ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
「きみはもう逃げられないよ……ここからはね……」
逃げられない――!?
今やはっきりと貞操の危機を感じて身慄いがしてくる。
それでも自身を奮い立たせ、アリシアは駆け出す隙を窺ってすぐ前方にある出口と側方の少し離れた非常口へと目をやる。
出口まではほんの数メートルほど。
しかし愛澤の前を通り抜けるには勇気が必要だった。また重い遮音扉を押し開けるのに手間取ることを思うと、少し距離はあっても非常口に向けて走る方が有利だと判断する。
非常扉の施錠がされていないと言っていたことが嘘ではないと信じたかった。ただその先がどうなっているかわからないことが懸念なのだった。
階段があるだけならばそのまま一気に下まで駆け降りるつもりでいたが、愛澤が示す終始余裕の態度が気になるのだ。
男は膝の上に片肘をおき頬杖をついたままで言った。
「もう逃すつもりはないよ、今度こそきみを必ず僕のものにする――」
アリシアは首を横に振って固い拒絶の意思を示した。
「お断りします――」
「だがきみには拒めない――」
相手の自信たっぷりの様子には背筋も凍りつく恐ろしさを覚えていた。
それに堪えて
「あなたは暴力でわたしを従わせるとおっしゃるのですか――?」
「暴力なんて無粋なものは使わないよ。僕は紳士として、あくまでもきみの意思を尊重するつもりだからね」
「………」
自分が肌を許すと決めたのはこの世でただ一人、アキト以外にはありえなかった。
愛とは互いを信頼し、敬意を払い、そしてともにどこまでも生きるという覚悟を決めること。
その歓びと幸せ――。
女として生まれてきたことへの感謝と、人を真剣に愛することの誇らしさ。
二人で積み上げてきた一瞬一瞬が、一生を賭けるに足るかけがえのないものだと感じている。
その中でセックスは絆を確かめるための言葉を超えた思いのやり取り、心を許し合った男と女のみの間でなされる神聖な誓いの儀式でもあった。
そうした重く尊いいとなみを契りを結んだ相手以外と交わすなど想うことすら恐ろしいのだ。
今この身は自分のものであるとともに最愛の人のものでもあった。
自分の心と体を傷つけることは、誰よりも大切な人を傷つけることと同じなのだ。
だから――。
自分がいま目の前にしている胡乱な男と関係を持つことなどあるはずがなかった。
ぜったいに――!
アリシアは心密かに自身に言い聞かせている。
「お伝えしたはずです、わたしにはあなたのお気持ちにお応えするつもりはありません……これからも……永遠に……」
「永遠にか、そいつは愉快だ……」
だがアリシアの覚悟の宣告を愛澤は鼻をならして嗤う。
「随分とダンナに惚れ込んで操をたてているみたいだが、そんな覚悟なんか一瞬で崩れるように儚いものさ――」
「………」
「それどころかきみはじきに自分から服を脱いで一糸纏わぬ裸になるんだよ。進んでそこのベッドの上で横になると脚を開いて、僕に全てを見せるようになる。僕の愛を受け入れる為にね……フッフッフッフ」
破廉恥な物言いにアリシアは唇を引き結び、視線を険しくして愛澤を睨み据えている。
そんなアリシアの容子にはおかまいなく、愛澤は
「ごらん、後ろの彼女を――」
促されて、アリシアは男の挙動を警戒しつつ背後に目をやる。
そしてそこで行われていることにまたショックを受けていた。
「アトラさん……」
「ほうら彼女も、お楽しみの真っ最中だ――」
温和で知的な彼女にふさわしい二つ名の、今や三大妖精とも人気を分かつ現役屈指のプリマ・ウンディーネの一人だった。
作家志望でもある感受性の豊かな素敵な友であり、そして夜の儀では“ウンディーネ”としての姉でもある。
その彼女のあまりにも惨たらしい様子に、見てはいけないように感じてアリシアは目を瞑った。
#ああっ、いやっ、いやですっ……どうかもう許してくださいっ……#
