カルマ、ウーシア共にサンドリヨン化済み。
「君は、あの男に利用されてる自覚があるか?」
眼鏡をかけ直しながらウーシアさんは言った。
照明の反射のせいで目元が見えなくなる。
「彼の君に対する行為はグルーミングだ。承認欲求をくすぐり、支配下に置くやり方だよ」
彼女がレンズの向こうに隠した感情は何だろう?
そもそも、この言葉も忠告ではなさそうだ。
「君の研究はノイズの組織拡大に多大な貢献をした。いや、戦略の方向を変えたと言ってもいい」
彼女が軽く腕組みしてこちらを伺う。
何だか、苛立っているようにも感じる。
「もちろん横の連携は大切なことだ。彼はスタンドプレーに走るきらいがあるからね」
「わかります」
そう相槌を打った瞬間、ウーシアさんから表情が消えた。
すぐにまたいつもの余裕のある微笑を浮かべたけれど、今の対応が彼女の気に障ったのは間違いない。
「あの男は危険だ。君も薄々は気付いてるだろう?彼はノイズを自分の野望の実現に利用しているだけで、祖神への忠誠心など持ってはいまい」
(はい、知ってます)
先生に直接打ち明けられましたから。
「祖神が器を手に入れた今、我々ノイズ構成員も次のステージに進むことになる」
「はい」
「その新たな世界にあの男は選ばれないだろう。祖神はそれほど鷹揚な方ではないからね」
脚を組み直しながらウーシアさんは断言した。
その言葉は、不敬ではないですか?
貴女も先生のことを悪く言えないと思いますよ。
「君も彼と少し距離を置くといい。これまでの功績を無駄にしたくはないだろう?」
冷めた紅茶を飲み干して、ウーシアさんが薄く笑う。
その目は笑っていなかったけれど。
「ウーシアがそんなことを言ったのか」
やれやれといった感じで先生は頭を振った。
「最近抱いてやってないからお前に妬いてるんだろう。気にするな」
「はい、先生」
私を見てるようで、どこか遠くを見ている瞳。
きっとウーシアさんにも、他の誰かにも、同じことを囁いてるんだろう。
「カルマ、私にはお前が必要だ」
先生の、耳元をくすぐる低い声。
背中に回した腕に力がこもる。
(先生はズルい)
私がこの言葉を欲しがっているのを知っている。
知っているのに他の人との関係を隠さない。
それでも私はこの人から離れられない。
「祖神が世界を創ったのなら、その創造の根本にも機序があるはずだ」
ゆっくり動きながら先生が語る。
まるで授業でもするような口調で。
「はい、先生……」
歯を食いしばって意識を保つ。
先生の言葉をひとつも聞き漏らさないように。
「絶望の輪廻の向こう側、世界が始まるさらに前、神の失った禁断の知識が」
「……はい、先生……」
「レベルⅥクラスの力では足りないかもしれん。やはり祖神が器に6体のレベルⅥを集めた時が狙い目か」
「……せん、せい……」
先生の動きが早くなる。
「生命と魂の意味、時間と空間のメカニズム。世界の全ての真理が……!」
「あっ!」
下腹部が熱を受けとめる。
心地よい痺れが広がっていく。
「サンドリヨンが人との間に子供を宿したら、それはサンドリヨンになるんだろうか?」
身体を起こしながら先生が呟く。
「魂が輪廻するように、肉体も男女の営みから新しく産まれ落ちてくる。そこにも何か目的があるはずだ」
「はい……先生……」
「お前かウーシア、どちらが先に私にその意味を教えてくれるだろうな」
それは私で実験するということですか?
先生が望むなら、私は構いません。