ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
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食事を終えて食堂から連れだって戻る途中、階段を二階まで上がりきったところで灯里は足を止めた。
「藍華ちゃん、あたし、ちょっと寄り道してから戻る」
「寄り道?」
「じゃあ先輩方、あたしは次、体育の着替えがあるのでこれで」
二階は二年生の教室のあるフロアだった。
「ちゃんとロッカーに鍵かけんのよっ! 女子更衣室だからって油断しちゃダメっ」
無類の美少女の背中に、藍華が軽く先輩風をふかせると、振り返った美少女はきっぱり顔でコックリ。
「当然です、キョービ自己防衛は女子のでっかい基本です」
アリスは制服の内ポケットから携帯を取り出すと、ぶら下げたストラップ型盗撮器チェッカーを二人に示した。
「ロッカーには警報機付きのICカードキー、下駄箱にはコンビネーションロック、公共の場所での暗証番号は、自作の乱数作製ソフトから毎朝任意に選んだものを使っています、少なくとも六桁以上の数字とアルファベットを組み合わせたものを」
徹底ぶりに、逆に藍華の方が舌をまく。
「あっそ、人気者は大変だわねっ! まぁ最近、ウチにもバカがウジャウジャわいてるって話だから、そんくらいしないとダメなのかもしんないけどぉ」
言葉にはアリスへの対抗心とやっかみとが少しばかり混じっている。が、灯里は二人の話についていけずに茫然自失のギャグ顔になっていた。
「はへー……?」
「ウワサじゃ、ウラ実とかってあおりまくってる大バカたちの影響だそうだけど、ホント迷惑な話だわっ」
「ほえー……うらじつぅ!? ナニそれー?」
「知らないのっ?」
灯里は首を左右にすばやく振った。
あきれ果てたといわんばかりに、藍華は口をあんぐり。
「あんたこのガッコに何年居ンのよっ!」
えっと――と、真顔でやりだす灯里を制して、
「ねぇ灯里ぃ、あんた、あたしが言ったとおりにロッカーの鍵のつけ換えしたわよね? 百円ショップで売ってるような三桁のダルマなんて、誰でも30秒もあれば開けられるダメダメだって教えてあげたでしょっ」
「ほえっ、えーと、まだ……かな……ごめんなさいっ」
灯里は藍華にオロオロ平身低頭する。
「あたしにあやまってどうすンのよっ!」
「灯里先輩のプライバシーはでっかい大ピンチです」
立ち去りかけていたアリスも、成り行きが気になったのか足を留めたまま先輩二人の会話に加わっていた。
「はへー、そうなのぉ、だってここ、学校だよぉっ、みんながお友達の」
「ハイハイ恥ずかしい非常識禁止っ! だからよけいに危ないんじゃないのよっ! 特にあんたみたいに無警戒なのがっ! ねぇあんた、最近何か身の回りで無くなったりしたものとか、無い?」
「そんなことぉ……」
「お財布とかカードとかじゃなくて、連中が狙うのはタオルだとか体操着だとか、ホントバッカみたい、上履きなんか持ってってどうするっていうのよっ!」
藍華が勝ち気な美貌の眉をキリリとひそめて、汚らわしそうに吐きすてた。
「えーっ! そんなことないよー、全然」
二人から脅かされてにわかに心配そうな顔をしながら、灯里はクキクキ首を振った。
「悪いこと言わないからサ、もどったらすぐに鍵を換えなネっ、あたしのお古で良ければあげるからサァ」
藍華にガッチリ肩を掴まれて念押しされる。
「先輩、これを使ってください」
どこに隠し持っていたのか、アリスも上着の中からザクッと夥しい数の鍵の塊を掴みだして灯里に差し出した。
「お好きなものをどうぞ、ぜんぶお持ち帰りになってもかまいません」
「はわわ……アリスちゃん、これ、みんな鍵っ?! すごい数っ」
「いざというときのための、転ばぬ先のなんとやら、です。日本に来てすぐ、この国の男どもがでっかいチョーバカヤローぞろいだとわかって、自衛のためにとやっているウチに、いつの間にかこんなになってしまいました」
「でも、好きなのって言われても……」
「おすすめは銀色のです。小さいですけど破壊にも強い、でっかいガンバリ屋さんです。ICカードに換えるまでのウチのエースでした」
灯里は二人に奨められるままに、その銀色と、下駄箱用に可愛らしい赤いダイヤルキーとを選び取った。
「ありがとうアリスちゃん、後でお返しするね」
「いりません、今日のお昼のお礼です。でっかいメチャウマのおにぎりの。それとタコさんウインナーもたいそうおいしゅうございました」
「はへー……」
灯里は、ある理由から思わず苦笑いになった。
その背中を藍華が圧す。
「ほれ、行っといでっ! お昼休みおわっちゃうわよ。ロッカーの鍵のつけ替えはあたしがやっといてあげるからさっ」
「うん、ありがとう、藍華ちゃん、アリスちゃん」
灯里はいつもあたたかい心遣いを示してくれる友人二人に感謝しながら、上ってきた階段をまた駆け下りていった。