ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
今夜に繰延べて
二週間ぶりの更新です
朝顔に連れられて、再び公演会場が配置されていたエリアへと案内される。先のホールに隣接する別会場の遮音扉の前で
「こちらになります……」
示された。
が、アリシアを見上げる朝顔はまた顔を細かく横に振っていて、電子の眼差しが揺れていたのだ。
ここに至ってアリシアも、“彼女”が、行かないで――と、理由はわからないがしきりに訴えているらしいことを察したのだった。
ただアンドロイドである朝顔には命令には背くことができないために、それを言葉にして伝えることができずにいるらしい。
コマンドと“意思”との撞着から行動に混乱が現れているようなのだ。
「朝顔さん……」
「こちらになります……」
アンドロイド美少女は同じ言葉を繰り返している。
「ご案内ありがとう、あたしはただみんなの容子を見るだけだから、それが済んだらすぐに帰るわ」
アリシアが告げると朝顔は、今度は懸念の表情で目を大きくして無言のままじっと見つめ返していた。
その健気な様子が愛おしく、
まるで灯里ちゃんみたい――。
そう思ったアリシアは、たおやかな女神の微笑みを贈ると軽くハグする。体はびっくりするほど温かく柔らか、そして金属の重みも感じない。ほとんど人間の女の子と変わらない抱き心地に彼女も自然に胸が熱くなってくる。
「朝顔さんは、きっとわたしのことを心配してくれているのね……やさしい子……」
相手の耳元に、灯里にするのと同じように気持ちのこもった言葉を囁くと、なお懸念の顔つきを崩さずにいる朝顔の額に感謝のキスをするのだった。
視線を重ねてじっと見つめ合う。
「アリシアさん……」
「ありがとう、でも大丈夫よ」
そう言いおくとアリシアは観音開きの分厚い扉を押して、仲間がプレゼンをしているという会場の中へと入っていくのだった。
そこは最前、彼女が講演を行ったホールとほとんど同じような設えの空間だった。
違うのは舞台もランウェイも無く、ただ部屋の中央に円形の演壇があるだけらしいこと。
部屋はやはり同様に照明が落とされているが、ステージにだけは天井からのスポットライトが注がれて明るく照らし出されていて、そのまわりを先の講演会にいた観客たちと思われる仮面をつけた人々が取り囲むようにしている。その人垣に妨げられて、いま登壇しているのが誰なのかわからなかった。
アリシアは、先の講演での観客たちの目にあまる非礼な振る舞いへの記憶も新しい中、彼らを気にしつつ距離をとりながらも恐る恐る部屋の中央へと近づいていく。
と――。
#イヤだっ、やめてくれっ――#
突然、女の悲鳴が聞こえ、ギョッとして足を止める。
予想外の事態を前に途端に胸がドキドキと高鳴っていた。背筋をまたイヤな悪寒が奔り抜けていった。
その声にはたしかに聞き覚えがあったのだ。
ゴクリ――。
緊張に乾いた喉を鳴らして固唾をのみ込む。
#よせっ、よせって言ってるだろっ、ああっ、ちくしょうっ――#
舞台の上で再び悲鳴があがる。女が必死に抗う声だった。
次いで、じゅるっ、と水っぽいものを啜る音。
続く女のため息と、絶望の嘆声。
舞台の上では明らかに尋常ではないことが起きているようなのだ。
アリシアが何より驚いたのは、彼女――は、そんな頼りなげな声を発するような女性ではなかったからだった。
いつも凛々しくて頼り甲斐のある素晴らしい友、畏友。
幼馴染で親友でありながら憧れでもある同僚だった。
女性からの人気で言えばアリシアを凌ぐほどのネオ・ヴェネチアを代表する麗人の一人。
晃ちゃんなのっ……!?
何が起きているのか確かめずにはいられず、アリシアはホール中央へとさらに歩み寄っていく。周りに気取られないように足音を忍ばせて。
幸い、観客たちは舞台に目を奪われているのか彼女には無関心で、アリシアはようやく人垣の隙間から中を覗き見て、そこで行われていることに息を呑んだ。
円形の回転ベッドの上で、全裸にされた晃が見知らぬ男に犯されていたのだ。
あられもない姿にされて陰部を舐り取られ、体を捩って懸命に逃れようとしていたが果たせずに絶望の哀しげな視線を泳がせている。
そして周りにいる観客たちは淫らな性技に身をもち崩していく彼女の姿を残酷に見下ろしているのだ。
アリシアは目を疑うような光景に、しばし呆然と立ち尽くしていた。
ひどいっ――!
