※この作品はR-18です。

ようこそ有栖と清隆の教室へ   作:愛奴

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ふぅ。
やっと体育祭です。


9月5週‐10月1週
98. 体育祭


10月1日の朝、起きてすぐに端末を確認した。振り込まれているのは7万ポイント。先月から2千ポイント減少。日常減点によるもので、ほんの些細なことでも対象にされているから、この位は避けようがない。各メンバーからも振り込みの情報が集まってくる。

真澄からは9万7千ポイント、帆波からは11万8千ポイント、ひよりからは3万2千ポイントだということだ。各クラス20から30ポイントが日常減点として引かれているようだ。

「由佳、今月はいかがでしたか?」

「あ、今確認します。」

由佳が端末を起動し、確認した。

「65万ポイントですね。学食から58万となります。」

「シラス尽くし、かなり好評だったようね。」

「多分、平均振込ポイントなら由佳が学年一番だろう。」

「そうですね。副業をしている話は聞きますが、10万20万くらいの話でした。」

清隆の言葉に、嬉しそうに由佳が答えた。由佳の持つ情報収集とその裏取の能力は高く、いろんな情報が入ってくる。この副業の話は学食の調理担当の女性からのものらしい。

 

3人とも必要なポイントを残し、共同アカウントに振り込んだ。

「まだまだ足りませんね。」

「え、お姉さま、どこまで貯めるんですか?」

「最低6000万は必要だからな。」

清隆が答えた。そう、3年終了間際で3人分のクラス移動分は貯めておきたい。

「いずれ、大量に稼げるイベントもあるだろう。」

「そうですね、1年の前半だけでここまで来ました。大丈夫でしょう。」

「最低3人か・・」

由佳が天井を見つめ、納得した様に笑顔になった。

 

「さて、今日は体育祭です。由佳、日焼けには要注意よ。」

「はい、お姉さま。怪我をしないよう注意してください。」

 

 

 

今日は一日、体育祭となる。1ヵ月の準備期間を経て、ようやく本番だ。学校に着くと、ジャージに着替え、校庭に集まった。開会式の後、すぐに競技が始まった。まずは全員参加競技からだ。

 

順当に勝負がついて行くが、すぐに違和感を覚えた。

「やっぱりね」

 

競技はタイムスケジュール通りに順調に進んでいく。

 

―――――――――――――――――

 

そして障害物競走だ。いろんな障害、と言っても、全員参加競技なのでネットくぐりや、平均台渡りといった、ごくごく普通の障害が5種あって、それを抜けると、3台の低めのハードルを含む50mの徒競走となる。

 

私の出走順番となった。同じ組にDクラスの伊吹がいる。

「あ、綾瀬さん。無人島では世話になった。」

仲良さげに私に話しかけてきた。

「いいえ。Dクラスもいろいろと頑張ってください。」

涼し気な笑顔で応対する。

スタート直前になって、1つ後ろのDクラスの生徒に呼びかけられている隙に、隣にいた伊吹がかがんだ。足の甲に靴ひもがほどかれた感触があったが、気づかない振りをした。

「よーい」の声の後、ピストルから発射音に似た電子音が聞こえた。

「きゃ」と可愛い声を出して、つまずいて見せる。

前を走る伊吹が振り返り、にやりと笑った。

すぐに靴ひもを結び直し、競技に戻る。これで、違和感なく伊吹の後ろを取れる。靴ひもをほどく程度のことしかやらないわけがない。きっと仕掛けてくる。

伊吹が速度を調整し、私との距離を詰めてくる。ネットくぐりでは、わざと蹴り込んでくるし、平均台ではよろけたふりをして、私を巻き込んで落下させよとしてきた。いらだたせようとしているのだろうが、やっていることが幼稚だ。私はそのような邪魔工作を軽くいなし、伊吹の後を追って最後の50mハードルに入った。

2台目のハードルで、それは起きた。伊吹が速度を調整し、私との差を2歩程度とした。目前のハードルを飛び超えずに、わざとひっかけて転んだ。ちょうど私もそれに巻き込まれる形となった。このままでは、伊吹の上に、折り重なるように身体が預けるような恰好になりそうだ。

ふと見ると仰向けになった伊吹が笑った。腰あたりにこぶしを準備している。そのこぶしが私の顔面に向けて放たれた。

「なるほど、この無茶な体勢なら、周りから疑われないか。」

迫るこぶしを首をかしげて躱し、その勢いを利用して前転しながら立ち上がり、難なく1位でゴールした。

「まったく、凝りもせず姑息なことを・・・」

 

