【推し】のアラサー 作:MEM推し
アクアたちが帰った後、事務所にはニノにトラブルがあったのかという問い合わせが相次いだ。もう過去の人ではあったが、強盗殺人であり死体の損壊も酷く、しかも元アイドルでB小町と言えば昔同じように殺されたアイドルがいるのだ。
あの事件の再来かと、メディアは勝手に決め付けて苺プロを探り始めた。その対応に追われたためスタッフが対応できず、ライバーは全員活動休止。一応関係者が殺されたということもあって自粛した。
アクアは普通に仕事があったので仕事に行った。ラジオや番宣であれば休めただろうが、ドラマの撮影だったために穴を開ける訳にもいかなかった。ルビーは学校に行かせ、アクアは現場で今回の事件について聞かれる。
「災難だったな、星野」
「姫川さん。正直、十年以上前に辞めてる人なので今更ウチに聞かれても、って感じですね。辞めた後のトラブルだったら本当に関係ありませんし」
「だよな。世間からしたらただの興味なんだろう。俺たち芸能人は彼らの見世物さ」
姫川大輝。月9で主演を演じて一気にブレイクした若手俳優だ。年齢が近いこともあってアクアと共演することも多く、今回も二人で高校生役の相棒ものを演じる。
現場の人はアクアのことをよく知っているために、大変だったねと慰めてくる人ばかりだった。姫川もそんな一人だ。
「姫川さん、舞台の方と予定が被っていて大変じゃありませんか?僕はこれとか他の作品と被っていたので『東京ブレイド』、断りましたが……」
「え、何?お前出る予定だったのか。何役の予定だったんだろうな。……ま〜〜〜、出なくて良かったぞ」
「何か問題があるんですか?キャストのいざこざとか?」
「うんにゃ、お上のゴタゴタ。一時期稽古も中断になっていてな。こっちに集中できるってもんだよ。俺、今期はこれとちょっとした奴しか出ないから」
「舞台の主役ともなるとそうなりますよね……」
舞台の主役、座長ともなるとただ演じればいいという話でもない。全体の調整などを演出家と監督と話し合って、その上で輝かなければならないのだ。
しかも長期間、練習と本番で拘束される。そのせいで他の作品に出演するのが難しくなる。
アクアはコスパが悪いために舞台は避けていた。一回だけ出番がそこそこの役で出たがその一回限り。出番は少ないのに拘束時間が長く、舞台での演技を経験できたのでそれ以上の価値はないとして出演することはなくなった。
『東京ブレイド』の劇が上手く行ってない様子を聞いているともう一人の主役と言ってもいい人物が現場入りした。
「アクア。MEMちょが配信してないんだけど」
「……不知火、ニュース見てないのか?今ウチの事務所はキャパオーバーで、配信が荒れると困るからって配信は休止中だ」
「ルビーもあなたもしていないと私の視力が落ちるんだけど。責任取ってよ」
「ブルベリー食べとけ」
若手女性俳優として有名なのは不知火フリルだろう。彼女とも共演が多く、なおかつクラスメイトということもあって彼女のひょうきんな性格は把握していた。だからよくわからないことを言われてもあしらうようなことは慣れたものだった。
フリルはMEMの大ファンのようで、アクアを通してサインなどをねだっている。芽衣に聞いて良いと言われたらサインを渡したりしている。
MEMの配信で最高額の五万という赤スパチャを何度も送っているために申し訳なくなったMEMがサインをあげたという経緯がある。
フリルはマジもののMEMバーのようで、限定品以外のグッズを全部持っていたためにアクアもドン引きしたほどだ。部屋一室が全部MEMのグッズだったのだ。芽衣の部屋に行けば試供品がたくさんあるのでアクアも見覚えがあるが、部屋が本当にそんなことになっているのは熱量が違いすぎる。
ルビーでさえもB小町グッズで部屋を溢れ返らせたりしていないのだ。資産の差もあるが、熱量も常軌を超えている。
アクアは昔、何でそこまでMEMに入れ込んでいるのかを聞いたが、30分以上マシンガントークを聞かされたのでそれ以降MEMのことはそこそこに話す程度にしている。
