世界が分断された後、ルゼ/サタナと邂逅済み。
「貴女が引き籠もってる間に世界は変わったんですよ」
少し先を行くサタナさんが楽しそうに笑う。
「このヘルレルムも、主様が望んだらすぐに反転してしまうでしょうね」
「……サタナさんはそれでいいんですか?」
踊るようにくるくる回っていた彼女が動きを止めてこちらに振り向く。
「私は大悪魔ですから。主様の望むことが全てですよ」
どこか悪意を感じる笑顔だ。
「でも、貴女は違いますよね?」
先生を負の輪廻から連れ戻すためには世界が反転してしまうと困る。
だから急がないと。
「大丈夫ですよ。今なら実験体はいくらでも手に入るんですから」
いつの間にか背後に回り込んだサタナさんが私の肩を抱きしめてくる。
「貴方は何も心配しなくていいんです」
そうだ、今は一体でも多くサンドリヨンを造らないといけない。
そのうちラストレガリアになれる被検体も出てきてくれるだろう。
「ラストレガリアが手に入ったら、負の輪廻を巡ってあの男を探しましょう」
ルゼさんの協力も取り付けてある。
先生の時よりも生還率は高くなるはず。
「ほら、あの子なんかどうですか?」
彼女が指差した先。
道端にボロボロの子供が横たわっている。
「あのまま放っておいたら死んじゃいますね。とりあえず拐いましょうか」
大悪魔が優しく囁いた。
「声、聞こえますか?」
私の問いかけに女の子が薄く目を開けた。
浮浪児だろうか、まだ幼さが残っている。
「もう、ずっと船が入ってきてませんからね。一家離散するところも出てきてるんでしょう」
サタナさんが呟く。
この常夜の国ではろくに作物が育たない。
他国との貿易ができなければ、いずれ貧しい者から飢えて死んでいくだろう。
「研究に協力してくれる人を探してます。食事と寝床くらいしか提供できませんけど、それでも良ければ一緒に来ませんか」
女の子が小さく頷く。
もう話す力もないようだ。
「わざわざ律儀ですね。拐って手術してしまっても構わないでしょうに」
「自分の意思で選ぶことが大事なんですよ」
死にたくない、まだやりたいことがある、という強い望みがないと絶望に飲まれてスパイラルに転生してしまう。
本来なら研究者のようにエゴの塊を実験体にするのが望ましいけれど、今はとにかく数が欲しい。
「まずは手術に耐えられるように体力を戻さないといけませんね」
女の子の細い身体を抱き上げる。
「お母さん……」
弱々しい吐息と一緒に零れた言葉。
その言葉が私の胸の奥の何かを刺した。
「どうしました?」
「……いえ、何でも」
先生を負の輪廻から連れ戻す。
私の望みは、ただそれだけ。
(それでも)
もし、私にも誰かを救うことができるのなら。
先生が私に居場所をくれたように、私も誰かに居場所を与えてあげられるのなら。
(反転した後の世界でも人として生きていけるように)
一人でも多くの人に適合手術を施してあげなければ。