ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
今日はオッサンが出てくるだけで
アリシアさんは最後の一行まで出演しませんので
ホテル六十九階にあるペントハウスのラウンジ――。
フロアーの奥で丸テーブルを囲んで四、五十代の男三人が十六オンスのやや大きめのワイングラスを傾けている。
だが、2289年もののラ・トゥール・ブランシュを口にしているのは、年かさに見える太り肉の小柄な男だけで、若作りのスマートな風貌の二人が飲んでいるのはいずれも水――だった。二人用のクーラーに入れてあるボトルはただの真水で、さすがに超純水ではないもののミネラルウォーターですらない。
またテーブルの上に並ぶオードブル――ガチョウのフォワグラやブルースティルトン、ベジョータやアルマスキャビアといった味や香りの強いものが並んでいた――をしきりに口に運んでいるのも小肥りの男だけで、他の二人の前には無味無臭のクラッカーの皿が置かれているばかりであり、それすらも手をつけられた形跡はないのだった。
「クロフォードのご隠居さんは、既に下でお楽しみの真っ最中ですか――?」
三人の中ではいちばん若輩であるらしいスーツ姿の男――
「ああ、アリス・キャロル嬢にご執心で今日もご指名だったみたいだね――」
ワイシャツにネクタイ、サマーセーターというカジュアルな格好の細身の男――
「指名料まで含めると軽く二十億にもなるはずだが、そんなものクロフォード家にとっては、ほんの小遣い銭みたいなものなんだろう。爺さんがロリコンで良かったよ。オークションにあの爺さんが本気で加わっていたとしたら我々が束になってもきっと分が悪かったからね」
「そうですよねぇ、なんといってもあっちはソロモンファミリーですから……ロシュフォールの最も太い幹を担う一族を向こうに回すとなると、これは確かにきついですよね」
権がしたり顔で頷く。
「まぁ運営する側としてはロシュフォールだろうとソロモンだろうと、コストに見合うなら大歓迎、ホクホクなんだろうけど……たしかアリス・キャロルだけはセブンシスターズの中でただ一人95%を越えていたんだったっけ?」
「みたいです、我々だけが目にできる資料にはたしかそうあったように思います。他はだいたい93から94パーで、アテナ・グローリーは少し低くて92.8、アリシア・フローレンスに至っては90も越えていないらしいですけど……」
「だからか……」
木乃子は浮かない顔つきのまま得心がいった様子になった。
「まったく、どこまでも非常識なところだよな、ここAQUAってのは……当たり前のことが当たり前にならない……」
「ですね――」
頷く権の顔も複雑だった。
「とりわけこのネオ・ヴェネチア界隈が異常なんですよ。連邦だとミス・ワールド、ミス・インターナショナルクラスになる絶世の美女が当たり前のようにそこらじゅうに居て、それがセーラー服みたいな制服を着て普通に街なかを闊歩しているんですから……けれど、そいつが簡単に手に入らないとなりゃ、そりゃ“ハウス”のおエラいさんたちも目の色を変えるわけです。中でもアリシア・フローレンスなんてもう美の女神ですからね、どんだけ価値があるか……彼女だけはオークションは当然としても、うちでなんとか抱え込みたかったんですけどねぇ……」
「AQUA政府に先手を打たれて丸ごと“国宝”にされてしまっては手も足も出ないか……」
「それなんですよ木乃子さん、ただ本人の
「じゃあ、大事に愛でてあげないとね、私も手伝うよ――」
「いやぁ、木乃子さんも相当ヘンタイらしいですから、どうかお手柔らかに願いますよ。ここであんまり擦り減らして商品としての価値を損ねてしまっては、あまりにももったいないですから。あなたもご存知なんでしょ? 彼女の例のセミヌードのホロ、あんなものだけで今年の売り上げが推定二百億にもなるって話……もしも彼女をウチの傘下にあるプロダクションに所属させれば、いったいどれだけ稼いでくれるか――」
