ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
日没までにはまだ間がありそうだったが、既に潮はかなり満ちて波打ち際はだいぶ迫ってきており、何回かに一度、打ち寄せる大波が二人のいるところにまで届くようになっている。
入江の西側、張り出した岬の稜線の向こうは茜さしかけている。
アリシアとアキトの二人は全裸で砂浜に腰をおろし、身を寄せ合って海を眺めながら長く語らい続けていた。
初めは泳ぐつもりでいたのだが、意図に反して大泣きをさせてしまったアリシアを庇って少年はたくさんの言葉をかけて慰めていたのだ。
今までのこと、これからのこと、そして気宇壮大な夢物語についてまで話し聞かせて――。
一方、アリシア自身もなぜそこまで感情を乱してしまったのかよくわからずにいた。
あんなことぐらいで――。
落ちついた今はそう思えるのだが、その時はショックと情けなさとが相まって我を失ってしまったらしい。情緒が安定している彼女にはとても珍しいことだったのだ。
少しは先生らしいところを、年上の大人の女らしいゆとりのあるところを見せたいと、背伸びをしてしまったからなのかもしれない。
白い大胆なビキニを着た自分が彼の目にどう映るかワクワクしていたのもあったのだと思う。
アキトには自分の裸なんてもう見慣れているはずなのに、それでも装いを変えた時、女は少しだけ気持ちを新しくするもの。
“綺麗だ、可愛い、似合ってる、ステキです――”
きっと、ひそかに彼からそんなふうに言われることを期待していたのだ。
それなのに――。
アリシアが晴れ舞台に立つ少女のように胸をときめかせて海岸へとやってきた時、彼女は自分が身につけていた水着にはちょっとした仕掛けのある、エロティックなアダルト仕様の代物であることに気がついてはいなかったのだった。
彼女の姿を見た少年が嬉しそうに微笑みかけてきて、アリシアもちょっぴり誇らしげになって笑みを返した。
ただ、それだけでは済まない。
少年はさらに視線を下げていくと、目を瞠り、驚いた様子でワケ知りに笑んで、それを訝しんだアリシアもアキトに倣って彼の視線の先、自身の股間に目を向けると、なんということかそこが既に何も身につけていないようになっていることにギョッとさせられたのだ。
ボトムは確かに穿いた筈で、実際、今も装着感はあるのだが、どういうわけか白い秘唇も飴色のヘアの広がりもすっかりあらわになっている。
身につけているからこそ布地が肌にピッタリと貼りついていて、ただ裸でいる以上に可愛らしいワレメをくっきりと浮き上がらせて、彼女のいちばんの魅力が弾けているようなのだった。
「スゴい! すっごくキレイですよ、先生っ」
アキトは嬉しそうに相好をくずしているが、アリシアは
「やだっ!」
と、哀切な悲鳴をあげるとその場にしゃがみ込んでしまった。
どうやらその水着の素材が水に濡れると透けるタイプのシアービキニだったと気がついて、意味が判って真っ赤になっている。
きっと彼女が水に入ってからびっくりさせるつもりでいたのだろうが、そうなる前に先走っていたのは、既に股間をしとどに濡らしていたからに違いなかった。
「ひどいっ!」
非難したが、それは自身に向けられた言葉だったのかもしれない。
まるで盛りのついた牝のようにだらしなく、すぐに粗相してしまう自分が情けなかった。
悔しくて、恥ずかしくて――。
やがて彼女は凹んだ気持ちのやり場を無くして、顔を両手で覆うとその場で声をあげて泣き崩れたのだった。
これに慌てたのが少年だった。
ちょっとしたイタズラのつもりだったのに、それがこんなにも傷つけてしまうことになるとは思ってもいなかった。
たった今まで体の関係を結んで、しっかりと愛を育んでいて、この程度のことなら彼女も
「ごめんなさい、アリシアさんっ、ボクがいけなかったですね」
駆け寄ると、
だがアリシアは応えない。
彼女自身、どうしてこんなに取り乱してしまうのかわからないままに心が震えるのにまかせていた。
そうして暫くすると、ようやく気持ちが少し落ち着いてきて、彼の手の温もりを意識するようになったのだ。
「……あたし、どうかしてたわ……ごめんなさい……」
「………」
「なんでこうなってしまったのかしら……おかしいわね……うふふっ……」
涙で泣き腫らした目で、無理やり笑顔を作ろうとしている容子が男の目にはいたいたしげで愛おしい。
「ボクがいけなかったんです……水着に仕掛けがしてあること、ちゃんと話しておかなかったから……」
そもそも伝えるつもりはなかったのだが、それが誤りだったと反省していた。
エレガントで落ち着いた印象のあったアリシアも、やっぱり年相応に脆さを抱えたまだ二十歳の女の子だったのだ。
傷つけられれば誰でも悲しくなる、そんな当たり前のことを忘れて、彼女に甘えていたのは自分の方だったと戒めていた。
少年は、アリシアのことをもっと大切に、彼女の思いにも寄り添うようにしなければと言い聞かせている。
この誰よりも愛くるしく清らかな魂を傷つけることなど許される筈がなかった。
