二人はどのように再会するのでしょう。
私はバスに揺られている。今日は高度育成高校の入学式だ。赤を基調とした制服に身を包み、中学に入ったころから付けているカラコンも忘れずに付けている。私の目を気持ち悪く思う人もいることを自覚してから、力を使う必要のないときは付けるようにしている。
「もうすぐ逢える」小さな声で独り言ちる。
停留所に止まった。多くの人が乗り込んでくる。その中に清隆がいた。私は顔を伏せた。清隆は私の前の空席に座り、その隣にはきれいな黒髪ロングの同じ制服を着た女の子が座った。私の下腹部がずんずんする。少しすると、「誰か席を譲ってあげてください」とOLらしき人が声を上げた。
「あなた、そこは優先席。このおばあさんに席を譲ってあげてくれないかしら」と優先席に座っているガタイのいい学生に声をかける。
「なぜ私が席を譲らねばならないのか理解に苦しむ」と通常では考えられない返事をした。あきれて彼の方に目をやる。驚いた。高円寺六助だ。小学校低学年の時、父に連れられて行った政財界のパーティーで会ったことがある。彼もこの高校に通うのか。何やらまだ押し問答をしているが、
「どうぞ座ってください」私は席を立っておばあさんに席を譲ると「お嬢さん、ありがとう」といって席に座った。バスの中に平安が訪れた。
「ありがとうね。」私の隣の同じ制服を着た女の子が声をかけてきた。
「いいえ、当然のことをしたまでです。」と笑顔で返答した。しばらくその子と話していると、高度育成高校前に到着したらしく、制服を着た男女が降りていく。私たちもその波に乗ってバスを降りた。
「ねぇ、友達なろうよ。私、櫛田桔梗って言います。桔梗って呼んでね。」
「はい、喜んで。綾瀬有栖です。有栖と呼んでください。桔梗」
櫛田は屈託のない天使のような笑顔でほほ笑んだ。
どうやらクラス分けが貼り出してあるらしく、二人で見に行った。あいうえお順で書かれているクラス分け。私の下に「綾小路清隆」の名前があった。また、下腹部にあの「やるせない」感じが起きる。
「Dクラス。あ、有栖と同じクラスだ。よかったぁ」と櫛田が名前を見つけたらしい。でも、なぜか少し表情が硬い。
「ほんとですね。よかった。」櫛田と同じクラスというより、清隆と同じクラスであることに対する「よかった」である。さすがに同じクラスにして欲しいとは父に言えず、運にまかせるしかなかった。父からは不合格になることはないと聞いていたので、まずは目立たないような点数で入試を済ませていた。
途中監視カメラが多く配置されていることを不審に思いながらも、二人でしゃべりながら教室に入り、前に貼られている席順をみた。監視カメラは教室の4隅に設置されている。私は窓際の後ろから2番目。後ろ席は清隆だ。足元がぐらつく。
「あ、有栖、大丈夫?」ふらついた私を櫛田が支えてくれた。
「大丈夫、ちょっと躓いただけです。ありがとうございます。」と言って自分の席に向かった。
しばらくすると、清隆が教室に入り、席を確認して私の後ろの席に座った(あぁ。下腹部がずんずんしている。早くこれに慣れないと、おちおち学生生活も送れない)。私は後ろを向いて
「こんにちは、綾小路清隆君。私は綾瀬有栖。よろしくお願いします。綾つながりで友達になりませんか」と無表情な清隆に笑顔で話しかける。
「綾瀬・・有栖、か。ああ、よろしく頼む」と、少し間があったが、答えてくれた。あの時から声も変わり、少し大人びた声を聞いて、また、下腹部が反応する。
「なぜオレの名前を?」
「座席表に書いてありますよ。」
「そっか」
「早速、友達が出来てよかったわね。」となりに座った黒髪ロングの女の子が口をはさむ。
「そちらの方は友達ですか?」私が聞くと
「バスで隣に座っていただけだ。お前も乗っていただろう。」
「私の前に座っていましたよね。初めまして、綾瀬有栖です。よろしくお願いします。」と隣の女の子にあいさつしたが無視された。
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清隆side