こんなひどいことをどうして晃ちゃんが……。
女にとってこれほど哀しく惨い舞台はなかった。
セックスという最も秘めやかな、そして大切ないとなみを心を通わせていない相手とする――ただだけでも恐ろしいことなのに、それを衆人環視の下で行うのだとしたら、それがどれほど辛いことか自身に置き換えてよくわかるのだ。
セミヌードを盗撮されただけ、ただそれだけのことでもショックで、人と顔を合わせるのも怖くて部屋の外に出ることすら躊躇うほどであったのに、それとは比較にならない辱めを受けるとなればきっと心が壊れてしまうだろうと。
そんなひどい辱めを晃が、どうして彼女が受けているのか、受けなければならなかったのかその理由がわからなかった。
そればかりか晃だけでなく、アテナも、そして灯里たちやアトラまで、セブンシスターズとも言われるウンディーネの友人や後輩たちが、それぞれ惨いやり方で男たちからの凌辱を受けていたのだ。
アリシアが目撃していたものは、実際には別の場所で行われているものをリアルタイムで捉えた立体映像であるらしく、舞台となった円形ベッドの上に彼女たちの恥態が次々に投影されていったのだった。
恥処、陰部を剥き出しにされてのおぞましいシーンの連続――。
常の様子を良く知る仲間であるだけに、その変わり果てた姿を目の当たりにしてアリシアの両目に涙が滲んでくる。
これがプレゼンっ――!?
そうであるはずがなかった。
これはそもそも国際会議でも講演会でもなかったのだ。
顔役らしき男たちから聞かされた“プレゼン”とは、美しい女たちを犯し辱めて一部始終を観客に見せて楽しませることだった。
それがはっきりして、女の本能が悲鳴を発して逃避を求めている。
だがそれ以上に放っておくことなどできないのだった。
「あの子たち……」
同衾する男から何か言われたのだろうか、怯える表情で互いに裸身を寄せ合う灯里と藍華の健気な姿が見えていた。
藍華が気丈な笑顔を作って灯里を励ましているよう、そんな藍華を灯里は気遣っているのか、諦めと覚悟とがないまぜになった表情で頷いている。
それだけで少女たちが望んで男に肌を許しているわけではないことが窺えるのだ。
固唾をのんで見守るアリシアの前で灯里が男の胸に腰を下ろすと、五十がらみのニヤつく顔の前でか細い脚を大きく開いた。すぐに淫らな愛撫になって声を喘がせる。まだ十分に成熟しているとは言えない華奢な腰をわななかせて男の淫らな詮索に堪えていた。
「嘘よ……嘘……こんなこと……」
どんな理由があるのかはわからないが、たとえ何があったにせよ純真で清らかな心の美しい娘たちが辱められて、女の誇りを奪われて慰みものにされるなど、それは道義的にも倫理的にも絶対に許されないことだった。
ああ誰か、あの子たちを助けて……。
でも誰に救いを求めたら……?
あたしはいったいどうしたらいいの……。
焦慮に突き動かされつつも考えあぐねたまま、その場を後ずさるアリシアの背中が何かにぶつかって、振り返ろうとした時、
「なにがウソなんですか?」
頭の上から声をかけられた。
聞き覚えのある声音に驚いて仰ぐと、いつの間にかすぐ真後ろに背の高い細身の男が迫って居て、目元を覆っていたヴェネツィアンマスクを外して素顔を晒して見せたのだ。
「あ……あなたは……っ」
「久しぶりですね、アリシアさん」
そこに居たのは――。
件の盗撮に関与していた疑いもあって、その後、行方をくらませていたはずが、今、アリシアの目の前に居て左右の口角を吊り上げた禍々しい笑みを作って彼女を見下ろしていた。
「……愛澤さん……」
アリシアは思いがけない再会の驚きによる刹那のフリーズから覚めると、拒絶の衝動にすぐに身を翻して相手との距離を取った。
「おやおや、ずいぶん嫌われたものですね……協会にいた時には結構、仲良くしていたじゃないですか……フッフッフッフ……」
たしかに当初はそれほど悪い印象があったわけではない。
だがアリシアはきっぱりと首を横に振る。
状況からみても愛澤彪樹が自分の助けになるとは思えなかった。
むしろいかがわしい連中の仲間だと即座に判ずる。
「……特別、仲良くさせていただいたつもりはありません……理事のお一人だったので他の方たちと同じようにしていただけで……」
「ほう、僕に対する好意からではなく、あくまでも仕事上ということですか……なるほど」
愛澤はドアとの間に立って退路を塞いでいて、アリシアは背後を窺っている。
「まぁ、そう警戒しないで――」
愛澤は舞台を顎でしゃくって
「あの連中のことは気にしなくていい、周りにいるのもみんなホロだから。実際には地下でやってることで、今この部屋にいるのはきみと僕の二人だけですよ」
愛澤と二人だけ、というのにはさらに胸の非常ベルが鳴り響くのだ。
「地下……?」
「我々だけが利用できる専用の特別室があるんですよ。メンバーが可愛い女性の面倒を
「………」
「お仲間たちの熱演ぶり、楽しんでもらえたかな? きみのところの後輩もしっかり頑張ってるみたいだね」
愛澤と対峙する合間にも灯里の喘ぎ声が耳に届いていてアリシアは唇を咬んだ。