「権くん、君はこのオークションに美女を抱くためではなくて商売の話をしに来てるのかな?」
「いや、もちろん第一の目的はアリシア・フローレンスを“買う”ことでしたけど、逃した今となっては次の手を考えておきませんとね。それで今のオクで僕がいちばん神経を使っていたのは実は劉会頭、あなただったんですよ。会頭にだけは先を越されまいと思ってたので――」
権は、ちょうど金色のキャビアを山盛りにしたスプーンを口に運んでいたアロハシャツの男にそう告げると、
「たしかにそれは私も権副総裁と同じです。劉会頭にだけは先を越されたくなかったですから」
木乃子もそれを受けて権と歩調を合わせるのだった。
名指しされた男――劉國輝――は視線に剣呑な気配を滲ませて左右をの男たちを睨め付けると、口の中の魚卵をくちゃくちゃと咀嚼しながら
「おいキミら、それは聞き捨てならんな、この俺を外して裏で通しでもしてたとすると」
劉はシャツの前をはだけて丸く突き出たお腹を隠そうともしていなかった。小柄ではあるが日焼けした肌には精悍な武闘派の印象もある。
「そうではありません、ただ会頭は女の扱いが粗くてすぐにダメにしてしまいますからそれを案じていただけのことですよ」
木乃子は口元に笑顔を作ってとりなすが、インテリ風のメガネの奥の目つきは鋭かった。
「俺の女あしらいが荒いだと?」
「粗いといいますか、なんといいますか……」
「だって劉会頭のマラ、とんでもないじゃないですか? 太くて恐ろしく長い上にさらに余計な二本もくっついて、一本はクリトリス専用の責め具になっていて、もう一本の方はケツの穴を奥まで犯そうかっていう魔道具に改造してある……あんなものを突っ込まれたらどんな女でもいっぺんにダメになっちゃいますよ。せっかくのご馳走なんですから時間をかけてじっくり味あわなけりゃもったいなくないですか? ねぇ木乃子さん」
「うむ、別に権くんの肩を持つつもりはないですがね、普通に考えればそうなりますね」
木乃子も軽くセーターの肩を竦めて同調してみせる。
「フン、俺だって女を抱く時には時間をかけるさ。それこそ一時間でも二時間でも、血が出るまで腰を使ってな――」
劉はいまいましげに吐き捨てて、木乃子と権は処置なしといった顔を見合わせた。
「女の体は所詮、消耗品だろ、男に壊れるぐらいまで抱かれてこそ女冥利に尽きるってことじゃないか」
「そのあたりの認識が劉さんと私たちでは少しばかり違っていますね――」
「僕は劉会頭を阻止するためなら、緊急で持ち株を売却してでも資金投入するつもりでいましたよ……ただ、まさかあんなことになるとは……こっちの予想を遥かに超えていたから……」
権が落胆のため息を吐くと、他の二人もしてやられた風の顔になるのだった。
敗者たちの澱んだ空気がしばしの間、座を囲繞するようになる。
が、やがて沈黙を破って木乃子が
「ところでどうだった、ホンモノのアリシア・フローレンスを間近にした印象は? 権くん、君の嗅覚は普通の人間の数十倍、数百倍に増強してあるんだろ?」
話をふられた権昇植は、あれ、ソレを僕に聞いちゃいますか? とばかりに途端に顔を綻ばせると、得意げに話し始めた。
「いやぁ、やっぱりスゴかったですよ! あのかわいい顔で、あんなにいいニオイをさせられてちゃ、そりゃ近くにいたらオトコはたまったもんじゃないですよっ、インファントな仄かに甘い乳臭さを残していながら、一方で大人の女のニオイもしっかり感じられる……あの子、見かけは清楚な印象ですけど体臭は濃いたちですね。腋の下にはアポクリン腺もほどよく分布してるし……ただ肌が清潔に保たれているので匂いは豊潤ですがけして臭くはないです。新鮮なフルーツのような甘酸っぱい香りの底に艶かしい若い女体の生々しい肉臭が潜んでいるような感じで、そいつがもうたまらなくて……」