停留所に止まったバスに乗り込む。席が空いていたのでオレはそこに座った。後ろには顔を伏せているが、同じ高校に行くのだとわかる女の子が座っていた。透き通るようなシルバーグレー。以前逢った有栖も同じ髪質だった。あのとき『また会えることを楽しみしています。』と言い残し去っていった「有栖」。あれから数年たつが、今でも脳裏に焼き付いている。本当に逢えるのか、オレの目の前に現れるのか、いくつもの課題をこなしながらも、常に片隅に存在し続けた「有栖」。後ろにいるのは有栖なのか。と思いながらバスを降り、教室に入った。席に着くと、前席のシルバーグレーのあの女の子が振り返り、話しかけてきた。
「こんにちは、綾小路清隆君。私は綾瀬有栖。よろしくお願いします。綾つながりで友達になりませんか」
普通、「はじめまして」だろうと怪訝に思いながらも、その子に目をやった。面影はあの有栖だ。でも目が違う。あの特徴的な『すべてをわかっているような、包み込まれるような目』ではなかった。それに有栖は坂柳有栖であり、彼女の名乗った綾瀬有栖ではない。少しがっかりして、
「綾瀬・・有栖、か。ああ、よろしく頼む」と返答した。
隣の女子には「はじめまして」と言ってあいさつしたが、彼女はそれを無視した。
「おい、あいさつ位返したらどうだ。同じクラスなんだ。自己紹介位できるだろう。」
「なれ合いの友達なんて、必要を感じない。」一言だった。
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私は清隆と苦笑いした。そして周りを見渡すと高円寺と目が合った
「おや、リトルガール。いろいろと変わったね。」
「知り合いなのか?」と聞く清隆に
「随分前にあったことがあるはずです。」と言いながら高円寺の近くに行き
「いろいろとあるんです。」とささやく。
「今のところは問題ない。君のバスでの勇気と美しいその髪に免じて見逃そう。」今はこれで十分だろう。
しばらくすると担任の茶柱先生が入ってきて、スマホみたいな携帯端末を配り、この学校の説明をした。
かいつまんで要約すると以下のようになる。
・この端末は学生証の代わりになる。スマホのようにも使用できる。
・この学校は実力で生徒を評価する。
・入試に合格した生徒の今の評価は10万ポイントの価値とされる。
・1ポイント1円で、敷地内で使用できる。つまり、10万円分入っている。
・敷地内ではポイントで買えないものはない。
・このポイントは毎月1日に振り込まれる。
・クラス替えは3年間ない。このメンバーが3年間共にする。
・卒業時にはポイントは回収される。
そう説明した後、質問がなかったので、入学式までは自由時間ということで茶柱先生は教室から出て行った。
周りの生徒たちは10万円相当の小遣いにおどろき、口々に何に使うかなんてことをしゃべっている。
私は清隆の方を向き
「どう思いますか?」と聞くと清隆も
「ありえないな。」と答えた。隣の堀北が
「あなたたち、何を話しているの?」と聞いてきたが、無視した。
「せっかく時間があるので、自己紹介しないか?」
「いいねぇ、やろうやろう。」
「じゃ、いいっだしっぺの僕から。」と平田と名乗る男子から自己紹介が始まった。
私は手を挙げ、
「ちょっとトイレに行きたいから、先にさせていただけないかしら?」
「じゃ、どうぞお先に」
「私は綾瀬有栖。護身術に覚えがあります。勉強はつまらないので好きではありませんが、そこそこだと思います。趣味は頭脳系ゲームには自信があります。特に・・チェスです。気軽に有栖と呼んでください。3年間よろしくお願いします。」といって教室を出た。Cクラス、Bクラス、Aクラスの前を様子をうかがいながら通り、職員室に来た。
「Dクラスの綾瀬です。茶柱先生に質問があってまいりました。」
「綾瀬か、質問は何だ」
「早速ですが、来月、何ポイント振り込まれますか?」
「質問に質問で返して悪いが、なぜそんなことを聞く?」
「10万ポイント振り込まれると言われませんでしたから、気になって」
「今は答えられない」
「わかりました、では、実力で評価されるとおっしゃいましたが、評価によってはポイントが上下すると考えていいですね?随分と監視カメラも多いようですが。」教師たちがこちらを注視する。
「今は答えられない」
「わかりました。では、クラスによって雰囲気が違うのは意味がありますか?Aクラスは静かで、Bクラスは和気あいあいとしてまとまっており、Cクラスは険悪な雰囲気。私のDクラスは皆がばらばらでした。クラス分けに何か方向があり、競わせようとしているのでしょうか」職員室がざわつきを感じる。(あぁ、やっぱり)。
「それもいまは答えられない」
