※この作品はR-18です。

ARIA A SECRET SCHOOL DAYS   作:真夜中のミネルヴァ

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今日はエロティックなシーンはありません

レイディー・クラッシャー事件を受けて以降
アリシアさんを巡っていろいろなことが動き始めているのですが・・・


レイディー・クラッシャー エピローグ セックスシンボル その1

 

 

 その日、月の周回軌道上にある地球本星防衛の要、衛星基地やまと(ムーンベースアルファ)、は沸き立つような歓声に包まれていた。

 連邦宇宙軍内惑星艦隊――通称第一艦隊――の旗艦として、新たに就役が決まった最新鋭空母ドナルド・J・トランプが、同じく就役の決まった他の二隻の護衛艦を率いて四号ポートに入港してきたからである。

 空母ドナルド・J・トランプ――。

 それは人類が運用する最も発展した航宙艦である。

 全長八百三十六メートル、総重量二百十万トンの巨大さもさることながら、艦の傑出した性能を決定づけているのは、その防御力の高さにあった。

 非常時には異なる射程を持つ防御ドローンを周囲に幾重にも展開させることで網の目のような射線を形成して敵機動兵器の攻撃に対して備え、また艦体にはくまなく六百四十八門にも及ぶ対空火器を配して睨みを効かせている。

 たとえ公国が誇る猩々緋のエースパイロットであろうと無傷で艦体に接近することは、もはや不可能であると考えられていたのだ。

 また搭載機動戦力数は既存艦に比べて二割以上も多い百十三機、これだけでも巡洋艦を主力とする一個艦隊にも匹敵する打撃力を有し、要するに従来型の空母のように多くの護衛艦による防御陣形を必要とせずに単艦で広範な作戦行動が取れる攻防一体の万能艦なのだった。

 同艦は、処女航海を終えた後の全世界へ向けてのお披露目を兼ねた最初の本格的遠洋航海として、ブリッジストーン大統領の内惑星諸国歴訪のための座乗艦としての任に就き、その最初の寄港地として“やまと”を訪れたのである。

 そして接舷された艦内から展望ブリッジへと現れたブ大統領を前に、祖国防衛の最前線の任にあたる四万の将兵は盛大な拍手と歓声をもって出迎えたのであった。

 

 

 

 

 AQUAの首都アクアポリス、午前十時半過ぎ――。

 総督執務室で、アルセニア・エーデルソンは閣議前のルーティンとして、その厳つい容姿に似合わぬ軽快さで自身のところにまで上がってきた書類の一つ一つに素早く目を通しながら、裁可、不裁可の仕分けを行っていた。

 不裁可の案件にはコメントをつけ、さらに再提出の期限の注文をつけていく。

 AQUAにおいて内閣の役割は、行政府の最高意思決定機関であるだけではなく、一部は議会の輔翼をする立法府としての性格ももち合わせ、また七賢会に対しては輔弼(ほひつ)を行う責を担っていた。

 国民、党、官僚、議会、財界、そして七賢会――。

 注意深く目配りをしなければ立ち行かなくなる手合いがあまりにも多く、アルセニアは、時に総督という役まわりは国家元首とは名ばかりの、よく云って国家という大店(おおだな)の番頭、悪くいえば御用聞きに過ぎないと思うことが少なくなかった。

 成り手がないために押し付けられた貧乏クジ、労ばかりが多くて見返りを望めない苦役なのだ。

 聖職(プロフェッション)――と、でも思って割り切らないと、とても続けられるものではなかったが、彼女は二期四年(標準暦にすると八年)、この任にあり続け、既に三期目に突入している。

 ただ、後進が育つまでは――と、堪えているうちに、この頃はワーキングハイとでも言えるような状態になって、困難を楽しめるようにすらなってきていた。

「アルティ、議会の方はどうなってるの? タカシからの報告がまだ入らないんだけど、探したのに今朝の便には見つからなかったわよ」

 書類の山を指で崩して広げながら、今は主席補佐官となっているアルティア・フォン・ワイスラーに下問する。

「それが、左院の方は、みんな――と、オレンジ党の支持が得られて目処がついているみたいですが、肝心の右院の調整に手こずっているようで、例の生安法改正案の件で公共との折り合いがなかなかつかないらしくて……」