権はそこでいったん喉を鳴らして唾液を呑み下すと、
「……あの美しい顔を見ながらクンニするのは楽しいでしょうねぇ、それだけでもう何杯でもイケちゃうくらい……実は僕、ずっと勃ちっぱなしで――」
権は口の端からあふれそうになる涎を啜りながら言った。
「おまえさんの粗チンじゃ、どだい女を満足させるのは無理な相談だろ――」
「あ、劉さんがそれを言いますか?」
「さっきの意趣返しだよっ、おまえらも好き放題、言ってただろ? しかし君は背は伸ばして、顔をいじっても、肝心のイチモツをそのままにしてるのにはなんか拘りでもあるのか? 実家の宗教がどうたらとかいったくだらない理由の?」
劉に突っ込まれた権はムッとした顔になると
「僕はただ、普通にいい女をいい女として抱きたいだけだからですよ……女を半ば壊すのが趣味の劉さんにはわからないでしょうけどね、仮に劉さんが今夜アリシア嬢を抱いたとしても、お願いですから彼女をダメにしないでくださいよ。僕も木乃子さんもオンナ好きなだけで、別に女体が取り返しがつかなくなるまでガチで犯したいわけじゃないので」
「それは私からもお願いします。この後どうなるかはまだわからないですが――」
木乃子光人は紳士然と、劉を向こうに慇懃に一礼する。
「そう云う木乃子くん、キミの舌も、俺に言わせると相当エゲツない代物だと思うがね。たとえ妊娠させても卵ごと舐りとるなんて芸当、俺には思いもつかなかったぜ――」
劉は口の中にある魚卵を噛み潰しながら言う。その様子からはどこか挑発的な気配が醸されていた。
テーブルを共にはしていても三人はけして友好的であるわけではなく、とりわけ劉と他の二人の間にははっきりとした溝があるのが窺える。
何かにつけてマウントを取り合い互いに牽制し合う緊張関係にあるようだった。
「……私は……別にそこまで考えてやったわけじゃないですよ、ただやろうと思えばできると言っただけで……」
「フン――」
「え、本当にそんなこと、木乃子さんにできるんですか?」
「やったことはないが、多分やろうと思えばね……」
「スゴいんですねぇ、木乃子さんの舌って――」
「昔からみっちゃん坊やは口を使うのが好きなガキでな、スジ金入りのド変態小僧だったんだよ。なにしろ八つの時に従姉妹のネェちゃんのマ◯コにむしゃぶりついて泣かせてたくらいだからな」
「劉さん、勘弁してくださいよ――」
旧悪をバラされた木乃子は、口角を上げて苦笑いを装いつつも目は笑ってはいなかった。
その睨み合いを嫌って劉がシャツの胸ポケットからシガーケースを取り出そうとすると、それを見て慌てた二人から待ったをかけられる。
「すみませんね劉会頭、私も権くんも味覚や嗅覚がとても敏感なので……」
「めんどくせぇな――」
劉は憮然とした顔をしてケースをまた胸に戻すと、そっぽを向き、なみなみとシャンペンを満たしたグラスを煽る。
座の空気がまた硬くなっていて
「劉会頭、僕はオンナってのはやっぱりニオイがなによりダイジだと思いますよ。牝のニオイってのは雄の本能をダイレクトに刺激するものですからね。だからいい女を抱く時は、つまんない酒や料理で嗅覚を鈍らせてしまいたくないんですよ。タバコなんてとんでもない! まぁ今日の午後は“汐かぶり”で見てるだけですけど、アリシア嬢の体のニオイはじっくり楽しませてもらいたいので。男のザーメンに汚される前の汗やオ◯コ汁の香りは貴重ですから――」
権昇植が自慢の鼻先を指で撫でながら、とりなすように訴えるのだった。
「他人が食ってるのを横から見てるののいったい何が楽しいもんだか――」
「じゃあ、劉さんは見ないつもりなんですか?」
「そうは言ってない――」
「アリシア・フローレンスのステージなら大金を積んででもナマで見たがる客はいくらでもいますからね。汐かぶりでの観覧の権利譲渡の手続きをするなら早いほうがいいですよ。そいつもオークションにかければかなりの値がつくはずですから」
