月140万ポイントの譲渡を行わなくてはならない龍園。さて、どうする。
神室Side
今日、体育館で上級生との顔合わせを行っているとき、龍園に声をかけられ、放課後にあうことになった。葛城と一緒に行きたがったが、一人で来て欲しいということだったので、仕方なく待ち合わせのカラオケルームに行った。きっとプライベートポイントに対する交渉だ。立場は私の方が上だから、ひるまず堂々としていよう。
相変わらず有栖さんはすごい。船から降りて、新学期まで1週間を切ったころ呼び出された。
「9月に入ったら、龍園が相談にきます。プライベートポイント支払いの減額、あるいは契約の破棄。いずれにせよ、契約内容の緩和についての相談となるはずです。」
「契約の破棄?ありえないでしょ。あの試験の間中、私はずっと緊張させられていたんだ。」
「真澄さん。だいぶわかってきましたね。」
笑顔で褒められると、なんだか恥ずかしい。それに今日は有栖さんの目がそれほど怖くない。
「でも、いまは私の指示に従ってください。」
「あ、はい。」
いずれにせよ、私は支配されている身だから、有栖さんには歯向かえない。
「このままではCクラスが破産してしまいます。それも一興ですが、もっと面白くしたいと思います。真澄さんにも楽しんでいただかないと」
「で、どうすればいいんですか?」
「おそらく、Cクラスはクラス預金があります。それと、宝石試験で獲得した分もあります。」
「うん。それに毎月入ってくるプライベートポイントを合わせて、毎月140万を私に支払ってくるはず。」
「はい、でも、収入より支出の方が大幅に大きくなります。」
「140万でも一人当たり、5万くらい。クラスポイントが500くらいのはずだから、みんなから3万位集めて、不足分をクラス預金から捻出すればいいんじゃ。」
「その500という前提が崩れます。」
「えっ?」
「9月になればわかります。で、3万集めるのが無理となって、クラス預金を食いつぶすと?」
「破産」
「ですよね。」
「おそらく龍園は、手持ちのプライベートポイント全額の一括譲渡を餌に契約の緩和を切り出してくるでしょう。」
「どうしてそんなことが分かるんですか?」
「私ならそうするからですよ」
あ~、一瞬で悪魔の表情になった。
「うっ。で、どのくらいになるんですか?」
「はっきりとはわかりません。ただ、600万ちょっとくらいかと。」
「ろ、600万ですか」
「少ないですよね?」
「い、いや、多くて驚いた。」
「ふふ、可愛いですね。」
また下を向く。
「でも、よく考えると、クラスにも私にも何の得もない・・・」
「そう、そうなんです。たとえ龍園が全額だそうが、真澄さんに何の得もないんです。」
なんだか嬉しそうな表情だ。私まで微笑んでしまいそうになる。
「全額貰って、不足分を私が得する何かを代償として払わせる・・か・・」
「今だと・・私たちのクラスをもう一度Aクラスに押し上げるサポートかな。」
「いいですね。それと、龍園、どうやら1年のうちにAクラスにあげられなかったら、自主退学すると言ったらしいです。これを撤回させてください。」
「あんな奴、退学させておけばいいんじゃないですか?」
「それでは楽しくありません。」
有栖さんがいつものように怖い微笑みを浮かべながら言った。
「で、龍園、今日は何?」
「ああ、無人島試験の時、結んだ契約について、頼みがある。」
「頼み?契約通りにしてもらえればいいだけだけど・・まぁいいわ、話を聞きます。」
「クラス預金、並びに前回の船上試験で確保できたプライベートポイント全部を譲渡するから、あの契約を破棄してもらえないか。」
ぞくっとした、有栖さんの言っていた通りのことが目の前で起きている。無人島試験の時もそうだった。プライベートポイントを狙った契約を結ぼうとする奴が現れると。
「ねぇ龍園。もし逆の立場で、私たちが龍園にそうお願いしたら、あなたは聞き入れるの?」
「うぅっ」
「そうだよね、きっと、おもしろおかしく、いたぶりまわすよね。」
「無理難題を押し付けて、困り果てる私たちを笑いものにするよね。」
「私たちの人としての尊厳までも打ち砕こうとするよね。」
あぁ、気分がいい。絶対的な上の立場からの物言い。相手は一切言い返すことができない。そう、私も有栖さんに対してそうだった。有栖さんに何を言われても耐え忍ぶしかなかった。
