今話は龍園君と帆波ちゃんです。
暴力事件で「負け」てしまった龍園君。
由佳に諭され、リーダーを降りる帆波ちゃん。
その経緯と思いは?
由佳Side
暴力事件のあと、帆波が委員長の座を降りた。
「みんな聞いて欲しい。入学して3か月、委員長として頑張ってきたけど、私、リーダーには向いていないと実感した。そんな弱さのある私では皆を引っ張っていけない。」
帆波が教壇に上がって宣言した。それを聞いたクラスメイト全員が驚いた。中には悲鳴を上げる者もいた。
「で、Bクラスのリーダーは神崎君にお願いしたい。」
「帆波ちゃんはどうするの?」
皆の関心はそこになる。
「私は神崎君のサポートに徹する。Bクラスの指針は神崎君が決める。それには私も意見する。で、その指針を達成するために私が皆と力を合わせる。皆の力を私達に貸し欲しい。」
帆波の真剣さに負けて、皆にきちんと意思が伝わった。
「私は納得できない。リーダーは帆波じゃないと嫌だ」
駄々っ子のような声が上がった。
「千尋ちゃん」
熱狂的な帆波信者である白波千尋が泣きながら訴えている。
「千尋ちゃん、ありがとう。でもね、私、サポートに徹したい。そのために生徒会にも入ることが決まったの。」
ここで、また歓声が沸き起こる。いい雰囲気だ。決めたシナリオ通りに事が運んでいく。さすが清隆君だ。ここまで見据えて戦略を組んでくれたんだ。
「生徒会。念願だったよね。帆波ちゃん、入れるの?」
白波が笑顔に変わる。
「うん。きっとクラスの役に立つ。神崎君のサポートもできるの。」
「わかった。じゃ、仕方ないか。」
少し寂しげではあるが、しぶしぶ納得したみたいだ。
この2日前、帆波は生徒会室のドアをノックしていた。実は5月初旬にも一度生徒会室を訪れていたらしい。南雲副会長に誘われて、生徒会に入るつもりだった。でも、その時は生徒会長に一蹴されたらしい。
今回、リーダーから降りた帆波を生徒会に入れようというのは清隆君の案だ。生徒会の情報が入るのはとても役に立つ。経緯はよくわからないが、清隆君の推薦なら一人くらいはねじ込めるということだった。
帆波には私からの推薦である旨を言うように言づけて、生徒会室に行ってもらった。
笑顔で出てきた帆波に
「よかったね。」と声をかけると
「不思議。由佳の推薦で。と言ったら、“わかった”の一言だったよ。」
「あぁ、この前の暴力事件で生徒会長と少しやりとりしましたから。」
はぐらかしたが、実際は清隆君が生徒会長に“立川由佳の推薦で一人生徒会に入れて欲しい。”とメールしてもらっていた。もう私と清隆君が繋がっていることは感づかれているから問題ない。
「由佳には本当に感謝しかない。ありがとね。」
「私はいいの。帆波さんが笑顔でいてくれれば。でも、無理しちゃだめよ。」
「うん、わかってる。困ったときは相談に乗って」
と言って私を抱きしめた。(これいい。やっぱ、おっきい)。私もつい笑顔になってしまう。
これで、神崎君をリーダーにして、帆波には恩を売った。おそらく、私の意思でBクラスを大きく動かせる基盤がそろった。お姉さまと清隆君との約束だ。Dクラスへの移動はクラスをコントロールできるようになっていることだ。これからはその実証をしなきゃいけない。
――――――――――――――――
龍園Side
くそぅ、何をやってもうまくいかない。6月末にBクラスに仕掛けたが、まんまとしてやられた。
暴力的な問題が起きたときに、誰がどう動くのか、どのくらいポイントに影響するのかを調べるための策だった。上手くいけばBクラスの参謀の神崎を停学に追い込める。たったそれだけだったのに、自分のクラスから二人の退学者を出してしまった。さらにペナルティとしてクラスポイントで150ポイントが引かれてしまった。見えかけていたクラス昇格が遠のいた。
計画が杜撰だったとは思わない。ただ、神崎がボイスレコーダーを持っているとは想定外だった。端末には注意しろとは言ったが、ほかの手段を準備しているとは思ってもみなかった。
「誰かが計画を漏らした?」
あの用意周到さ。あらかじめBクラスを狙うことが知られていた。スパイがいるのか。いや、違う。実際Dクラスも同じように嫌がらせをしていた。それに、調べたところ、DクラスもBクラスと同じような準備していたらしい。Dクラスの櫛田がBクラスにボイスレコーダーを勧めたらしい。
「誰かが俺のシナリオを予想した?」
誰だ?櫛田か?いや、櫛田にはそんな策略を組めるほどの能力はなさそうだ。ただ情報網を構築しているのが気にかかる。
