※この作品はR-18です。

ARIA A SECRET SCHOOL DAYS   作:真夜中のミネルヴァ

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先週に引き続きエロティックなシーンはありません


レイディー・クラッシャー エピローグ セックスシンボル その2

 

 

 昨夜のうちに空母から直接、降下用ランチで洋上に降り立ったブリッジストーン大統領一行は、アルティアが急遽チャーターした大型客船マーメイドプリンセスへと移乗、外海からネオ・ヴェネチア群島のおりなす内海へと向かう数時間の航行の間に、船上で亜地首脳会談が行われ、外務、財務、国防、貿易産業の重要閣僚に加えて公安の責任者も交えての意見交換を行ったのち文書の取り交わし、覚書の調印と続いて、引き続き船上でのワーキングランチとなり、その後、内海に到着した後は両首脳二人だけがゴンドラに移って遊覧を楽しみながらサンマルコ広場へと向かっていた。

 アリシアにしてもこれほどの重要人物をゴンドラに乗せて水先案内をするのは初めてのことで、身に余る大変な名誉だったが、さしもの彼女も緊張のために手足が震えそうになるのを深呼吸をして落ち着かせ、万が一にも不測の事態が起こらないように細心の注意を払っての、本島、サンマルコ広場までの約三キロほどの水上行程なのだった。

 地球連邦政府の最高指導者アルバート・イバンジェリン・ブリッジストーン大統領とアクア総督アルセニア・エーデルソンによる亜地両国政府トップ同士の差しの会談が、いま彼女のゴンドラの上で行われているのである。

 予定では午後四時から広場で共同声明と内外マスメディアを交えた共同記者会見が行われるという段取りになっていたが、それにぴったり間に合うように、遅すぎず、速すぎずのペースで水面をゆったりと漕ぎすすんでいる。

 頭にはヘッドホンを装着して首脳二人の会話が聞こえないようにして。

「……前方左手に見えますのが、サン・ジョルジュ・マッジョーレ島、そしてサン・ジョルジュ・マッジョーレ聖堂になります……」

 ガイドについても二人の会話の腰を折らないように、努めてごく限られたものとして、政府側と相談をして取り決められた内容についてのみ短く伝えるようにしていた。

 また彼女のゴンドラは、やはり政府からの指示で少しだけレイアウトを変更していてポッパ台の足元近くに配置されていた主賓用のリアシートを取り外してあって、右側(舳先側から見ると左手)には地球連邦国旗を左側にはAQUA国旗を掲揚し、それを背にする形で舟の中ほどに二つの椅子を六十度ほどの角度をつけて向き合うように配置している。

 アリシアは、初めアルティアからその企画を持ちかけられた時には、あまりにも重大な役目に恐縮して謹んで辞退するつもりでいたのだが、エーデルソン本人からも対面でじきじきの要請を受けては、もう仕方がなかったのだった。

 氏からは件の盗撮事件で多くの支援を受けていたこともあって断るに断れずついに受諾したのである。

 

 

 

 総督執務室、五日前――。

「……でも、本当に私でよろしいのでしょうか? 国どうしの外交の場に、わたくしのような場違いなものが……それに、仮にもし対応をするとしても、もっと相応しい立派な方がいらっしゃると思うのですが……協会理事長のビスマルクさんであるとか、グランマ、秋乃先生や……プリマだって私より先輩のウンディーネは他にもたくさん居られるのに……」

 アリシアがなおも渋ると、

「天地さんはともかく、ビスマルクさんにはゴンドラは漕げないでしょ? それにこの一件はブリッジストーン大統領からのたってのご要望なの。ぜひあなたのゴンドラに乗りたいという……たしかあなたもそのようにメッセージを送っていたとか」

「……あれは……あたくしの件で大統領にも大変お力になっていただいたというので、それでゴンドラ協会から御礼のご挨拶状を送るようにと言われて……大統領がこのさき私人に戻られた時の際に……そしてもしもこの街をご訪問されることがあったらというつもりで……機会があればと……」

「向こうはそうは思っていなかったみたい」

「………」

「だってあなたは、このAQUAでいちばんのウンディーネ。誰もが認める白き妖精のアリシア・フローレンスよ。どこに出しても恥ずかしくないこの国の誇り」

「……そんな……わたしは……」

「それに政府としても、あなたたちウンディーネを国の重要無形文化資産に認定した以上、その事実を全世界に広く知らしめるという意味で、これはちょうど良い機会だと思っているの……その大切な宝を、ひとつ間違えば傷をつけてしまうところだった……あんなことはもう絶対に許さないわ、絶対にっ……あなたを、あなたたちを保護すると約束をしていたのに、その矢先にああした卑劣なことが起きてしまったなんてね……私も責任を感じているのよ」

