しとしとと雨が降っている。
空は灰色の雲に覆われ、窓のそとは薄暗い景観だ。
この街は大きな川が側にあるため、雨などがあれば増水を警戒しなくてはならない。
といっても増水の体制は出来上がっている、流石にそこは街の建設時に考えているみたいで、増水処理施設が機能するため土砂降りでも基本的には平気らしい、国中にかかっている橋もどれもが頑丈に作られているからあまり影響は感じない。
俺自身も経験したことはないし、増水で大変な事態になったことはそこまで街の歴史上多くはないそうだ。
今日のようなちょっとした雨であれば、心なしか水量が増えている気がするなぁ、とそんな程度だ。
この世界でも雨程度は人々の活動にそこまでの影響はない。
しかし冒険者連中にとって天候不慮はかなりの悪影響だ。
一体誰が視界も悪く足場も悪い、魔の森に踏み込んでいくというのか。
もちろん雨天時にしか出来ないこともあるだろうし、魔の森以外の場所での仕事をすればいいだけだが。
基本冒険者は外仕事の肉体労働だからな、誰もやりたがらない。
ゆえに多くの冒険者どもは雨の日は仕事をしない。
しかし仕事をしない冒険者は暇を持て余している、そいつらは自然とギルドに集まって来る。
何だかんだ言って俺自身もその一人だが、今日のギルドに集まっている人数はいつもより多かった。
「久しいわね、マンハット!」
「久しぶり…マンハット」
ギルドの門をくぐり、人の密集地帯を避けて進んでいると二人の女性に声をかけられた。
「メルメア、メルメイ、帰って来ていたのか」
若い女性の双子、気の強い勝ち気な表情な姉のメルメアと、常に冷静で眠たげな目をした妹のメルメイ。
どちらも目を張る美人だ、顔立ちはそっくりで、姉は金髪で長い髪、妹は銀髪で肩くらいまで、正直髪くらいしか二人の違いはわからない。
「教会には顔を出したか?」
「もちろんよ、真っ先に行ったわ! 神父様がまだまだ元気そうだったし、新人の子がいたのはビックリしたわ、前から神父様も高齢を気にして人手を増やしたがっていたから少し安心ね!」
「…孤児院の子供たちも元気そうだった、王都からお土産を持ってきたの皆喜んでくれた…」
冒険者の中には知らない者も多いが、彼女たちは孤児院出身の冒険者だ。
教会で育てられ戦い方を習ったその実力は高い、教会騎士に通ずる攻防一体の戦闘スタイルで回復魔法や支援魔法も修めている。
ギルドから彼女たちがAランクの称号を与えられているのも納得の評価だ。
「そんなことより! 王都でセラスに会ったわ、聞いていると思うけどあの子Sランクになったのよ」
「ああ、……聞いてるよ、そうらしいな……自分のコトのように誇らしいよ」
「そうじゃなくて!!」
メルメアは感情を露にして詰め寄ってくる、俺の言い分が気にくわないみたいだ。
彼女の言いたいことはわかる、だが俺としてはそこはもうどうでもいいことだ、色々と俺の中で区切りが着いたこと、さっき言ったことも苦し紛れじゃない本心だ。
しかし、そうか王都に行っていたのであれば会う機会もあるか、セラスの名声はこの街にも届いているが知り合いから聞くと信憑性があるな。
別に信じていなかった訳じゃない、あの子は昔から凄かった、でも俺の記憶の中ではまだまだ子供のままなのだ。
「…マンハットはもうランクを上げようとはしないの?」
「おう、俺はこれでいい」
「……そっか、ならいい」
メルメイは素直に納得した、こいつの性格上上位ランクになることの面倒ささをわかってるからな。
ここの連中はランクを上げることが絶対正義だと思っているからわざとランクを上げずにその位置に留まっていることが理解できていないのだ、そう言う俺も昔はCランクに留まってダラダラ生きてる冒険者を見下していた、転生した身で今度こそ限りある人生をやり直す、それこそが生き甲斐だったわけだ。
でも一度痛い目を見て自分自身を振り返って見ると、何でそこまで頑張っていたのかわからなくなった。
権限もあれば同時に責任も発生する上位ランクにいるよりCランク程度でのんびり仕事するのが性に合っていたんだ。
「ちょっと!よくないでしょ! マンハットは教え子に抜かされて何とも思わないわけ!」
