拠品も数えきれないくらいにあります、大手柄ですよマンハット殿!」

 

「へ、へぇ~、下着泥棒ね、そっちかー…うん、そっかそっか」

 

 俺じゃなかったのか。

 

 完全に勘違いしていた。

 まさか隣にあんな変態趣味の奴が住んでいたなんて、店主もヤバければ住人もキチガイとはな……引っ越そうかな。

 

「…そっち?とは? 他に何か?」

 

「あーいや、何でもない、何でもないんだ」

 

 訝しむロゼを何とか誤魔化して、一人深いため息を吐く。

 力がどっと抜け身体が重くなったような気分だ。

 何もしていないのに滅茶苦茶疲れた。

 

 その後応援に駆けつけた騎士達が犯人を連行していく。

 その時のやり取りに今のロゼの事情が垣間見えた。

 

「へー…ロゼ、アンタ本当に捕まえたんだ」

 

「ああ、予想した通りの場所だった。あの証言は正しかった」

 

 相手はロゼと同じく女騎士だ珍しい、そう思って二人の話を盗み聞きしているとどうやら仲のいい関係ではなさそうだ。

 相手はどこかロゼを見下したような発言がみられる。

 ロゼは無表情に受け答え、近くにいたガイウスはグッと拳を握り混みそのやり取りを見守っている。

 

「なに嫌み? 今さらポイント高めて名誉回復ってわけ?」

 

「そんなつもりはない、私は街の平穏のため尽力したに過ぎない」

 

「ふーん、そう…まぁいいけど、せいぜい頑張んなさい」

 

 言いたいことを言ってその女騎士は他の騎士とともに犯人を連行していった。

 ロゼよりもガイウスが辛そうな表情をしていたのが印象に残った。

 

「ご協力感謝しますマンハット殿、助かりました」

 

「いや、俺はつっ立ってただけだから……しかしまさか隣にあんな変態が住んでいたなんて…」

 

 気がつかなかったな…俺も部屋を見たがロゼと同じく絶句したぞ。

 本当に酷い有り様だった、女性の下着類に埋もれている室内にむせ返るイカ臭い匂い。ロゼは突入したが俺は扉の前に立つのさえ躊躇ったぞ。

 

「心中御察しします。ですがお陰さまでこれで街に住まう女性たちも安心して夜を過ごせるでしょう」

 

「ああ…そうだな、巨悪を退治したんだよな」

 

 しかしよくよく考えるとロゼやガイウスの発言や行動は何も俺を捕まえるようなものではなかった。

 勝手に勘違いして一人相撲していただけだった。ロゼたちは演技などしていなく本当に二人だけで捜査していたたのか、スネに傷があるとどうにも余計な勘繰りをしてしまうものなんだな。

 

「マンハット殿、此度はロゼに協力して頂きありがとうございます!」

 

 騎士ガイウスは深々と頭を下げる。

 少々面食らった。騎士と言うものは正直なところ傲慢な性格をしている連中が多い。

 貴族出身が多いからか、あからさまに見下して来る連中の多いこと、平民出の騎士はそんなことないが。

 体格から見た目まで貴族として育ちましたと言った風貌のコイツは、どうやら珍しくマトモな騎士らしい。

 

「止めろガイウス…私が恥ずかしくなるだろ…」

 

 そんなガイウスを見て顔を赤めながら制止するロゼ。

 

 それを見て、あれ? と思う。

 

 この二人の距離感、雰囲気から親しくも親密な関係値まで構築していないラブコメの波動を感じる。

 オッサンを前にして二人だけの世界に入りそうな勢いだ。

 

 ダメだこれ以上若い男女の青春を見ていられない、砂糖を吐き出しそうだ。

 

「まぁ、無事に解決出来たからそれでいいだろ、んで、そもそも何でこんな少人数なんだ? 最初なんてロゼ一人だったしよ、応援に来た騎士達からして人手が足りてない訳でもなさそうだし…」

 

 幾つか勘違いは勝手に引き起こしていたがこれだけは以前疑問のままだ。

 結局犯人は戦闘能力も逃走能力さえない弱者だったからロゼ一人で確保するのに問題なかったが、その後の処理も含めて初手騎士二人だけとはどう考えても異常だ。

 犯人がいることは分かっていたのだから最初から人数集めて行くべきだった、冒険者なんぞに協力要請する必要もなく自分達だけで解決出来た訳だし。

 一体なぜこのような面倒くさい方法をロゼは選んだのか。

 

「それは……」

 

 最初に口を開いたのはガイウスだった、当然事情は知っているんだろう。

 苦々しい表情に加え言葉は続かない、思ったよりセンシティブな話題なようだ。

 そんなガイウス代わりロゼ本人が先を口にした。

 

「そうですね……マンハット殿この後時間ありますか? ささやかながら打ち上げをしましょう」

 

「まぁもともと暇だったしな」

 

「ちょうどここ酒場ですし、飲みながらお話しします。ガイウスも来てくれ君にも聞いてもらいたいんだ」

 

 

 




本作の「ガールズドランク」をゲームにしたものをFANZAに配信しています。
まだ体験版ですが三話まで遊べます、よろしければ。
詳しくは概要欄に掲載します。よろしくお願いします。
FANZAリンク_https://www.dmm.co.jp/dc/doujin/-/detail/=/cid=d_514629/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。