Dクラスと言えば、得体のしれない綾瀬がいる。かなりの切れ者だと聞いているが素性がわからない。綾小路という男子と付き合い始めたらしいが、綾小路って誰だ?まぁ、いい。綾瀬、こいつはBクラスの立川と仲がいい。そもそも、この立川にしてやられた。あの審議に出たのが一之瀬だったら問題はなかったはずだ。なぜ、リーダーである一之瀬ではなく立川が出てきた?Bクラスは確実な証拠を持っているにもかかわらず、あたかも証拠探しをしているふりを続けていた。ここで、気を緩めたのがいけなかった。少なくとも今回のことに一之瀬は絡んでいない。神崎と立川の立ち回りだ。
何もつながらない。何がどうなっている。ひとまず、櫛田と話をしてみるか。そもそも櫛田がボイスレコーダーを持ち出したのが最初だ。
「おう、櫛田。ちょっと聞きたいことがある。」
俺は放課後、櫛田が一人になる機会をみて話しかけた。
「あ、龍園君だよね。こうやって話すのは初めてかな?」
天使のような笑顔で俺に振り向いた。(ち、この笑顔、気持ちわる。仮面だな)。
「そうだな。」
「で、何かな?」
「今回の暴力事件ことだ。」
「あぁ、Cクラス、散々だね。下手にちょっかい出すからだよ。」
俺の顔を覗き込んで、おどけているように言ったが、櫛田の表情は変わらない。
「おまえ、どうして、ボイスレコーダーを使えと?」
「どうして?・・う~ん・・・端末だけだと心配だった・・からかな。」
「後ろにいる黒幕は誰だ?」
「黒幕?何のこと言ってる?そんなの、あれだけ嫌がらせされたら、誰でも思い立つでしょ。」
「まぁ、そういうことにしといてやる。黒幕に言っておけ、必ず暴き出してやると。」
どれだけ鎌をかけても、櫛田の表情や口調に変化がない。たとえ心覚えがなくても、多少は変化するはずだが、それが櫛田にはない。すごい違和感を覚えた。
審議の時、最悪の決着点に落とし込んだ立川とも話す必要がある。一人の時がいいと、機会を伺っていたが、だいたい一之瀬か綾瀬が一緒にいる。仕方なく綾瀬と一緒にいるときに声をかけた。
「立川、ちょっと話がしたいが、時間あるか?」
「今、忙しいので、またの機会にしていただけませんか?」
ちらっと振り向いて、まるで無視するかのように言ってきた。
「ほんの少しだ。」
「由佳、せっかく待ち伏せしてまでしてくれていたんですから、少しくらいは話しを聞いてあげなさい。」
待ち伏せしていたことがばれてる。でも、綾瀬の言葉に立川も納得したようで
「わかりました。で、何ですか?変な策略を組んだ龍園君。」
かなり攻撃的な口調だ。表情もきつい。
「あ、いや・・・、この前は迷惑をかけた。それだけだ。」
う、うそだろ。俺は焦った。気持ちが高ぶって、いや、緊張してまともに話すこともできない。この二人の放つオーラに充てられた。とにかく二人とも可愛い。綾瀬は清楚だし、立川に至っては小柄で童顔、まるで小学生だ。睨むような表情も心を掻き立ててしまう。俺は決してロリコンではない。でも、あの可愛さは別物だ。前に立って顔を見た瞬間、思考がまとまらなくなった。俺はやられてしまった。
「わかりました。お姉さまとの時間を邪魔しないでください。」
立川は振り向き、綾瀬と寄り添うように立ち去った。
大事なことの一つも聞くことができなかった自分が情けない。世の中の男はこういう風に骨抜きにされるんだと実感した。
退学者が出たことで、Cクラスは騒然としている。なんとか収めて、もう一度前を向かせないといけない。俺はこれまでと今後の話をするため参謀である金田、伊吹そして山田(アルベルト)を集めた。クラス事情が悪いことが気になるのか、珍しく椎名も加わってきた。
「どうも、よくわからないことが多すぎる。中間テストも、今回の審議もだ。」
「そうね。私達だけ痛手を被っている。」
クラスの危機を感じているのか伊吹も真剣だ。
「Dクラスの櫛田は中間テストにも絡んでいた。ボイスレコーダーも櫛田の提案だ。」
「クラスリーダーになりましたね。知将も兼ねているんでしょうか。」
我々の知将金田も考え込む。櫛田にコンタクトしたが、思ったほどの成果がなかったことを話した。
「昨日、立川と綾瀬に声をかけたが、これも成果なしだ。」
何の収穫もなかったので必要はないと思ったが、活動報告の意味も含め話した。
「りゅうえん。あのふたりにてをだしたらゆるさない。」
静かな、でも重い声が響いた。椎名が俺を睨み付けている。こんな表情の椎名を見るのは初めてだ。伊吹も金田も驚いている。
「あ、あぁ。わかった。昨日も別に何かしたわけじゃない。」
「じゃあ、いいです。」
椎名がいつもの表情に戻った。そう、いつもの死んだ魚のような目に戻った。こうなると椎名は一言も話さなくなる。仲がいいとは聞いていたが、少し異常すぎないか。でも、女子同志の関係はよくわからないところがあるから、こんなもんなんだろう。
