ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
これも短いです
会場内に入ったアリシアをいきなり迎えたのは眩いばかりのスポットライト、瞬くフラッシュライトと、湧き上がる歓声と拍手、
そして――。
#さぁ、みなさま、いよいよお待ちかね、アリシア・フローレンスさまのご登場ですっ――#
座長? による場内アナウンスだった。若い女の声が大きく響いている。
アリシアは額に手を翳して目を守りながら、ステージの中央まで進み出ると、そこからホールの中央にある演台に向かって、数メートルほどと短くはあったが、まるでファッションショーにでも使うようなランウェイが伸びているのに気づくのだった。
会場は思っていた以上に狭く、せいぜい学校の教室ほどの広さ。
聴衆の少なさも意外だった。
中央の演台を取り囲むように二列に丸く座席が配置されていて、ただ十数名の人影が座っているだけのようなのである。
そしてアリシアの立ち位置からでは、彼らがいかに異様な装いでいるか強い光の影になって気づかずにいるのだった。
というのも、彼らは全員がベネツィアンマスクで顔の半分を隠していたのだ。
そして現れた女神の姿を食い入るように見つめている。
一方、アリシアは演台に立つとますます違和感が増し、それはほとんど不快感と呼べるものになっていくのだった。
演台の中空に浮かびあがるホロビジョンスクリーンは三面仕様で、どの方角からでも見られるようになってはいるが、常にスポットライトを浴び続けているのはアリシア本人なのだった。
#みなさまよくご存知の、AQUAの新星、プリマ・ウンディーネ、白き妖精のアリシア・フローレンスさまでございます。年齢は二十歳と八ヶ月、身長一七〇.八センチ、体重五十二.一キロ、スリーサイズは上から九十三.六、五十六.八、八十八.二……同性として、まったく羨ましい限りの見事なプロポーションです。女性美の到達点とも言われる完璧なまでの美貌で、生ける美の女神とも賞賛されておりますが、そのような評価が少しの誇張もないものであることが、いま実際にこうしてご覧いただきますとご納得いただけるものかと存じます。本当にお美しいですね、わたくしも惚れ惚れして魅入ってしまいます。こんなにお美しい方に既にフィアンセになる方が居られるというのが大変残念なのですが、それを踏まえましても、彼女がいかに特別な方かお分かりいただけるでしょう。それでは“八千”から始めてください――#
演者紹介も常軌を逸脱していた。
これまでの講演では、キャリアの紹介はあってもプライバシーに触れられることなどけして無かったからだ。
頬をそそけ立たせながらも、それでも大きく深呼吸をして気持ちを整えると、アリシアは開始の合図を受けてスクリーンに手を伸ばしてスタートボタンを指先でタップする。
アナウンスにあった、八千――の持つおぞましい意味にも気づくことなく。
スクリーンにはゴンドラを漕ぐ美しいウンディーネたちを捉えた動画が映し出されるている。
だが居合わせた“ゲスト”たちはそうしたものには一切関心を向けずにアリシアの肢体に残酷で無慈悲な視線を浴びせ続けているのだった。
薄いブラウス姿に剥かれた彼女の体は、強いスポットライトの光を受けて肌着をくっきりと透かしていたからだ。
豊かさと柔らかさと形の見事さを伝えて、体の動きに合わせて悩ましく表情を変えていく胸、優雅にくびれた細い腰がふっくらとした臀部へと続く素晴らしいボディライン。
スクリーン上にあるボタンの位置がことさら大きく位置を変えるのは、タップする際の彼女の体の動き――その都度、アリシアは仕方なく大きく体を伸ばしたり、逆に丸めたりしていた――をゲストたちに観察させるためで、その時、その時で、上質な動きを見せる筋肉や関節の動きが評価されているのだった。
そしてゲストの間で時に上がるため息は、アリシアの肉体に思いがけない魅力が露わにされたからに他ならない。
おやおや彼女、汗をかいてるじゃないか――!
白い生地で目立ちにくくはあっても腋の下の汗染みはしっかり浮き上がっていて、この心やさしい女神が確かに肉の身をもつことを明らかにしているのだった。
最前列にいるものたちは、そんなアリシアの纏った空気が動いて体臭が香るのを嗅き取ろうとして嗅覚を研ぎ澄まして待ち構えている。
彼女のプライバシー、生理がここでもまた消費されていた。
ゲストたちは想像の中で美女の体をしゃぶりつつ、それぞれが装着したマスク内のモニターに映し出され、刻々とせり上がっていく入札価格の推移を見守りながら、手元のスイッチを押し、あるものは落胆のため息をついて脱落し、またあるものは競合者の意思を挫くためのタイミングを計りつつ参入の機会を窺っていたのだった。
そして誰もがみな午後から始まる予定の地下での本番の舞台を、そして彼女が魅せることになる本当の意味での艶戯の開始時刻、その日の午後三時過ぎを期待して待ち焦がれていたのであった。