お泊りした愛里と共にお出かけです。
昨晩から来ている愛里もさっぱりとした表情でTシャツを着た。4人掛けのテーブルで朝食をとり、コーヒーを飲みながら、おしゃべりタイム。今日はフルメイクして遊ぶ日だ。
「この前かったハイヒール、持ってきましたか。」
「はい、練習もしてきました。」
ハイヒールも履きこなすには慣れが必要だ。この前3人でモールのシューズショップに行ったとき
「ハイヒールって女っぽくっていいですよね。」
由佳がポツリとつぶやくように言った
「わたし、小さいから、ハイヒール履いてみたいんです。」
「由佳は履いたことないの?」
「和服に合うモノならどんな履物でも大丈夫なほどに仕込まれましたが、ハイヒールは未経験です。」
「愛里は?」
「わたしは、グラビア撮影の時に履くだけです。歩けるかどうかは・・わかりません。」
「お姉さまはどうなんですか?」
「私は・・・10㎝ピンヒールならスニーカーレベルで走れるわよ。」
「10㎝・・すごいです。」
由佳が指を開いて唖然としているのがかわいい。
私は自分に合うサイズを試着し、店内を少し歩いてみる。
「ま、お客様、ハイヒールでそんなきれいに歩けるなんて。久しぶりに見ましたわ。」
店員も驚いている。確かにハイヒールを履きこなせる高校生なんていないだろうし、ここではハイヒールを履きこなす必要のある社会人もいないだろう。
「有栖ちゃん、かっこいい・・・」
「愛里は身長があるんで、5センチくらいでいいかも。でも、7センチだと世界が変わるわよ。」
「由佳は、まずは5㎝。ゆくゆくは10㎝ヒールを履きこなそうか」
3人、それぞれに好きなデザインのハイヒールを購入した。
おうちに帰って、2人の練習だ。
由佳が歩いてみるが、初体験にありがちな恰好だ。腰が引けて、足元がふらついている。歩いてもヒールの高さに戸惑っている。
愛里は履いたことがあると言っていたが、その通りで、履いたことがあるだけだ。歩いても膝が曲がっている。
「お姉さま、歩き方を教えてください。」
私も自分の買った10㎝ピンヒールを履いて、2人の前で歩きながら説明する。
「普通の靴ならかかとから着地するように歩いているはず。でも、ヒールがあるのでその歩き方はできないの。まず、かかととつま先を同時に着地させるイメージをもつこと。」
「かかとから降りると、ヒールのゴム、トップリフトというものが削れたり、外れたりするの、最悪、ヒールが折れてしまうわ。」
「で、ヒールの高さと同時に降りるようにすると、必然的に膝が曲がるの。」
由佳が歩いているのを愛里が動画を撮っている。
「ほんとですね。由佳ちゃん、膝まげて歩いています。」
愛里の撮った動画を3人で確認する。なるほど、自分から横姿は見えないから、動画はとてもいい。
「こっちが有栖ちゃん。すごいです。」
「わ、わたし、かっこ悪い・・」
「ね、膝を曲げているってわかるでしょ。」
「膝を伸ばすために、歩幅を少し狭くして、腰を引いて、ほんの少し前傾します。この状態から、上に引っ張られているというイメージを持ちながら歩く。まぁ、つま先立ちのまま歩いて、かかとは補助的な感じにするとわかりやすいかもしれません。」
二人とも少し練習すると、よくなってきた。各自、持ち帰って練習するとしてお開きにした。
「じゃぁ今日は大人メイクでゲームセンターで遊びましょう。」
由佳のお化粧は私がする。由佳お気に入りの大人メイクだ。愛里はベースは自分でつくり、最終仕上げを私がする。最後の自分のお化粧であるが、二人にじっと見つめられながらするのは少し恥ずかしい。
「ほんと、有栖ちゃんのお化粧、早いけどきれいなんだよね。」
「いつもは軽いメイクですが、今日は誰だかわからないレベルです。」
「じゃ、由佳、ウィックもつけてね。シルバーグレーが似合う肌色にしてあるから。私は黒で」
由佳:シルバーグレーのロング、タイト感のあるワンピース
愛里:カールを強めた地毛、お嬢様ファッション、コンセプトは“大人の雫“
有栖:黒髪のセミロング、白のスラックス、ノースリーブブラウス
「ね、清隆、写真撮ってくれる。」
3人がヒールを履き、ポーズをとると、清隆がシャッターを押す。
「今日はまた、気合が入ってるな。有栖なんてぱっと見誰かわからない。」
「でしょ」とポーズをとると
「すごくきれいだ。」
その言葉がかけられた2秒後、私はうずくまった。
「清隆君、気を付けてください。お姉さま、そういうの弱いです。」
「あ、あぁ・・わかった。」
「いいんです。たまに掛けられるそういう言葉に反応してしまうだけです。」
深呼吸して呼吸をととのえ
