※この作品はR-18です。

ARIA A SECRET SCHOOL DAYS   作:真夜中のミネルヴァ

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 仲良し二人の艶っぽいエピソードは一旦、小休止して、にゃんにゃん啼いて愛嬌をふりまくアリシアさんのお話は次回にまわします

今日のお話は少し時間を前後して、アリシアさんの盗撮が発覚した際のエライ人たちの反応とワルい人たちのその後、そして社会的な影響についてです

一話で終えるつもりのエピローグが、意図に反して長くなってしまったことをお詫びいたします


レイディー・クラッシャー エピローグ セックスシンボル その4

 

 

 アリシアが卑劣な盗撮事件の被害者になったという報告は、AQUA総督、アルセニア・エーデルソンを嚇怒させた。

 その怒りの大きさは、デスクに座る巨躯から立ち昇る憤激のオーラで背景にした壁紙の模様が揺らいで見えるほどで、側近のアルティア・フォン・ワイスラーですら畏怖を感じる激しいものなのだった。

 つい二週間ほど前にアリシアが海上からの格調高い見事なスピーチを行って全世界を驚倒、感激させ、またアルセニアがアリシアを含むウンディーネと水先案内業を国家として保護すると約束をして、言葉通りに彼女たちを国の重要無形文化資産登録を果たしてからいくらも経っていない、そんな矢先にウンディーネのシンボルともいうべきアリシア・フローレンスが辱めの犠牲者とされて、国としても、またアルセニアとしても品位も面子も潰された格好だった。

「アルティア――」

 アルセニアは普段は“アルティ”と愛称を使うが、こうしてきちんと名前で呼ぶ時には厳かな気配をたたえて、アルティア・ワイスラーも主席補佐官として居ずまいを正して向き合うことになる。

 総督は本気だ――。

 あらためて彼女――アルセニア・エーデルソンこそが、このAQUAの元首、最高権力者であると感じる緊張感。

「捜査は地元警察ではなく、NIAにあたらせなさい……アンドレアを呼んで――」

「わかりました」

「犯人を捕まえたら拷問してでも自白させなさい。なんならこの私が究極奥義の卍固めにして締め上げてあげてもいいから……フッフッフ、久しぶりに楽しみよ、悪党どもの断末魔の悲鳴を聞けるのかと思うと」

 プレデターさながらの獰猛な顔つきで指の関節をボキボキと大きく音を立てて鳴らす。

「伝えます――」

 さすがに拷問をしろ、以下は冗談であるとしてもNIAを動かすとなると大ごとだった。

 国家非常事態にも比肩する重大局面である。

 NIA=国家警察――。

 そもそも犯罪発生率が極めて低いAQUAにおいて、国家警察はもとより警察が表立って動くこと自体、稀なことだった。

 しかも個人のプライバシーの侵害や醜聞に属するような軽微――な犯罪に“彼女”たちが動員されるのは通常ならありえない。

 なんとなれば、その捜査の最高指揮権は内相に、ひいては国家元首、内閣首班、総督であるアルセニア・エーデルソンが握ることになるからだ。

 AQUA政府としても、エーデルソン本人にしても、絶対に失敗は許されなかった。

 それだけに必ず犯人を検挙し、罪に服させないと総督の責任問題にもなる。

 そのリスクを犯してまでもアルセニアが陣頭に立つというのは、それだけアリシアの事件に対して彼女の受けた衝撃の大きさを物語っていた。

 下令を受けたNIAはただちに部門の総力を上げて捜査を開始、事件の被害者であるアリシアを含む関係者と思われる者に対して事情聴取を行い、わけても真っ先に事件への関与が疑われたアップレスホテルのパティシエ、アンリ・ペーター・マロクールは直後に身柄を拘束されて当局へと連行、尋問されることになった。

 結果、アンリへの疑いは早々に晴れたばかりか氏からは貴重な証言を得られ、それらを元に重要参考人として荒木マユミの名が浮かび上がったのだ。

 ただAQUA側からすると遺憾なことに、彼女は既にマンホームに逃亡した後で、このためその後の捜査は地球連邦捜査局との合同捜査となり、また資金の流れを巡っても一国の政府だけでは対応の困難な国際問題化したため、図らずも当初は過剰に思われたアルセニアの初動対応が奏功した形となっていた。

 その後は亜地両国間の緊密なる連携によって、荒木マユミの口座の送金先からメストレに長期使用のロッカーを確認、そこから共犯として事件関与が疑われる吉本昌浩の存在も明らかにされたのだ。

