ある日の昼下がりに今日も俺はギルドにやってきた。
金は生きているだけで消耗する、それなりにあった蓄えも底が見えてきた。
危機感が出る前に動けという話だが、その日暮らしの冒険者に染まった今の俺には無理だ。
周りもそんな奴らばっかだしな。
その後のレオとエミリーだが、たまにギルドで見かける。
レオは調子がいいのか新品の剣を持って様々な依頼を受けているようだ。
男になったからな(本人の勘違いだが)モチベーションが高いのだろう、前みたいに無茶なことはせず自分の実力に見合った戦い方で依頼をこなしているようだ。
次いでエミリーの方はというと、俺の姿を見るなり一瞬ビクッと身体を硬直させる、その後軽い会釈をするとそそくさと立ち去ってしまう。
もしかしてこれは多少の記憶が残っているのかもしれない。
まぁレオの手前何も出来ないだろう。
それを使って脅すつもりも今のところないから安心してレオと活動を続けて欲しい。
まぁ女に困ったら使うがな(ゲス顔)
ギルドに入り何か依頼を確認しようとした矢先またもシンディアからお呼ばれした。
最近多くないか、すごい便利に使われている気がする。
冒険者の使い方としては間違っていないがなんだかなぁ。
シンディアのいる受付の近くではもう一人女性がいた。
見覚えはある、しかし何回か顔を合わせた程度でしかない、同じギルドの冒険者だというのは分かるが話したことはなかった。
「いいとこにいらっしゃいましたマンハットさん、ちょーとお願いしたいことあるんですよ」
「やっぱりか、シンディアの頼みならそりゃ断る訳にもいかんが」
何となく弱腰になる、となりの女性は無関係ではないだろう。
ただの仕事にはなりそうな感じではない。
その女性はずっと顔をしかめている。
こちらの姿を見てとても嫌そうな表情をし、シンディアに確認を取る。
「ねぇ、シンディア…この人?」
「シオンさん、今の状況分かってますよね、これ以上選り好みしていたらもう後がありませんよ」
シンディアに言われ俯きながら唸る女性。
なんの話かは知らないが、女性二人に陰口を叩かれているみたいな感じにするのやめてほしい。
「…なんだよ」
「すみませんマンハットさん、この人、シオンさんは男性全般が苦手なのです、マンハットさんだけに対してではありませんので」
「それは……なんとなく見てればわかる、で、俺に頼みってのはなんなんだよ」
「はい、ご説明しますね」
シオンと呼ばれた女性は、パーティーで定期依頼を受けていた。
定期依頼は特定の個人やパーティーと契約して定期的に同じ依頼をする制度だ。
本人たちの実力と安定性があれば毎月決まった依頼をこなし安定した収入を得ることが出来る、依頼者も毎回別の人物に依頼する必要がなく信頼できる人が依頼をこなしてくれるので安定の達成率を収められる。
シオン達、『緑の紡ぎ手』は魔の森たる『ドゥラの森』(俺がこの間シャルと一緒に討伐依頼に行ったところ)で定期依頼アビスの花の採取をしていた。
アビスの花は魔力の深い森に生える特別な花、高い効能を宿していてハイポーションの原材料の一つでもあり、貴重な品種で高値で取引されている。
珍しい植物なので定期的に取ってくるのはかなり困難ではあるが、それを達成できる彼女ら『緑の紡ぎ手』は優れたパーティーであるらしい。
しかし今回の採取では納品数まで取ってくることが出来なかった。
「残念だな、まぁこの失敗を糧にして次頑張って…」
「まだ失敗ではありません! ……納品日時には猶予があります」
「…ええ、まぁ、そうですね、納品日は明日ですから」
「明日!?」
明日までに広大な魔の森からアビスの花を見つけてくる、……無理じゃん。
「いくら何でも無理だろ、なんで俺を呼んだよ、俺力仕事しか出来ないぞ」
「場所はわかってる……取ってくるのが出来なかっただけ」
「彼女たちはアビスの花を見つけてはいたのです、しかし魔物に襲われて持って帰ってくることが出来なかっただけですので」
なるほど、今から新たに探してくるのは不可能に近いが、既に場所は判明してるならそこに行くだけでいい。
ただしそこには魔物がいて取ってくることが出来ない。
「その魔物は一体なんだ?」
「トレントです」
「……トレント…」
植物系の魔物の一種とされているが、植物に擬態している魔物で、生態はゴーレムに近いそうだ。
ドゥラの森ではあまり見ない魔物だ、俺も戦ったことがない。
そもそも擬態が上手い魔物で一見本物の木と見分けがつかないため居たとしても気づいていない可能性もある。