木乃子からも煽られて、
「だからそんなこと言ってないだろっ」
劉は声を荒げた。
「やっぱそうですよねー、劉さんだって見たいに決まってる。僕たちだけの特権ですからね」
過去の高額落札実績のある常連組三人はオークションの顔役として、落札者であるプレイヤーと“プレイメイト”との“プレイ”をホログラム映像などではなく、いつでもどこでも無償で、ベッドサイドから生で観戦する権利を有しているのだった。
その特別席を汐かぶり、と呼んで、オークション参加者にとってのステータスでもあり憧れでもあった。
プレイの最中にもプレイヤーに対してリクエストもでき、当事者には及ばないものの擬似的にプレイメイトとのセックスを楽しむことができるために、好みのプレイメイトが舞台に上がると知ってその権利を譲り受けようと運営にかけあうものも少なくないのだ。
「……だってこっちがリクエストすればスカトロプレーに持ち込んでもらったりもできるかもしれませんから……我々に排泄場面をバッチリ目撃されて、あの子はいったいどんな顔をしてくれますかねぇ……カワイイだろうなぁ……女神さまのお尻の穴から茶色い甘露が出てくるんですよっ、ちくしょうっ、やっぱり僕がプレイヤーになりたかったっ」
「タイムアップ直前になっていきなり十倍もふっかけてきたんだからなっ……こっちが一瞬、あっけにとられて躊躇ってる間に落札されてやがって、まったく気にいらねぇぜっ――」
「まぁまぁ劉さん、抑えて抑えて、憤懣やるかたないのは僕らも同じですよ」
「あのクソガキっ、たしかキタニシ・スミスとか言ってたな? どっちが姓だ? ふざけた名前だ、どうせ偽名だろうがいったい何もんだ? やけに運営側と通じているようだったが? 木乃子くん、君は何か知っとるかね?」
「いえ、こっちも今あたらせてはいるんですが、なかなか尻尾を掴ませないみたいで……ただ、あれだけの金を動かせるとなると、バックは相当なのものだと思いますよ。恐らくはどこかの王族、貴族、あるいは巨大財閥がらみか……迂闊に手を出すのはまずいかと」
話を聞いて劉が大きな音をたてて舌打ちする。
「ただせめてもの慰めは彼がまだ体をいじっていないらしいことですかね」
「木乃子さんはやっぱり情報が早いですね、どうしてご存知で?」
「いや、さっき彼と立ち話をしたときに、さりげなく訊いてみたんだよ。そうしたらどうしてそんなつまらないことをするのかって不思議そうにしていたからさ」
「ナチュラルの信奉者ってワケですか――」
思うところがあるのか権は殊勝な顔つきをする。
「そんな感じらしい。だから、さすがにアリシアさんの体を壊すようなことまではしないでしょう」
「それは今日一番の朗報かもしれませんね。落札失敗の落胆に見合うわけではないですけど」
「それに彼女の場合、普通の人間同士のセックスの方が余計に悲劇的になって、見ている側としてはかえって面白いかもしれないしね」
「なるほど……そういう見方もなりたつかもしれませんね……確かに血が出るようなセックスは興醒めしますからねぇ……」
言いながら権は劉の顔を横目で窺って、目が合うと慌てて視線を逸らしている。
「ところで話は変わりますけど、木乃子さんの舌って、どのくらいまで伸びるんですか?」
「いきなりなんだい?」
「いえ、なにちょっと後学のために知っておこうかなと――」
「後学のため? 君もなにか体をイジることを考えているのかね?」
「まぁ、ちょっと――」
「まぁちょっとか……」
木乃子はワケ知りの悪い笑顔になって権の顔を見やる。
「さあどうだろう、伸びるといっても、せいぜい五、六十センチってところじゃないかな?」
「六十センチっ! そんなにですか? ちっともそんなふうには見えませんけど――」
「そりゃ、普段は奥にたたんでしまってあるから」
「あの、もしも差し支えなければお見せいただけませんか? 実は僕も舌の改良は考えているので」