「まぁ、いいわ。Cクラス、いや、いまはDクラスか、いかに困っているかわかるし。」
「いいのか?」
「当然ですが、条件があります。それほど無理な条件ではありません。」
1、 龍園クラスが現在保有しているプライベートポイントをすべて、神室真澄に一括譲渡すること。
2、 神室クラスがAクラスに上がれるまで、今後の試験で協力すること。
3、 龍園翔はどのような事情があっても自主退学しないこと。
4、 第1,2項目が守られている限り、前契約の執行を保留する。
5、 第1,2項目が守られている限り、この契約は2年生になるときに、前契約と共に自動的に消滅する。
「どう?」
「3番はどういうことだ?」
「聞いたわよ。1年生のうちにAクラスに上がれなかったら自主退学するって。」
「あぁ、そのつもりだし、ほぼ決まったようなものだ。」
「それを撤回してほしい。」
「なぜだ?」
「そっちの方が楽しいから・・みんなの前で、頭を下げるの。ふふ。」
あぁ、すごくワクワクする。龍園が押さえつけていたみんなの前で頭を下げる。想像しただけで身体が震える。
「ち。わかった。」
龍園が震えている。屈辱を受けていることに対する怒り?それとも皆の反応に対する恐怖?
「すごく優しいでしょ。1年生の間はAクラスに上がれるよう協力すること、自主退学しないこと。ただそれだけ。」
「わかった。これで契約する。」
契約の件だとわかっていたため、真嶋先生に都合をつけてもらっていた。早速、部屋に招き入れ契約を結んだ。
「じゃぁ、いまから、650万プライベートポイントを送る。」
「ちょっと、龍園。勘違いしてない?全プライベートポイントよ。あなたのクラスの持っている全部。」
「な、なに?」
「そういう契約でしょ。」
「つまり、クラス全員の手持ちが0ポイントということか。」
「そう書いてあるし、そう契約した。来月まで0ポイントで生活すればいいだけ。」
龍園が睨み付けているが、臆することはない。これが契約だ。さすがの龍園も140万払わなくていいということに意識が集中していて、「全部」を考えきれなかったらしい。
「わかった。明日の放課後までに集める。」
「よろしくね。放課後にそっちに行くから、その時回収するわ。」
今朝の発表で、龍園クラスは350クラスポイントだった。一人当たり3万5千。26人だろうからそれだけで91万ポイント。聞いた話では毎月3万5千ポイントをクラス預金としてプールしているらしい。これで、約400万ポイント。先月までの分を残している人も多いはずだ。平均で5万ポイントとして、130万ポイント。合計で870万くらいか。そのうち7割を有栖さんに渡すんだから、260万くらい残る。宝石試験の時300万ポイント確保できたから、合計で560万ポイント。これはいざという時に出せるよう私が管理しよう。
まぁ、龍園クラスをいじめても得にならないから、龍園以外には1人1万5千ポイントずつ配ろう。少しは私のクラスをサポートする気になるだろう。
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龍園Side
やられた。
毎月の140万ポイント支払いという足かせが消える事に意識を持っていかれた。
「保有するポイントのすべて」
確かに、“すべて“とある。契約書に目を通した時、これはクラス預金のすべてと思い違いをした。でも契約は契約だ。全ポイントを譲渡しないと、毎月140万ポイントの支払いがぶり返してしまう。クラスには10月頭の振り込み日までの1ヵ月を0ポイントで生活をしてもらわないといけない。
次の日、重い身体を引きずるように登校した。坂上先生の朝のホームルームの時間を使わせてもらい、これまでのいきさつを説明した。
「なにやってんだよ。」「Aクラスまで上がれないじゃん。」「0ポイントって・・」
クラス全体から叱責を、失笑を受けた。何を言われようが、ここは短気を起こさず、理解してもらうしかない。
「すまなかった。一からやり直す。俺にもう一度チャンスをくれ。」
精一杯の虚勢を張っての言葉を口にした。
「わかりました。持っているすべてのポイントを貴方に預けます。」
椎名だ。一番先に声を出して、俺のやるべきことを推してくれた。その声を皮切りに、何とかクラス全員から“ひとまずの賛同”を得ることができた。
放課後、神室が教室に来た。皆が睨み付ける。