そんな魔物がよりによってアビスの花が直接生えているそうだ。
アビスの花が寄生植物というのは知っているが、厳密には植物ではないトレントに生えるのか…。
シオン達『緑の紡ぎ手』はトレントに気がつかず採取を行おうとして至近距離からの奇襲にあった。
突然の奇襲に彼女たちはなす術もなくシオン以外のパーティーは怪我を負い現在教会で治療中。
「倒すだけなら私たちでも出来た…、でもアビスの花を傷つける訳にはいかない…」
「そりゃそうだな」
魔物の身体に依頼品がくっついているのが最大の問題だ。
倒すだけなら火力のある魔法使いや、破壊力のある前衛がスキルを叩き込めばそれだけでいい。
ゴーレム種と同じく、いやそれ以上に足は遅いらしい。
木と同じく文字通り根っこのような足なのだとか。
だが高火力の攻撃で倒すとなるとアビスの花ごと消し飛ぶことになる。
シオン達が負傷した理由もそれであるらしい、戦おうにもうまく攻撃できず、奇襲されたこともあって引き際を誤ってしまった。
現在動けるのはシオンのみ、一人で再度挑むのは無謀であるので緊急で仲間を募集しているのが今の現状。
「マンハットさん、どうでしょうシオンさんと一緒に行ってくれませんか?」
シンディアの言葉に俺は顔をしかめた。
正直言ってものすごく面倒くさい。
シオンは黒髪黒目でショートヘア、スレンダーな体付きで武器からして弓兵だと思われる。
顔付きは整っており美少女と言っていいだろう、胸は控えめだが体全体を見ると綺麗な流曲線でとても魅力的だ。
いつもならこんな美少女と一緒に依頼を受けられるなら飛び付いて行くが。
「…………っ…!」
先程からすげぇ嫌悪感剥き出しで睨んでくるんだよ。
お前とは行きたくないと表情から語りかけてくる。
こんな女と一緒に行くのは流石に御免こうむるぞ。
「…シオンさん先程も言いましたけどもう…」
「わかってる!…わかってるから…」
いや、そんな光景見せられてこっちが嫌になるんだが…。
他に適任はいないのか?
「なぁ俺じゃなくてもいいんじゃないか? 双子はどうしてる、妹の方が確か聖導師のクラスだったろ、今回の件ならうってつけの人間じゃないか」
「彼女たちは今長期の依頼でこの街にいない、…それに仲間の治療費もあるからAランクの冒険者に出せる報酬金は用意できない」
他の冒険者に擦り付けようと思ったがすぐに躓く。
高額は出せないとなるとマジで限られるな、誰か居ないのか?
「リゼルダ! ちょうど良いところに! こいつならどうだ同性だし強いぞ!」
偶々隣にいた女冒険者に声をかける、確かBランクだったはずだ、金は何とか足りるのでは。
「話ならもう聞いてるよ、悪いけどアタシは無理、ウチのチビが熱だして寝込んでんだ、今は旦那が面倒見てるけどこれからアタシも向かうんだよ」
リゼルダは夫婦で冒険者をしていて、小さな子供がいる家庭もちだ。
冒険者同士で結婚するのは珍しくないが子供もいるのに二人とも現役なのはあまりいない。
こっちにも断られ辺りを見回すが都合のよさそうな奴は見つからない。
「マンハット…さん、…お願いします…助けてください」
シオンはそう言って頭を下げた。
声色から渋々言ってるのが伝わるが、これが彼女の限界なのだろう。
シンディアも頭を下げてお願いしてくる。
……断れなかった。
◆◆◆◇◇◇
お互い自己紹介をし直し森に向けて出発した。
二人とも軽装だが1日で行って帰ってくるだけなら冒険者はいつでも準備が出来ている。
「何で後ろ歩くんだよ、前行って道案内してくれよ」
「う、後ろからでも案内できます! わ…私は後衛だからこのポジションが最適なんですよ!」
こちらを信用できないのか、後ろに立たれるのを嫌がる。
矢を向けて来ないだけでもよしとするか。
「しかし何でお前達のパーティーに前衛がいないんだよ、そら全滅するわ」
目的地に到着するまで詳しい話を聞いてみると、驚くことに彼女達のパーティーには前衛を務める剣士職系のクラスはいないというのがわかった。
全員が魔法職か、弓などの遠距離専門の人員だったのだ。
「わ、私たちは女性だけで構成されたパーティーで、だからどうしても片寄りが出てしまって、…過去には前衛も在籍していたみたいだけど」
冒険者のパーティーは仲の良い人間同士で組むから、場合によっては彼女らのように後衛だけになったり、逆に前衛だけになったりするパーティーがいる。
それが悪いという訳じゃないが、俺の経験上長くは続かないと思う。