またアリシアの方も、自分でもワケが分からないままにひとしきり嘆いて、その所為でふっきれた面もあったようなのだった。
自分をさらけて、心もさらけて、普通の女の子に戻れたような。
一人の女として恋人であるアキトと向き合う。
知らず知らずのうちに幾重にも自分が纏っていた、身にまとわりつかせていた虚飾、しがらみ、わだかまり、その一切をかなぐり捨てて、気持ちまでも裸になったようでスッキリ軽くなっていた。
両手の指先で涙を拭いながら、
「あら、アキトさんでもそんなお顔をすることがあるのね」
落ち着かなげで心配そうな様子が珍しくて、アリシアは顔を綻ばせた。
「先生を……泣かせてしまうようなひどいことをして……」
「もう大丈夫ですから……」
「ごめんなさい」
「いいの……これくらい平気よ……」
仲直りのキスはソフトなものだったが、自然にじっくり時間をかけたものになっていく。
互いを労うための口づけ。
「あたし、ちょっとびっくりしちゃったみたい……」
「あまり脅かさないでください。ボク、気が小さいんですから」
「まぁ、どのお口が言うのかしら?」
「この口ですよ――」
一瞬、べーっと大きく舌を伸ばしてアリシアをたじろがせると、彼女の股間に手を伸ばして濡れた水着の上から白い唇のスジをなぞるようにする。
指先の匂いを嗅いで目を潤ませた。
「いいにおい……いつだってボクはキミのにおいに夢中だってこと、忘れないでくださいね」
はにかむアリシアの視界の隅に彼の股間のモノがグイッとみじろぎするのが目に入ってくる。
「ジュージーな果実が誰からも尊ばれるように、女の子のカラダも同じだと思うな……蜜が多いのはキミには恥ずかしいことなのかもしれないけど、男にとっては何よりのご褒美だから……」
「また、そういうことを言うんだから……憎らしい……」
「大好きです……」
「……うん……」
「先生のことが……」
「……好きよ……あたしも……あなたのことが大好き、愛してるわ」
砂浜に身を横たえて、唇を重ねて睦言も重ねる。
いつしかアリシアも水着を脱いで全裸になっていた。
アキトは生真面目な顔になると彼女のカラダにボディキスを落としながら、自分の進路について、二人の将来について希望を語ってくれたのだ。
ゆくゆくは美大に進み、卒業後はアニメーション制作などの映像関連の仕事をするか、美術の教師をしながら作品を発表したいと考えていることなどを。
「……ボクには大豪邸に住むこともできないし、大型のクルーザーを持つこともできません……装飾品だってロクなものも買えないかもしれない……きっと一生、あまり贅沢な暮らしはできないと思います。それでも先生はボクのいちばんそばに居てくれますか?」
「アキトさんも、ずっと……そばに居てくれるんですね……?」
アリシアも瞳をまんじりとさせて尋ねる。
「キミこそ、絶対に居なくなったりしないでください……」
「あなたもよ、約束」
誓いの口づけは彼女の下のお口の唇に対してもなされて、そこが屋外であったにも関わらず、アリシアも脚を大きく開いて彼の思いを聞き容れていた。
「さっきの男の子、戻ってきたりしないわよね……あ、はあっ……」
クリトリスを舌で撫でられると、やっぱり声がうわずってしまう。
「たぶん大丈夫です……」
「多分? でも、たしかお爺さんとセミとりをするって言ってたわ」
「セミは海岸のまわりにはいません。それにもう夕方です。とっくにお家に帰ってますよ。ひぐらしを採るつもりなら別ですけど……」
あたりは、それまでの騒然とするアブラゼミの大音声に代わって、時おり遠く、ひぐらしの奏でる物悲しくてどこか妖しげな鳴き声が聞こえるようになっていた。
「ああっ……ソコっ……ねぇソコはっ、ダメなのっ……あたしっ、ダメになるからっ」
クリトリスを膣の側から指で押し出されるようにして吸われると、おかしくなってしまいそう。
少年にはそれが分かっているからそうするのだった。
興奮した女の密やかな器官、組織が鳴動を始め、刺戟によってきゅんと締まると、時にアリシアのカラダからピュッと軽く汐が吹き出されてくることを知ったのは、その日の少年にとって最大の嬉しい発見になっていた。
褥を共にするようになって、女の体も少年の思いにしっかり応えられるように変化しているのかもしれなかった。
惹かれあい愛し合う男女は、体の関係を重ねるにつれて互いへの理解も深まり、思いやりも強くしていくもの。体は嘘や偽りを通すことができないために、素直な自分を見せ合うことになるからだった。
少年は彼女への気持ちをいっそう深くして絆を強く感じている。
一方、アリシアも、心も体もとろけてしまいそうになりながら、彼への愛情を問いかけて、そして確かめていた。
彼が自分をどのようにしたいのか、自分はそれにどう応えたらいいのか、懸命な対話が女の敏感な肌を通して刻々なされている。
肉体の感覚が鮮やかになっていく一方、意識が虚ろになっていく中で、アリシアは傍に広がる海をぼんやりと眺めて官能の波間を漂ううちに、しきりに脳裏に泛んでくる眩しい青い海のイメージに目を閉じるのだった。
気がつくと、彼女の目には見慣れない光景が映っていた。
ここは、どこ――?