「んー特には、あいつはいずれ大成するだろうと思ってたし」
教え子と言うのは少々大袈裟に思えるな、確かに最初の頃は戦い方を教えたこともあったが一を教えると十を実行する子だったからすぐに教えることがなくなった、天才とはああ言うのを言うんだとしみじみ思ったぜ。
そして今ではSランクだからな史上最年少だった筈だ、凄すぎて逆に引くわ。
「…マンハット自身がそう言っている、だから無理強いはよくない…」
「そうだけど! いつまでもうじうじしてるのを見てると腹立ってくるのよ!」
平常な妹とは対照的に姉のメルメアは語尾が強くイライラした様子だ。
どうも彼女からは俺がCランクにいるのが燻っていると見えるらしい、単純に楽なだけなんだが、まぁ昔の俺を知ってるとそう見えてもおかしくない。
「私は、……次のSランクになるのはアンタだと思ってたわ」
「それは……買いかぶり過ぎだろ」
驚いた、そんな風に思っていたのか。
「…ええ、そうみたいね」
メルメアはそう呟いた、少し沈黙が続いてその場の気まずさに耐えかねられない様子で、無言で立ち去った。
妹を残して勝手に行っちまったがこの後どうすんだ。
と思ったが姉と違い妹の方はマイペースにそのまま会話を続けた、姉を追わなくていいのか。
「…メルメアは意外とマンハットのこと尊敬してたから」
「意外とってなんだよ、普通に尊敬しとけ」
これでも歴だけは長いんだ、先輩として面倒見てやったのはコイツらを含めて結構いるが全く敬意を持たれている感じがしない。
でも少しは尊敬していただの言われると恥ずかしいな、コイツ自身はどうなのかと思い聞いてみると。
「んー、…どうだろ……でも私も次のSランクはマンハットだと思ってた」
「ええぇ、お前らもAランクなんだから分かると思うが、Sランクに上がるのはマジでイカれた強者のみだ、俺程度じゃそこに到達するには実力が足りん」
「そうかも…昔はわからなかったけど今ならマンハットと私たちの実力の差は見えてきたし、その上でSランクの壁も見えてきた、……それでもマンハットはそこに行けると思えるの、……だからメルメアはそうしなかったアナタに思うところがあるんだよ」
「……代わりにセレスがSランクになってくれたろ、俺はそれで十分だ、……ところでメルメアを追わなくていいのか?」
「…もう子供じゃない、すぐ冷静になるはず、……それに私あの詩を聴いておきたいから」
メルメイは視線を前方のステージに向けた。
ギルドの一室に冒険者だけじゃなく一般人も押し寄せる、今日が雨天だとしても普段では見慣れない光景だ。
皆の視線が集まる先に一人の女性がいる、奇抜な格好をして弦楽器のリュートを持ち静かに佇んでいる。
髪色は黒と緑の二色が入り交じった色彩で、この世界基準でも珍しい色合いだ。
居なくはないがそうそうお目にかかれない、地毛かどうか判断出来ないな、彼女ら吟遊詩人は派手好きだから染めている可能性もある。
しかし吟遊詩人による詩の演奏か、正直前世の世界を知っている身からするとこの世界の音楽は物足りないんだよな、俺自身の思い込みもあるだろうが無意識に前世の音楽と比べて下に見てしまうから聴いてて心動かされることがない。
まぁ雨も降ってるし、他にやることもないから聴いていくか。
皆の注目が集まる中、彼女はリュートを挨拶代わりに撫でるように音を鳴らした後演奏を始めた。
それはこの国の人ならば誰もが一度は聞いたことのある英雄譚、数ある詩の中でも一番人気のあると言っていいものだ。
大剣を掲げし不屈の英雄
大嵐のごとく駆ける彼の刃
剛雷のごときその一撃
巨人も竜も屈したる
燃ゆる大地も恐れぬ魂
人々の希望を背に負いて
彼の名を皆が口にし
歌えこの地に生きる誇り
不敗の心を我らが主に誓う
人類最強 希望の英雄
『『ゼルディオン』』
演奏が終わると彼方此方から拍手に歓声が上がる。
生きる伝説、英雄ゼルディオンを讃える詩、冒険者の中でも皆が憧れ止まない英雄だ。
何時もは歓声とは無縁のギルドの食堂が、争いや下世話な声以外の音が鳴り響くのは新鮮だ。
