ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
おかしなところを少しだけ修正しました
「彼女たちの未来はひとえにきみの対応にかかっているんだ。あんな映像がもしも公になったとしたら、いったいどうなると思う? きみが僕の提案を拒んで今ここを出た途端、お仲間の誰かの映像が外に流出することになるのだとしたら――?」
「そんな……」
それこそ致命的なスキャンダルになるのは確実だった。
自身を襲った盗撮被害などで済むようなレベルの話ではない。
凄惨な陵辱に晒されている姿を人々に見られていると判ったらどれほどのショックか、体を穢されるのも辛く悲しいのに、さらに惨い辱めを受けるとなればきっと命を断とうとするものまで現れるだろう。
晃、アテナに灯里、藍華、アリス、そしてアトラ……。
大切な、この上なく大切な仲間であり友であり、家族でもある人たち。
彼女たちが傷つき苦しむ姿を見るのは堪えられなかった。
そんな恐ろしい事態が予見できるものを、ただこのままだまって見過ごすことなどできる筈がないのだ。
「卑怯……」
非難の呟きが溢れる。
「かもしれない、否定はしないよ。しかし、きみに対してはとても有効なディールとなる。本当はこんな手を使いたくはなかったんだが……みんなきみがいけないんだ、僕の気持ちに応えようとしないきみがね」
「………」
「僕は今日のイベントの主催者として、いま撮影されている彼女たちの恥ずかしい映像をイベント終了と同時に破棄しうる立場にある。もちろんいっさいのコピーを残さずにだ。だから彼女たちはお務めが済んだらここを出て普段どおりの生活に戻ることができる……きみさえ僕の気持ちに応えてくれたらの話だが――」
「………」
「……確かに観覧者たちは居るが、彼らはそもそもここでの出来事を口外することはないんだ。それがこのクラブの第一のルールだからね。だから、ここで起きたことは他の誰にも知られることなく、またいつもの楽しい毎日が戻ってくるんだよ、何も問題はあるまい?」
問題がないわけがなかった。たとえどのような事情を抱えていたにせよ彼女たちは深く傷ついているに違いないのだ。
その上――。
「きみはこのままお友だちを見棄てて出ていくのかい? それとも着ている服を全部脱いで、そこのベッドに横になってくれるのかな?」
背後の円形ベッドを振り返ると、アトラが三人の男から三カ所を同時に犯されていた。
美女の顔は涙と男たちの白い体液でべとべとにされている。
「ひどい……アトラさん……」
「さあどうする――?」
「………」
「あんな映像が表に出たら困るのは本人だけじゃないかもしれないね」
もちろんそうだ。
名のあるプリマ・ウンディーネが体を売って陵辱の限りを尽くされていた――。
そんなことが公になれば醜聞の影響はひとり業界だけにはとどまらない。
ネオ・ヴェネチアが、そしてAQUA全体が取り返しのつかないダメージを負うことになる。
退路が封じられたことを察してアリシアは瞑目した。自然に涙が滲んでくる。
勝利を確信した男は、さらに言葉に蜜をのせて誘惑していた。
「きみが上がる予定の舞台は、本来なら三時以降、地下での特別室になるが、代わりに今ここでしてもいい……」
「………」
「これはきみを思っての提案でもあるんだよ。ここなら他の誰にも見られることはないから、観覧者を入れずに僕ときみの二人だけで周りを気にせずに愛し合うことができる……それに撮影装置もないから記録することもできないしね……」
他の誰にも見られない――。
それには心が揺れる。
「今からほんの二時間あまり、僕と付き合ってくれればそれでおしまいだ。君はここを出ていつも通りの生活に戻ればいい、僕が責任を持ってきみをここから出してあげよう。だからきみはフィアンセと結婚もできるし子供だって作れる……どうかな? そんなに難しく考えなくてもいいと思うんだが……他の女たちは、こんなマイルドな提案をされることはないけど、きみは誰よりも特別な女性だからこちらも尊重したくてこうしたことを持ちかけているんだよ」
