ウィンターが絶望の輪廻の管理者になってしばらく経ってから。
「久しぶりだなウィンター。いや、新たな『絶望の輪廻』と呼んだ方がいいか?」
「……イーロン」
「あからさまに嫌そうな顔をするな。魂一つひとつと対話するんじゃなかったのか」
そう言ってイーロンは笑った。
生前の皮肉な笑みと違い、満ち足りたような清々しい笑みだ。
「お前に聞いて欲しい悩みがあるとも思えないけどな」
ウィンターも表情を崩す。
お互いもう争う必要がないからか、旧友と語るような雰囲気が漂う。
「その子は?」
イーロンの後ろから顔を半分出して、小さな女の子がウィンターを覗いている。
「カルマだ」
「カルマ?どうしてそんな小さくなってるんだ?」
イーロンがカルマの背中を押してウィンターの前に出す。
「私を絶望の海から引き戻す際に肉体と魂を差し出したからな。ここに居るのはその残りだ」
恥ずかしいのか、カルマはすぐにイーロンの背後に引っ込んでしまった。
「生前の記憶は何も残っていない」
「そうか」
人としての倫理の欠陥に苦しんでいたカルマ。
記憶を失ったのなら、生まれ変わったのと同じようなものだろう。
「それでも私のことは微かに覚えているのか、いつの間にか付いてきていてな」
頭を撫でられたカルマが笑う。
その屈託ない笑顔に、ウィンター達と戦った時の面影はどこにもない。
「そうしてると親子みたいだな」
「一度はカルマに産んで貰ったようなものだがな。おかしな話だ」
目を細めるイーロンの表情は父親のそれに見えた。
「生まれ変わった先でも一緒になれるかどうかオレにも保証できないけど……」
「いや、私はこの世界を去る」
ウィンターの言葉を遮ってイーロンが話し出す。
「正と負の感情史を遡ることで原初の記憶を覗くことができた。もちろん全てではないがな」
「原初の記憶?」
負の感情史に自由にアクセスできるウィンターにも、そんな記憶は覚えがなかった。
イオナが管理する正の輪廻の方に保管されているのだろうか。
「この世界を取り巻く宇宙の記憶と言った方がいいか。祖神は宇宙の片隅に自分の世界を作ったに過ぎん」
「そうなのか?」
「宇宙は広大だぞ」
イーロンによると、宇宙には神一柱ごとにこの世界と同じような世界が存在するらしい。
この世界から解脱した魂達も、自分の理想に近い世界に転生していったそうだ。
「宇宙の真理を解き明かせば私も新しい神になれる」
「神になってどうするんだ?」
「決まっている。宇宙の全てを究明するのだ」
さも当然のようにイーロンは言った。
「研究する時間も研究対象も無限にある。退屈する暇はないだろうな」
「……お前らしいよ」
原初のスパイラルが長い時間の中で情熱を失っていったように、いつかウィンターにも魂との対話に熱を失う時が来るだろう。
その未来を幻視したウィンターには、新たな希望に燃えるイーロンが眩しく見えた。
「それではな。行くぞカルマ」
イーロンの後ろからカルマが手を振る。
「私が神になった時、まだこの世界が救われていなければ手を貸してやろう」
「ああ、頼む」
世界の狭間からイーロンとカルマが抜け出していく。
それを見送って、ウィンターは呟いた。
「56億7000万年先の未来でまた会おう」