「じゃ、行ってきます。」
途中
「ね、有栖ちゃん、由佳ちゃんってすごくかわいいんだけど。」
少し前を歩く由佳を見ながら愛里が囁いてきた
「でしょ、由佳はかわいいの。愛里もわかるよねっ。」
声が大きく、由佳が私をジト目で見つめる。あ、しまった、また熱が入ってしまった。
ゲームセンターでクレーンゲームなんかをしていると、必ずといっていいほど、男が声をかけてくる。最初は、20代くらいのイケメンさんだ。
「ね、君たち、どこの人?」
そう、この敷地にいるのはなにかしら高育に関係している。そのため、この質問は“どこで働いているか”ということだ。生徒とは思っていない。無職の成人女子はいないはず。ま、適当にあしらっておく。
周りの女性もひそひそと話している。
「すっごく美人さん。」
「素敵よね。」
「雫、だっけ、よく似ている。」
「まねてるのかもよ。」
よくみると、学校で見たことがある生徒たちだった。2年生の先輩だ。
「ああいう感じの大人になりたいわよね」
「ほんとほんと」
いや、君たちのほうが年上だし・・
「すごいですね。今まで以上にバレないみたい。」
「そうですね、髪の毛もウィックで隠しているから、余計にわかりにくくなっています。お姉さまの髪の毛は特徴的ですから。」
由佳の黒髪も相当綺麗だけど、二人ともボブだとバレバレだ。
そんな中、一人、気が付くものがいた
「ね、あの人たち、すごくきれいじゃない?」
声のする方を見てみると、Cクラスの生徒だ。それに軽井沢がいる。
「ほんと、似合ってるし、素敵・・いいよね。」
そうしゃべりながらそのグループは遠ざかった。でも、すぐ後に軽井沢が戻って来て、いきなり声をかけてきた。
「ねぇ、有栖、聞きたいことがある。」
とにかくここでは目立つので、場所を変え、カフェの奥の方に席をとった。
「よくわかりましたね。」
注文の後、率直に聞いてみた。
「なに言っているの。誰が見ても有栖だし、立川さんだし、さ、佐倉さんじゃん。」
「誰にも気づかれなかったのに・・」
愛里が小さな声でつぶやいた。
なぜか、軽井沢は佐倉のほうを、少しきつめの表情で見つめブツブツとつぶやいている。
「どうして・・どうして・・」
「恵、どうかしましたか?気になることでも」
しばらく沈黙の後、軽井沢が意を決したように
「ね、この化粧、有栖だよね。」
「そうですよ。」
「さすがね。」
軽井沢は3人の顔を食い入るように見つめている。ただ、愛里の顔を見るときは、やはり少しきつい表情になる。
「か、軽井沢さん、私、何か気に障ることした?」
愛里が不安そうに軽井沢に聞くが、それを無視して私に向き直った。
「ね、有栖、化粧するところ、見せてくれないかな。」
「今度、機会があるときにお声かけしますね。」
「今度じゃなくて、これから・・・お願い。」
珍しく頭を下げている。
「お姉さま、なにか事情があるみたいです。」
「そうね。いいわよ、じゃ、見せてあげる。」
そういって席を立ち、会計を済ませておうちに向かった。
「有栖ちゃん、軽井沢さんを連れていくの?」
歩きながら愛里が小さな声で聴いてくる。
「はい、そこでお化粧を見せます。」
「だ、大丈夫なの?あのおうちに連れていくの。」
そうか、愛里は知らないんだ。
「大丈夫、この前来てもらったから。」
少しの沈黙のあと、何かを理解したようで
「あ、そうなんだ。」
少し寂しそうな表情でつぶやいた。
おうちに着くと、清隆が玄関を開けてくれた。
「綾小路君、お邪魔するわよ。」
軽井沢は一言言って居間に入っていく。事情を簡単に清隆に説明し、清隆は部屋の隅に置いてあるデスクに座り、女子4人がテーブルを占領した。
「恵、そろそろ教えてくれないかしら?」
「ごめん。無理なこと言って。来る途中で冷静になって考えると、すごく失礼だった。」
頭を下げて謝罪している。
「わかったわ。それはもういいから、何があったのか教えて。」
「さ、佐倉さんの良さが、いかされていないのが癪に触って。。。」
「は?」
「なに?」
「え?」
聞いている3人は唖然としている。確かに今回のお化粧は少し大人びた雫を表現したため、本来の明るさに少し影を見せるようなものとした。
「恵、何を言っているの?順に話してくれないとわからないわ。」
「うん。」
軽井沢は下を向いて、もじもじしている。
「軽井沢さんは愛里ちゃんのこと大好きなんです。」
由佳の言葉に、軽井沢が両手で顔を覆った。愛里はびっくりして表情が消えている。
(まじか?でも、さすが由佳だ)