「あっちからは誰が出てきたの?」

「イシヅカだそうです、マサル・イシヅカ……」

「あの爺さんか……」

 ため息。

「あそこも引っ張るわねぇ、なんとしても夏期での成立を阻みたいってことのようね……まぁいいわ、仕方ない」

「すみません、わたくしも“外”から手を回しましょうか?」

「それには及ばないわ、七賢会の力をお借りしなくても、我々でできることはやらないと。お婆さまたちにあまり借りを作るのも潔くないでしょ」

 専門家会議、部会、党政調のプロたちによって吟味された法案は総督をトップとする内閣によって決定され、最終的に議会の承認をもって発効し、再び行政に戻って施行される。

 手続きが多い分、遅滞を招かぬように判断には正確さと迅速さが要求されていたが、民主主義の弱点とも言える利権の調整に、常に政治家は頭を悩ませていた。

 仮にも俊秀なる能吏たちの手による法案には、文面上には遺漏がなくとも、実現には超えなければならないハードルが幾つもあるのだ。

 さらに議会を通過した後にはその上に七賢会という関所も控えている。

 七賢会は行政の担い手にとっては頼りになる後ろ盾であるとともに、厄介なご意見番でもあるのだった。

 ただ一つ、AQUAが他国に較べて恵まれていたのは、建国の理念としての平和と、善さへの希求という理想が今も堅固に受け継がれており、国民一人一人の血肉として醸成されていたことである。この民度の高さによってAQUAは地球圏における惑星国家としては異例ともいえる長期にわたる政治的安定と平穏、繁栄を享受し続けていた。

「総督、ホットラインがコールしているそうなのですが」

 デスクの電話を取ったアルティアがアルセニアに告げた。

「誰――?」

 問われた美貌の主席補佐官は、ちょっと嫌そうに表情を崩してから

「ブリッジストーン大統領からです」

 言う。

 それを見たアルセニアはぷっ、と軽く吹き出してから

「繋いでちょうだい――」

 命じた。

 アルティアは「こちらに回してください」と秘書室に答えると、ほどなく総督のデスクの電話がコールサインを表示して、受話器を取ると同時に総督室の壁のスクリーンに第四十六代地球連邦政府大統領アルバート・E・ブリッジストーンの満面の笑顔が大映しになるのだった。

 六十七歳とは思えない風貌、溌剌と生気漲る青い眼光は炯々として、白い歯並みは見事に整えられている。

「おはようございます、でいいのかしら? 大統領閣下」

「おはよう総督……実は艦内にいるのでね、昼か夜かの区別はつかくて、今こっちは……九時を過ぎたところみたいだが、どうもどっちだかよくわからないな……さっき食べたのがモーニングだったのかディナーだったのか」

 冗談ともつかないことを口にして、またニヤっと笑い、

「おはよう補佐官、ミス・ワイスラー、あなたはいつもお美しい、その見事な容姿に見合うようお手柔らかに頼むよ」

 ウインクを仕掛ける。

 アルティアの作り笑顔がますます引き攣ったものになり、彼女自身ですら今の自分がどんな表情をしているのかわからなくなってくるのだった。

 アルセニアは鷹揚な仕草で手を振って傍の副官を労っていた。

「ミス・ワイスラーは実にタフな交渉相手だったからね。側近たちが私に泣きを入れるくらいに。いやぁ、きみたちにはすっかりやられてしまったよ、まさかナカトミの試掘権拡大だけで押し切られるとは思ってもいなかった」

「あら何をおっしゃるの? あの交渉結果では、あなたとそのお友達は何のリスクも取らずに、うちとナカトミだけに負担を全部押し付けて、事が上手く運んだら利益の八割を文字通り吸い上げていくんでしょ? ここにいるアルティアからそれを聞いた時には、なんて欲の深い連中かしらって眩暈がするほどびっくりしたものよ。それってある朝目が覚めたらあなたの靴下の中に千カラットのダイヤモンドがありました、ワオ、なんてラッキーだ! サンタさん、ありがとう! って話じゃない? でもそのダイヤを入れていくのはサンタクロースじゃなくてあたしたちなのよっ」

「キミは会社を起こしたことがないからそんなことを言えるんだよ、莫大な収益を上げていても事業を赤字にするテクニックなんて、それこそ見出しだけで分厚い字引きが作れるほどあるんだから。だからちゃんとこっちに利益がもたらされるまでは、いつもヒヤヒヤしていなければならないのさ。ダイヤだと思ってワクワクして中を開けたらビー玉だったなんてことにならないようによろしく頼むね」