 さらには両名のメール、通話履歴の解析からもう一人の人物の関与も強く疑われることとなり、都合三名の容疑者のうち荒木マユミ、吉本昌浩の二人については身柄が確保され、容疑が固まった後、逮捕されたのである。

 残る容疑者一名については、逮捕された二人に較べ格段に大物ということから慎重に捜査が継続されていたが、これについても容疑が固まり逮捕状の発行を見ていた。

 また荒木、吉本の両名が隠匿していた秘密口座についての情報も得られ、かくして事件は国際化しながらも発覚後、一ヶ月足らずの間にスピード解決、ほぼほぼ結末したのであった。

 ほぼほぼというのは、事件から三年あまりを経た今も、残る一名の行方が判明せず逮捕に至ってはいないからだった。

 重要参考人一転、犯人特定、検挙へとつながる証言者となったアンリは、管轄主体である内務省警備保全局から直々に感状を授与されることになり、勧賞式後に行われた地元紙記者からのインタビューに答えて、

「……厨房に突然、NIAの方々がやってきた時にはびっくりしました。僕はNIAっていうのは架空の組織で小説や娯楽の中だけのことかと思っていたので、まさか本当にそんな部署がAQUAにもあったんだって、誰かに悪い悪戯でもされてるのかと疑ったりして……で、そもそも僕のような一介のケーキ職人にはNIAのような凄いエリートさんたちとは一生、接点がないと思っていたので非常に興味深い経験となりました。彼女たち……びっくりだったのは、取り調べされた方のほとんど全てが若い女性であったことです。あれ、これって言っちゃいけないことだったんでしたっけ? あの、今のはオフレコで(笑)、それで、みんなとても礼儀正しくて、僕は疑われて当然の場に居合わせたのですが不当な扱いをされることもなく、良く話を聞いていただけてとてもありがたく感じました。今回、無事、犯人が捕まったと知らされてほんとうに嬉しく思っています……」

 続けて、

「これからはお客さまの顔ばかりでなく、自分自身の足元にもしっかり目をむけるようにしないといけないと反省しています。お騒がせして申し訳ありませんでした」

 と、ふだんは物静かな青年が、俄かに時の人となったことへの興奮もあってのことだろう珍しく饒舌になって終始笑みを絶やさずにこやかに語っていた。

 事件そのものも、第一の被害者であるアリシア本人が事件化を望まず被害届を出さなかったことで、これに合わせて盗撮の巻き添えとなった児童の父兄からも被害届提出を見合わせる動きとなり、この太陽系全域を震撼させた盗撮騒ぎは、表向きはその規模からすると考えられないほど矮小化されていた。

 しかも被害加害双方にとって幸運だったのは、盗撮が完全に成功したわけではなかったことで、アリシアのプライバシーはギリギリのところで保持され、また判例上も下着を撮影したことにはならず、猥褻物の頒布等にもあたらず、犯罪事実としてはより単純な肖像権の侵害ということになり民事としても軽微な事案となっていた。

 結局、刑法犯としての犯罪要件を構成しえたのは、連邦圏で保持及び使用を制限された機器の非合法的な使用に留まり、それに対する処罰もけして大きなものにはなりえなかったのだ。

 容疑者二人は司法取引を受け入れることで保釈となり、合わせて東京地検は不起訴処分の判断を下したのだった。

 まさに大山鳴動して鼠一匹、といった按配である。

 しかし――。

 その背景では、粛々と特異な事態が進行していた。 

 というのも荒木マユミと吉本昌浩の秘密口座は、連邦政府の司法権の及ばない独立コロニー・バールにあると思われたため、通常であれば事件はこれで落着させるしかなかったからである。

 だがこれに猛然と抗議したのはアルセニアである。

 これでは軽微な罰金刑だけで、アリシアの肌身を削って得られた資金がまるまる犯罪者の手に委ねられたままになるのではないかという当然の憤りであった。

 彼女からの非公式の支援要請を受けて、連邦大統領ブリッジストーンは惑星間警察機構に働きかけるとともに、連邦政府自体も裏工作によりバール側に対して強力な圧力をかけることで二人の秘密口座の情報開示を迫っていたのである。

