ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
「……わたくしたちウンディーネが使うオールの柄の部分を取り外しますと……」
映像が切り替わり、オールの端の部分がクローズアップされて、そこがねじ蓋になっていて中に一センチほどのサイズの小さな石が嵌め込まれているのが映されている。
「……中にはこうして重力石が収められていて、そのためゴンドラの重さが減殺されてほとんど力を使わずに漕ぐことができるのです。これがマンホームのヴェネツィアにあるゴンドリエーレさんたちとの大きな違いで、華奢な女性でもゴンドラを操ることができる理由です。仮にもしもわたくしがマンホームでゴンドラを漕ごうとしても、ゴンドリエーレさんたちのように操ることはけしてできません。ウンディーネはここAQUAだけのもの、ここでしか活動できないものなのです。反対にゴンドリエーレさんたちが重力石の力を上手に引き出すのはとても難しいでしょう。わたくしたちは子供の頃から石の埋め込まれたオールに馴れ親しんでいて、時をかけて石との関係が作られているので石の持つ力を使うことが許されているのです。こうしたことからゴンドリエーレさんたちとウンディーネはよく似ているようで、実はかなり違うものであることがご理解いただけるのではないかと思います」
アリシアは聴衆の反応を確かめようと一呼吸置いたが、やはり反応は薄くそのまま話を続けることにする。
どうにも馴染めない環境に彼女の表情からは笑顔はすっかり消えて、眉宇を翳らせた愁い顔になっていた。
それが逆に客席にいるものたちをさらに喜ばせているとも知らずに。
美女の沈んだ容子は、そのまま慰みものにされる際のセックスの生き餌にされた姿を想わせて男たちの股間を滾らせていて、また女たちはこの宇宙一とも言われる稀代の美女が、やがてはお仲間の淫獣どもの手によって穢されて身を持ち崩していく時の悲劇的な美しさに想いを馳せて、期待に股間を濡らしているのだった。
彼女がそうなるまで、あとほんの数時間――。
このアリシアの
「……このようにウンディーネにとって自分の重力石はとても大切なもので、会社に所属した際に授与されて以降、石とは生涯を通じてお付き合いをする切っても切れない仲のパートナーと言えるものになります。いま私は所属しているARIAカンパニーの代表代行の役目を解かれて新たに代行となった水無灯里の元でウンディーネを続けておりますが、会社の代表であるオールナンバーの1番も水無が継承しており、その際、長年、わたくしとゴンドラ上での生活を共にしてきたオールからは重力石だけを取り出して、今は7番のオールに移して……ちなみに7番というのはARIAカンパニーの創業者であり、わたくしたちウンディーネにとっての憧れの、また永遠の目標でもあるグラン・マーメイド、天地秋乃の七人目の弟子という意味です……」
オールナンバーの1番は、本来は殿堂入りしている天地秋乃の永久欠番となるものだったが、秋乃の意向でARIAカンパニーの代表代行が代々、担うようになっているのだった。
「……今日はそのわたくしたちウンディーネにとっての命ともいえる石を、みなさまにもお目にかけようと持ってきておりますので是非ご覧ください……」
アリシアはいかにも彼女に似つかわしい清楚なフリルをあしらったブラウスの襟口からチェーンを引っ張ると、胸の谷間に隠れていたペンダントを取り出した。
スクリーンにも同じものが静止画で大きく映し出されていて、透明なクリスタルカプセルの中に桜色がかった乳白色の大粒の真珠にも似た丸い石が見えている。
「……七年前に見習いとして仮入社した際に会社からいただいた時には、重力石の本来の色である真っ白だったものが長い間に少しずつ変わってきて今ではこのような色になっています。先月、水無への引き継ぎの際にオールから取り外した時にはわたくし自身も大変驚きましたが、これはウンディーネとしてともに歩んできたわたくしと石との間の絆が深まり、馴染んだ結果としてのものだと今はとてもありがたく誇らしい気持ちでいます」
重力石の色の変わり方には個人差があり、晃のものは紅っぽく、またアテナのものは緑色がかった白になっていた。
こうした色の変化は二つ名とともに、プリマとして積み上げてきたキャリアの証とも言えるもので、ウンディーネにとっては勲章ともいえる名誉なものなのだ。