権と木乃子はしばし視線を交える。互いに肚の内を探るような目の色になって。
「そうだな、俺も久しぶりに見てみたいな、ホンキになった木乃子くんを――」
今度は劉と権の二人が歩調を合わせて迫り、木乃子はちょっと困った顔をするのだった。
「別に見せ物じゃないんですけどね……」
「いいじゃないですか、どうせ今夜にも見せてもらうことになるので、それが少しぐらい早まったからってなんだって云うんです?」
それでも木乃子は迷っていたようだが、やがて根負けしたのか
「仕方ないね、ここに居る限りは嫌でもお目にかけることになるから……」
そう云うとメガネを外してセーターの首を広げ、中のシャツの襟に締めていたネクタイを緩めて、徐ろに大きく口を開くのだった。
すると、喉の奥の方にあった何かが蠕動するように次第に前の方へとせりだしてきて、やがてそれは口の中から溢れてダラリと垂れ下がり、舌の太さは変わらないままに、ついには先端がテーブルの端から隠れて見えなくなるほど伸びたのだ。
長さは六十センチどころか一メートルにもなったようで、たとえるのならばそれは蛇というよりも長大な触手なのだった。
淡紅色のヌラヌラとしたものが妖しく身じろぎをしている。
木乃子はテーブルの下に隠れていた舌先を自身の顔の前まで持ち上げると、その先端をパッと展いて中に隠れていた、まるでイソギンチャクのような夥しい数の突起があるのも見せつけるようにした。さらにその突起ひとつひとつの表面に無数の吸盤があって妖しく蠢いているのだ。
あまりの奇怪さに権昇植はもとより、劉國輝も驚きに細い目をいっぱいに見開いている。
舌を長く伸ばした木乃子光人は、それまでのインテリ然とした顔つきを一変させていて、さながら淫魔が正体を現したように禍々しさが表になっているのだった。
あっけに取られて言葉を失っていた二人だが、
「すげぇ……」
権の発した魂消たような声をきっかけに我に返る。
木乃子も伸ばしていた舌をしまいはじめ、
「いったいどうなってるんですか? あんなに長いモノをどこに納めているんです?」
あからさまな好奇と感心を顔に出して権が訊くと、
「医者の話だと舌の筋肉が蛇腹のようになってるんだそうだ――」
応えた。
既に襟を正して眼鏡をかけなおし、インテリ紳士の顔つきに戻っている。
「違和感はないんですか?」
「あったが最初だけだな、今はもう慣れてしまって気がつかないくらいさ」
「スゴいなぁ……あんなのを使われたらオンナはたまらないだろうなぁ……僕も試してみようかな……」
「うむ、いいもんだぞ、誰にも届かないところまで味をみると、その女をすっかり自分のものにできたような気がして、一度、この面白さを知ってしまうともう元には戻れないな……それは男と女の双方にとっても言えることだが――」
「なんかわかる気もしますけど……」
「君ならわかる筈だ。所詮、匂いも味も似たようなもんだからね――」
「ええ、でもやっぱり女の方でも木乃子さんのプレイに夢中になって病みつきになっちゃうんですね……」
権は少し当惑したようで思案げな顔をしている。
「女の体には表面ばかりじゃなく、奥の奥にも秘密の隠し扉がいくつもあってね、そいつをひとつひとつ丁寧に探っていくと不帰の境界線の向こう側にまで連れていくことができるのさ。いったんそれを味わうと、もう普通の男とのセックスじゃあ物足りなくなって満足できなくなるらしい――」
木乃子はまた長い舌をペロリとやって好色そうな顔を表にすると、権はギョッとして
「やっぱり木乃子さんもアブナイひとだったんだなぁ……アリシアさんを先に寝取られなくてよかったですよ、骨抜きにされてあなたのペットになった後だと挽回するのが大変ですからね、ああ危ない危ないっ」
権は安堵の風を装っているが、どこかわざとらしかった。
「なにを云う、私は劉さんみたいにオンナを壊したりはしないよ。ただだいじに可愛がってやるだけで――」