人気の詩と言うのもあるが皆娯楽に飢えている、音楽を聴くにも誰かに演奏して貰わなければいけないこの世界では、吟遊詩人の奏でる詩はプロの音楽家が演奏するミュージカルと言える、ここにいる誰もがこの詩を聞き入り熱狂している。
ただ俺だけが周りに比べ一歩盛り上がりに欠けている、前世の日本を知るものとして音楽は日常にありふれていた、ジャンルも多くて何時でも聴けた。
今ではそれが出来なくなった反面吟遊詩人なんかが演奏する詩は俺としても十分な娯楽になるし楽しめるが周りの人間に比べるといまいち温度差を感じる。
「やっぱ英雄譚だよなぁ、何時聞いてもいいぜ」
「この詩を聞いてギルドに入った奴どんだけいるんだろうな?」
周りの称賛の声を聴きつつ、素直に楽しめない自分に辟易としながら。
流されるように自分も感想を語る、メルメイにはそんな思いを隠しつつ。
「良かったな、これ聴かないでいるのはちょっと勿体ないぜ」
「…この詩じゃない」
「ん?」
「…次の詩、彼女の新しい詩なんだけどマンハットもよく聴いてて」
「なんだよ訳ありげに、……と言うとアレだな、メルメイはあの吟遊詩人の詩を既に知っているなぁ」
「…そう、彼女たちと一緒に帰ってきた」
「彼女たち?」
メルメイの指差す方向に一人明らかに周りから浮いている雰囲気の女性がいる。
周りの人間は一定の距離をおいて遠巻きにチラチラと様子を伺っている。
近寄りがたい雰囲気ではない、見た目は親しみやすそうではある、だがあの特徴は。
「エルフだ…」
儚げな浮世離れした顔立ち、濃い緑の髪、そして尖るように突き出た耳。
間違いなくエルフだ。
珍しい、久しぶりに見た。
獣人ならこの街にもいるが、エルフは少なくとも西街東街双方とも住んでいるとは聞いたことがない。王都ならもしかしたらいるかもしれないが。
排他的な種族と言うのもあるが、そもそも数が少ないのだ。
長命なのが災いしてなのか、人間みたいにぼこぼこ子供を増やさない。
前世の世界なら絶滅危惧種に指定されてもおかしくないぞ。
「何故この街に?」
「…さあ? 探し物があるって言ってたかな?……そんなことより次が始まる」
話を引き戻された、コイツ自分で気になる話題を振っておいて…。
メルメイはかなりマイペースと言うか、他人に合わせようとしない所がある。
こっちはもうエルフが気になりすぎて詩どころじゃねぇよ。
美人な女エルフとか眉唾ものだろ、どうにかお近づきになれないだろうか。
不埒なことを考えている脇で次の演奏が始まった、何でも今王都で一番勢いがあって流行っている新しい詩だそうだ。
エルフを視界に入れつつ詩に耳を傾ける。
詩に集中なんて出来ないと思ったが、なぜか始まった途端その音に引き込まれ、気づけば聞き入ってしまった。
瞳に宿る、烈火の勇気
闇夜を照らす、白銀の雷
研ぎ澄まされた剣を振るい
竜の咆哮を切り開く
天地を燃やす竜の炎
羽ばたく嵐、爪折り牙砕き
その一振りが天雷を召し
ついに巨竜は打倒される
今宵、祝えこの輝かしい栄光を
銀の乙女、新たな英傑の誕生
『『セラス』』
「こ、これ…は……」
「…驚いた? これセラスを謳った詩だよ、すごいよね、…なんだか遠くに行っちゃた感じ」
「ああ…………そうだな」
セラス……お前、やったな。
吟遊詩人に詩われるれるほどの偉業を成し遂げたのか。
Sランクになるとはそういうことと分かっていたが今ここでそれを実感したよ。
俺では到達できなかったところにお前は行けたんだ、本当にすごいよ。
「…マンハット…泣いてる?」
「泣いてねぇよ、……えっ、泣いてないよな」
慌てて目元を手で押さえる、よかった泣いてない。
目頭が熱くなったのは事実だからびっくりした、オッサンになって人前で泣き顔を晒すのは流石に恥ずかしいぞ、しかも詩を聞いて感動して泣くなんて絶対に見られたくない。
「泣きそうではあった、先に言ってくれよ不意打ち食らったぞ…」
「…びっくりするかなって……、いいサプライズになったでしょ」
「驚きすぎて言葉が出ねぇよ」
詩にここまで心を震わせられたのは初めてだ、いつもなら一歩引いた目線でいるため、いまいち周りの人達の熱量が合わなかったが、今ようやく同じ気分に浸れたように思える。