「それでは、この内容をDクラスに説明してもよろしいでしょうか?」立ち上がる先生もいる。
「綾瀬ちょっと待て、10万ポイントを渡すから、5月までそのことはクラスに話すな。」思った通りだ。茶柱先生に焦りが見える。
「10万ポイントですか。少なくありませんか。おそらくこれは新入生にとって、また、この高校にとって、とても重要なことなのでは?せめて50万ポイントはいただきませんと、口が滑るかもしれませんよ。」こちらの提案に茶柱先生をはじめ、周りの教師たちはあっけに取られている。
「わかった。50万ポイント渡そう。その代わり口外したらお前は退学になる。それでもいいな。」
「わかりました。では50万ポイントで口を閉ざします。」
「よし。他には」
「今のはDクラスに対する口止めです。他のクラスへの進言についてはいかがいたしましょうか」
茶柱先生は他の教師と目くばせする。と、その先の教師がうなずいた。
「わかった。4クラス分、合計200万ポイントを渡す。」
「わかりました。では入学式もそろそろですので、これで失礼します。」といって職員室を後にした。
中から「まだ、説明して1時間だぞ」「いきなりSシステムを看破するとは」とざわついている。教室に戻る途中で清隆とすれ違った。
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清隆side
教室で自己紹介に失敗したすぐ後のことだ。オレは職員室に行こうと教室を出て歩いていた。そのとき、職員室の方から歩いてくる綾瀬とすれ違った、特に気にも留めず、そのまま職員室に入った。
「茶柱先生、Sシステムについて質問があります。」職員室がざわめく。「あのDクラスから二人目だぞ。」「いくらなんでも早すぎる。」小声でささやく声が聞こえる。(そういうことか)。オレの判断が間違いでないことが分かった。
そのあと、自分の予想を説明し、口止めで200万ポイントが振り込まれた。また、同じ見解をもって職員室に質問に来た生徒がいたことも教えてもらった。
職員室をでて、入学式に向かいながら、「綾瀬か、散らばっている情報をもとに、それらをつなぎ合わせて、解にたどり着いたか。たいしたものだ。」なぜか、過去に体験した「楽しい」というものに近い感覚を覚えた。
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入学式を終え、教室に戻り、寮に帰る準備をする。(早く清隆と近づかないと)。
「綾小路君、連絡先交換しませんか」私が端末を見せると、
「わかった。交換しよう」とお互いに操作し、連絡先を教えあった。
「この後、何か予定ありますか。なければ、一緒に帰りませんか。」
「特に予定はない。ちょっとコンビニに行ってみたいのが、付き合ってくれるか?」
「はい。私もこれからの生活に必要なものを買いそろえなければなりませんし。興味があります。」
「仲がいいのね。」と隣人堀北が口をはさむ。
「友達だからな。」と清隆が無表情で答える。
「そ」といいながらスクールバッグを肩にかけて出て行った。
「随分と排他的な人ですね。」
「ああいうのは生きづらいと思うが、本人がそれを望んでいるのならそれでいいんじゃないか。」
私たちはコンビニに向かった。
コンビニで生活に必要そうなものを選び、かごに入れていると、「無料、1か月に3個まで」というプレートが掲げられているワゴンに気が付いた。
「なるほど。やはりな。」と清隆がつぶやいた。
「そうですね。」と返し、試しに無料商品をひとつカゴに入れておいた。
「ほんとに仲がいいわね。で、この無料商品がどうかしたのかしら?」偶然居合わせた堀北が聞いてきた。
「あら、節約にはいいかなと思ってカゴに入れただけですよ。」とはぐらした。
「そ。10万円もあるのに、無料の商品が必要になるバカもいるのね。」と、それに興味はなさそうにしている。
清隆はカップ麺を手に取り、
「値段的にはこんなものなのか?これはうまいのか?」といぶかしげに見ている。
「値段として普通ですね。上乗せされているような価格ではなさそうです。食べたことはないのですか?」
「ああ、家が厳しくてな。自由に出歩くこともなかった。コンビニもはじめてだ。」
「そうですね。」と目を合わせて意味深な笑顔で答えた。その返答と表情に清隆は釈然としない雰囲気を出していた。
「では、カップ麺を一緒に食べませんか?」