「……一般に、この星の重力を制御するほどの力のある大きな結晶は脆く、扱いが難しいとされておりますが、それに比べますとこのサイズのものはたいそう丈夫だそうで、ダイヤモンドよりも硬く、また傷もつかないとのことで、ウンディーネを引退された先輩方たちの多くが現場を離れてからも指輪やペンダント、ブローチなどの装飾品にして、生涯にわたって肌身離さず大切に身につけているといいます。ただAQUAを離れるとたちまち輝きを失ってしまうので、この星から外へ出るときだけは取り外して、けして持ち出すことのないように注意をしているそうです。ゴンドラ協会には度々、マンホームでもウンディーネの水先案内を披露するようにとのご依頼があるそうなのですが、お受けできない理由がここにあります。この星を離れてわたくしたちウンディーネはウンディーネではなくなってしまうので……これは外の方にはなかなかご理解を得られにくいことなのですが、それにつきましても改めてこの場でもお伝えさせていただきます。ウンディーネによる水先案内は、ぜひネオ・ヴェネツィアにおいでになってご体験されてください。わたくしたちはいつでも皆さまをお待ちしております……」
まばらな拍手――。
代わりにフラッシュだけは途切れることなく続いている。
聴衆の関心は話の内容にではなくアリシア自身に向けられていることが彼女にも分かって、講演自体が無意味にも思えて虚しさを感じているのだった。
今日は本当にどこまでも残念な講演会なのだ。
なるべく平静を装って普段通りに話を続けようとするのだが、ショックにたびたび言葉を失ってしまう。
アリシアは、件の盗撮被害はともかくとしても、これまでにも断りなく撮影されることは幾度もあって、それも広報担当の仕事の一部として割り切ってはいたものの、やはり気持ちのいいものではなくできれば避けたいと思っていたのだった。
幸い政府からのウンディーネの無断撮影禁止の厳命が下されて、それ以降はすっかり鳴りを潜めていたので安心していたのだが、それが今日は国の取り決めたルールなど全く無視して聴衆は彼女の講演内容にはとんと関心を向けずに、代わりにフラッシュがばかりが瞬いているような現状なのだ。
実際、アリシアが講演を理由に立たされているのはモデルがポージングをするような場所、あるいは怪しげなパブで踊り子が腰を振るためのお立ち台のような所で、彼女が気が付かないうちに腋汗ショットは撮られ放題、時にはすぐ足元にまで迫ってきた客からスカートの中にまでレンズを向けられようとしていたりもする。
こうした時、アリシアは咄嗟にスカートの前を庇って撮影者に瞋恚の視線を送ったりもしたのだが、仮面で顔を隠した相手は悪びれるふうもなくニヤけた表情を貼り付けたまま席に戻ってしまい、また誰もこうした非礼を注意をしないどころか、座長――というよりもただの司会という感じの立ち位置の女性で、これももしかするとアンドロイドなのかもしれなかった――に対応を促すように彼女が顔を向けてアピールしても腹立たしいことに応じてもらえずにいる。
こうした明らかなルール破りも含めて、講演の最中にここまで露骨な性的関心を向けられるのは初めてのことで、客席からの粘っこい好奇の視線は殆ど物理的な影響を及ぼしているように感じられて、アリシアは一刻も早くこの場から立ち去りたいという強い衝動を抑えて忍耐強く話し続けているのだった。
幸か不幸かアニータから送られた肌着を身につけていることが今はわずかな心の支えとなっていて、これがなければとっくに逃げ出していたところだった。
後でどんなにお叱りを受けることになろうと、きっと胸のバランスは義務よりも我が身を守る方へと傾いていたことだろうと思う。
アキトさんの言うことをきいていて良かった――。
アリシアは今朝、部屋を出る前に不意に彼の言葉を思い出して肌着を替えて出てきていたのだ。
それはアリシアが送った手紙――アキトを通じてアニータ・ローウェルからの要請に応えて快諾した内容のものだった――への返礼ということで、先方から贈られた最新式の抗盗撮用の肌着で、今日は本島の外へと出るということから念の為に着用してみたのだ。
アキトが言うには十数種類の金属繊維を織混ぜた合繊を何層にも分けて特殊なパターンで重ね織りしたもので、盗撮抑止効果はほぼ百パーセントだとのこと。もしもまたフルヌードスキャンをされたとしても前回以上に非道いことにはけしてならないだろうという。
