※この作品はR-18です。

藤原妹紅の疵になりたい   作:もこたんぽん

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 両の手で、少女のか細い首筋をギリギリと締め上げる――。

 

「がぁっ――かっ、――ぁ"かっ―」

 

血が通わなくなって、少女の顔はみるみる内に青白く変わってゆく。

明確な、生命の危機だ。

酸素を求めた口がパクパクと開閉して、目からは大粒の涙が溢出ていた。

 

しかし――目の前の少女が見せるのは、そんな生理的反応だけだった。

 

 ろくな抵抗もせず。ただ、なすがまま。

僕の手で自身の生命を終わらせる時を、ただ待っている。

 

終わることの無い、自身の死を。

 

「――――ぅぐ、が…」

 

 少女の焦点が定まらなくなり、ゴポゴポと変な音を立てて口の端から吐瀉物と唾液の混合した液体が泡立って溢れ、防衛反射で起こっていた微かな身動ぎすらも失われていく。

 

それでも手を緩めずに――僕は首に体重をかけ続けた。

 

 

「……――――」

 

 

 そうして――少女、藤原妹紅は。死んだ。

 

 

 

 

■

■■

■■■

 

 

 

 

「まぁ、5点ってところだな」

 

 

 数分後――炎と共に黄泉がえりを果たした藤原妹紅は、何事も無かったかのように僕にそう言ってきた。

 

自らを殺した存在に、臆面もなくそう宣う振る舞いは――正しく彼女が理外の存在である事を示している。

 

しかしまぁ――これで通算数十回目の殺害ともなれば、この慣れきった反応も分かろうものだ。

その点において、僕から彼女への畏怖的な感情は無い。

 

「今回の内訳を聞いてもいいですか?」

 

「苦しいっちゃ苦しいよ。そりゃ窒息は。

 でもそんだけじゃなぁ。

 もっとこう――首の骨を折ったり面の皮を剥がしたり……そういう事をしなくちゃ、明日にはもう忘れてんぞ」

 

「流石に早すぎませんか? 日常の一場面じゃないんですから」

 

「……最近は割とそうじゃね? うーん。

 あ! 妖怪に丸呑みされて糞んなってひり出された時は、流石にしばらく引き摺ったぞ!

ありゃ大体……20年前ぐらい、だったかな……?」

 

「く、糞って……その領域でやっと20年かぁ。

 もっと色々な工夫が必要そうだなぁ」

 

「…………なぁ、諦めろって。無理だよお前には」

 

「諦めませんよ」

 

 彼女の目を見て、言う。

無理でも無茶でも、もう決めたのだ。

 

「僕は――あなたの疵になってみせます。

 あなたをずっと幸せにしてあげることは無理だけど、孤独の傍らに残るささやかな疵なら、きっと何とかなるかもしれません」

 

「…………そうかい。よくわかんねーけどさ。

 まぁ、期待せずに待っとくぜ。坊ちゃん」

 

「はい!」

 

 

 

 僕が藤原妹紅に拾われてから――この歪な関係性が出来上がるまで、どのくらいだっただろうか。

 

ともあれ――関係性の方は、割かし最近の事ではある。

 

半年ほど前だろうか。その場の思い付きというか、閃きというか。考え無しという訳ではないけれど、行き当たりばったりではあった。

 

今の所、そこまで具体性が伴っていないけれども。

しかし少なからず――方向性は間違ってないと思う。

 

 

 ―――僕が4つの頃に人攫いの憂き目に遭って、そうして辿り着いた蔵の中で彼女と出会って。

 

今思えば彼女ほどの力の持ち主が人攫いに抵抗できない筈もないから、きっと気紛れに、暇つぶし感覚で攫われていたんだろう。

そして、そこから僕を救い出したのだって――きっと気紛れだったに違いない。

 

僕を連れ出して家族の元まで送り届けようとしてくれたのも、僕の家族がとっくに賊の餌食になり骸と成り果てて、そこから寄る辺のない僕を保護して育て上げるという決定をした事も――彼女の終わりのない生命における、束の間の気紛れに過ぎないのだ。

 

 不老不死。彼女は無敵でも最強でもないけれど、取り分けて生命の頑強さでは他の追随を許さない物があった。

何があっても。何をしても。

老いず、死なず、若々しい見た目のまま、仮にその生命が散った所で直ぐに炎と共に黄泉返ってしまうのだ。

 

本人はそこらへん「過去のしっぺ返し」等と苦々しい顔で笑うだけであったけども、どんな罪科があったとしても行き過ぎた生き地獄だろう。

なにせ文字通り、死ねないのだから。

 

功罪を見極めるという閻魔様が本当にいるのなら、

彼女に課せられた業は間違いなく背負わせすぎだ。

縁があれば僕が直接、文句を言ってやりたい。

 

 だから僕は――考えたのだ。

僕は、彼女に疵を残したい。

拾ってくれて、育ててくれた恩返しに。

 

彼女の永い永い生命の慰めになるような。

傍らに寄り添っていられるような。そんな疵を。

 