「それもいいな。どこで食べる。」
「よろしければ綾小路君の部屋にうかがってもよろしいでしょうか?」
「綾瀬が気にしないなら、それで構わない。」
「ではそうしましょう。寮に帰って、準備してから伺いますね。」
清隆と一緒にコンビニにいる間、下腹部がずんずんとうずいて仕方なかった。なぜ、清隆がそばにいるとそうなるのか、それを精神力で抑えながら、平然と会話するのは非常に疲れるし、このままでは体がもたない。解決方法は予想が付いているし、その解決方法を選ぶことも決めている。それが新たな世界を広げることは予想できた。そんな中、無理やりであったが、清隆の部屋に行く口実はつけた。その後、どのように進めるか、何度も頭の中でシミュレーションをくりかえした。私服(白のワンピース)に着替え、あるものを隠し持ち、清隆の部屋のベルを押す。
「綾瀬か。中にどうぞ」
一瞬、私服姿に驚いたようだが、相変わらずの無表情で部屋に通された。入寮したばかりなので、私の部屋と何も変わらない。これから各自、インテリアなんかを変えていくのだろう。買ってきたばかりのカップ麺が二つ、勉強机の上に置いてある。
「綾小路君、少しあなたとゆっくりと話したいと思っていました。」
「そうなのか?」
「その前に、ちょっと洗面を使わせください。」と告げて、荷物を持って洗面にいった。
私は、コンタクトを外し、隠し持ってきた荷物を後ろ手に持って、居間に戻った。ベッドに腰掛ける清隆の前に立ち、顔を伏せながら
「綾小路君、少し立っていただけませんか」といった。清隆はゆっくりと立ち上がり、私と向き合う形となった。
「綾小路君、いや、清隆君。お久しぶりです。有栖です。」
私は顔を上げ、清隆と目を合わせた。あのとき、何も浮かんでいなかったその目には『自由』と浮かんでいた。また、『不気味』という感情からすぐに『親愛』に変わった。
「覚えていますか。」私は震えながら後ろ手に持ってきた「杖」を前に持ち直す。
「やはり、有栖なんだな。忘れるわけがないだろう。」
「私だとわかっていたんですか?こんなに早くお会いできるとは思ってもいませんでした。」
「いや、どうしても有栖と判断するには無理があった。体はよくなったのか、先天的なものと聞いていた。それはあの時の杖か」手に持っている杖に目を落とした。
「これはもしもの時にと思って準備したものですが、不要でしたね。そうです。あのチェスを起点に、いや、2階から清隆君を見つけた日から変わり始めました。後でゆっくり話しますね」
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清隆side
綾瀬とコンビニに行って、部屋に戻ったオレは、思考を繰り返す。それは綾瀬の違和感。なにか普通と違う。あの有栖には似ているが、坂柳ではなく、綾瀬だ。また、有栖は先天的な病気を患っているはずで、ほぼ不治と聞いた。一方、綾瀬は健康的な体つきで、とてもあの小柄で華奢な有栖とは思えない。でも綾瀬は「初めまして」と言わなかった。自己紹介で「チェス」というとき、微妙な間があった。コンビニでオレが家の事情でと言ったときも「そうですね」とまるで過去を知っているような口ぶりだった。
そんな思案にふけっていると玄関の呼び出しベルがなった。ドアを開けると白いワンピースを着た綾瀬が立っていた。かわいいので少し驚いたが、部屋に通すと、神妙な顔つきで「話したいことがある」と伝えてきた。先に洗面を使用したいのとのことなので、オレはベッドに腰掛けて待っていた。綾瀬は洗面から出てくると、オレの目の前に立ち、
「綾小路君、少し立っていただけませんか。」といった。オレもおずおずと立ち上あがり、向かい合った。
「綾小路君、いや、清隆君。お久しぶりです。有栖です。」と、綾瀬は顔をあげた。
綾瀬に目を合わせた瞬間、理解した。『すべてをわかっているような、包み込まれるような目』。それは綾瀬があの有栖であるという確たる証拠である。
「覚えていますか」忘れるはずなんてない。いつもあの日のこと、楽しかったことが脳裏に焼き付いていた。あとでいろいろと聞かないとな。
ようやく再会を果たした二人。
何とか清隆の部屋に行くところまでこぎつけた有栖。
さて、有栖は清隆に何を話し、何をするのか。
スマホで見やすくなるように、段落を切ったり、行間を開けたりしてみました。
感想、評価はうれしいです。よろしくお願いいたします。