当然、その夜の争いもあります。有栖は、清隆は、堀北兄はどう動くのでしょうか?
3人は生徒指導室の外に出て、歩き始める。少したって、後ろを歩いていた堀北が声をかけてきた。
「待って。」私と清隆が振り返る。
「どうして、あんなことをしたの?」
「あんなことって?」
「点数合わせよ。」
「さっき説明した通り。ただの偶然ですよ。」私が答える。
「綾小路君はどうなの?」
「――」
「ずっと私のこと無視しているようだけど、そんな子供っぽいことせずに、答えなさい。」
「――」
「くっ」
「堀北さん。あなた勘違いしています。清隆君が堀北さんを無視しているのではありません。彼の目にあなたはもう映っていないのです。それなりのことをあなたは清隆君にしました。」
堀北は、思い当たる節があるのか、はっと目を見開いた。
「まぁいいわ、問いただしても本当のことは言ってくれないでしょう。このSシステムの仕組みについてもわかっていたみたいだし。」と、一呼吸入れて
「私は今のDクラスをAクラスにあげて見せる。その手伝いをしなさい。」
「断る。」
清隆が間髪入れずに一言で返答する。
「どうして?Aクラスよ。このままその才能をDクラスでくすぶらせておくつもりなの?」
「堀北さん。あなたがAクラスを目指すならそうすればいい。私も清隆君も邪魔はしない。そもそも二人ともAクラスに興味がありません。」とはっきりという。
「じゃ、あなたたちはどうするの?」
もう堀北の言葉は叫び声に近い。
「あぁ。そうだなぁ・・オレたちは高校生活を『楽しく送る』ことに決めている。」また、重なった。
「オレたちって、あなたたち繋がっているの?」
「そのうち分かる。頑張れ堀北。」
「堀北さん。頑張ってください。」
呆然とする堀北を置いて、私は清隆と寮に帰った。清隆に櫛田からメールが届いており、二人で確認すると
「授業態度を含め、生活態度を改めること。中間テストに向けて学力向上のための勉強会を行うことになりました。」
櫛田をリーダーとして育てる一歩目が動き出した。
清隆の部屋に戻り、今日あったことをすり合わせた。
「予想していたが、Dクラスが0とはな。すこし差が開きすぎたな。」
「あの態度では仕方ないでしょう。で、これからどうするかですが。」
「まずはメンバー候補の学力を知りたい。」
それぞれにメールするとすぐに返事が来た。
「神室は70点、由佳さんが85点、椎名が80点。だそうです。」
「みんな優秀だな。立川が85点って、あの3問中2問正答か。大したものだ。櫛田も70点だしな」
「ええ、由佳さんは所作も言葉使いも綺麗なので、学力は高いと思っていましたが、予想以上です。清隆に対する行動は無茶苦茶ですが」
困ったという表情でいう。
「立川か・・やはり仲間にするのがいいか。」
この前話をした様に条件さえ揃えば申し分ない。
「はい。私もそう思います。一度、腹を割って話す必要があります。」
清隆をどうのこうのするというより、これほどの学力なら私たちの参謀として迎えるのも一手だと思った。
「中間テストか。茶柱が「必ず全員が」という変な言い回しをした。」
腕を組んで清隆がいった。
「そこ、やはり引っ掛かりますね。何か裏技があるような言い方でした。」
「小テストのような難問が出ると、全く手が出ないのは明らかです。それを回避できる何か。」
「まずは順当に過去問を手に入れてみるか。」
「普通過ぎて、裏技には思えませんが、傾向を見るには十分ですね。」
あまりに普通過ぎるため、見逃しがちだが、まずは上級生にコンタクトしてみようと思った。
「あと、メンバー候補から、0ポイントで大丈夫ですかと心配されています。ひとまず心配無用と返事を入れてあります。」
清隆と一緒に夕食を取った後、散歩に出かけた。
「あ。夜に出歩くのは初めてです。」
「そういえば、そうだな。1か月たったのに、これが初めてだ。」
二人並んでしゃべりながら歩いていると、堀北が周りを見渡して自販機の裏に入るのが見えた。
「清隆、堀北ですよ。」
「こんな時間に、あんなところに。気になるな。近づいてみるか。」
二人で、堀北を追った。
堀北を見つけると、一人の男性と話している。
「兄さん。追いかけてきました。」
なるほど、生徒会長か。なにやらAクラスを目指すという堀北にそんなことは無駄、早く学校から去れなどと口論している。清隆は端末を取り出し撮影している。堀北兄の片腕が堀北の腕をつかんだ。あの動きはまずい。本当に投げ飛ばすつもりだ。私の脚が動く。
「そこまでです。」私は堀北兄のもう片方の腕をつかみ、力を入れる。
「だれだ。」