 いやいや。坊ちゃん。恩返しと言うなら、幸福な時間だとか、満たされるようなひと時だとか。

そういう、甘い思い出を作ってあげなさいな。

事情を聞かされた優しい人には、こういう事を言われてしまうかもしれないし、実際僕もそう思って動いた事もあったのだけれど。

 

――――しかし彼女、ひどく忘れっぽいのだ。

 

いや実際。それは最早健忘症の域に達する程の事で――半刻ほど前に談笑していた事柄を痴呆の老人の如く再び繰り返したり、或いはその事柄自体が無かったことになっていたり。

 

そしてそれは――どうやら彼女にとって幸福であったり、満ち足りたような事であればある程、なのだ。

 

僕はこれを不老不死故の副作用なのではないか、と疑ったりもしたのだけれど――恐らくは彼女の心理的な防御反応である事に、とある時点で気がついた。

 

だって、彼女が幸福そうな時は、いつも他の誰かといる時なのだ。――彼女が忘れる物事は、いつも他人との関わり合いなのだ。

誰かのとの離別。それが彼女にとって特別の苦痛になるから、彼女はさっさと忘れてしまうんだと思う。

 

何遍も何遍もそれを繰り返している内に、そういう習慣が彼女に根ずいてる様だった。

 

いつか僕の事を独り立ちの出来る大人になったと判断してから、別れを済ませた後――彼女は大いに悲しみ、そして半年もすれば脳裏に僕はいないんじゃないかとすら思う。

それ程に彼女は人が愛おしく、故に別れを特別に悲しむから、なるだけ関わる人間を忘れるのだ。

 

 

 あぁ、ああ、ここで別に、勘違いをして欲しくない。

 

 

僕が彼女に忘れられたくなくて、わざと苦しませて――あるいは彼女に嫌われて、僕という人間を彼女の心に残すという手法を取っている訳では無い。

むしろ僕は、ただ彼女の心安らかな安寧を願うだけなのだ。

 

 まぁ。実際、苦しみだとか痛みだとかの記憶が、彼女に比較的残りやすい――そういう兆候は、ある。

 

彼女は案外みみっちいところもあって、嫌な奴の目録をしたためて、当人が忘れた頃にこっそりと仕返しをしている……という事を本人からも聞いた。

しかも僕はその兆候を利用して「疵」をつけようともしてはいる。

 

だから僕の行動を――疵を残すという意味を、そういう事なのだと邪推されてもおかしくはないのだけど、僕のそれはもう少し違うのだ。

 

 僕個人への執着は別段、無くてもいいのだ。

純粋に――彼女の身体や心根に「疵」という変質を加えて、彼女が歩まなくてはならない永久に続く回廊の、そのお供にして欲しい……そういう心胆なのだ。

 

それが僕である必要はなくて―――彼女の永遠性故の孤独に一石を投じたいという、ただそれだけの事なのだ。

 

人恋しい彼女が寂しくないように、いつか孤独で涙を流しそうになった時に、ふと自分以外の何者かがそこに在ったのだと気が付けるように。

そういうことを、したいのだ。

 

 そんな決意の元――僕は彼女への疵を残すという試みをはじめたのだけども。

――話が最初に戻るが、具体性が定まっていない。

 

なにせ。もう既に様々な方法で彼女を殺害しているのだが――当の本人はケロッとしている。

 

心理的な疵の付け方は分からないから、当座の間は身体的な所からとりあえずは責めてはいる。

しかしこれが矢張り上手くいかず――今日の絞殺に至っては明日には忘れられると言われる始末。

 

 そも――傷が疵足りえない。

立ち所に治るのだ。ここ半年間でおよそ考え付く限りの人間の死に方を彼女で試した訳だが――彼女の不死性を改めて体感するだけ、という形に終わってしまった。

 

なにか……工夫……新しい何かが必要だ。

 

 

 うんうんと頭を悩ませていると一陣の風が吹いた。

ふと――僕はつい先日、精通を迎えていた事を思い出したのだ。

 

朝起きたら下着がカピカピになっていてかなり吃驚したのを覚えている。

 

妖怪の糞になる事を厭う感性が彼女に備わっているのならば――あるいは少女らしい所の少ない振る舞いをする彼女も、それらしい潔癖のきらいが残っているのでは無いだろうか。

 

僕が彼女に姦通を迫れば――ともすれば彼女に疵を残せるのではないだろうか?

 

なにせ面倒を見続けた子供に、急に性の対象として見られるのだ。

いかに彼女が長生きしてきたとはいえ――初めての経験なんじゃないだろうか。そんな心理的負担は。

 

――とりあえず、確かめてみるか。

 

 

「妹紅ねぇさん」

 

「んー? なんだよ、改まって」

 

「僕と交わりませんか?」

 

「――ぶふぉ!? ごっほ! ごほ!

 な、何を言いがる! 小便くせぇガキが馬鹿を言うな」

 

「おー。思ったより好感触ですね……もしや経験がないんですか?」

 

「クソガキが! あるわぼけ! そんくらい!」

 

「うーん……それはそうか。でもちょっと残念」

 

「……成りたてで雑魚の時に喰われながら犯されたり、野盗に攫われて普通に商品になったり

……マセたガキが期待するほど綺麗な体験談は無いぞ」

 

「いや、興味津々です……!」

 

「まじ……? そんなのが趣味なのかよ

 やっべー。やっぱ育て方――」

 

「だって成りたてって不老不死の事ですよね?