 連邦側の水面下でのこうした動きについては当然、独立国家に対する主権侵害に当たるとして断固反対の立場をとる自由コロニー連合公国との間で一時、静かな睨み合いとなったのだが、もとより国際的犯罪組織への関与が懸念され、マネーロンダリングや児童売春の温床であることを疑われていたバールについては国際世論も冷ややかで、公国側としても口先介入以上の強行策に打って出るわけにもいかず、また連邦側の外交努力によって独立コロニー・バール側が自発的に犯罪者の口座を開示する、という姿勢に軟化したことをもって口座の移管がなされたのだった。

 そこで予想を遥かに上回る実態が判明する。

 これは口座の元所有者たちでさえ知らなかったであろう、その時点で既に二十億クレジットに迫る莫大な資金が二人の秘密口座に流入し、しかも刻々と増加していたのだ。

 年換算にすると二百五十億、カンサス州を超えて、アイオワ、ネバダ、オクラホマ州の域内総生産にも相当する途方もないマネーが個人の口座に、太陽系全域の隅々から集まり、そして最後には大河となって押し寄せていた。

 これは単純計算で、老若男女、生まれたての赤子から臨終間際の老人にいたるまでの人類、約百八十億の十人にひとりが、デブリ化されたアリシアのヌード画像にこの一ヶ月の間に一度はアクセスし、課金をしていたことを意味していた。

 新訳聖書の出版数が二千年で百億コピー程度であるとして、これと比較しても如何に瞠目すべき事態であったかが窺える。

 これがもしも正規の手続きで市場に置かれた商品であれば、圧倒的な規模の歴史的な大ベストセラーだった。

 この巨万の富の所有権をめぐって一部で議論がとり交わされたが、この瞬間もアリシアの肖像権が侵害され、そしてその対価として資金が流れ込んでいることをもって、アリシア・フローレンス本人の帰属とするべきであるとの当然の解釈がなされたのである。

 そしてアリシア自身はその全ての事実を知った上で口座の管理と資金の使用を含めたいっさいをAQUA政府に委ねたのだ。

 この先、彼女の子々孫々どころか、何十代にもわたって、未来永劫、何不自由のない豊かな生活が送れる富を、アリシアは一瞬のためらいもなく手放したのだった。

 ただ一つ、彼女の懸念は常に一貫して自身の盗撮の巻き添えとなった幼児たちに向けられていて、彼らに不都合がないように万全の配慮を行うことを条件として。

 アキトの言葉に従えば、ちょっと大胆な水着姿を撮影されたと思えば、自身の被害などそれほど大したことではない、考えようによっては実に些細な取るに足らないこと、とアリシアには既に気持ちの整理がすっかりついていたのだ。

 だから、子供たちと家族への配慮を第一にとし、自身は被害を訴えることを避けていたのだった。

 こうした事実は、事件に関与していた全ての人間を感動させ、それぞれに自身の襟度を改めて見直すことにつながっていた。

 それは児童の父兄たちも例外ではなかった。

 彼らもアリシアに倣って事件化を避けたのにはこうした経緯があったのである。

 そして――。

 

 

 

「あなた、それがどういうことなのか判っているの?」

「よく、わかってはいないと思います」

 いつも通りの自然な笑顔でアリシアは応えた。

「それならどうして? もっとゆっくり考えてから決めてはどう?」

 総督執務室で、あっさり口座の政府移管を求めるアリシアに、アルセニア・エーデルソンはどんぐりまなこをさらに見開いてまん丸にして、目の前で不思議そうな顔で微笑む白皙の美貌を見つめていた。

「でも、考えてもきっとわかりません。私はまだ二十歳の若輩の身、知らないことばかりで……だから大きなお金の使い方のよくわかる責任のある方たちにお任せして用立てていただく、それが普通だと思うのですけれど……おかしいでしょうか?」

「アリシア……」

「エーデルソン総督であれば、造作もないことなのかもしれませんが、あたくしには荷が勝ちすぎます」

「いいことアリシア、今のあなたはビリオネア、推しも押されもしない億万長者なのよ。それも運用次第でゆくゆくはトリリオネアにだってなれるのかもしれない……世界一の大富豪にだって……」

 アリシアはきょとんとしていて、判っているのか判っていないのか、判然としない顔つきをしている。

「巨万の富を握るものは大国に対しても大きな影響力を持つことだってできるの。たいていの欲しいものは手に入るし、やりたいことはなんだってできるようになるわ」

「あたしの欲しいものは、大切なものはもうみんなありますから……大好きな人たち、大好きな仕事、そして大好きな、やがては夫となる人も……これ以上、わたしに何が必要なんでしょう?」