問題は今のようにフリル側から話題を振ってくることだ。
「しょうがない、謎の二人がバックダンサーをやってる動画でも見て落ち着こう」
「せめてイヤホンはしろよ?台本も見ずに動画を見てるって、変わった調整方法だよな……」
「可愛い子が三人もいたらテンションも上がるよ。姫川さんも見ます?アクアとルビーのダンス」
「……は?」
「え?見る見る。アクアの踊りなんてレアじゃん」
アクアはわけのわからない言葉で殴られて、フラついた。姫川はフリルの言葉に引かれてフリルのスマホを覗くと、そこにはMEMを中心とした女子にしか見えない存在が三人で踊っている画だった。
「えー?どこにアクアと星野妹がいるんだよ?」
「この右がルビー、左がアクア」
「……女装?」
「そう。これ五年も前だから二人とも背がまだ高くないし。この頃なら喉仏も出てないし、年齢的にも一致するんだよね。ねえ?苺プロのアクア?」
「……秘密にしろ。一応ネットではまだバレてないんだ」
「りょ。みなさ〜ん!アクアの女装ダンス見ませんか〜?」
「スタッフにバラしたら秘密じゃないだろう⁉︎」
そんなフリルの機転でアクアの塞ぎ込んでいた空気が霧散して、良い雰囲気のまま撮影は進んでいった。冬から始まるドラマは豪華なキャストで送る月9ということで年が変わった直後の視聴率をかっさらう名作として語り継がれていく。
アクアはその撮影の帰り道。家の近くでツクヨミがいるのを見つけた。撮影終わりにそのまま食事会に行ってきたので深夜であり、まだ幼少にしか見えないツクヨミは見つかったら補導対象だ。
どうせ神の力とやらで誤魔化しているのだろうと考えて、アクアは彼女に話しかける。
「ツクヨミ。また何かあったのか?」
「君にとって母親の同僚が殺されたのは『何か』じゃないのかな?」
「もう随分と時間が経ってるだろ。ならその件じゃないはずだ。何があった?」
「おめでとう。君たちの安全は守られた!君たちの父親、カミキヒカルは殺されたよ」
「……は?」
今までアイを殺した共犯である存在の正体を一切言わなかったのに、ツクヨミはあっさりとその人物のことを告げた。
大丈夫だと言われていたが、まさかこうもあっさりと対象が死んでしまうなんて思ってもみなかった。
「『雨宮吾郎』の死体を隠したニノも殺されて、黒幕たるカミキヒカルも死んだ。これでアイに纏わる主要人物は全滅だ。おめでとう。これで君はごく一般の生活ができる。あとは好きに生きなさい。大切な人たちを泣かさないように」
「いやいや、待て⁉︎ニノが『僕』を隠したのか⁉︎あのリョースケって奴と二人で『雨宮吾郎』を殺そうとしたって、アイへの恨みか……⁉︎」
「そんなところ。ニノとリョースケは恋人だったみたいだね。リョースケはニノをモブに追い込むアイが許せなくて、その上子供を作ったのが許せなかったんだって。酷い逆恨みだよ」
ツクヨミからもたらされる情報にアクアは頭を鈍器で殴られたような痛みを覚えた。
年若い子供の激しい感情に巻き込まれて前世では死んで、その癇癪は彼らが成人に至っても冷めることはなく継続され、結局二人の人間が犠牲になった。
そしてその子供の癇癪を諭した人間も、殺されたというのだ。
これでは本当に、三流の悲劇ではないか。
「君とアイは不運だったね。アイは自業自得な部分もあったけど、君は完全にとばっちりだ。だから神も祝福を与えたんだろう。でもこれでもう呪縛は解けた。これからはアクアマリンとして精一杯生きると良い。穏やかな一生を、私は影から見守っているよ」
「……多分この急展開ってことは、ニノとカミキを殺したのは同一人物だよな?その人もカミキの被害者か?」
「被害者であり君にとっては加害者じゃないかな?どうせすぐ報道されるし、君達も大変になるから伝えておこうか。──彼らを殺したのは斎藤壱護だよ」
「──は?」
アクアの認識としては家族を捨てた屑の名前だ。その人物がいつの間にか復讐を成していたらしい。