「こっちはちゃんとダイヤを置いていったのに、あれはビー玉だったなんて騒ぎ出さないでよね。全く、いったい、あなたの思いつきで始めた関税政策の所為で、周りがどんだけ苦労させられたと思ってるの? それで今日はなに? これ以上、何をお望み? あまり高望みをして手を伸ばすと足元の方が疎かになって、今度こそ本当に派手に転倒することになるわよ」

「うーん、手厳しいな、今度の外遊は同盟諸国との絆を確認するために、こちらから頭を下げてまわる巡礼のようなものだと思ってるんだが」

 それを聞いて、アルセニアは呆れ果てたというように、鷲鼻の左右のどんぐりまなこをぐるりとさせる。

「どこの世界に巡礼に行こうかって時に軍艦を使う人がいるのよっ。小国を相手に強大な武力を見せつけて脅かして、まるで大昔の砲艦外交そのままじゃない? こっちではいま、馬鹿が戦車(タンク)の代わりに空母でやって来る、ってちょっとした騒ぎになってるのよ」

 アルセニアはデスクのキャビネットにあった新聞を取り出すと、相手にもよく見えるように掲げてみせた。

 タブロイド紙の表紙は大昔の映画のポスターのコラージュで、ポンコツ空母に跨るブリッジストーンの得意気な顔が描かれている。

 だが相手も手練のベテラン指導者で、こうした挑発にも顔色ひとつ変えずに笑顔で応えた。

「私としては普通に大統領専用船を使うつもりでいたんだが、側近たちがねぇ、それはまずいですって言って渋ってねぇ、この時期、裸で長距離を移動するのは危険すぎるからって聞かないもんだからさぁ、ホラ、公国には真っ赤っかなのに乗って、ブンブンやってるえらく威勢のいいのがいるらしいじゃないか? アレに襲われたらひとたまりもないからって。それにね、この空母は護衛艦が要らないから普通の軍艦で艦隊を率いるよりもよっぽど安上がりなんだそうだ」

「テロリストならともかく、いくらなんでも一国の将校が大統領専用の船を襲ったりはしないでしょ、公国だってそこまで愚かだとは思わないわ」

「ただ念の為さ、みんな私のことを思ってくれてるんだよ、それには応えないわけにはいかないだろ、君にもわかってもらえると思うんだがね。民主国家の指導者の悩ましさってヤツを」

「………」

「ちゃんと火器には全て封をするし、機動歩兵だって一兵たりとも載せないし、マストのてっぺんには白旗を掲揚させるようにも言ってあるから……あれは支持者たちには評判が悪いんだが……誇りある旗艦となる新鋭空母にさっそく白旗ってのは縁起が悪すぎるって言ってね……だが、そこはなんとか説き伏せて意見を通してもらったんだよ……だからさぁ、それで勘弁してくれないかい?」

「まぁこっちも、あまり大したおもてなしはできないけれど、それでもよければどうぞっ。ウチにはあなたのところみたいに、スキヤバシのジローだとかギンザのキュウベエだとか、名店と誇れるようなものはありませんからね……ああ、そうだったわ、メストレにはマクドーネルの出店があったから、あそこであなたの大好きなチーズバーガーとコーラを思う存分お召し上がりいただくってのではどう?」

「いやしくも一国の元首が訪問するんだから、そんな塩対応じゃ君のところのメンツもたたないだろ?」

「あたし、あなたをお呼びした覚えなんかないわよ。こっちから出向くって言ってるのに、どうしても来たいって言って聞かなかったのはあなたの方だから。で、今日は何が目的?」

「それはその……以前にも話したと思うが……」

「アレはダメよ、いくらあなたでも聞けない相談だわね」

「またそんなツレないことを、ルーシー、君と私の仲じゃないか」

「アルっ、あたしをその名で呼ばないでちょうだいっ」

「すまん、君の顔を見ているうちに、つい昔に戻った気分になって。あの頃は楽しかったなぁ、毎日、バカやって……」

「バカやってたのはあなただけでしょ、あたしは毎日マジメに講義を受けていたから」

 やりとりを間近にしていたアルティアが、初耳とばかりに目を丸くしている。

 首脳会談がいきおい井戸端会議、学生寮レベルの応酬になっていたからだった。

「……他にも数え上げたらキリがないわ」

「やだなぁ、まだそれを持ち出すのかい?」

「気づかなかったの? あたしあなたのことが大っ嫌いだったのよ――」

「全然知らなかったよっ、てっきり僕の大ファンだとばっかり思ってたから」

「いいわねぇ、あなたの目で見ると世界がバラ色で――」

 自分にとっては天敵、苦手な男リストの上位五傑に入るであろうブリッジストーンであったが、上司のアルセニアとは旧知の仲であり、ケミストリーも合っていそうだというのは実に意外だった。