 真摯な問いにはアルセニアの方が逆に答えに窮するほど。

「旦那さんになる方とは相談したの?」

「ハイっ、彼も大賛成してくれました」

 快活な笑顔で応えるアリシアに、アルセニアは大きく肩を上下させて長くため息をついた。偉大な顔には諦観とも諒解とも取れる表情が作られている。

「彼、お金は足りないと不便なものだけど、多すぎるのも不都合なものだからって言って、でも総督さんなら、そんな面倒事もきっと上手いことやってくれるから実にいいアイデアだねって」

「どうやら……あなたにはお似合いの旦那様のようね……」

「はい……きっとそうで……あってくれたら……いいと、思います……」

 かみしめるように言う姿に、アリシアの覚悟が覗いていた。

「なんてことなの……ああ、なんてことかしら……」

 アルセニアはデスクの椅子から立ち上がり、アリシアの前までやってくると細い両肩の上に大きな手を乗せながら言った。

「たとえば国を買って女王になるっていうのはどう? 金銀宝石に彩られた豪勢な服を着て、豪華な王宮で大勢の召使に囲まれて何不自由なく一日中、遊んで暮らすの、ご馳走を食べて……」

「……?……」

「……って、そう言おうかとも思ったけど……そもそも女神のあなたには女王になるのさえ降格なのね……よくわかったわ」

「あたし、女神なんかじゃありません」

「でしょうね」

「そうなんです、彼もよくふざけてそんなことを言うんですけど……いたって普通の女の子ですから……立派でもないし白くもないし……イケナイことだっていっぱい知ってるし……」

 汚れなき純白の女神の口許から大胆な言葉が紡ぎ出されていて、アルセニアは一瞬、ギョッとして目を剥く。

「今のこと、聞かなかったことにするわ……だってもし漏れたら大変なことになるから」

 大変なことになる、という言葉に反応して、アリシアはやわらかな弧を描く眉宇をわずかに翳らせて、怪訝そうな面持ちになっている。

「この世界の半数以上の人間が嫉妬に悶えて、のたうち回るのが目に見えるようだから……わたしだってどうにかなりそうだもの……今、目の前にあなたの旦那さま居たとしたら、うっかり締め殺してしまうかもしれないところよ、とっておきのコブラツイストでね」

「あのっ、もしも出過ぎたことを申し上げたのでしたら、どうかご容赦ください。あたしは……」

「違うわ、アリシア……いいえ、白き女神さま……」

「ですからわたしは……」

「本物の女神はね、地上に降臨した自分のことをけして女神だなんて言わないの……ソレを口にするのは偽物だけ……」

「………」

「……ああ、神々はいったい、なんて素敵な贈り物をこの地に差し遣わされたことかしら……わたしたちはそれにどうお答えしたら良いものなのかしら……」

 言いながらやがてその巨躯をうち震わせて落涙し、ゴダイヴァ夫人の故事すらも霞む、この高潔で心やさしい稀代の美女を前に深く首を垂れたのだった。

 アルセニア・エーデルソンはアリシアの心根に沿って資金を児童育成、教育福祉へと充当することを確約し、今後もこの見直しがいっさい行えないように法律によって縛りをかけた上でアリシアに資金に対して彼女の冠名を配することを申し出たのだが、アリシアはそれさえも拒み、その引き換えとしてアルセニアはゴンドラ協会への政府支援拠出の十%増額をアリシアに受け容れさせたのである。

 

 

 

 残る容疑者、荒木マユミの後ろ盾となりデータのデブリ化の支援と独立コロニー・バールでの極秘口座開設の仲立ちを行なっていたと思われる、もう一人の首謀者、まさに事件のキーとなる影の中心人物で、ゴンドラ協会理事でネプチューンコーポレーションのAQUA支店長、愛澤彪樹――は、関与を否定しつつも司直の手が及ぶ直前にAQUAを脱出、その後、杳として知れず行方が分からなくなっていた。

 そもそも彼は世界屈指の巨大コングロマリット、黒貴集団(エーデルシュヴァルツグループ)のオーナー一族の一人でもあり、他二名とは比較にならない大物だったが、そんな彼がAQUAの小都市勤務のサラリーマンを演じていること自体、そもそもひどくアンバランスなことなのだった。

 しかし当該案件の発覚によりアリシア・フローレンスに対してなんらかの悖戻な感情を抱いて接近を企っていたとすると、その不明瞭な動機の一端が窺えるのだ。

 アリシアの婚約を知った彼が、彼女に対してリベンジポルノ的な意趣返しを行っていたのだとしたら、規模はともかくとして実態は真に陳腐な事件であり、愚劣さにおいても他二名の実行犯と少しも変わらなかった。