女の悲しい訴えをよそに、
#どうだぁ、キモチいいかぁ? 東山ちゃんは極めつきのどヘンタイだからな、他の男のザーメンまみれになったマ◯コだって平気で舐められるんだ。蛇みたいな長い舌で両方の穴をペロペロされたら、そりゃあキモチいいよなぁ、オンナにとっちゃ天国だろう――?#
髪の薄い中年男は背後から両脚を抱えるようにしてアトラを抱いて、ときおり女の口を吸いながら諭すようにして話しかけている。
方や一人はあられもなく開かれた女の股間に蹲って顔を寄せ、しきりに陰部を舐り尽くしていた。
異様なまでの長さの舌の先が蛇のそれのように割れていて、彼女のクリトリスがあるあたりに絡みついていたかと思うと、今度は錐のように先細にして肛を犯していく。
刺激に赤らんだ女の肉襞が惨たらしく剥き展げられて、明るい無影灯の下で虚しく花を散らしていた。
そして別の一人は彼女の傍らで、短い股間を忙しなく扱きながら豊満な両の乳房を揉みしだくようにして乳先を交互にちゅぱちゅぱ吸っているのだ。
無理やり胸の尖りを固くさせられる姿が哀れだった。
一度に三人の男の相手をさせられている彼女はとりわけ不憫なのだった。
強い力で体の自由を奪われて、どんな惨いことにでも応じさせられている。
心優しく慎ましげな友が、いまはあられもない姿で陵辱の極みに晒されていた。
「アトラ嬢もたいそう人気があるようだからね、確かにじつに見事な女性だ。あんなつまらない連中にくれてやるにはちょっと惜しい気もする。まぁ、さすがにきみには及ばないがね、クックックッ」
イヤな感じの含み笑いにまた背中を悪寒が駆け抜けていった。
アリシアは自然に身をまもろうと両腕を胸の前に寄せている。さらに顎をぐっと引き上目遣いになって男の顔に厳しい眼差しを送っていた。
「やはり、きみは思い違いをして居るようだね――」
「思いちがい――?」
愛澤は舞台の方を窺いながら続けた。
「ああ、単純に彼女たちは商行為を行っているだけで、こちらも正当な権利を行使しているだけなんだ」
「正当な権利ですって!?」
「そう、対価としてのね――」
「みんなが望んであのようなことをしているとでもおっしゃるのですか?」
「少なくとも彼女たちには売るものがあり、そしてそれを買う者がいた、それだけのことだ。ただの商取引に過ぎん」
愛澤はレトリックを用いたが、それこそ売春に他ならなかった。だが、仲間の誰もがそうしたことに関わるわけがなかったのだ。
たとえどのようなことがあったとしても、お金のために体を売るなどウンディーネが考えるはずもない。
が――。
「彼女、アトラ嬢には病気の弟がいるそうでね、その特効薬があるんだが市場にはまったく出回っていないものなんだ」
愛澤は思いがけない物言いをする。
「弟さんの、病気の……特効薬……?!」
初耳だったがアトラとは晃やアテナほど付き合いが長くはなく、プライバシーについては実家がアカミラノで著名なファッションブランドを展開する企業のお嬢様ということぐらいで、家族構成などについて詳しく知っているわけではなかった。
「ただ、あまりにも高価でね……そう、ざっときみたちプリマの平均年収の百数十年分にもなるかな……だからまったく市場性がなくて僕らのような富裕層の間でしか出回らない――」
「………」
「そりゃ本意ではないだろうが、彼女は弟思いの立派なお姉さんなんだよ、感心な子だ」
病気の弟の治療薬を得るために体を売る――。
もしもそれが事実なら、他人である自分が勝手に立ち入るべきではないのかもしれなかった。
しかし――。
「それなら灯里ちゃんや、藍華ちゃん、アリスちゃんはどうしてっ?」
「さぁ、そこまでは僕も知らないな……ただここはそういうところなんだとしかね。売る者と買う者とを繋ぐマーケットだ……きみたちウンディーネはとても美しい、だから有り余る富を持って使いあぐねているような人間たちにとっては、いくら金を積んでも欲しいと思う貴重な美術品になる。反対に生涯年収の何十倍、何百倍もの金を積まれれば、ほんの数時間ぐらいなら体を売ってもいいと思う子も居るだろう」
