どんな子なんでしょうか?
また、この子があの二人とどう絡んでいくのしょうか。
話の区切りをつけたかったので3話に分けて連続投稿になります。
「由佳、ごはん行くよ。」帆波が私をお昼に誘っている。入学して3週間目の月曜日、帆波とはいい友達になれた。彼女は、本当に善人で、リーダーシップもあると皆が認めている。私はそのことに少し引っかかっていたが、帆波と一緒にいるのは気楽で楽しい。彼女がBクラスのリーダーとしてクラス委員長に選ばれたときも、帆波は本当にそれでいいのか、と思った。
「いいよ。帆波さん。一緒に行きましょう。」
他の2人と4人で食堂に向かう。私のあまり気乗りしない顔つきをみて、
「由佳、お昼はいつも考え込んでいるけど、何かあるの?」
「いいえ、気にしなくてもいいです。さぁ行きましょう。」
笑顔を作り答えた。今日はパスタ注文し、席に着いた。
「この学食って、どれもおいしいよね。」
パスタをフォークに絡め取りながら帆波が言うが、私はそれが気になって、お昼はいつも浮かない顔つきになる。
「そうだよね。安いし、レストランでも食べられないくらいおいしい」
他の2人も口を合わせる。一口食べると、確かにおいしい。パスタそのものの味、ゆで加減、ソース。どれもこの価格では食べられないようなレベルになっている。
入学以来、いつもお昼は学食で食べてきた。どれも安くて美味しい。でも、「これほどのものが出せるのに、どうして?」そう、一つ足りないのだ。「どれもあとちょっとで、高級レストランや老舗と言われているところで提供される食事を超えられるのに」。とても残念だ。そう思って食べるパスタは、残念ながら美味しく感じなくなってしまう。私は決心した。
「ここで3年間を過ごすなら、お昼を美味しく食べられるようにしよう。」
放課後、私は学食の事務所のドアを開けた。
「すみません。1年Bクラスの立川由佳と言います。」
声をかけるが、料理人らしい風体のひとが
「生徒が何の用だ。ここは関係者以外立ち入り禁止となっている。」
取り合ってくれない。私はひるみそうになる気持ちを奮い立たせ、
「提供される食事の味付けについて、少し話を聞かせていただきたく、不躾とは思いますが、料理長と話をさせてください。」
強い語気でいい、お辞儀をした。一人の男性が、パーティションの奥に入り話をしているのが聞こえる。
「料理長、1年の学生が味付けについて話をしたいといって、来ております。」
「なんだそれ、だれなんだ。」怪訝そうな声だ
「Bクラスの立川由佳と言っていました。」
「た、立川、由佳。立川由佳だと。」
大きな声がしたあと、ガタンと音がして、一人の男が出てきた。私を足の先から頭の上まで見ると。
「お、お嬢、なんですか?」
改まった姿勢で聞いてくる。
「あら、順平ですか。」私は少し驚くと共に、学食の料理に納得した。
「はい。覚えていていただけましたか。」嬉しそうに破顔する。
順平は私の生家である料亭の料理人だった。かなりの腕前だったが、社長(パパ)と料理のことでやりあい、仲たがいの末、3年ほど前に料亭を去った。
「覚えていますよ。それに私のことをお嬢と呼ぶのは順平だけです。」
「料理長、この子、誰なんです?」周りの人が順平に聞く。
「この子は、この人は、料亭 立川のお嬢様だ。」
「料亭 立川ってあの老舗の立川ですか。女将が絶対味覚もちと噂されている?」
「他にあるかっ。で、お嬢は立川の女将の上をいく絶対味覚もちだ。」
「順平。そのくらいで。」
少し恥ずかしくなってきたので下を向いた。順平が4人掛けのテーブルを指さし、
「あちらで、話を聞かせてください。」
順平に勧められた席に座った。順平のほか2人も同席するらしい。お茶が出てくる。
「お嬢、何か気になりましたか?」順平が口火を切る。それには答えず。
「では、順平は今提供している料理に満足していますか?」と逆に問いかけた。
「元のレシピをもとに、少し調整して、満足できるものに仕上げているつもりです。」
「料理長がきてから、学食のお昼がとても美味しくなったと評判です。」同席者が説明する。
「確かに、どの料理も大したものです。でも、あれ程うまく調理されているのに、もったいないです。」
「もったいない?」
もう一人の同席者が怪訝な顔つきでいう。少し感情が高ぶっている様に見える。自分たちが自信をもって提供しているものに文句をつけられているのだから当然だ。順平が「ふぅ~」大きく息を吐き
「味付けですか?」と声を出した。私は頷いた。
「今日のパスタ。まだ作れますか?」と聞くと、一人が立ち上がり確認して、大丈夫と声がする。
「では、レシピを見せてください。」渡されてレシピを見ながら
「なるほど、思った通りです。いいものを使っていますね。」確認しながら、レシピに書き込みを入れる。
「ところで、お味噌はどこのものがありますか?」
「メインは信州みそです。他にもあるにはあります。」
「信州みそですか。」といって天井を見つめ、少し考え、またレシピに書き加えた。
「では、今日のパスタと、このレシピのパスタを作っていただけませんか?」
順平と他の人もそのレシピをみて
「あれを少し減らして、こっちを少し増やしてある。入れる順番も指定されている。で、みそか。でもほんの少しだな。なんだかバランスが崩れ、味がぼやけそうだが。」
「手間は少しかかりそうだが、コスト的はほんの少しだけど安くなる。高い調味料が少なくなっている。」
それを聞いて私はにこっとほほ笑んだ。
「よし、このレシピで、1人前ずつ作って食べ比べよう。」
しばらくすると、2皿が出てきた。メイン素材には手を入れていないので見た目は全く変わらない。
「では、食べてみましょうか。」
私が声をかけると。取り皿にそれぞれのパスタを取り、試食が始まった。まずは、今日出されたパスタ。
「うん。おいしいですね。いつもの味が出ている。」と口々に感想を述べる。
次は私のレシピで作ったパスタを食べる。
「う、うそだろ。別物になっている。うまい。うますぎるぞ、これ。」
一人が言うと、他の一人も「同じ素材、調味料も少しの加減。みそをほんの少し入れただけで、魔法みたいだ。」と感心している。
「順平はどうですか。」
「食べなくてもわかる。お嬢の魔法だ。別物になっている。」食べながら感想をいう。試食会も終え、後片づけをしてから、順平と個室に入った。
「お嬢、どうしてこの学校に。あの家を出るなんて予想できません。」
「私も驚きました。パパとママに嵌められた感じです。」
「あぁ、社長と女将、専務ですね。」とにたりと笑う。
「まぁ、そうです。」とこちらも笑う。
絶対味覚もちです。
次話では、彼女の生い立ちに触れます。