あんな哀しいことは一度でたくさん、二度と御免だったが、それでももしも身につけていなかったことを想うと今でも背筋に冷たいものが走る。
レンズを向けられる度に神経を張り詰めさせていてはとても講演などできるものではなかった。
「……それにいたしましても、この重力石というものはとても不思議な石です。無機物のようでありながらまるで生きているように温かくて、ここAQUAでのみ形を留めることができる……この重力石につきましては、これまでさまざまな議論がなされていることは皆さまもよくご存知のところだと思うのですが、わたくしの専門外のことでもあり解説はそちらに譲り、この後はオールと重力石との関係についての実際について、いくつかの画像をご覧いただきながら解説を加えていきたいと思います……」
彼女が前にしたスクリーンにはオール操作の基本を紹介する教本から引用された画像や映像が映し出されていた。
アリシアは差し棒を使ってさらに説明を続ける。
あと残るファイルは動画を含めても八本、時間にして十分ほど……それだけを我慢すれば……と、自分に言い聞かせていた。
「……この方はプリマ・ウンディーネとして実績のあるかたで、とても美しいフォームのオール捌きをされています。一方でこちらはまだシングルなのですが、一見するとよく似た動きをしているようで、両者の間には実際にはかなり大きな違いがあるのですがお気づきになられた方はおいでになりますか?」
例によって反応は無く、代わりにヒソヒソと交わされる囁きの中に
#あの重力石ってなんだかアレみたいだったわね――#
#アレ――?#
#クリトリス――#
#たしかに――#
#ねぇ、この
#まさか、僕はあまり具が大きい子は好みじゃないな……大きくしてやるのは大好きだけどね#
話し続けながらも耳を疑うような卑猥な言葉が聞こえては思わず反応してしまい、頬をピリリと緊張させている。
しかし、そうしたことにもいちいち目くじらを立てずにすっかり無視することにして、アリシアは手にした差し棒をオールに見立てて動作を交えて解説を続けているのだった。
もうあと少しの辛抱――。
と、自身を励まして。
「……答えは、プリマの方のオールの軌道が正確な円、球面を描くのに対して、シングルの方はそれがまだ完成されずに形が歪つになっていることです……」
二つの映像を並べ、さらにそれらを重ねて両者の違いをわかりやすくする。
正面から、側面から、そして背面から――。
ホログラムの動画が再生され、ある時は静止させて違いを指摘していった。
内容はアリシアもかつて秋乃から座学で学んだこととほとんど同じものである。
もっとも彼女の場合はこのような理解しやすい立体映像ではなくあくまでも教科書を使ってのことであったが。
「……このようにして持ち手となる支点を中心に、オールの先端がなるべく正確な円軌道をとるようにする、それが基本の動作のフォームになります……」
アリシアも実演をしてみせて、他愛もない日常的な動きではあったが、にもかかわらず差し棒の先端がみごとに完璧な円を描き、それにはさすがに聴衆も拍手で応えるのだった。
「君は竿をいつもああやって握るんだねぇ――」
会場の最前列から声がかけられて
「おかしいでしょうか?」
応じると
「いいや、ただ感心しただけだよ。その白くて綺麗な手で握られたらさぞかしと思ってね」
「――?――」
「会頭のは三本もあるから、手が二つじゃ足らんでしょう?」
奥の方から意味不明のヤジも飛ぶ。
「二つは後ろと前の責め専用の道具だから、握られるのは真ん中のモノだけで十分なんだよ、わかったかクォンくん、おっと実名をあげちゃいけなかったな」
「会頭、申し訳ありませんが却下です――」
今度は別の男の声がそれに合わせて言った。
「おっと、そうきたか……十二億ねぇ……」
「じゃあ僕は十二億五千で……」
「みっちゃんもか、いい加減に降りてくれると助かるんだが……まだガンバルつもりか? ここは年寄りに譲って、若い君らは
「あっちゃー、いきなり二十ですかぁ、会頭もホンキみたいですなぁ」
場をわきまえない大人の男たちの言い合いになっていて、
「あの、ご静粛に願います――」
アリシアが割って入り、ようやく座がまた静かになるのだった。
しかし彼女の気づかない水面下では、本人の意思を他所に自身の運命を定めることになる闘いが続いているのだ。