「責任だなんて……あれはただ、あたしが……不注意だっただけで……」

「まだそんなことを言ってる。アリシア、あれは誰にもどうしようもないことよ……私だって……」

 横に居た補佐官のアルティアが言葉を添える。

 彼女にしても他人事とは思えないのだった。同じ女として、あのような辱めを受けて、なお自分を失わずにいるアリシアに対しては同情とともに畏敬の念を抱いている。

「ごめんなさいね、また嫌なことを思い出させてしまって……」

「総督……アルティアさん……」

「アリシアさん……あなたの思いにはみんなが感動して本当に喜んでいるのよ……ありがとう……国としてもとても感謝しているわ、本当にありがとう、アリシア」

 全身スキャン盗撮被害の件は、幸いなことに彼女の性的なパートは護られて――アキトは彼女が当日身につけていた肌着に偶然、スキャンへの干渉作用があったのかもしれないと考えているようだった――かろうじてプライバシーに重大な毀損を招くまでには至らなかったが、拡散データそのものは回収しようがなく今も多くの人の目に晒されていて、この瞬間も太陽系全域からアクセスを受けて莫大なマネーが流れ込んできていた。

 事件についてアリシアは結局、自身の被害届を出さないことにして、また回収された口座の管理を全てAQUA政府に委ね、それはAQUAを含めた世界中の子供の保護、育成のための基金として運用されるようになっている。

 この基金については当初、彼女の名を冠して、例えばアリシア・フローレンス育英資金などにしてはどうかとの提案もあって、アルセニアから打診をされたこともあったのだが、さすがにアリシアはそれには強く抵抗して、あくまでも自分が前に出ることなどないようにと懇請したため公にはされなかったのだった。

 だが、こうしたことは自然に人々の間で知られるところとなり、当該支援事業全般を慣用的に、アリシア基金、と呼んでたいへん尊ばれるようになるのだが、それは少し後になってからのことである。

「……その上で、またお願いをするだなんて本当に心苦しいのだけれど、どうかこのAQUAのために、あなたのお力をお貸しして欲しいの……」

 アルセニア・エーデルソン総督みずからこう言って頭を下げられれば、アリシアにはもう拒むことはできなかったのだった。

 

 

 

 初秋の午後の内海は、風もなく日差しも和らいで水面も穏やか、観光には絶好のシーズンを迎えようとしていた。

「……右手をご覧いただけますでしょうか? 今日は晴れてとても視界が良く、地平線の向こうにオリンポス山をお臨みいただけます……太陽系で最も高い標高を誇り、海抜は一万八千七百四十メートル、地球のチョモランマの二倍以上の高さの活火山です。永久冠雪は真夏でも消えることなく、今日も山頂から六合目あたりにかけてくっきりと白く輝いております。とりわけ冬の朝は美しく、上る朝日に真っ白な山体がオレンジに色づく雄大な眺めは、わたくしたちウンディーネにとっても目を楽しませてくれるとても素敵なこの街の自慢の風景です。もしも冬にお越しの際には、冬は夙(つと)めて、というのがおすすめなのかもしれません」

 ブリッジストーンが笑顔で振り返って、頷きながらウインクサインを送ってくるのを、アリシアはほんの少し困った顔の優雅な微笑みを返して答礼の会釈をする。

 その横でアルセニアもご自慢の景色に満足げに頷いていた。

 当初アリシアは、畏れ多くも公式の場で首脳二人の背中をポッパ台の上から見下ろす形になるので不敬にあたるのではないかと危惧したのだが、ホスト国元首に随行する形になるので、そちらについてはそもそも全く問題なく、もしも気になるというのであれば椅子を少し舳先側へずらせば十分だろうということで、こうしたことになっていた。

 会談は終始和やかな雰囲気で進んでいるのが窺えて、アリシアの目には両首脳の後ろ姿が、まるで仲の良い老夫婦のようにも映り、彼女はいつもしているようにポッパ台の上から二人の乗客の多幸を祈るのだった。

 違いがあるとしたら、二人で四、五人分もの重量があることだったかもしれない。

 大柄な二人の指導者は、合わせるとゆうに重量が三百キロを超えて、その広大な背中は、いやしくもそれぞれの国の民をあずかる最高指導者のものとして実に似つかわしいようにも感じるのだ。