「ダイジにするって……木乃子さんの場合はそっちの方がコワイんですよ――」
「そういう君こそいろいろと小道具は使うんだろ? アナルグローブなんかで尻穴をほじるのと大してちがわないと思うが」
「大違いですよっ!」
「そうかね――」
木乃子がニヤリとまた悪い笑顔をする。
「劉会頭のこと、いろいろ言ってましたけど、木乃子さんだって肉体の魔改造、ハンパないじゃないですかっ、ずるいですよ、やっぱり抜け駆けしようとしていたんですねっ」
だが二人を非難しつつも権からは特に読み違えて慌てた様子は見られない。
「……まぁ実は僕も他人のことをあしざまに言えた義理ではありませんけど……もう小道具なんてチャチなものは使いませんから……」
「ほう、では何を使うんだね? その粗末なチ◯ポの他にどんな奥の手を用意してるんだ?」
劉から訊かれた権はしてやったりの顔になると、
「今回は、あのアリシアさんがオークションにかけられると知ってから、僕もお二人にマケないように、ちょっと肉体の改良をしてきてるんですよ……」
その言葉に今度は劉と木乃子が顔を見合わせる番だった。
「やっぱり、その粗チ◯ポは君のコンプレックスだったんだな? どんなふうにした? 俺に見せてみろ」
「やだなぁ、粗チンコンプは劉さんの方じゃないですか? だからデカマラにしたんでしょ? 僕、知ってるんですよ、劉さんの昔のサイズ、今の僕と大して違わなかったそうじゃないですか――」
「なんだとぉっ!」
劉は気色ばむが、権がかつて劉の第一夫人だった朱玉蘭と邂逅した際に聞かされた内輪話を披歴して相手を黙らせると、さらに続けて
「僕はお二方とは違って、もっとさりげなく、普通に目に見える場所の、しかもいちばん扱いのしやすい部分を改良してあるので……」
ニンマリ口角を上げた得意顔をする。
「権くんは、君はいったいどこをイジったんだ? 強化してあった嗅覚をさらに強化したとか?」
「まぁ、それもあるんですけど――」
スーツを脱ぎながら
「お二人にはずっとお目にかけていたんですけど……お気付きにはなられなかったようですね……」
「「――?――」」
権はさらにワイシャツのカフスを外して右腕を袖捲りすると、右手にしていた白い手袋を外した。
「そうか、君は手を改良していたのか……なるほど……」
木乃子は深く頷いていたが、劉は小バカにしたように鼻で嗤っていた。
「手なんかイジったところでどうなる? 指先が射精でもするっていうのか? おもちゃの水鉄砲じゃあるまいし、つまらん、実につまらんっ」
「まぁ劉さん、彼の話を聞きましょう、私には彼の発想、なかなか面白いと思いますよ」
「さっすが木乃子さん、わかってらっしゃる、もう既にお気づきみたいですね」
「うむ、君が嗅覚の強化を否定しなかったからね……やはり指にも嗅覚センサーをつけたのかい?」
「ご明察っ、ええ、その通りですっ。でも、それだけじゃない。僕の手には嗅覚以外にも五感の全て、味覚、視覚、聴覚のセンサーも配置してあって触覚も強化してあるんですよ。要するに僕はただ触れるだけで女の肌の匂いと味ばかりか、肌表面の細かなテクスチャーをごく間近に“見て”、そして感じとることができるんです――」
説明を受けても劉は唇を引き結んでブスっとしたままだったが、木乃子は顔を輝かせていた。
「なるほど、それは面白いっ、うん、実に面白いアイデアだっ」
賛意を贈りながら、
「私もそうしてみるかな……」
さっそく自身の肉体改造にも思いを馳せているらしい。
「木乃子CEOからお褒めにあずかり光栄です、でも僕の話はまだこれで終わりじゃないんですよ」
言いつつ権は左手で握った右手の人差し指を二、三度扱くと、それはたちまち伸長をはじめて、見る間に五十センチほどの長さにまで及ぶのだった。
それにはさしもの劉も小さな目を大きくして驚きを隠せずにいる。