古い建物の中にいるらしい。
朽ち果てたままにされているのか、大きく崩れて開けた壁の向こうには、遠くどこまでもひろがる紺碧の大海原が見えている。
温かな湯気の香り――。
温泉……なのかしら……?
まるで異世界にでも迷い込んでしまったような不思議な世界だった。
ただ少しも不安にならずに居られたのは、一人じゃなかったからだ。
彼女は台座のように大きくて温かな石の上に身を横たえていて、寛いで体を開いていた。そしてどこまでも自分を愛そうとしてくれる彼に身も心も捧げようと思っている。
いい気持ち……ああ、なんてやさしい……。
「愛してるわ……」
強い感動にたまらず訴えると、それに応えて彼はいっそうやさしく敏感な場所を苛めてくれるのだ。
痺れるように幸せな、切羽詰まっていながら、ゆったりと流れていく二人だけの時間……。
顔を見てはいなかったけれど、でもはっきりアキトだと感じている、彼のやり方だとわかっていた。
わからないのはいま自分たちがいる場所。
これはいったい……どうしたこと?
不思議……。
うふふっ……。
まるで眠りに落ちるように、穏やかな歓びに堕ちたアリシアは抱き寄せられて恋人の胸に安らいでいた。
「……あたしいま、夢を見ていたような気がするの……」
「夢ですか? まさか寝ちゃってたんですか? もうボクのクンニに飽きちゃったとか?」
「ちがうわよっ、あきてなんかいないわっ、もうっ」
唇を尖らせて不満を訴えている。
そんなアリシアを少年は目尻を下げて見つめていた。
「でもずいぶん哀しげに啼いてましたけど、よっぽど辛い夢でも見ていたんでしょうか……」
「そりゃ泣くわっ、泣くわよ、だってずっとアキトさんからいじめられていたんだもの……きっと女の子だったらみんな泣いてしまうわ……でも、海の夢を見ていたのは本当よ……今も思い出せるから……」
アリシアは目を閉じた。
夢というか
「ここは海ですよ――」
「ちがうの……別の場所だったわ……あたし、海は初めてよ。ここに来るまで間近で見たことなんてなかったのに……」
阿久亜市は海沿いにあったが首都圏ということもあってビーチなどはなかった。
「とっても静かで、空気がスッキリともっと冷たく澄んでいて……寒いのに、露天風呂みたいでとても温かかった……」
「寒い? 夏なのに?」
「だから今じゃないと思うの……きっと冬だったと思うから……」
「冬?……そうですか……」
「おかしいでしょ? 不思議な夢よね……」
「マイクロスリープ中に夢を見たってことかな……きっとお疲れなのかもしれませんね……」
「ええ、それはもうくたくたよ、だってあなたと違って大人はセックスをすると疲れちゃうのっ、うふふっ」
「じゃあ、ちょっとだけ休憩しましょうか」
「ちょっとだけ?」
「でもにおいを嗅ぐだけならいいでしょ? 他には何もしませんから」
少年はアリシアの体のにおいをクンクンと鼻を鳴らして嗅ごうとする。
首筋から胸まわりにかけて、それから腕を取ると腋の下にも鼻先を寄せようとしてきて、アリシアは慌ててそうはさせまいと脇を締めると胸を庇った。
「ほらもう、すぐ調子にのってっ、エッチなんだからっ」
「ボク、キミのアソコに住みたいな、一年中あたたかくて、香りがステキで眺望、環境ともに最高だから」
「
キリっと固辞する。
「残念だなぁ、せっかく
「阿漕だなんてとんでもありません。だってお若いお客さまにはもっと広くてゆとりのある、日当たりのいい環境の方がよろしいのではありませんか?」
「ボクはアジア人だから、乾いてるより湿り気たっぷりの湿地帯の方が大好きなんです。それに新築のまだ固く締まっているところを一つ一つ、専用の特別な鍵を使ってこじ開けるのはワクワクするとても楽しいものなのですよ」
「あたくしも初めてのお客さまは大歓迎ですが……」
「ハイハイっ、ボク、初めてですっ!」
アキトがわざとらしく手を挙げて、
「あらあら、それはしっかりおもてなしして差し上げないといけませんね、うふふっ」
アリシアも応酬する。
「じゃあ、お邪魔させていただいてもいいですか?」
「今はダメです、清掃作業中なので――」
「お掃除ならボクもお手伝いできますよ」
舌をグッと伸ばして見せつけられて、アリシアも
「お気持ちだけありがたく頂戴いたします」
キッパリ――。
二人して他愛もない、ちょっとあぶない冗談を言い合って笑いが弾けた。
昨日、上げるつもりでいたのですが、思っていた以上に長くなってしまい
まとめ切らないままに、今夜と明日の二回に分けて投ずるつもりでいます