皆こんな気持ちで聴いていたのか、そら熱狂する人間も出てくるな、俺人身も今の詩をもう一度聞きたいし、新しい詩でも出来れば何が何でも駆けつけたくなる。
「…ふーん、なんだか安心した」
「ん? 何がだよ?」
「…これで嫉妬に満ちた表情でもされたらどうしようかと思った」
「…………今さら後悔はねぇよ、俺はこれでいいって言ってんだろ」
「…うん、残念だけどそうみたいだから、……じゃ私行くね、詩も聞いたしメルメア探さないと」
メルメイはそう言いたいことだけ言って立ち去った、残された俺はその場の興奮冷めやらぬ雰囲気に流され少しだけその空気感に浸った。
演奏はこれで終了らしく、吟遊詩人は舞台上から降りていた。
未だに熱狂の冷めない観客を上手いことあしらっている最中だ。さっと演奏を止めて降りたのは良い判断だと思う、隙あらば彼らは永遠に演奏を要求してくるからな、なぁなぁで続けるとマジでずっと食い止められるぞ。
俺はメルメイの先ほどの会話を反芻する。
後悔がない訳じゃない、ただもしあの時自分がもっと強かったら、もしSランクのネームバリューがあれば、あの時あんなことにならなかったんじゃないかって、どうしても思ってしまう。
本当に、女々しい自分が嫌になる。
「やぁ、こんにちはボクの演奏はどうだったかな?」
中性的で澄んだ声が聞こえた。
掻き乱れた思考を中和するような耳に残る声色で、すっと耳に届いて不快感なく聞き惚れる。
なるほど声を仕事にしているだけのことはある。
そう、先ほど演奏していた吟遊詩人が目の前に立っていた。
近づいて来ているのはわかっていたが、まさか話しかけて来るとは思ってもみなく言葉を返すのに反応が遅れる。
「……あ、あぁ、素晴らしい演奏だったよ、とても感動した、…王都で流行りの詩というのも納得だ」
「…んー、ごめん、実はまだ流行りとまではいかないかな、あれはボクが作った詩だからね、王都でも演奏してたんだけど彼女の故郷でどうしても演奏したくて」
彼女は恥ずかしそうに語る、吟遊詩人の職業上大袈裟な口上をついしてしまったらしい。
また聞くところによると、王都での演奏をそこそこに詩の題材人の出身地に身一つで訪れたと言うのだ、この世界基準で言えばかなりの行動力と言える、特に女性一人での行動は危険だからな。
普通の人間は生まれ育った地から離れて暮らすことは珍しい、冒険者や商人ともなればそんなこともないが、吟遊詩人みたく一つの拠点を持たず転々と練り歩く生活をしている人種は少数派だ。
彼女がいつまでこの西街にいるのか知らないが、詩を聴けてよかった。
俺にとって詩はそこまで強い関心ごとじゃないのでな、気が乗らずに聴かないでそれまでだった可能性もある、そうなったら後悔どころじゃなかったな。
「そうなのか、いやぁ実はセラスとはちょっとした知り合いでな、あの子が主題の詩を聴けるとは思わなくて、ありがとうな」
「フフッ、どういたしまして、でもちょっとした知り合いと言うのは語弊があるんじゃないかい?」
「ん? どう言うことだ?」
「あなたマンハットさん、でしょ? セラスからあなたのことは良く聞いてるよ」
「ん!? ……そうかセラスとは王都で実際に会っているのか、なんか恥ずかしいな、あーそうだ俺がマンハットだ、Cランクの冒険者をしているよろしく」
「ボクはマーシャルッタ、吟遊詩人だよ」
マーシャルッタと名乗った彼女は実際に王都で本人に会い、直接話を聞いて詩を作り上げたそうだ。
考えて見れば自分で作った詩と言っていたのだから、本人に直接会って詩を作曲したと考えられたな。プロ意識の高い吟遊詩人ほどそこら辺のこだわりは強そうだしな。
マーシャルッタはじっとこちらを見つめる。
どこか探られているような目つきだ。
「うーん、セラスから聞いていた話とは違うなぁ」
「……あの子俺のこと何て言ってたよ」
嫌な予感がする、一体何の話をしたのだろうか。
「自分をここまで育ててくれた恩師だって、貴方のお陰でここまで強くなれた、全て貴方のお陰だって言っていたよ」
「えぇ……、本当かそれ、冗句だろ」
正直驚きと言うより呆れてしまった。