―――――――――――――――――

 

次は騎馬戦だ。私の組は櫛田、佐倉、軽井沢が騎馬を組み、私が上に乗る。ふと見るとDクラスの大将は伊吹らしく、大将たすきをかけて上に乗っている。私のCクラスの大将は小野寺をリーダーとして運動神経に自信のあるメンバーが騎馬となり、体重の軽い由佳が上に乗る。何があっても逃げ切れる作戦だ。

 

「ねぇ、桔梗。」

「な、なに?」

「多分、Dクラスの伊吹が仕掛けてくる。取っ組み合いになると思う。」

「逃げようか?」

「ううん。そろそろ決着をつけます。」

「どうすればいい?」

「取っ組み合いになったら、私を相手の方に押し付けながら騎馬を崩して、怪我をしないように離れてください。」

「わ、わかった。」

 

号砲が鳴ると、それぞれのクラスの騎馬が動き始める。由佳の騎馬は一番後ろに下がっている。私達は、果敢にDクラスの騎馬と相対することになっている。

案の定、一番に伊吹の騎馬が仕掛けてきた。

鉢巻なんて眼中にないようで、いきなり私の腕を取ろうとしている。

「とにかく私に怪我をさせたいわけね」

しばらく押し合い、頃合いを見て、伊吹に腕を取らせると、力いっぱい引っ張られた。

「桔梗」

声をかけると、私の身体を浮き上がるようにしてくれ、その体制のまま伊吹の騎馬にのしかかった。打ち合わせの通り、櫛田たちは離れたようだ。私は伊吹に身体を預ける形になっている。いきなり私がのしかかったため、騎馬が崩れ始める。伊吹が私の身体を引き込んでいる。騎馬崩壊を利用し、地面に落ちたとき、私を下敷きにするつもりなんだろう。無人島の時の意趣返しか。

引き込もうとする伊吹の腕をつかむ。いよいよ騎馬が崩れる。同時に伊吹の腕の関節あたりに自分の腕を挟み、腕を曲げさせ、そのまま落下の勢いを利用して腕に体重をかけた。昔、膝関節に木っ端を挟み、正座をさせた上に石を置く拷問があった。それの肘バージョンだ。

「ぐぎゃー」

伊吹が悲鳴を上げた。多分肘関節のいくつかの腱が伸びただろう。起き上がり、伊吹に声をかける。

「いたた・・・い、伊吹さん。大丈夫?」

皆が駆け寄る。

「わ、私、ご、ごめんなさい。落ちた拍子に・・・」

狼狽えながら、腕の痛みに耐えかねて丸くうずくまっている伊吹に話しかける。

茶柱先生が駆け付けてきた。

「綾瀬、お前は大丈夫か?」

「あ、はい。わ、私は大丈夫です。」

慌てているふりをしながら、身体をあちこち触って確認する演技をする。

「保険室に・・私が連れていきます。」

腕を抱え、痛みに耐える伊吹を気遣いながらその場を後にして保健室に向かった。

 

「伊吹ぃ・・ごめんねぇ~。ははっ、痛いよねぇ~。」

ふざけた口調に変えて、伊吹に話しかける。

「て、てめー、何した。」

「なにした?貴方が先に仕掛けるものだから、つい」

痛めた肘関節を鷲掴みにして追い打ちをかける。

「ぎゃぁ・・い、いったぁ。何すんだよ。」

 

「伊吹・・・次は・・折るよ。」

 

私は伊吹の耳元でそっとつぶやくと、伊吹が身体を硬直させる。

 

「ま、まさかわざと・・」

「さぁ、どうかしら?ふふっ」

 

だんだんと伊吹の顔から血の気が引いていく。これで、しばらくちょっかいは出してこないだろう。それに、Dクラス女子の総合力を削ることができた。

 

―――――――――――――――――

 

全員参加競技が終わったところで、遅めの昼休憩となる。木陰で昼食を取った。須藤と櫛田がそこに入ってきた。雑談しながら学食提供のお弁当を食べた。多分、由佳のレシピだろう、極上である。少し塩分を多めにするという配慮もうかがえた。

 