「佐倉さん、眼鏡を取るようなったころから、気になって気になって仕方なかった。グラドルの雫っていうのはよく知らない。でも、スタイルいいし、姿勢もいいし、すごくチャーミングなの。毎日、遠くから眺めていたの。見ているだけで元気がもらえた。」
ぽつりぽつりと説明し始めた。
「最近、薄く化粧して登校するときがあって、ますます気になっていた。」
「今日、ゲーセンで見かけて驚いたの。佐倉さんの明るさやチャーミングなところが消えちゃってた。」
「それで、なにをしたのか聞きに来た。ということ?」
「うん。そう。」
清隆が入れてくれた紅茶を人すすりした。
「あと、どう化粧すれば、これほど変えられるのか見てみたい。」
「なるほど。恵にとってお化粧は大事ですからね。」
優しく言うと、軽井沢が小さく頷く。
「ね、軽井沢さん、どうして、私達だってすぐにわかったんですか?フルメイクだとほぼわからないと思うんですが。」
私の聞きたいことを由佳が聞いてくれる。
「確かに顔だけ見ていると誰かわからなった。でも、スタイルや、顔の輪郭って変えられない。チークいれてシャドウをつけても変えられないところってあるでしょ。だから3人を見たとき、すぐにわかった。周りの子たちは全く気が付いてなったけどね。」
驚いた。これも才能なんだ。
「小学生の時、いたずら好きな双子がいたの。ゆいちゃんとゆりちゃんというんだけど、よく漫画なんかであるように、授業を入れ替わって受けたりしていたの。でも、私から見ると、何してるんだろって感じだった。」
「ある時、ねぇ、ゆりちゃん、どうしてここにいるの?って、休み時間に聞いたら驚いてた。親でも見分けつかないのにどうしてって?私には何を言っているのかわからなかった。だって、二人、全然違って見えたから。」
「友達が体調が悪いのもすぐにわかるよ。気分のいいときとかもわかる。姿勢が違うの。」
「お姉さま、これもすごいですね。」
「ほんと、驚いたわ。」
「じゃ、そろそろ始めましょうか。ちょっと待っててください。」
「愛里、由佳、お化粧を落としましょう。」
二人を連れて洗面にいき、クレンジングを使ってすっぴんに戻す。
一通りのお化粧道具を持って、居間に戻った。
「ちょっと待ってて、私も手を洗ってくる。」
といって洗面に行っている間に、椅子を向かい合わせにして、愛里と向かい合って座った。「愛里、化粧水から始めるわよ。」
「うん。有栖ちゃん、よろしくね。」
軽井沢が凝視している。
「ね、素肌って、こんなに綺麗なの?肌理もすごく細かいけど・・」
「毎日のお手入れです。」
由佳がポツリと答えると、また3人の顔をじろじろと観察するように見る
「すご。3人ともすごく綺麗。触っていい?」
「いいですよ」
頬を差し出すと、やわらかく触ってきた
「すごい。もちもちして、吸いつくみたい。すごい。」
「始めていい?」
「あ、ごめん。よろしく。」
私はいつものように愛里にお化粧を施していく。その過程をじっと見ている。
「早い。」
「すごい。」
たまに軽井沢のつぶやきが聞こえてくる。
「軽井沢さん、お姉さま、すごいでしょ。」
「知ってはいたけど、ほんとすごい。」
私の思う愛里の良さを引き立たせるよう、全体のバランスを取りながら目を作り、頬には明るいチークを入れ・・・
「はい、出来上がり。」
ほぼフルメイクだが、さっきまでの大人びた雫ではなく、今の愛里を全面に出したものだ。
軽井沢を見ると、なぜか口を押えて涙目になっている。
「すごい。佐倉さんだ。すごくいい。」
と言いながらも、何か考え込んでいる。
「お、愛里、すごく綺麗だぞ。」
離れたところから見ていた清隆も近くに来て、愛里に話しかけた。
「あ、綾小路君・・あ、ありがとう。」
顔を赤らめ、恥ずかしそうにしている。最近、清隆は愛里と呼んでいる。好意を持っている女は名前呼びすることに由佳も気が付いている。愛里も当然、清隆にご執心だ。
「恵、どうしました。」
「ね、佐倉さん、私に化粧させてくれないかな。いっぱい練習して、有栖の造る佐倉さんを追い越して見せる。もっともっと輝かせる。だから・・」
「う、うん。それは良いけど・・・」
「いつになるかわからない。でも、追い越せたと思ったら、改めてお願いに行く。」
「有栖、今日はありがとう。やることがあるから、もう帰るね。」
と言葉を残して、急いでおうちから出ていった。
「軽井沢さん、どうしたのでしょうか?」
「あぁ、多分、道を見つけたんだろう。」
由佳の問いに清隆が答えた。私もそう思う。彼女はそういう方向に進むんだろう。
軽井沢が将来の方向を決めたようです。
予定ではあと3話くらいで、終わりとなります。
最後まで楽しんでください。