 確かに両名ともに体格で他者を圧倒できる存在感を持っている、という点では共通していた。

「……だから仮にあの子が承諾しても、あたしとしては認めるわけにはいかないわね。そもそもあの子たちは、どこかの独裁小国の“喜ばせ組”みたいな接待要員じゃないのよ、我国の貴重な無形文化資産、国の宝なの。だいたい警護をどうするおつもり? あなたたちご自慢の駆逐艦は狭い水路の中にまで入ってはいけないでしょ?」

「SPを同乗させればいい。うちのは優秀だから、わたしはいつでも全幅の信頼をおいているよ」

「体格のいい厳(いかめ)しい格好をしたSPを何人も乗せて、それであなたの周りをとり囲むっていうの? それを乗せたゴンドラをか弱い女の子一人に漕がせている図って、あまり見栄えの良いものじゃないんじゃないかしら? 労働虐待に見えるかもしれないし。またそちらのマスコミが大騒ぎするんじゃなくて? それにネオ・ヴェネチアは迷路のようなところだからいったん入り込んでしまったら、たとえ何人SPが居たところで警護するのはとても難しいわ。あたしたちですらよく知らない隠し扉だっていたるところにあるし」

「まぁ、それはね……」

「仮に万が一のことがあったらどうするの? そりゃあなたの代わりは幾(・)ら(・)で(・)も(・)い(・)る(・)のかもしれないけど」

「だからさぁ、そうならないように一緒に考えて、みんなで幸せになろうよ」

「あ(・)な(・)た(・)、が幸せになるのに、周りを巻き込まないで」

「しかしね、君のところのゴンドラ協会の方でも二つ返事で協力を惜しまないって言ってもらってるんだ。あとはきみ次第なんだけどなぁ……頼むよルッ、エーデルソン総督、首を縦に振ってはもらえないものかね」

 アルセニアは咄嗟に補佐官の顔を見て、事実関係を確かめるように無言で指示した。

「いいえ、あの子が巻き添えをくってもしものことがあったりしたら、それこそ取り返しがつかないもの。あの子はこのAQUAの宝、いいえ人類の宝よ。そんな大切な無形の財産をあなたと運命を共にさせるわけにはいかないわ、危険は冒せないわね。答えはノーよ」

「ンなこと言わないでさぁ……こないだの件では、我々もずいぶん協力をさせてもらったつもりなんだが……」

 こないだの件、と言われると、然しものアルセニアもグッと、返答に詰まるのだった。

 それに連邦政府側からは先手を打たれていて、既にゴンドラ協会にまで手が回っているとしたら誤算だった。

「お世話になったことには感謝しているわ。ブリッジストーン大統領閣下のご厚意とお力添えを戴かなければ、あれほど迅速に事件の解決には至らなかったと思っていますから……」

「だろう?」

「しかし、それとこれとは……」

「私は本心からAQUAの人たちには尊敬と友情を感じている。こちらとしても偉大なAQUAの友人たちのために尽力できてとても嬉しかったよ。そうだ、大使館を通じてアリシア・フローレンス氏からもお礼のメッセージをもらっていてね、私もたいへん嬉しかった。彼女、AQUAにおいでの際にはぜひご案内させてください、ってそう言ってくれてね」

「彼女が――?」

 アルティアに確かめるが、彼女も知らないのか首を横に振っている。

「もちろん、こちらも無理強いをするつもりはないんだ、ただ、ちょっとだけ色をつけてくれると嬉しいなってぐらいのことで」

「ですが閣下の安全を考えますと……」

「だからさぁ、お互いにその辺りのところは専門家同士でしっかり話し合って、チームで乗り越えていこうじゃないか? こちらもできることはなんでもするから。どうだろう? 色よい返事を聞かせてはもらえないものだろうか」

