ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
監視カメラの映像を見ていた天地秋乃の表情がさらに険しくなった。
そこには、ホテルの玄関前でミニ・コミューターを降りたアリシアがひとり、別のセダンタイプの4ドアのシティ・コミューターに乗ってホテルの外へと出ていくのが映されていたからだった。
「コミューターの車両ナンバーから、行き先を追うことはできますか?」
「わたくしどもには無理ですが、警察であればもちろんできます、可能なはずです」
秋乃の問いに、ホテルの警備責任者が答えた。
「では、警察への連絡をお願いできますか?」
「諒解しました」
警備責任者の女性は、すぐに警察に連絡をして事情を伝えると、支配人にも確認事しておくことがあると言いモニタールームから出ていく。
警備室で一人になった秋乃は、逸る気持ち抑えて状況を整理していた。
アリシアが何者かによって誘い出されたのは、まず間違いはなかった。
彼女がホテルの玄関前に到着したのは午前九時二十三分、十一時の口演開始時刻の一時間半も前、几帳面なアリシアらしく十二分に余裕のある行動だった。
その彼女が、ミニ・コミューターを降りたと思ったら、すぐに別のコミューターに乗り移っている。
映像をよく見ると、車の中に居るらしき人物とひと言、ふた言、話をしているようなのだった。
このことから窺えるのは、乗り継いだコミューターに乗っている誰かは、それはアリシアが警戒をしない相手ということだった。
恐らく女性で……ひとり、もしくは複数名の……。
しかし誰が、いったい何のために――。
それを考えると、色々な意味でも恐ろしくなる。
思いつく人物は居るのだが、疑いを抱くだけで気持ちが萎えてしまいそうだった。
そこにアニセー・ルロワが駆け込んできたのだ。
「アリシアさんがまだ来ていないって本当ですかっ!?」
「あなたこそ今まで何をしていたのっ?」
秋乃の声には自然に非難の調子が含まれていたようである。それに気がついて彼女は表情を和らげようと努めた。
「それが、大渋滞に巻き込まれてしまって。それぐらいならもう歩いたほうが早いくらいだったのですが、さすがに遅刻するほどとは思わなかったので……申し訳ありません……」
走ってきたらしいルロワはまだ息を乱していて、それを整えながら訴えている。
「いいえ、いいのよ、あなたの所為じゃないから……ごめんなさい……あたしも取り乱してしまって……」
「何かあったのですか? グランマが警備室に詰めているなんて」
訊かれた秋乃は愁眉に陰る表情をいっそう苦しげにしながら、
「アリシアが……どこかに連れ去られたみたいなの……まだ断定はできないけれど……」
秋乃はルロワにこれまでの事情を説明し、
「……そうなると、真っ先に疑われるとしたら、私になりますね……」
ルロワはガックリと肩を落として項垂れた。
「でも、私じゃありません……」
「わかってるわ、そんなことをする人じゃないってことぐらい……だいたい、あなたがアリシアをどこに連れ去るというの?」
アイリス・カーマイケルの証言で、アリシアがルロワよりも先に島を出たことは間違いがなかった。
同じミニ・コミューターでアリシアを追い抜いてホテル玄関で待ち構えることなど無理だと思う。
ただ、メストレ市街でコミューターを乗り換えて先回りするのが絶対に不可能なのか? というと、そういうわけではなかった。
それが悩ましくて苦しい。
秋乃がアニ・ルロワへの疑いを完全に晴らすことができずにいる理由なのだった。
仮に万が一、そうであったとして動機は――?
アリシアとの間で何かトラブルでも?
それこそありそうもない。
だから……手引きした人物はきっと他に居る……。
しかし、アリシアを首尾よく誘い出したシティ・コミューターの中に居る人物をイメージすると、どうしても頭の中にアニ・ルロワの顔がチラついてしまうのだ。
「……アリシアさんが、誘拐されただなんて……いったい誰が……」
「まだ、そうと決まったわけじゃないから……何か別の理由があって会場から離れているだけなのかもしれないし……じきに、あらあらまぁまぁ、そんなことになっていたなんて、うふふって言いながら戻ってくるかもしれないし」
「いいえ、あのアリシアさんが発表直前にそのような身勝手なことをするとは思えません……わたしの所為です。コミューターなんかに頼らずに
「あの子だって子供じゃないのだから、そこまで配慮する必要はないわ……あなたの責任じゃないから……」
秋乃はルロワの腕に手をやって労いながら
「ただAQUAがもう以前とは違う状況であることも考える必要があるわね……残念だけど、これからは島から外に出る際には、いっそう注意をしないと……」
「なにか私にできることは?」
「今は……待つしかないわ……もどかしくても、私たちに警察の真似事はできないし……」
妙齢の婦人二人は、狭い警備室の中で互いの胸中を慮りながら次第に言葉少なになっていくのだった。