 総勢百億を越える民の明日の平和と安全が、平穏な暮らしが二人の背中にかかっているのだとしたら、どれほど大きな責任なのだろうと思う。

 それを考えると身が引き締まる。

 いま、自分はそんな人類の運命を担う尊い命を委ねられている――。

 なにがあっても無事に二人を広場まで送り届けなければならない。

 気持ちもあらたに、いっそう丁寧なオール捌きで、水の上をまるで浮き上がってでもいるかのようにゴンドラは滑らかに進んでいく。

 マッジョーレ島を抜け、カナルの入り口にさしかかっていた。

 既にそこはウンディーネたちの乗るゴンドラが海上を埋め尽くし、要人を乗せたゴンドラからは少し距離をとって見事に整然と列を成し、サンマルコ広場へ続く海の回廊を形作っているのだった。

 ゴンドラの上で佇立する美しいウンディーネたちのつくる森の中を抜けていくような光景に、ブ大統領はもちろん、そしてエーデルソン総督さえもひどく感銘を受けている様子でいる。

 厳しい観閲式などとは違ってどこまでも優雅で美しく、平和なAQUAを象徴するような目と心を和ませる光景。

 一方、本島の海岸には大統領と総督を乗せたゴンドラを操るア(・)リ(・)シ(・)ア(・)の(・)姿(・)をひとめ見ようと大勢の市民や観光客が詰めかけていて、警備線の向こう側に群をなして歓声――一部は怒号と罵声だったが――を上げていた。

 

 

 どこまでも静謐で夢のように優美な海上と、陸上の喧騒――。

 

 

 対比があざやかで、これはAQUA政府側が意図したものではなかったが、まるで精霊たちが暮らす聖なる世界から俗世へと戻っていくような、そんな名状しがたい厳かな雰囲気、ある種の宗教的ともいえる感銘を二人の政治家にもたらしていたようである。

 ゴンドラが広場に近づくにつれて、人々の歓声はさらなる大歓声に変わっていく。

 大統領はその全てに満足した様子で片手をあげて応えていた。

 アリシアはゴンドラを広場前の舟寄せにつけると、軽やかながらも実に端整な身のこなしでポッパから降り、舳先側へとまわって大柄な大統領に向けて手を差し伸べる。

「お疲れさまでしたブリッジストーン大統領閣下、お手をどうぞ」

 これを見届ける側からすると、圧倒的ともいえる体格差に美女の繊手は心許なさを与えたかもしれなかったが、アリシアの所作は実に慣れたもので、体の重みを意識させることなく大統領の偉躯を桟橋へと引き上げた。

 ブリッジストーンはアリシアの手の甲をポンポンと叩いて労うと感謝の口づけをする。

 それが少し長くなったのを咎めて

「大統領、あまりデレデレされていると後でカレン夫人にお叱りをいただくことになりますよ」

 アルセニアが背中に向けて小言を口にしている。

「素晴らしい、実に素晴らしい体験だった……一生、忘れられない経験になったよ……このような歓迎を受けて、総督には感謝に絶えない、ありがとう」

「恐れ入ります、大統領閣下。アリシアさんもありがとう、お疲れさま」

 ブリッジストーン大統領は歓声に応えて片手を高々と差し上げる。ひときわ大きくなる歓声の中、

「ありがとう、アリシア・フローレンス氏の見事な漕艇には、感動を禁じ得ない。ありがとう」

 アルセニアからも労いの言葉をかけられて、アリシアは二人に深く首(こうべ)を垂れて答礼をする。

 広場に敷かれた赤絨毯の上を並んで去っていく大きな背中に感謝の眼差しを送りながら、アリシアも自分が勤めを無事果たせたことに安堵するのだった。

 

 




読者に背を向けるような投稿が続いているので、さぞや不興をかっているとは思うのですが……

次回は18禁になります

レイディー・クラッシャー事件を受けた後、その騒動の最中にも二人は逢瀬を決意します
最愛の大切な恋人を辱められれば、男は奮い勃たずにはいられず
女にはあらためて覚悟のようなものが生まれます
そんな二人がデートをするとなれば
それは少しばかり以前とは違って、情熱的に羽目を外すことになるのかもしれません


誤字の微修正をしました

adachiさま お気に入りに加えていただきありがとうございました

二週続けての遠回りに、フォロワーが減るだろうなと覚悟していた中で、逆に増えたことに驚いています

今後もよろしくお願いいたします
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