 一方、歪んだ嫉妬心によって不条理にも辱められた側のアリシアは、事件によってなおいっそうの輝きを増す結果となっていた。

 豊かな知性と教養、まろやかな性格、愛くるしい美貌、美の女神そのものにも映るあの海上から全世界へと向けて発信されたスピーチからの感動冷めやらぬ中での盗撮騒ぎは、別の意味でまた人々を感動させていた。

 こんなにも愛おしい女性ががいるのかと思わせる究極の美貌が、今度は諸肌どころか全裸に剥かれてしまったのだからその衝撃は大きかった。

 慎ましく控えめ、おっとりとしていながら、メリハリを感じさせる見事な裸身には当然のことながら様々な意味で興味と関心が集中することになっていた。世界は、これまで誰も目にすることのなかったような、この鮮烈なセックスシンボルの登場に文字どおり色めきたったのである。

 喧しいネットの影響もあって、彼女の肌の隅々に対して実に情熱的な探求が試みられたり、また一時は“クンニ”というワードが一斉に検索語ランキングの上位に登場し続けたりと、年端も行かない男の子たちの胸を思いっきり悩ませることになったりもしたのだが、こうした狂熱が一周して、落ち着きを取り戻してからは、より静かにそしてより純粋に彼女の肉体の賛美へと移っていったのだ。

 裸の子供たちに囲まれるその容子は、まさに女神と天使そのものであることに人々は漸く気がついたのだった。

 アリシアの性は人々の間でポルノグラフィー化されたデブリデータとして消化されていくのではなく、むしろ身近なイコンとなって、自然により聖なるものへと昇華されることになっていった。

 それは奇しくもアリシアを嵌め殺そうと企み、それを実行した荒木マユミが別の意味で望んだように、人間美、女性美の解答として人類の共通の財産とするべく積極的に活用する方向へと向かっていったのだ。

 一例として、彼女の立体像は完璧な人体モデルの美術教材として教育現場でも既に利用され始めている。

 こうしたことについては、仮にどんなに扇情的であったとしてもアリシアのプライバシーが護られていたことも幸いしていた。

 その一方で、アリシアのセミヌード動画のあるカットをある角度から見ると、陰部が完全に観察できるようになるとの目撃報告は後を絶たず、ネット界隈を今も間欠的に賑わしている。しかしそれは一度として再現されて確認されることなく、常に憶測を呼んで都市伝説化されて定着していた。

 時期、時間、周囲の明るさ、見る側の目の調子など、様々な要素が合致した時のみ、

 見える――!

 という状態になるとされ、今もデータにアクセスするものにエロスと射幸心を喚起し続け、同時にAQUAの財政基盤をも強固に支えているようである。

 最後に、自由放免とされた二人のその後ではあるが、司法取引により氏名は伏せられ、表向きは彼らなりの日常に戻って行ったかに思えたのだが、共犯の吉本昌浩はその翌月の五月に急逝、彼が三十九歳の誕生日を迎える三日前のことだった。

 治療にあたった病院の発表では肥満中年男性には特に珍しくもない急性心疾患とのことだったが、保釈後の氏がひどく怯えた様子で常に身の危険を案じていたことから、一説には秘密の漏洩を危惧したバール側関係者の手によってなんらかの方法で処理されたのではないかとも噂されている。

 また実行犯の荒木マユミは吉本昌浩の急死よりもさらに先立ち、保釈してほどなく精神を病み奇行を繰り返すに至り周辺の配慮もあって保護、三年を経た現在も都郊外にある重度精神障害者用の施設に収容されている。一方的な逆恨みには違いないが憎い女を滅ぼした上に、超リッチなビリオネアになるという夢を半ば手にしていながら、その全てを失ったことを知って正気で居られる方がむしろ難しかったのかもしれない。

 こうしてこの未曾有の盗撮事件は白きものをさらに白く輝かせ、黒き者たちはそれに相応しい末路を迎えることで幕となったのである。

 

 

 神の見えざる手は善き者に篤(あつ)く、悪しき者を壓(あっ)する――。

 

 

 それはAQUAに生きるものにとっては、実に当然の終結なのだった。

 

 

 

 

 




ベネチアの運河が緑色に染まったとか!?

アリシアさんの白い肌を俺の色に初めてやりてぇっ! って思ってる不届き者も居るんだろうなっ
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