はじめに高い要求を突きつけてから、それを下げることで相手には受け入れやすいと思わせる商売人の交渉術だった。
アリシアは首を横に振ってイヤイヤをするが、それはすでに少し前までの峻拒と呼べるものではなくなっていた。
「……きみはとても美しい……そんなにかわいい顔をしていながら体つきも……声もしぐさも何もかもが好ましいよ……きみを見て、ひと目で恋に落ちてしまうほどにね……」
舐めるように全身に視線が這うのを感じて彼女は身を竦ませると、体をなお庇うようにしながらきつく唇をひき結んで、圧力に屈しまいとしていた。
「おまけに体の匂いまでもが芳しくて、石鹸とシャンプーの香りに隠れて仄かにかおる汗のニオイも愛おしかった……きみと接していて僕は自分を抑えるのに苦労したよ。身につけているものを剥ぎ取って僕のものにしてしまおうと何度、思ったことか……機会はいくらでもあったんだ……」
男の告白にアリシアは目を剥き、そして疎ましげに細める。
「だが僕はそれをしなかった。それは僕のきみへの愛からだ。きみを傷つけたくなかったからなんだ。僕はそれだけきみのことを大切に思っていたんだよ、その気持ちは今も変わらない」
歪なかたちではあったが愛澤彪樹なりの愛情表現らしかった。
そして他人からの好意を厭うのは正しくない心の動きだとは思う。
けれども男と女の間にだけは好悪が働いてしまうのだった。
恋は選択であり、相手を独占したいという欲望があり、そして排除の感情まで生まれる。
すごく厄介で慎重に取り扱わないと壊れやすく、ひとつ間違うと心はすぐに闇に囚われるものでもあった。
それほど危うく頼りないものでありながら、なによりも素晴らしいものだ。
生きることの喜びをもっともわかりやすく教えてくれる。
人を大好きになること、愛すること――。
それは女にとって命そのもの。
だから――。
大切にしたい。
この気持ちを……。
アリシアは思う。
自分が愛する大好きな人は一人だけ――と。
でも……。
「本当に……ここだけのこと、なんですか?」
ついに屈服の言葉を発していて、男は破顔する。
「約束するよ――」
「みんなのことは? みんなはどうなるんですか?」
「その約束もちゃんと果たすよ。彼女たちのプライバシーは全員守られる。きみが肌を許してくれさえすれば」
「………」
「さもなければ、これから毎日一人ずつ、きみが僕に抱かれる決心がつくまで映像が流出することになるだけだが――」
アリシアはまた少女がするように細かく首を横に振る。
「なら、もう決心がついたね」
「信じてもいいんですね……」
「もちろんだ」
「………」
実際には何ひとつ保証があるわけではない。
ただ彼女には確かめようもなく、相手を信じる以外にはなかったのだった。
「できれば週に一回のデートの約束を取り付けたいところなんだが……それは無理なんだろ?」
アリシアはコックリ頷いた。
「じゃあ、しかたない――」
男は好色な笑みを貼り付けた顔で椅子から立ち上がる。
顔が小さく等身の高い痩せた男が、巨大な蛇のようにぬらりと寄ってきて、彼女の体にもどっとアドレナリンが放出されていた。
心拍が跳ね上がり、身を守ろうとする女の本能が悲鳴をあげている。
被食者が捕食者から逃れようとする懸命の衝動を抑えて、嫌な汗をかきながら固唾をのんで、勇気を振り絞って近づいてくる男と対峙し続けていた。
なお彼女をそこに留めているのは友への思い、家族への愛だった。
恋人への愛との葛藤に引き裂かれそうになりながら。
「やっと願いが叶う――」
長い腕が腰に伸びてきて抱き寄せられる。アリシアは身をかたくして堪えた。
「ずっと夢だったんだ……きみとこうするのが……いい匂いだ……」
髪のにおいを嗅がれて悔しさに唇を噛む。その顎に指がかかり顔を上向けられた。
男の顔が寄せられてきて、すぐに顔を背けて逃れた。
細い首に嫌悪の筋がくっきりと浮き上がる。
「フッフッフ、キスはイヤかい?」
「………」
が、再び口づけを求められると、アリシアは強い後悔を覚えつつも目をかたく閉じるのだった。
近衛連隊隊長さま Zero1226さま お気に入りに加えていただきありがとうございます
楽しんでいただけるといいのですが