「嘘っ、嘘よ……あの子たちがそんなことを思う筈がないからっ」
灯里も藍華もアリスもまだミドルティーンなのだ。
恋も知らない初心な少女たちが体を売るなどということは信じられなかった。
それに彼女たちがそうまでしてお金に取り憑かれているとはとても思えない。
「でも、あれが事実だ――」
愛澤は顎をしゃくってまた舞台の方を促した。
そこでは今度はアリスが犯されていた。
当代きっての美少女ウンディーネが、四つん這いになって辱めに堪えている。
真っ白な髪の高齢男性が美少女の尻の谷間を広げるようにしていて、剥き出しにされた肛門を嬉しそうに見つめていた。
白い肌よりも幾分くすんだ色合いの窄まりを、指の腹で繊細な皺を伸ばすようにしてしつこくなぞっていたが、大きな鷲鼻の鼻先を寄せてにおいを楽しむと今度は舌で舐りはじめる。
少女の華奢な背中がクッとしなり、いまだ十分に成熟しているとはいえない秘所の割れ目の間から透明な体液が糸を引いて落ちて白いシーツの上にシミを作っていた。
「アリスちゃん……」
「いま彼女たちはああやって、地下の特別室で必死に汗と体液を流して、肌身を削って対価を支払っている。これは彼女たちが選んだことだ、きみにそれをとやかく言う資格はない――」
「………」
「それとも、どこかに訴え出たりするつもりかい? お仲間のウンディーネが売春をしているとでも言って――」
「………」
「そんなことをしていったい誰が喜ぶ? きっと彼女たちですら余計なことをするなと憤慨するだろうな。きれいごとを言って自分だけ正義感を振りかざして善人ぶってると、きみのことをひどく恨むかもしれない。せっかく体を売ってまで手に入れようとしたものを失うばかりか、淫売の汚名まで着せられて、そのうえ法令違反で罪に問われることにもなりかねない。お国の政府も面子を潰されて頭を抱えることになるだろう。キミの軽挙妄動にはみんなが傷ついて全てが台無しになってしまう――」
愛澤は確かに痛いところを指摘していた。
仮に彼女が何をするにしても、まず当事者たちの思いを確かめてからにしたかったし、そうしなければならなかったのだ。
「ご理解いただけたようだね、きみは聡明だから」
「………」
「さて、ここからがいよいよ本題だ――」
「………」
「今まではお仲間たちの話だったが、これからはきみの話になる」
愛澤はまた腕時計を確かめて
「じきに一時半になるところか……あと二時間足らず、彼女たちのプレゼンテーションが済んだら、いよいよ僕たちの順番になるから――」
「わたしたち、の……?!」
「彼女たちの熱演が済んだら、次は僕ときみとが舞台に上がる番なのでね――」
「お断りしますっ! あたしには体を売るつもりなどありませんっ!」
「もうきみの体は僕に買われているんだよ――」
「なんですって――!?」
アリシアには身を売った覚えも買われた憶えも、もちろんなかった。
「たしかに僕だって、きみが金の為に体を売るなどと、そんな安っぽい女だとは思ってはないよ、なにしろ巨万の富を惜しげも無く国に投げ渡してしまうような人だからね」
「………」
「しかしね、きみは絶対にイヤだとは言えないんだ――」
その宣告に、彼女はにわかに足元が揺らぐような衝撃を受けていた。
「なぜ、です……」
「きみがその美しい体を使って贖うものは、いま後ろで頑張ってるお仲間たちの運命だからさ――」
「――!――」
「あの映像がもしも世間に流れ出たら、一体どうなると思う?」
それは男からの勝利宣言に他ならなかったのだった。
お楽しみいただけるとありがたいのですが……いかがでしょうか?
来週末は、時間が取れないかもしれませんが、まだはっきりしません
描いてる当人も先がどうなるか気になる部分もあって
一応、時間が許す限り続きを描くつもりでいますが