「ときに、今回の暴力事件ですが、龍園君がシナリオを描いたんですか?」
いつもなら口を挟まない椎名が聞いてきた。
「ああ、想定外のことがありすぎて、最悪の結果になってしまった。」
「二人を犠牲にしたんですね。」
「あぁ、結果的にはそうなる。」
「龍園君は、そのことに対して責任を取れるんですか?」
悪意も感じられない、ただ、自分の疑問を率直に口に出しているだけに感じた。
「ちょっと、ひより、言い過ぎ。」伊吹が椎名を制止する。
「わかってる。2年に上がるとき、Aクラスにできなかったら、俺は自主退学する。」
椎名の言葉に乗って、言ってはいけない事を言ってしまった。後戻りはできない。
「わかりました。それが龍園君の責任の取り方ですね。」
興味を失ったのか、椎名はそれから口を開かなかった。
そんな話をしていたら、アルベルトが遅れて入ってきた。
「申し訳ない。」
ここ3か月でほぼ不自由なく日本語が話せるようになっている。最近、いなくなることが多く、今日も俺の招集した話し合いに遅れてきた。
「龍園、君は立川さんに手を出したのか?」
いきなりの第一声がそれだった。その言葉をきっかけに、前に座っている椎名の表情が変わった。
「なんだ、その話は?」
とりあえず、椎名の顔を見ずにアルベルトに問いただした。
「今日、会合でその話でもちきりだった。」
会合?なるほど、こいつは俺の招集よりもその会合とやらを優先したのか。
「どんな話だ?」
「綾瀬と一緒にいるときに話しかけ、しばらく話した後、彼女が足早に走り去った。」
「ああ、その通りだ。」
「何を話した?」
だんだんと椎名の放つオーラがどす黒くなってきているのが気配でわかる。
「単に、暴力事件で手間を取らせたんで、謝罪をしただけだ。」
「ならいい」
椎名のオーラも消え去った。なんなんだこいつら。
「で、その会合とやらは何なんだ?お前がそんな集まりに出るのも珍しい。」
「しん・・・・・・」
声が小さくて聞こえない。
「あぁっ?」
もう一度と、問いただす様にせかすと、アルベルトが下を向いて、小声でつぶやいた。
「親衛隊の会合だ。」
「親衛隊?なんだそれ?」
「ゆ、由佳ちゃん親衛隊。」
金田が唖然としている。伊吹は噴き出して笑っている。椎名は嬉しそうに微笑んでいる。
「由佳ちゃんって、立川か?」
「そうだ。由佳ちゃんだ。」
伊吹が腹を抱えて笑い、涙を流している。
「き、聞いたことあるよ。裏で彼女の親衛隊がいるって。」
あぁ、ここにも骨抜きにされたバカがいた。俺もそのひとりだが・・
「ちなみに僕は設立メンバーだ。」
創立メンバーだと・・さすがにあきれてものが言えない。
「僕たちが由佳ちゃんの学園生活を守る。危険がないようにみんなで見守る。」
どうやら、暴力事件の少し前からまとまり始め、今では20数名が活動しているらしい。俺との話も誰かが監視していたらしい。あきれた。これでは誰かに探らせようにも、すぐにばれてしまう。Dクラスには強大で強固なネットワークを構築した櫛田がいる。Bクラスにはそこいらじゅうの男子生徒を骨抜きにできる立川がいる。そしてこの二人と綾瀬が繋がっている。不思議と綾瀬は表立って動いていない。単にその二人と仲がいいというだけしかない。綾瀬が黒幕?裏から二人の糸をひいているのか?これほど表に出ずに行動できるものなのか?確かに立川は綾瀬の言いなりだった。でも櫛田は?奴が飼いならされているようには思えない。黒幕が綾瀬の筋はないか。。
その後すぐに、一之瀬がBクラスのリーダーから降りたと伝わってきた。神崎が後釜に座るらしい。あの一之瀬が降りた?そして生徒会に入る?詳しいことまでつかめなかったが、この流れにも立川が関係しているらしい。また、立川か、いったい何者だ。立川をもう少し探りたいが、多分、あいつの前では腰砕けになる。女子か。伊吹か。椎名は論外だな。伊吹にまかせるしかないか。全く違う人種に近づけるのか。親衛隊の存在も忘れてはならない。あぁ、めんどくさい。
わからん。
いいように踊らされている気がする。もし、本当に黒幕がいて。そいつがシナリオを描いて、裏で行動しているとしたら、そいつは俺よりも数段上の策士ということになる。
そんな奴、存在しないだろ。
龍園君は原作より少し抜け気味です。アルベルトは由佳にぞっこんで親衛隊の参謀です。
帆波ちゃん。肩の荷を下ろして、参謀としてクラスをまとめていくのでしょう。
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