自分がプロデュースしたアイドルと、一番手塩に掛けて育てたアイドルの好きな人を殺すことになった元社長。
その関係性を知って、アクアは全身から血の気がなくなった。
「ま、待て⁉︎あの男は自首でもして捕まる気か⁉︎そんなことしたらメディアに良いように玩具にされるだけだ!正当性があろうと殺人は殺人、しかもあまりにもスキャンダラスだろう!僕とルビーがアイの子供だとバレるかもしれない……⁉︎カミキとアイの関係を伏せたまま終結なんてできるか……⁉︎」
「カミキヒカルは教唆でもう何人も殺してるし、殺人リストもあるから大丈夫だよ。上手くいってる人間を殺して命の重みを知りたいという変態だからね。およそ現代日本で生きるには向かない性格だったのさ。斎藤のことは、なるようにしかならないんじゃない?私も未来を見てるわけじゃないし」
頑張ってねー、と気の抜けた声をかけてツクヨミは軽く跳んで消えてしまった。
爆弾を貰ったアクアは、なるようにしかならないかと思って家に帰った。ミヤコとルビーに話すにもどうやって知ったと詰められたら何も答えられないので、アクアは今日知ったことを黙秘する。
芽衣とルビーに、不知火にバックダンサーをしていたことがバレたことは伝える。
そして二日後。
カミキヒカルの殺人は発表され、彼が社長を務める芸能プロダクションが声明を出して警察からも事件現場の状況と、カミキヒカル宅から捜査で出た教唆の証拠などから被害者であるものの書類送検されたという発表もあった。斎藤のことは何も発表されず、犯人不明で捜査続行中だという。
カミキヒカルの殺人ノートも公表され、その対象にアイがいたことで苺プロも紛糾した。
「お兄ちゃん、ニュース見た⁉︎アイツがママを……!」
「らしいな。ただルビー。母さんを殺した相手が死んだとしても、今度はあの男を殺した人間が世間にはいるんだ。その相手がどういう理由で殺人なんてしたのかまだわかっていない。ルビーももしかしたら狙われるかもしれない。だからこれまで以上に外出には気を付けないとな」
「それはあなたもよ、アクア。……当分ライバーの出社は取り止めにしましょうか。あなたたちも車で学校に送るわ。アクアも現場に行く時はウチの車にしましょう。危険だわ」
「わかった。本当に危ない世の中になったよな……」
アクアは今回の殺人事件については誰にも漏らさず。斎藤の動向だけ気にしてニュースサイトには目を通すようにしたがこれといって情報が出てくることはなかった。
逃亡が上手くいったのか、それとももうこの世にいないのか。それすらもわからない結果だった。
アクアは現場で片寄ゆらと一緒の現場になることがあった。彼女はカミキヒカルのノートに名前があって狙われていた人物だ。アクアの身内も狙われたということが共通の話題としてあって、その件について休憩中に話す機会があった。
「ミキさんとはまあ、事務所の勧誘を受けてた感じで面識はあったんだ。カミキプロダクションも悪くはない中堅どころで、あの人の敏腕さでバンバン仕事を取ってたらしいよ?面識としてはそんなものかな。何回かご飯に行ったけど、他の人も一緒だったし」
「片寄さんもお綺麗で活躍されているから狙われたんですかね?」
「理由まではなんとも。でも君に口説き文句を言われるのは悪くない気分だよ?」
「すみません。口説いているつもりは全くなくて」
「だろうね。下心とかなかったし。でも気を付けなよ?君の容姿と人気から、なんてない言葉でコロッと行っちゃう女の子もいるだろうから」
「……気を付けます」
結局斎藤が捕まることもなくアクアたちは高校を卒業した。卒業したのは良いのだが、それと入れ替わるようにMEMが活動休止をしようとしていた。その理由が理由だったのでアクアはもう世間にぶっちゃけようと考えていた。
「なあ、母さん。芽衣とのこと発表させてくれ」
「……まだ十八だけど、このまま隠すのもそれはそれでMEMのためにならないのよねえ。はあ、わかったわ。公表しましょう。あなたたちのことは事務所できちんと守ってあげるわ」