あらゆる指標でアリシアの価値は飛び抜けた最高評価を記録していて、それとともに競り値も加速度的に釣り上がっている。
処女ではないと見做されていることが唯一の欠点だったが、それさえも他のありあまる美質によって補われて、過去の落札額の記録を上回るのはほぼ間違いないと思われていた。
既にわずか数時間のプレイに二十億ビット、五億八千万クレジットに相当する値が付けられているのだ。
もちろん本人はそのことを知る由も無い。
自分がこの後、無理やり演じさせられることになる残酷で淫らな舞台の主演女優を務めることになっていようとは。
これまでにも多くの美女たちが汗と涙と体液を搾り取られ、悲しく果てていった淫魔たちの宴。
オークションに参加している常連の男たち中には、女の心と体を蹂躙するために肉体の改良をしているものまで居て、一度でもこの舞台に上がったら最後この性地獄から逃れることができた女は一人もいないのだった。
みな干からびて、見る影もなく果てるまで命の炎を吸い取られて身をもち崩していく。
それはどのような美人女優だろうと人気絶頂のアイドルだろうと関係がなかった。
彼女たちは静かにフェードアウトして、やがて名前を変えて誰にでも体を売るようになるのだ。
そして人類の恋人、アリシア・フローレンスも、いままた新たな犠牲者の列に加わろうとしているのだった。
「……このような動きをすることで重力石の効果がよりよく発揮され……理由は分かりませんが実際にオールを使ってそのようにしてみると明らかに水の抵抗が軽くなるので、それで正しいフォームであることが感じられるのです。こうしてオールを扱えるようになると石の力がゴンドラにも伝わって上手く水の上に乗せることができるようになります……そしてオールとの呼吸さえ合えば子供でも滑るように水面を走らせることができるのです。ただ風向や水の流れなどを正確に読むのは長年、続けているわたくしでもとても難しく、日々手探りで、ある時はゴンドラに任せて、またある時はゴンドラの動きを抑えながら、常に場面場面に応じた操舵、漕艇が求められ、ですからさっきは上手くできたけれど、いまはちょっと間違ってしまったわ……などいつでも失敗と修正の繰り返しです。その日の反省を記録した業務日誌のノートはプリマになってからのものだけでも既に十数冊にもなり、自分がいかに多くの過ちを重ねてきたかを振り返ると慢心を諌めるよすがとなってくれています……」
人々からミス・パーフェクトと賞賛される現役トッププリマウンディーネのアリシアを常にトップたらしめているのは、こうした不断の研鑽があってのことだった。
それはグランマ秋乃から引き継がれているARIAカンパニーの伝統でもあり、その意識は水無灯里にも受け継がれている。
「……わたくしには経験がないのですが乗馬の趣味のあるウンディーネの話を聞くと、ゴンドラを漕ぐのと馬を操るのとはよく似ているそうで、馬と人との間に人馬一体といわれる状態があるように、ゴンドラにもウンディーネとの間に強い繋がり生まれると、そのような境地にたどりつけるのかもしれません。その意味ではゴンドラは確かに人の作り出した乗り物なのですが、命のある生き物であるともいえるのかもしれませんね……」
ゴンドラを精妙に操りながら、折々の乗客に合わせた形での適切な観光案内、豊かな文化紹介に加えて心地よい舟謳までも披露する。
一人一人のウンディーネが日常的に行っていることが、いかに高度な技量、知識と経験とによって裏打ちされた文化的にも比類なき内容を含んだものであるか、アリシアの口演に接した者は改めて瞠目し刮目することになる。
それまでは兎角、女の子がボート漕ぎをするアトラクションの類とみなされがちであった水先案内というものが、彼女を通して多くの人々に知られることによって、また国の文化財登録を果たして以降に現れた大きな変化だった。
だから講演終了後は聴衆は感動に、スタンディングオベーションで応えてくれるのだった。
いつもなら――。
「……講演は以上になりますが……最後に、わたくしにこうした機会を与えていただいた所管の行政機関の皆さま、商工連盟の皆さま、観光協会の皆さまに深く感謝をし、御礼を申し上げて終わりたいと思います。ご静聴、感謝いたします」
アリシアはいつものように壇上で深く頭を下げた。
やっと終わったわ――と、安堵しながら。