「健、気づいているか?」

清隆を挟んで、須藤、櫛田と4人で座っていると清隆が須藤につぶやくように言った。

「あぁ、なんだかおかしい。」

「え、何のこと?おかしいって何が?」

一番端の櫛田が清隆に質問する。

「いや、どう見てもおかしいだろ。俺の出るときは必ず運動神経に疑いのあるやつが出てくる。俺は一番になれるが、他の組ではDクラスが苦戦している。」

須藤はスポーツが絡むと頭の回転が良くなる。

「そういえばそうね。女子の時も有栖や堀北さん、小野寺さんはいつも楽勝。」

「偶然にしてはよく出来すぎていますね。」

櫛田の言葉に私がかぶせる。ようやく櫛田も気が付いたようだ。

 

「ねぇ、出場者のメンバーリストが漏れているって言うこと?」

 

「あぁ、それ以外に考えられない。」

 

「でも、まぁなんとかなるだろう。苦戦しながらも俺たちが学年一番は硬いんじゃ・・」

須藤がここまで言ったところで、得点ボードを見る。最新の状態でトップは龍園のDクラスだ。

 

「まずいな・・・」

 

「あぁ、残りの競技の結果次第でオレ達は2番になる。」

「健、お前が体育祭のリーダーだ。この先の展開次第では櫛田に顔向けできなくなるぞ。」

 

「お、おう。ちょっと皆に発破をかけてくる。櫛田、女子の方を頼めるか?」

「うん。いいよ。じゃ行こうか。」

二人並んでクラステントに戻っていった。

 

「あの二人、なかなかいい感じですね。」

「あぁ。櫛田も須藤を気にかけているみたいだな。ま、長い時間を共にできている二人だから、相性は悪くないんだろう。」

 

 

実は1週間ほど前、Bクラスの神室から連絡が入ったので、いつもの様にカフェで待ち合わせた。

 

「真澄さん、少し待たせましたか?」

先に席についていた神室に声をかける。

「あ。有栖さん。ちょっと前に着いたばかりですって、まだ、約束の時間になってないです。」

「待たせては、と思い少し先に着くようにしたんですが・・」

と申し訳なさそうにすると、神室があからさまにどぎまぎし始める。きっと、私の態度に混乱しているのだろう。

 

「で、何か話があるって聞きましたが。」

席についてオーダーを済ませた後、切り出した。

「体育祭のことで、耳に入れておいた方がいいと思って・・・」

 

「ふぅん・・・出走リストのこと?」

「え、どうしてわかるんですか?って当たり前か・・」

 

「はい、この時期に真澄さんからの話って、そのこと以外にないと思います。」

「それで?」

 

「実は、DクラスがBクラスのサポートをするってことは聞いてますよね」

「はい、真澄さんが龍園に仕込んだことですね。」

「いや、あれは有栖さんの・・・ま、いいか。」

 

話の内容は、龍園がAクラスとCクラスのリストを手に入れており、そのリストを参考にBクラスの出走リストを作成したということだ。Cクラスの須藤や高円寺には運動能力の低い生徒を当て、それ以外のところで勝ち点を稼ぐ。運動能力の差があるため、Bクラスを1位にするには無理があるが、Aクラスには勝たせる。また、Dクラスは何とかCクラスの上、1位を取るための布陣だそうだ。

 

Cクラスのリストが漏れることは予想していたが、Aクラスにも裏切者がいることがはっきりした。

 

「ところで、Aクラスのリストは誰が龍園に渡したんでしょうか?」

「それは、わかりません。ただ、Cクラスのリストは・・・」

 

「堀北鈴音・・でしょ。」

 

この言葉には驚いたようだ。目を丸くしている。

 

「そ、それもわかっているんですね。」

 

ふとしたきっかけで、彼女が龍園にリストを渡すところを見たらしい。

 

「あのリストを網羅できるのは彼女くらいしかいませんからね。」

何度も見直したけどリストの作成からずっと携わってきたし、彼女の才能なら覚えることもたやすい。

神室に情報のお礼を言って、情報量としてプライベートポイントを送ろうとしたが、Dクラスから徴収したポイントがあるから大丈夫と、受け取らない。

「真澄さん、それは貴方個人のポイントではありません。クラスの運営に使いなさい。」

そういうと、はっとして、こちらから送った10万ポイントを受けとった。

(一つ一つ、教育していかないと)

 

おうちに帰り、清隆、由佳と今日の話を共有した。

「Aクラスのリストが漏れているんですか・・」

由佳が寂しそうな顔をしてつぶやく。おそらくAクラスのことというか、帆波と神崎のことを心配しているんだろう。

「由佳、心当たりは?」

清隆が聞くと

「多分、千尋ちゃん。」

「え、あの、帆波教信者の白波?」

「はい、お姉さま。彼女以外に考えられません。」

 