今回みたいに咄嗟の状況が発生した場合容易く崩れてしまうのだ。
ふと後輩のシャルを思い出した。
今頃Cランクに上がっているのであればこのパーティーが合うのではないだろうか。
もし機会があれば話してみよう。
「こ、ここです、着きました」
シオンの言葉に足を止める。
森の深く、薄暗く嫌に湿気っている。
木はそこらじゅうに生えていてどれがトレントか見分けがつかない。
「…どれがトレントだよ」
「アレですマンハット、アレだけ周りの木々より浮いているでしょう」
よく見てみると周りの植物が枯れていて、その木だけがポツンと佇んでいるように見える。
本物の木にしか見えないが、アレが木に擬態する魔物トレント。
「アビスの花が…咲いてるな、アレを傷つけずに倒すのは骨が折れそうだぞ」
「慎重にお願いしますよ、私は後ろから援護に徹しますので」
雪のように純白と称される花弁が木の胴の部分に咲いている。
寄生植物らしくトレントの養分を吸い取っているのだろうか、トレント自身がアビスの花を排除しないのは寄生されるのにメリットがあるからか、それとも排除させないように操っているからか。
普通のトレントとは別種と考えていいのだろうか、いやそもそも普通のトレントさえ知らないが。
見れば見るほどただの木にしか見えない、どうやって攻撃してくるんだ?
分からないことだらけでどうやって戦えばいいのだろう、ぜんぜん決まらん。
うーん、まぁ、いいか。
悩むのをやめ、自然体で歩む。
力みを無くし、魔力を高める。
いつでもメイスを叩き込める構えだ。
「き、気を付けてください、近づくと動きます、結構速いですよ」
「おう!」
もちろん気を付けるとも初見の魔物だからな。
しかしこちらの出来ることは限られている、ならやることはいつもと変わらない。
こういう時は自分の強みをどれだけ相手に押し付け圧倒するかで勝ち負けが決まる。
俺の人生哲学、困ったらゴリ押しだ。
あと一歩の距離で武器の有効範囲まで近づいた。
その時踏み込んだ地面から木の根が飛び出し足に絡みついた。
「おっ!?」
罠か。
木の根はがっしりと足に張り付き地面に固定される。
枝が騒めいたと感じたら、しなるように動き出し、四方から襲い掛かって来た。
トレントはこのような戦い方をするのか、知らなかった。
「調子にのるな」
だが罠など関係ない。
身体強化で無理矢理抜け出し、メイスを豪快に振り回し迎撃する。
襲い掛かってきた枝を粉砕した。
軽い手応えだな。スキルで上乗せして攻撃力が上がっているのもあるが、そもそもそこまで硬い枝でもない。
四方八方から襲い掛かってくるのは厄介だが、言ってしまえばそれくらいしか脅威にならない。
このまま枝を刈り取っていけば、文字通り腕のない抵抗力の失った生き物になるのだろうか。
胴体に咲く花に気を付けながら攻撃を繰り出す、あまりにも強く打ち過ぎると衝撃波で花にダメージが行きそうなので手加減をする。
少々もどかしい、評判通りそこまで強くはないが手こずる。
ある程度枝を打ち払っていると、地面が盛り上がり根が突き出てきた。
こちらは枝と違って速さはなく脅威がない、罠として使うものを苦し紛れに出してきたか。
確実に追い詰めている。
あと数手で勝てるな。
「ひっ…きゃああ!」
背後から悲鳴。
シオンのもとにも根が襲いかかっていた、あんな離れた位置にも届くのか。
助けに向かうかと横目で様子をうかがう。
どうやら心配はいらなそうだった、慌ててはいるもののシオンの放つ矢がトレントの根を的確に穿つ。
十分戦えている、掩護射撃は期待できそうにないが、敵の手数が分散されただけでも助かる。
このまますぐに力尽きるだろう。
そう思った矢先、後方から強い魔力の収縮を感じた。
何かのスキルか、シオンの構える矢に異常な魔力が集まる。
木の根を相手取るには明らかに過剰な威力を含めてそうなそれは、矢の先端がこちらを向いていた。
斜角はトレントを捕らえているが、同時に直線上に俺が重なっている。
シオンの表情は、恐怖と焦りに支配され、どうみても冷静ではない。
「おい! ちょっとまっ…」
「いやぁぁぁああ!」
こちらの制止を振り切り、矢は放たれた。
魔力が視認できるほどの光を伴って、流星のように尾を引き向かってくる。
走馬灯のように様々な考えが頭を次々とよぎった。
この威力、直撃すれば大怪我じゃすまない。
今から回避できるか、出来たとしてトレントに当たればアビスの花ごと爆散するのでは?