なぜなら彼女がまだ西街にいた頃までは同じようなことを言っていたからだ。
実は彼女はメルメイ達と同じく孤児院出身の冒険者だ、あの双子と違って信仰系の職が合わず剣士の道に進んだ。
その時彼女に戦いかたを教えたのが俺だった。
だが何度も言うように最初だけだ、剣だけならまだしも魔法を使うようになった彼女にアドバイスなんて出来ない、さっさと一人立ちさせて王都に旅立たせた。
そして気がついた頃には俺より強くなっていたんだからな、これで俺が育てただなんて言えないだろう。
「セラスが恩を感じて大袈裟に言っているだけだよ、俺はこの通り大したことのない人間だ」
「そうかな、…本当にそうなのかい?」
「ん?」
マーシャルッタはニヤつく顔をしている、新しい獲物を見つけたと言わんばかりの楽しそうな表情をして、からかうように言葉を発する。
「あなたのことは少し調べたよ、元Aランク何だってね、どうして今Cランクにいるのか知らないけど、フフフッ…気になるなぁ、実力を隠してわざわざ低ランクで何をしているんだろうねぇ」
「あーいや、隠してる訳じゃない、なんか誤解してるな」
言い訳じみたこちらの言い方が悪かったのか、どんどんとマーシャルッタの目付きは疑り深くなっていく。
これは本当に隠していることじゃないんだ、どこでその情報を手に入れたのかわからないが。
俺のことは結構皆に知れ渡っている、それこそ新人でない限り事情を知らない人はいないんじゃあないだろうか、特に隠していることでもないし調べれば簡単にわかることだ。
そしてガッカリするだろう、本当に大したことのない内容に。
少なくとも吟遊詩人が喜びそうな物語にはならない。
「ふーん、他にも第三騎士団に所属していたってのも聞いたけど」
「所属はしていないぞ、冒険者として外部協力者でいたことはあったが」
「そうなのかい? でもグレン騎士団長の右腕とも呼ばれていたらしいじゃないか」
「周りがそう囃し立てていただけだ、実際はいいように使われていたのを勘違いされたんだよ」
なかなかに下調べしているな、そこまで知っていながらどうして確信部分を踏まなかったのか。
いや、わかる、誰も言いたくないだけだ、楽しい話でもないし、過去を蒸し返すようなことをしてお役人に目をつけられると思うだろうし。
と言っても喋るやつは喋る、酒が入っていたり、少し小銭でも握らせれば喜んで話すはずだ。
結局はその程度の昔話だ。
「まぁいいさ、今はそれでね…」
明らかに納得していないだろう様子で、そして続け様に。
「ボクは今夜は銀の盃亭にお邪魔する予定でさ、マンハットさんはそこに泊まっているらしいね、よかったらまた演奏を聴きに来てよ」
それだけを言うとマーシャルッタは立ち去った。
ギルドの食堂はいつもの騒がしい野郎共の日常に戻っていた。
聞き慣れた騒音に今日は随分と親しみを覚えて、自分がどこか浮わついた上機嫌であることを自覚する。
夜もまたあの詩を聴けるのか。
マーシャルッタ、独特な女だったな、言ってしまえば吟遊詩人らしい雰囲気と言えるか。
夜にまた会うのが楽しみだ。
そう言えばとこの一室にエルフがいたことを思い出した。
あの演奏を聴くまでは気になって仕方なかった存在が今の今まで忘れていた。
まだいるかと視線を巡らすと、居心地悪そうに佇んでいるのを発見する。
周りの人間は遠巻きに見ているだけだ、何時もは積極的に絡んでいってはうざがられるチャラい奴らも二の足を踏んでいる。
情けない奴らだ、ちょっと珍しい人種が現れただけで萎縮して行動できないとは、ここは一つダンディーな魅力溢れる俺様がいっちょ手本見せてやるか、ガキどもは俺がお持ち帰りしてるのを指を咥えて見ているんだな。
「ようっねぇちゃん! さっきの良い演奏だったな! 実はあの詩に出てくる子と俺知り合いなんだよね、よかったらどうよ、酒場で色々と話してやるぜ!」
「…………」
エルフの彼女はこちらを一瞥すると、すぐに視線を戻しそのまま去っていってしまった。
あれー?
Fanzaで体験版をだしている本作のゲームですが。
バグや設定ミスがありましたので、第六話の更新とともにそちらも更新する予定です。
詳しくは概要欄を確認下さい。