「これはいったい、どういうことですかっ?」
「まぁ、落ち着いて――」
相手に話を振りながらもアリシアは周囲に目を配って退路を求めていた。非常口らしきものが視界の隅に入って、愛澤との距離を少しずつ広げようと後退りする。
が――。
「別にここから出て行かれてもかまいませんよ――」
愛澤が、アリシアが動きだすより前に非常口の方を手で差し示して、逆に彼女の意図は封じられてしまう。
「………」
「別に鍵などかかってませんから、ご心配なく」
「……あたくし、この後にも予定が入っておりますので――」
「そうですか――」
男はこともなげに受け入れると、また口の端を引っ掛けたような嫌な笑みを向けてくる。
「ではどうぞご自由に」
愛澤は慇懃にひょろっと長い腕を広げて退路を開いて見せた。痩身を翻して壁際へと下がるとそこにあった長椅子に腰を下ろし、足を高々と組んで興味深げな顔で彼女の容子を窺っている。
出口は見えていた。
だがアリシアは足が竦んですぐには動けずにいる。
男の身のこなしぶりが、どこかとぐろを巻いて身を潜める爬虫類のようにも、また巣に身を置く毒蜘蛛のようにも思えて、彼女はこれまで愛澤に対して抱いていた嫌悪感の正体を見たように感じて肌を粟立てていた。
胸がドキドキとしていて呼吸を整えようと深く息を吸い込む。二度、三度。
そして意を決して踏み出そうとした時、
「しかし、果たしてきみにそれができますか――?」
話しかけられる。
男はアリシアが警戒のガードを上げて固めていた心が、一瞬弛んだ隙間を狙って楔を打ち込むような問いを発してきたのだった。
「どういうことですか?」
「このまま理由もわからずに、お仲間を残して出て行くなんてことがきみにできるとは、僕にはとても信じられなくてね――」
「………」
「放っておくんですか? 彼女たちを」
愛澤は顎をしゃくって舞台の方を促した。
見ると灯里は男の顔の上にしゃがんで悩ましげに腰を蠢かせていた。一方、藍華は聳り立つ男の太い男根を手に上下に扱いている。
この上なく恥ずかしい体位で口淫を受けている美少女の目が、性の愉悦に虚ろになって清らな輝きを失っていた。
恋人であるアキトとの間でアリシア自身も経験のある、いちばん大切な人にだけ許すはずのものを、少女は刻々奪われていた。
「灯里ちゃん……」
アリシアは瞋恚の眼差しを愛澤に向けた。やさしいかたちの眉を寄せて、美しい額の眉間に嫌悪の縦皺が作られている。
「事情をご存知なんですよね、愛澤さんは」
「ええ、きみが何かとんでもない勘違いをしているんじゃないかってことは判りますよ――」
「勘違い?」
「あるいは誤解と言うべきかな……クックックック」
相手からは悖戻な意思を感じて、彼女の心のアラームは鳴りっぱなしになっている。
このまま会話を続けるのは危険で、男の術中に嵌ることになるとも感じていた。それでもアリシアは愛澤が指摘したように灯里たちに背を向けて立ち去ることなどできなかったのだ。
なぜこのようなことになったのか?
彼女たちをどうしたら救えるのか?
だが誰に救いを求めるにしても事情もわからぬままに迂闊に動くわけにはいかないのだった。
ことセックスが絡むとなると、慎重に運ばないとかえって問題を拗らせかねなかったからだ。
「教えてください、愛澤さん、彼女たちにいったい何があったのですか?」
「いいですよ……でもその前に、いくつか僕の質問にも、答えてくれませんか?」
「質問?」
「ええ、
「――!?――」
「簡単な話ですよ。きみを抱く前に、きみのセックスの経験のレベルを知っておきたいのでね、できれば二つ名通りに未経験であって欲しいのだが……どうかな? きみは処女? それとももうフィアンセには抱かれてるのかい?」
「あなたはいったい、なにを――」
「まぁ、そんなに怖い顔をしないで……でも、きみは怒った顔も綺麗だ、さすがだね……あとは歓びに喘ぐ顔が見てみたいな、クッフフフフッ」
「あなた……おかしいわ、本当に……」
「僕がおかしいかどうかはじきに分かりますよ……予言しましょう、今からきっかり三時間後、きみは後ろの彼女のようなことを僕としている――」
振り返ると回転ベッドの上で今はアテナが男のペニスを頬張りながら秘所を舐られていた。
シックスナインと呼ばれる体位になっている。
舐めるのは大好きでも舐められるのを拒むアキトとは未経験の相互愛撫。
アテナが父親以上に歳の離れた男のペニスを美味しそうにしゃぶっているのを見て、堪えきれずにアリシアは目を閉じた。
「きみはオーラルセックスは好きかい?」
「あなたには関係のないことですっ」
挑発にのって不用意に返して、いちばん嫌な相手に上げ足を取られるという隙を作ってしまっていた。
「やっぱり、その容子だとそっちの方も経験済みか……クソっ……」
「………」
「汚れを知らないハズの白き妖精が、すでに穢されていたとは……まったく、イケナイ女神さまだ――」
不貞腐れたようになって長椅子の上に身を長らえる。
「まぁいい、すぐにダンナのことなんてすっかり忘れさせてやるよ――」
そう言い放つと愛澤はソファの上で大きく伸びをして、くつろいで見せるのだった。