「1年Dクラスの綾瀬と言います。」と答えると、堀北を開放した。
すると、いきなりその腕が私に襲い掛かる。早い、けど見える。その腕を身体をそらして躱すと、蹴りが迫る。かがんで躱す。続けざまに後ろ回し蹴りが準備されるが、それも躱した。
「そうか、やるな。」
堀北兄は構えを取り、間合いを詰め、攻撃の準備に入った、腕が動き始めた、「くる」。私はその攻撃の軌跡を読み、避けながら堀北兄の胸元に入り、手首を返す。「この角度で、顎先を刈り取る様に、発射」と最後の一撃を放つが、手のひらからは平たい物に当たった感触がした。
「有栖、そこまでだ。」
顎に当たる前に清隆の掌が私の裏拳を止めていた。
「これ以上は暴力事件になる。」
「はい、わかりました。」
私は力を抜いた。堀北兄は目を見開いている。堀北も壁にもたれながら呆然としている。
「お前は?」
「1年Dクラスの綾小路です。」
「お前たちは何者だ?」
「オレたちですか・・?オレたちは『普通の高校生だ(です)』。」二人の声がそろった。
「普通だと、ありえないだろ。まぁいい。」
「待て、よくないだろ。生徒会長が、夜中に一人の女子生徒に暴力をふるおうとしているところを、助けに入った、偶然そこに居合わせた女子学生にも暴力をふるっているぞ」
立ち去ろうとする堀北兄を清隆が制し、先ほど撮った動画を見ながら説明している。
「わかった。二人とも端末をよこせ。」
素早く操作したようで、戻された端末をみると50万ポイントが入っていた。
「わかった。」と言って清隆が動画を削除した。
「1年Dクラスか。鈴音、面白い友達だな。」
「兄さん、彼らはただのクラスメートよ。」
「そうですよ、お兄様。私たちは妹さんに何度も手を差し伸べましたが、彼女に拒絶されました。友達ではありません。」
笑顔で説明する私を、堀北は苦虫をかみつぶしたような表情で見ている。きょとんとしている堀北兄と目を合わせると。『妹』『援助』『何者』と浮かんだ。何かを感じた堀北兄が目をそらしたが、もう遅い。
「そうか、鈴音。Aクラスに上がるなら必死でもがけ、ただし、孤独と孤高をはき違えるな。」
また、私たちに向かって。
「二人とも、来週月曜日の昼休みに生徒会室にこい。騒がして申し訳なかった。」
と言い残して寮に戻っていった。
「あの動き、二人とも武道か何かやっていたの?」
残された堀北が聞いてくる。
「あ、私は護身術とお茶を習っていました。」
「オレはピアノと書道だ。」
「まぁ、いいわ。助かったわ。」
「じゃ。堀北さん、おやすみなさい。」
言い残して清隆と並んで寮に帰った。
帰り道で、
「有栖の動き、とてもよかった。でも、あのままだと、生徒会長が気絶した。」
「止めてくれてありがとうございました。実際、どこで止めていいか分かりません。一旦、始まると、とにかく相手が倒れるまで何も考えられなくなります。」
「あほ有栖2号」
「変なあだ名はやめてください。」と下を向く。
「戦っている最中、他のことを考えるとあぶない。いまのままでいい。何かの時はオレが止める。」
「はい、お願いします。」
「躱すのが専門か。」
「まず、体力を温存するためにあまり攻撃はしません。蹴りを腕で受け止めても、体重的に飛ばされる可能性もあります。相手の力を利用して投げ飛ばすことはできます。ただ、触れられずに避け切るのが一番です。攻撃の手は金的と鳩尾狙い。あと最後の一撃です。」
「あぁ、最初に説明してくれた。でも、今日実際に見るまで信じられなかったのは事実だ。」
「最後の一撃を放って、失敗したことは」
「今のところありません。ただ、格闘家の様に首に筋肉を纏っているような方だと、危ないとは予想しています。」
「そうだな。この高校の敷地内なら、問題ないだろう。これで、少し危険なことでもくぐれることが分かった。広がる。」
「そうですね。広く戦術を組めそうです。」
「楽しいな」
清隆がつぶやくのを聞いて、うれしくなった。
「あの兄妹は不器用です。」
「堀北か、どうした?」
「お兄さんはとても妹思いです。妹本来の姿がいいのでしょう。でも、それをうまく表現できない。妹は兄がとても好き。お兄さんに認めて欲しいと焦って真似をしています。」
「人の感情は難しい。オレには理解できない。」
「大丈夫です。私がいます。」
「そうだな。オレの隣に有栖がいる。」
まっすぐに私を見てくれている。身体がポカポカしてくるのを覚えた。
有栖の実力が垣間見える展開としました。
だんだんと中間テストに話を進めていきます。お楽しみに
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