 すごい昔なのに、覚えてるじゃないですか!」

 

「ん? ああ……そういう。いつものね。

 『疵』か。まぁ確かに朧気だが、残っちゃいるな」

 

「新記録じゃないですか? やっぱり性交は記憶に残りやすいんですよ!」

 

「ガキと寝る趣味はねぇよ」

 

「妹紅ねぇさんも体はガキじゃないですか」

 

「うぐ……」

 

「むしろ丁度いいんじゃないですか?

 こう……肉体的に」

 

「………………まじでやりたいの?」

 

「うーん。嫌じゃないならやりません」

 

「……??? ん? どういう意味だ?」

 

「嫌ならやります」

 

「じゃあやりたい」

 

「じゃあやりますか」

 

「あれ?? おかしいな?」

 

 

 結構嫌がってそうだし……やりますか。

 

――とは言っても、もちろん彼女との性交渉が上手くゆくとは思っていない。

 

我ながら――『疵』とは名ばかりの、嫌がらせの域を出ない稚拙な小細工ではあるが、どうも今まで違って手応えがある。

だからただ単純に、性に関する方面で彼女に迫るということが有効打になり得るかどうか、確かめるという意味合いが強い。

 

だって――藤原妹紅は僕の何百倍も強いから。

単純な膂力ですら、あの細い腕に叶いっこないと言えば、彼女と僕の実力の差が分かるだろうか。

 

それは彼女の筋力が特別優れてるという事ではなく――単純に僕が非力なのと、彼女の持つ元来の「力」に由来する物らしい。

 

その上――彼女は炎を操ることが出来る。

どういう理屈か知らないけども、彼女は自由自在に炎を操ることが出来るのだ。

 

僕が彼女を害することが出来るのは、一重になすがまま、無抵抗でいてくれるからに過ぎない。

 

だからそんな彼女が――本気で抵抗すれば。

僕はあっけなく彼女に迫ることを失敗してしまうだろう。

 

 

「…………む」

 

「おぉ。すごい柔らかい」

 

 

 ―――そんなことを考えていると、僕は藤原妹紅の乳房に掌を埋めていた。

 

服の上からでもふにふにとした弾力がなんとも心地よく、吸い付くような柔らかさに思考が漂白されて、思わずただ両手を沈めて感触を楽しむことしか考えられなくなる。

 

 ふにふに、ふにふにふに。ふにふにふに。

 

 

「……む。ふっ、……うぅ」

 

 

 表情に赤みが差して、声に艶が出はじめている。

 

はて? どうにも最初の想定と違い、藤原妹紅は僕に対して抵抗らしい抵抗を見せない。

これはどういう訳なのだろうか。僕との交わりを拒否するような口調だったと思うのだが。

 

――まぁ、それはそれとして。はじめて触る女体の神秘に僕は感動していた。

やわらかい、柔らかい、すごいやわらかい。

 

 ふにふにふに。ふにふに。ふにふに…………

 

 

「えぇい!焦れったい! 何時までやってんだ!」

 

「永遠に………?」

 

「それ私には洒落になってねーからやめろ」

 

「しかし妹紅ねぇ。僕は性交渉の手順を知らないんです。とりあえず乳房を掴んだだけで」

 

「…………はぁ。とりま、あれだ。下、脱げ」

 

「…………はい」

 

 

 言われるがまま、下袴をズラして自らの生殖器を露出させた。

どうやら、先程の身体的接触で性的興奮を正常にしており――僕の生殖器はきちんと機能をしている。

 

むしろ、あまりの興奮に心音が耳にまで鳴って、

体中の血液がそこへと流れてしまっているのではないかと心配になる程だ。

 

「はっ。可愛らしいじゃねぇか、ぴょこっとしててさ」

 

「……」

 

「ふふ……なんだよ、今更恥ずかしくなったか?

 耳まで真っ赤じゃん」

 

「……妹紅ねぇが嫌がってないなら意味ないのに」

 

「うん?」

 

「喜んじゃったら意味ないのに!」

 

「ぼ、坊ちゃんがやりたいって言ったんじゃねぇの……?」

 

「僕は、妹紅ねぇの、疵になりたくて……」

 

「あぁ……そういうことか? じゃあ無理だよ

 この方法で、坊ちゃんと私じゃあ。無理だ」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

「――でもひとつ、勉強代な」

 

「……?」

 

「女をその気にさせたら最後まで付き合え」

 

 

 そう言って悪戯っぽく笑う藤原妹紅は、はじめて僕に見せる表情をしていて――。

 

情欲に濡れたその瞳に――思わず、息を飲む。

 

この胸の内にある渦巻く奔流の正体は

――興奮か、期待か、恐怖か、歓喜か、困惑か。

はたまたその全てか。

 

しかしそのどれでも――結局僕は答えを変えなかっただろう。

 

 

 

 







続けばセックス
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