だからと言ってこれを防御するのは無理!
「うぉおおおおお!!」
迎撃を選択。
とっさにメイスを薙ぎ払い、打ち込んで来た矢に当てる。
メイスを振った先に矢が飛んできたのは奇跡だった。
長年の経験とカンで成し遂げられたと言っていい。
矢はメイスに衝突した勢いで軌道はそれ、そのままトレントの上部を抉り取った。
思わず武器を手放しそうになる威力、どれだけ魔力を込めたのか、ビリビリと腕が痺れる。
腕の痛みを振り切って体勢を整えトレントの様子を伺う。
頭? トレントに頭があるのかわからないが、上部の枝や葉は殆どが消し飛んでいた。
倒れることもなく、普通の木のようにその場で立ち尽くしピクリとも動かずトレントは沈黙した。
この手の生き物は本当に死んだかどうか分かりにくい。
暫し様子を見て、トレントから生えてた僅かに残る枝や根が力を失ったように地面に横たわっていくのを確認する。
完全に沈黙したのを見て静かに武器を納めた。
「おい! お前っ俺ごと殺す気だったのか!?」
戦闘が終わると怒りがわいてくる。
今の攻撃は確実に味方ごと敵を殺して来ている、俺でなければ死んでいたんじゃないか?
「ち、違います、…気が動転して、その、つい…」
「…ついぃぃ?、ついで普通味方を射貫くか?なぁ?」
「すみません、…本当にわざとじゃなくて、こんなにも長く男の人と一緒にいたから、ずっと気を張ってて…」
「…お前、何でもそれで通ると思ってんじゃ…」
「あっ! 花は! アビスは無事ですか!?」
シオンは話を強引に打ち切り、倒れたトレントに向かう。
いい性格だなこの女。
「良かった、半分くらい無事ですよ」
「半分は消し飛んでるぞ」
意外とアビスの花は多く咲いていたみたいで、シオンもこれならギリギリ納品数に届くと満足している。
しかし貴重な素材が多く失われた、全て無事だったらどれだけの金額になったことか。
「…シオン…お前わかってるよな」
「…報酬には色を付けて渡します」
「当たり前だ!」
◆◆◆◇◇◇
ギルドに報告が済み無事納品され報酬は支払われた。
シオンも一安心したのか力が抜けへなへなとその場に座り込む。
「あぁ…何とかなりました、仲間にも良い報告が出来て、本当に一時はどうなることかと……」
「…よかったな」
シオンとは逆に俺の気分は下がる一方だ。
苦労した割に見返りが少ない、最近こんなんばっかだぞ。
「何ですか、報酬は色を付けて渡しましたよ!」
「ほんのちょびっとだけどな…」
「し、仕方ないでしょう、あれでも限界ですよ!」
「お前が半分消し飛ばしたからだな、花を全部回収できてれば報酬はもっとあった」
「うっ…それは…」
シオンも自分が悪いと思っているのだろう、強がってはいるが申し訳なさそうに報酬金を渡してきた姿が記憶に新しい。
だからと言って殺されかけたことが無かったことにはならない。
報酬も多くないし、他で支払ってもらわんとな。
「…何ですか、じゃあどうすればいいんですか! 本当にこれ以上はないですよ!」
開き直ったように今度は当たり散らす、何でこんな女のために今日は苦労してしまったんだ。
こんな醜態を見ていると女に対する優しくしてやろうという気持ちが失せてくる。
もう遠慮はいらないよな。
「そうだな……腹が減ったし今日の晩飯でも奢ってもらおうか」
「…………ま、まぁそれくらいならいいですよ、でもそれで貸し借り無しですからね!いいですね!」
「…いいだろう」
いいわけねぇだろ! お前は今夜体でたっぷり支払うんだよ!!
本作の『ガールズ・ドランク』をゲームにして遊べるよう製作中です。
体験版をFanzaでだしました、詳しくは活動報告をご覧下さい。