「白波は何がしたいんだ?」

「多分、予想ですが・・・神崎君を追い込んで、帆波さんをもう一度担ぎ上げたいんじゃ。」

 

 

推薦参加競技となる午後のパートが始まった。

―――――――――――――――

清隆Side

 

 

この体育祭で唯一運動能力だけでは勝てない競技が「借り物競争」だ。

オレも有栖もそれに出ることになっている。スタート後、箱の中から1枚の紙をひき、そこに書かれている「お題」をゴールに運ぶというものだ。困難なお題だとパスし、もう一度引き直すことができるが、パスのペナルティーもある。つまりお題によってゴールできる時間が大きく変わってしまうのだ。

 

「運も実力のうち」か。

 

前の組で「130㎏を超えるもの」というお題が出たようだ。そんなものあったとしてもタイヤが付いていないと運んでこられない。唯一、2年生に130㎏を超える生徒が一人いるらしく、その生徒を見つけらたらしい。でも、足が遅い。走れてない。そのため、6着になってしまった。

そんな具合で、会場が結果に一喜一憂する。

いよいよオレの番だ。簡単なお題であることを祈りながら、箱の中から1枚の紙を引きあげ、開いて中を確認する。

「よし。もらった。」

オレは自分のクラスの方に駆けていき、

「由佳、来てくれ」

と呼びかけた。どういうわけか、クラスメートたち全員がオレの方を向いてどよめく。

「はい」

由佳も赤い顔をしてこちらに来た。オレは片手を膝あたりに下し、少し腰をかがめると、由佳が飛び込んできた。そのままお姫様抱っこで由佳を抱え上げ、ゴールに向けて走った。周りからすごい歓声が聞こえてくる。ゴール手前でBクラスを抜いて、何とか1位でゴールできた。

アナウンスが入る。

「さて1位は1年Cクラスの綾小路君です。お題を言ってください。」

運営係がマイクを持ってくる。オレはお題の紙を広げ運営に見せながら読み上げた。

「一番かわいいもの」

読みあげた瞬間

「うぉおおぉ~」

学校全体が揺れるほどの歓声が上がった。由佳は恥ずかしいのか下を向いてもじもじしている。それ見てさらに

「うぉおおぉ~」

再度、歓声が上がった。

「お待ちください。かわいいものですよ。立川さんはものですか~?」

運営がマイクで質問する。

「ものを漢字に変え、人を表す者と読んだ。」

「なるほど、一番かわいい人ですね。皆さん。いかがでしょうか~?」

会場が歓声で包まれた。

「合格」

皆が拍手した。何とか終わった。

 

「由佳、ありがとうな。」と礼を言うと

「清隆君、さっき、みんなの前で由佳って呼んだ。」

だからさっきどよめいたのか。いつも皆の前では立川呼びしていた。

「いい機会だ、これから由佳と呼べる。」

「うれしい。やっとだ。」

本当嬉しそうな表情である。ここで抱きしめ、押し倒したいが何とか我慢した。せっかくなので、しばらく一緒に観戦した。

 

有栖の番だ。お題を確認するとすぐに自分のクラスの方にいって

「桔梗、あと、愛里、お願い」と二人を連れ、次はAクラスにいって

「帆波、来てくれる?」と一之瀬を連れ出し、4人でゴールに向かって走り出した。

 

「おっぱいがいっぱい。」

由佳がつぶやく。

「そんなお題、出ないだろ。コンプライアンスに引っかかる」

確かに走る振動で、4人のおっぱいが上下に激しく揺れている。男子生徒が騒いでいるなか、有栖も1位でゴールした。

 

お題は

「大きな友達3人」

読みあげられると今日一番の歓声が上がった。有栖が連れ出したのは、天使系、グラビア系、快活系、それぞれのカテゴリーでトップメンバーだ。それに揃いも揃って巨乳だ。由佳のつぶやきが当たっていた。隣にいる由佳が肩で押してきた。

「由佳の勝ちだな。」

 

「大きな友達ですか?特に背が高いようには」

運営が有栖に質問する。

 

 

「いや・・・・・どう見ても大きいでしょ。」

 

 

間をうまく使って有栖が答えると、大きな歓声が起きる。

「合格」

全員が拍手した。

 