 どうやら勝負はついたようだ、とアルティアは悩ましげに広い額を長い指の先でなでつける。

 期限が迫る中、議会対策で頭の痛いところへ持ってきての、急遽持ち上がった特Aクラスの要人の来訪、難題の押し付け。

 彼女はブリッジストーンの大映しされた壁に背を向けると、反対側の壁に向けて大きく口を開けて声にならない忿懣の絶叫を上げる。

「……検討させて下さい、ご返事は後ほど――」

 アルセニアの屈服の言葉を背中で聞きながら、アルティアは既に各課題の実行へ向けての具体的な段取りに頭を急速回転させ始めていた。

「ありがとう、感謝するよル、総督っ。よしっ、こいつはいよいよ楽しみになってきたっ。ミス・ワイスラー、またキミにお目にかかることになるが、よろしく頼むよ」

 ブリッジストーンからまたしてもウインクを仕掛けられて、彼女は口角をあげて応えようと努力していたが、どう見ても口をへの字に結んでいるようにしか見えないのだった。

 

 

 

 

「大統領と個人的なご面識をお持ちだとは存じませんでした」

「あら、言わなかったかしら? あの人はね、あたしの大学時代の先輩なの」

「お伺いするのは初めてです」

「あたしがイェール・カレッジに留学した時は二年先輩で……卒業はあたしの二年後だったけど……ブルドッグスであたしはレスリング、彼はフットボールで、楽しかったわ、あの頃は……お互い、競い合うようにたくさん食べて、たくさん汗をかいて……あの頃の彼は……もう半世紀近くも前の話だけれど、大変なスターだったのよ。怪我をするまではプロにだってなれたかもしれないっていうレベルの優れた選手だった」

「そういえば、彼もイェールでしたね……でも、まさか総督と交流があったとは……あたしはロースクールからだったのでカレッジとは縁がありませんでしたから、全然知りませんでした」

「あなたほどの人でも苦手なタイプの男が居るのね」

「あたくしはそんな……」

「彼、世間では良く言う人の方が珍しいみたいに言われているけれど、そんなに悪い人でもないのよ。あなたにも判るでしょ? まぁあの体格で、言動が雑だから勘違いされるのも仕方ないといえば仕方ないんだけど、あれで素顔は情に篤いなかなかの紳士、タカ派で一括りにされてるけど、根っからの平和主義者よ」

「ちょっと意外です。あたくしの抱いていた印象とはだいぶ違いますが……そうなんですか……」

「実家はお金持ちなのに、でも親のコネを使ったりしないで最後まで自力で単位を取得して普通に大学を卒業したんだから、その点も買ってあげてもいいわね」

 アルセニアはデスクの新聞一面の、カリカチュア化されたブリッジストーンの似顔絵に視線をおくりながら、

「巧みなビジネスマンであることは間違いないけれど、あのとおり裏表のある人じゃないわ、ズルなんかしたりはしない人よ」

「まぁ、それはなんとなく……」

「今の彼を見ていると、フットボールのスターになれなくて良かったと思うの。塞翁が馬、人間、何が幸いするかわからないものね。家業を継いで、今ではそれを連邦でも五指に数えられるほどのメガカンパニーに育て上げたんだから。でも還暦を目の前にして政界に進出するとは思わなかったわね。そのうえまさか大統領にまで上り詰めるなんて……それだけ彼を愛する人が大勢、居るってこと。畏れおおくも連邦百億の民を率いる大統領に、運やフロックだけでなれるはずもないから。能力、実力、そして人間としての魅力を持ち合わせていないと」

「たしかに、そうなりますね……彼が魅力的な人物だっていうのは分かるんですけれど……」

「あらまぁ、女子高生みたいな反応だったわけね」

「あたしはそんな――」

「いいじゃない、気になるから背を向けたくなるだなんて、アイスィクイーンと言われるあなたにも可愛いところがまだ残っていたのね」

「そんなんじゃありませんっ」

 アルセニアは美貌の副官が色を失う様子をしばし堪能してから真顔に戻ると

「ただ……アリシアに、あの子にまた無理を聞いてもらうのは、さすがに忸怩があるわ……」

「協会に連邦側からの接触があったことは確認できました」

「あたしとしたことが、うっかりしていたわ……籠の中に隠しておくべきだったのに、先を越されてしまったようね……さて、どうしたものかしら……ねぇ、アリシアさんと会えるようにセットしてもらえないかしら? 内々であたしが直接出向いてもいいから」

「それは、可能ですけれど……しかし……」

「目立たないようにするから」

「目立たないって言われましても……」

 百九十センチ百五十キロの巨躯をどうにかするのは、いくらなんでもそれは無理な相談だとアルティアは思うのだった。

 

 







honeoさま、お気に入りに加えていただきありがとうございます

キャラクター名を誤るというミスを修正しました
申し訳ございませんでした


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