アクアが高校を卒業した次の四月にそれは発表された。
アクアの結婚。相手は同じ事務所のMEMであり、二人は健全な恋愛の果てに子宝を授かったので正式に籍を入れることにしたと発表。
これには一般のアクアファンから盛大にMEMがぶっ叩かれた。彼女のアカウントに「泥棒猫」などの散々な罵詈雑言が書き込まれたが、むしろ彼女を見ていたファンの女性からは純粋に祝福の言葉が寄せられる。
MEMのファン層が女性が多かったことと、元から同じ事務所で交流があること。そしてアクアのハイスペックっぷりからむしろ恋に落ちない方がおかしいだろうと擁護のコメントが流れた。
【アクア様とMEMちょって四歳差でしょ?恋愛関係になってもおかしくなくない?】
【アクアが小学生、MEMちょが中学生の頃からの関係だからな。そんだけ長く付き合ってたら恋心が芽生えても仕方がなくね?男の俺でもアクアが相手なら仕方がないなって思うし】
【イケメン、演技ハイパー上手い、主演もめちゃくちゃやってる売れっ子、高身長、高学歴?(偏差値が高いだけ?)、子役からずっと売れっ子の高収入。これを好きにならない女いる?】
【MEMちょだってチャンネル登録者100万人行ってる超上澄み配信者だしな……。今回のアクアの一件以外炎上みたいなこともしてないし、可愛い系歳上お姉さんとかアクアも落ちるでしょ】
【むしろMEMに噛みついてる女どもはMEMに勝てる要素どこにあるんだよと問い返したい】
【妹とフリル様公認カップルにヘイト向けても無駄やろ……】
【ルビーちゃんもお似合いと言っていて、フリルも推しと推しのカップル最高、だから名付けさせてって呟いてたからな】
【フリルはどこ目指してんねん……】
【子供の名付け権はルビーちゃんも名乗り出してる模様】
【ルビーはもう決定って言ってるぞ。男だったら吾郎、女だったらさりなって】
【このブラコンがよお。配信でも言ってたけどブラコンすぎるだろ。それでよくMEMとの結婚許したな……】
【逆にMEM以外は許さないって、ハイライトが真っ黒になりながら言ってたぞ。あれは筋金入りのブラコンや】
SNSではそんな擁護の声が多くなっていき、鎮火。アクアもMEMの配信枠を借りてMEMへの愛を語ってMEMの顔を真っ赤に爆発させた。ストッパーでいたルビーがそれ以上はMEMが死んじゃうとストップをかけるまで惚気て二人は祝福された。
それからもアクアはトップ俳優として活躍し、ルビーも地上波に進出するアイドルになった。個人ライブも大きな会場でやるほど人気になり、それにはアクアも芽衣も子供と一緒に駆けつけた。
産まれた子はアクアと芽衣はもちろん、暇を見つけてルビーとミヤコも子育てを手伝ってくれたために良好。すくすくと育っていき、MEMとしても子育て系配信者としてまた復活していた。
天界では神がそっと、微笑んでいた。
「これで満足かい?神様」
「うん。ツクヨミちゃんもお使いありがとう。じゃあ約束通り、次の女の子には君の魂を入れてあげるよ。さりなちゃんもあの家族にはよく顔を出してるし、吾郎くんが父親になる。当初の目的は果たしたと言っていいかな?」
「ああ。ただのカラスを捕まえて何をするつもりだと思ったけど、良い体験をしたよ。あ、でも私の記憶は消してよ?魂だけ私にしてほしい。私は普通の人間の子として、彼らに接したいんだ」
ツクヨミの体が透けていく。彼女は神の遣いであり、吾郎とさりなが助けたカラスから変性した存在。彼女には次に生まれ変わる時に吾郎かさりなの娘として産まれたいとのことだったのでその願いを受け入れて彼女を働かせていた。
「じゃあ、またね。ツクヨミちゃん」
彼女は次の輪廻に乗った。こういう世界もいいだろうと、並行世界を見られる神だからこそ平和な世界を望んだ。
こういう世界もありだろうと、彼女は神として気まぐれで枝葉を作った。幸せ指数ではこちらの方が上だろうと、他の世界を見て思う。
この世界では、神々の祝福を