推薦参加競技のすべてに出る須藤のお題は「いやなもの」で、一目散に自クラスのテントに向かい、自分のバッグをもって走った。

 

「これは何ですか?」

「教科書だ。」

 

会場に笑いが起こる。

「いやなのに、いつも持ち歩いているんですか?マゾですか?」と運営担当に言われると

 

「勉強を見てもらっている先生に、暇なら教科書でも見てろ。と言われて・・」

 

恥ずかしそうに答えると、さらに会場が爆笑に包まれた。Cクラスのテントでは櫛田が恥ずかしそうに下を向いた。

「確かに嫌なものですね。」

「合格」

 

―――――――――――――――――

 

最終競技は1200mリレーだ。体育祭の花形競技だ。各クラスから男女3人ずつを選出し、一人200mのリレーだ。スターターは女子、その後男女交互にリレーし、アンカーが男子となる。

私たちのクラスからは体力測定の結果から、平田、須藤、清隆、小野寺、堀北と私の6人だ。事故さえなければ上級生も圧倒するだろう。

平田の代わりに高円寺が出れば盤石だが、それは叶わなかった。とにかく高円寺はマイペースだ。このままでは何にも出ないかもしれないと思ったが、何とか全員参加競技への参加と、推薦参加競技の男女混合二人三脚は出てくれるようになった。この説得は由佳が率先しておこなった。代償として男女混合二人三脚は由佳と高円寺がペアとなるのが条件だった。体格がトップラスの高円寺と、ほぼ底辺(やせ型、低身長)の由佳のペアがどうなるのか興味があったが、練習にくることはなかった。

 

本番は周りを圧倒した。由佳は高円寺と片足を結び、あいたもう片足を、その結んだ足の上に置く。脇から回された高円寺の腕が由佳の身体を浮かせ、由佳は両手で高円寺の腰を抱き締める。

号砲と同時に、高円寺が走りだす。由佳は振り落とされないようにしがみ付くことに集中するだけでいい。高円寺組がゴールをしたとき、他の組はまだ半分にも達していなかった。あちらこちらでブーイングが起きる。

「あれは二人三脚じゃない。」というのだ。

あまりのブーイングが収まらないので、運営が説明に入った。

「え~、先ほどの走行ですが、ルールには抵触いたしません。したがって1位と認定します。」

「ルールは、競技者の片足同士をたすき等で縛り、号砲とともにゴール目指して走る。とあり、先ほどの方法もルールにのっとっております。」

この説明とともに、会場のブーイングは収まった。そのあと、由佳たちの方法を真似るものも出てきたが、早々うまくいくものではない。躓いたり、体力が持たなかったりで、普通に走る方が明らかに速く走れることがわかると真似る者はいなくなった。

あれは高円寺の抜きんでた筋力と走力。由佳の軽い体重と振り落とされないようにしがみ付き続ける根性の賜物だ。

後で聞いたが、由佳は一度高円寺と会い、その時、由佳が提案、ルールの確認をして、本番に臨んだと。高円寺からは「なかなか面白い、いいぞ、立川ドーター」と褒められたそうだ。

 

さて、1200mリレーだが、1走、つまりスターターは堀北、2走が平田、3走小野寺、4走須藤、5走が私、6走アンカーは清隆だ。400mトラックだから、メンバーは男女に分かれて待機となる。

Dクラスは意気消沈している。それもそのはず、選手として伊吹が登録されていたが、もはや走れる状態じゃない。代理の者が出走するようだが敵ではない。ただ、私たちCクラスは上級生をも抑えて1位取らないと、学年トップは確保できない。それ以外だとDクラスが学年トップになってしまう。

 

 

号砲が鳴った。

一斉に12人の女子が走り出す。

「きゃ」

一人、スタートラインから5mほどのところで転んだようだ。

「堀北・・・」

そう、私達のクラスの1走堀北が転んでいる。

 

「ここで・・そうくるよね・・・」

 

堀北はすぐに立ち上がり、皆を追うが差は大きい。その差が縮まらないうちに平田にバトンが渡った。

―――――――――――――

清隆Side

 

 

スタート時点で堀北がつんのめるように転倒した。すぐに起き上がり、走り始めたが、明らかに遅い。堀北の走力なら、最初の転倒からでも5,6位までは取り戻せたはず。全員参加の100mの時とは比べ物にならない。

 

「手を抜いている」

 