「人差し指だけじゃなく、五本の指全部が伸縮自在なんですよ、いーでしょう?」
長く伸ばしたそれぞれの指先にも神経が行き渡っているのを自慢げに、
「こんなことだってできるんですよ――」
と、云いつつ権は目の前に置かれた皿に並べてあったクラッカーを摘むと、トランプでタワーを作る要領で器用にクラッカーハウスを積み上げてみせるのだった。
「上手いもんじゃないか、うん、指が伸び縮みできるのは実にいい……これで五感センサーと合わせればそれこそ急所を探り放題にできる。オンナ殺しの無敵のガジェットだなっ、こいつは私も一本取られたっ」
木乃子が手放しで賞賛し、劉も不承不承ではあったが権の狙いに気づいたらしく頷いている。
「でしょう? 僕のホンキ、わかってもらえましたか? 今夜の“オフ会”ではアリシア嬢を僕のペットにしてしっかり手懐けるつもりなんで――」
権は胸を張って宣告する。
「まぁ四人を相手に一晩中かわいがられたら、そりゃあもうどんなことでも言うことを聞くペットになってくれるだろうさ……カワイイ女神がカワイソウな女神さまになって、我々の願いをなんでも叶えてくれるようになる……それはそれで悪くない……」
「しかし、キタニシ某がこちらの提案をだまって受け入れてくれますかね? 大金を注ぎ込んだのは彼なんですよ。それなのに我々とのオフ会だなんて……」
「彼はアリシアの体をたっぷり堪能した後だし、さらにその延長戦が楽しめるとなれば断らんだろう、それぐらいは譲ってくれるだろうさ――」
オフ会――というのは、劉、権、木乃子の三人がオークションの運営を他所に自分たちだけで勝手に決めたその日の“場外戦”だった。
彼らの目の前のステージでプレイを楽しんだプレイヤーとプレイメイトに、さらにその夜のお付き合いまで求めるという横紙破り。
運営側からは禁じられている撮影をネタに、とことん追い詰め搾り取ろうというまさに悪鬼の計略だった。
「もし拒んだら以前にも使った手で脅しつけてやればいいだけだろっ」
劉がまた物騒な物言いをして他の二人から「まぁまぁ」と、なだめられる。
「いずれこっちは映像も押さえるんだ、イヤとは言わせないよ、どちらにもね――」
「ですね、どのみちこっちの世界に堕っこちたら、もうこっちで生きていく他はない……」
「それはお互いサマ、だろ?」
「なんだかナントカのアナ兄弟みたいでやだなぁ――」
「いまさら不満か? 権くんは」
「いいえ、とんでもないっ、金さえ積めばどんな美女でも思う存分抱けるんですから、オトコにとっては天国ですよ、異存なんてある筈がない」
権は美味しそうなクリームケーキを前にした子供のように舌なめずりをする。
「君がここで最初に競り落としたローザ・カーペンターは今じゃ運営側に居て、表の世界での本業の歌姫のかたわら、こっちの世界でも顔役をしているらしい。なんでも堕とされた女たちの管理にあたっているって話だ」
「へー、そうなんですか……懐かしいな、もう十五年も前のことだから……そうですか、彼女も幸せにやってるんだ……いい子だったからなぁ……あの時はあの子もまだ十代のバージンだった……」
「ああ、私も彼女の体は十分に楽しませてもらったよ、これまで買った女の中では十本の指に入る。さすがに今の彼女には食指は動かないがね――」
木乃子のものいいには権も苦笑いで応えていた。
「まぁアリシア嬢の面倒はウチでみさせてもらいたいですけどね、カラダの隅々まで――」
「さて、それはどうなるかな……きっと我々のライバルは一人や二人じゃないだろうから……」
「おい、思い出話はそのへんにしとけよ――」
歓談を続ける二人に、独り口をモグモグさせながら劉が注意を促して顎をしゃくる。
「極上の鮑のお出ましだ――」
二人が劉にならって視線の先に目をやると、目隠しに置かれた衝立の影からアンドロイドのメイドに付き添われて、アリシア・フローレンスの輝くばかりの美貌が現れたのだった。