そして自分でも心にもないことを口にしていると思いながら。
これほど不快な会議に参加するのは初めての経験だった。
座長――司会の女性を見ると特に仕切りもなく質疑の時間を取るようなそぶりも窺えないことを幸いにそのまま場を後にしようとする。
と――、
「あの、いいでしょうか?」
珍しく呼び止める声があって、アリシアは質問者のいる方へと顔を向けた。
声音の印象からすると若いという以上に幼いという感じ。暗くて顔は良くわからなかったが恐らく十代半ばくらいの仮面の男性が挙手している。
「はい、なんでしょう?」
「あの……ウンディーネさんがさっき見せてくれた重力石ってのは、舐めたり擦ったりすると大きくなったりするんですか?」
その質問に客席がどっと湧く。
いい質問だ――と、賛同する声があがり、座はにわかに騒然としてくるのだった。
アリシアは聴衆が落ち着くのを待ってから
「どういうことでしょうか?」
質問者に向けて質問を返した。
「ウンディーネさんの命、ということだったので、なんだか女の人のクリトリスみたいだなって思ったものですから」
男の子は物怖じを寸毫も見せずに言い放ち、アリシアは絶句する。
「きっとアリシアさんもフィアンセの方からアソコをペロペロされてクリトリスを大きくしたことがあると思うので、それと似ているのかなって」
あまりの物言いにアリシアは相手の顔を確かめる気持ちも失せて、中空に視線を彷徨わせる。
「そのような質問にはお答えしかねます――」
「やっぱりアリシアさんもクンニの経験があるんですね? いいなぁ、ぼく、フィアンセの人が羨ましい。どんなニオイがするのかなぁ、アリシアさんのアソコって。ぼくクサいのが好きだから、アリシアさんのもクサいといいんだけど」
たとえ子供であったとしてもこのような露骨なセクハラ発言は大問題だった。
だが諌めるものは誰も居ないのだ。
それどころか、
「男性経験はフィアンセの男以外にも居たの? 居るとしたら何人ぐらい?」
「好きな体位は?」
「まさかもうアナルセックスも経験済みだったりする?」
矢継ぎ早に卑猥な質問が浴びせかけられて、アリシアは表情をこわばらせて、もうこれ以上のお付き合いは限界と背を向けると
「ちょっといいかしら――?」
今度は高齢の女性らしい声が壇上のアリシアに向けて放たれた。
「あなたの裸が見たいわ、誰か服を脱がせてちょうだいっ」
ついには常軌を逸した要求が突きつけられたのだ。
みな正気を失っているのかと思うのだが、すぐ隣に居た少年らしい雰囲気の男性――卑猥な質問をしてきた子供よりも落ち着いた印象で十代後半の男の子のようである――が、
「お婆さま、それはダメですよ――」
さすがに諌めている。
「だって、じゃないと価値がわからないでしょ? 中身を確かめもせずに買い物をする愚か者がどこにいるっていうの? 高いお金を払うんだから当然の権利だわ」
老女はなお引き下がらない。
「それを含めてのオークションですよ」
買い物――!?
オークション――!?
いったいこの人たちは何の話をしているのっ?
その日、初めて耳にする言葉にアリシアは、と胸を突かれる思いで立ち尽くす。
「だって大事な孫に与えるのよ、最高の女が売りに出るって聞いたからわざわざロワッシーからやってきたっていうのに。あなたはやがては一族の当主になる身なの、帝王学の一つとしてあなたが人生で最初に相手をする女は誰からも羨まれるような極上の女じゃなければいけないのよっ」
「お婆さま、残念ながらもうオークションは終わりましたよ」
「あら、そうなの?」
「とても残念ですが、僕も彼女をモノにしたかったんですがどうやら上手が居たようで……」
「そう……じゃあ仕方ないわね……この娘、たしかにキレイな子だから、あたしも気に入ってはいたんだけど……そうなの」
「ただ彼女がするセックスは観覧ができるので、後々のことも考えてしっかり勉強していこうと思います。今回は無理でも僕も彼女を一度は抱いてみたいと思うので」
講演とは名ばかりのオークションで既にアリシアのセックスは落札されて相手は定まったようであった。
しかし老女とその孫らしき少年との間で交わされていた後半の会話は、既にランウェイを足早に去るアリシアの耳にまでは届かなかったのだった。
斬ラキシスさま
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