平田にバトンを渡すと、待機所の近くにきた。

「堀北、大丈夫か?怪我はないか?」

「あ。え。えぇ。大丈夫よ。ごめんなさい。ひっかっかてしまって・・ビリだった。」

「ま、怪我無く、平田につなげたからよしだ。」

心配して声をかける須藤に対し、にがにがしい表情で堀北が答える。ふっと堀北兄が鬼の形相で見ているのに気が付いた。

 

「なるほど、やはり気づくよな」

 

平田は何とか3人抜いて9位まで順位を上げて、3走の小野寺にバトンをつないだ。

 

「会長、俺と勝負しましょうよ。」

近くで金髪の男子が堀北兄に話しかけている。

「南雲、何の勝負だ。」

(こいつが南雲か)

「多分、俺たちの2年Aクラスと、会長の3年Aクラスがほぼ同着で俺たちアンカーにバトンが渡るでしょう。」

「どちらがゴールテープを切れるかで勝負しましょうよ。」

「断る。」

「え、つれないなぁ。いつもそうやって逃げますけど、自信ないんですか?」

「勝負にならないからだ。それにお前はもっと周りを見た方がいい。」

ほぼ無表情の堀北会長とへらへらした笑い顔の南雲の対比が面白い。

「まぁいいや。いずれにせよ、俺が最初にゴールしますからね。覚悟してください。」

と言って、3走から4走への連携を見守った。

 

小野寺もよく走った。各クラス、走力に自身のある生徒をそろえたとあって、200mで追い抜くのは大変だ。その中でも1人抜いて8位で須藤に渡した。

「まかせろ」

一言言い放つと、全力で走り始めた。さすがに鍛え抜かれた筋肉で走る姿はほれぼれする。クラスの応援席からは須藤コールもかかっている。コーナー途中で2人、バトンゾーン手前で1人抜いて、5位で5走の有栖にバトンを渡した。この時点で、1位は2年Aクラス、2位は3年Aクラスで、この二人が20mほど先を走っている。二人とも陸上部所属であり、すでに短距離でインターハイ出場を決めている。

有栖はバトンをもらった次の瞬間には“やや本気”の速度にまであげた。そしてコーナー真ん中ころにはすでに3位までに上げていた。

クラス応援席の前を通るとき

「おねえさまっ」

由佳の大きな声が聞こえると、ちらっと見て笑顔を返したようで、応援席が沸き上がる。

 

「まったく・・」

本気は出さずに3位でオレにつなぐつもりか。きちんと一定速度で走ってきている。

 

トラックでは内側から堀北会長、南雲、オレという順番で5走を待っている。ほぼ同時に二人が駆け出すとオレの隣を上級生の二人の5走が走り去った。有栖との差は10mもない。

 

有栖がオレの付けたマークを通過した瞬間に、前だけを見て地面を蹴り全力で走り始める。そして有栖の気配を感じながら5歩目に右掌を広げて下に向けると、親指と人差し指の間にバトンが叩き込まれた。オレは開いた掌を戻すだけでバトンを握ることができる。全くロスのないバトンリレーだ。昨日の夜、3人でオリンピックの日本チームのバトンリレーを鑑賞し、右手でもらうことを決めていた。

 

前の二人の距離、速度を観察し、自分の速度をコントロールしながらコーナーを走り抜ける。コーナー出口で一段加速し、南雲をパス。1mほど前に堀北会長がいる。

残り20mで横に並び、ゴール手間で身体一つ分先行させ、そのままゴールした。写真判定など不要で、目視でオレの方が先着であるとわかるはずだ。

歓声が沸き起こる。

 

「会長、あいつなんなんです?」

「だから、言っただろう“勝負にならない”と。」

「あいつ、誰なんですか?」

「1年Cクラスの綾小路清隆だ。」

「あぁ、あいつが・・・」

 

「綾小路、さすがだな。」

会長がオレをねぎらいに来た。

「あぁ、今日は調子が良かった。」

「ふ、まぁいい。」

 

「鈴音が迷惑かけた。」

 

別れ際に小さな声でつぶやいた。

 

かくして、オレ達のCクラスは何とか学年1位をもぎ取った。Dクラスが2位、Bクラスが3位、そしてAクラスが4位という結果に終わった。

 




10月1日のクラスポイント
A:神崎クラス 1180
B:神室クラス 970
C:櫛田クラス 700
D:龍園クラス  320

有栖達の共同アカウント
9月1日 700万
櫛田から+1850万
神室から+640万
神室への軍資金-10万
10月分の由佳から+55万
10月分の3人から+5万
現在3240万
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