「あれ、変な雰囲気。ひょっとして私が悪者なの?」
顔を引きつらせている。
「私は龍園君にお願いされたのに、随分な扱いね。」
少し俺の方に視線を動かした。
「わるい。」
「みんな。悪いのは俺だ。神室は助けてくれようとしている。」
(悔しい・・なんてざまだ・・身体も震えてやがる)。
「じゃ、プライベートポイントを私に振り込んで。」
全員が端末を操作し、保有のプライベートポイントをすべて、余すところなく神室に振り込んだ。俺も、同様にクラス預金を含め、全ポイントを送り込んだ。Dクラスの保有ポイントが個人も含め「0」になった。
「はい。受け取ったわ。これで、毎月の支払いはチャラにしてあげる。」
「あと、私のクラスをAクラスにあげるお手伝いを忘れずに。」
「龍園、もう一つ忘れてないよね。」
神室が俺に話しかけた。
「あぁ、わかってる。」
「みんな聞いてくれ。俺はお前たちを1年生のうちにAクラスに上がれなかったら退学すると約束した。」
「それを撤回させてほしい。」
聞いている生徒から明らかな失笑が浴びせられている。
(ここは我慢だ。耐えろ)。
「本気だったんですね。」
椎名の声が聞こえた。
「今回は、あなたの約束を取り消せということを含んでの契約ですか?」
さすがの洞察力だ。
「あぁ」
「だったら仕方ありません。」
その声で、全員から了承が得られた。
顔を上げると、神室が嬉しそうに笑っている。俺たちのクラスは1年生のうちは神室クラスのサポート役に徹しなければならない。もし、反発すれば、月140万ポイント支払うという契約が復活する。
生徒の多くは0ポイントになった現実を感じ始めていた。
「1ヵ月、生きていけるのか」「欲しいものが買えるまで、やっとためたのに」「0かぁ」
そんな声がする中、神室が端末を操作すると全員、正確には俺を除くクラス全員の端末にメール着信の音がした。それを見て、全員があっけに取られている。
「これは私からのプレゼント。これからも私達Bクラスのサポートをよろしくね。」
笑いながらそう言い残して、教室から出て行った。
教室の扉が閉まった瞬間、大きな歓声が起きた。「ありがとう。」「感謝します。」「何でも言ってくれ。」めいめいに叫ぶような声を上げている。
何が起きている?
隣の金田に確認すると
「いま、神室さんから1万5千ポイントが振り込まれました。これで、1ヵ月は何とかなりそうです。」
この全員が落胆した状況に、ほんの少しの慈悲を見せただけで、神室はこのクラス全員を掌握した。俺がまとめあげるのに1ヵ月かかった。状況が違うとは言え、ほんの一瞬で掌握しやがった。
これまでの経緯を考える。
まず、中間テスト。Dクラスから神室に過去問が共有された。が、自分のグループ内での使用にとどめた。葛城を追い込むつもりだったはずだ。そして無人島試験。俺の提示した契約にペナルティ項目を追加し、そのペナルティを俺達が被らされた。宝石試験では、葛城を抑え、躊躇なくDクラス提案にのった。神室の周りだけ上手くいきすぎている。
なんだこの違和感
Dクラスに抱いている違和感と似たものがある。ひょっとして繋がっているのか。いや、考えすぎか・・神室と元Dクラスの生徒に交友はなかった。あるとしたら櫛田だが、あいつの周りに神室がいたことはなかった。
何がどうなっている?
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神室Side
一通り終わって、Dクラスの教室から出た。
あの龍園が私に従わざるを得ない状況だった。こんな感覚は初めてだ。教壇に立っているときはその感覚に倒れそうになった。
端末をゆっくりとみると、ポイントが880万ほど増えていた。龍園以外の全員に1万5千円ずつ配ったから、Dクラス全員のポイントと龍園からのポイントで920万ほどだったようだ。予想より多く貯めていたようだ。有栖さんには7割、640万を振り込めばいい。残りは240万。これはクラス活動資金として活用しよう。きっと役に立つ時が来る。
やっぱり少し抜けている龍園君。いいとことまでは行きますが、何かと失策をしていますね。
有栖達のアカウントに櫛田から1850万、神室から640万ポイントが振り込まれました。
これで、9月2日現在、3190万ポイントとなります。
しばらく体育祭関係が続きますが、その中にイベントを入れていきます。
お楽しみに