ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
4
灯里はまた寝返りをうった。
ベッドサイドの目覚まし時計は午前一時を少し過ぎたところ。いつもならとっくに寝入っている時間。
でも、眠れない――。
目を閉じると脳裏に、その日、図書室で垣間見た光景が甦って少女の心と体をなやましくしてしまう。
初めて目にした男と女の濃密な愛情表現、とても特別なキスシーン。
それも少女が良く知る二人、ルームメートとクラスメートの間で交わされたとりわけ秘やかな性戯、人間くさいいとなみ。
自分以外の女性のいちばんプライベートな部分をつぶさに見たのも初めてだった。
セックスなんて無縁に思えた心やさしい友人が見せた、もうひとつの顔。
ものごとにあまり拘らない、のんびりとした雰囲気の同級生が秘めていた思いの深さと情熱。
灯里は、アリシアのふわふわの愛の巣の中に彼が鼻先を潜らせて、うっとりかなしげな表情になるのを思い出した。
舌をのばしてデリケートな襞の間にそっと探りを入れるのも。
女であれば、そのあたりがどんなに特別な場所かわかる。ちょっと触れただけで全身に電気がはしる、とりわけ敏感な肉の芽のあるところ。女の子のからだのウイークポイント。
それはもちろん、女神のように思っていたアリシアも例外ではなかった。
シミひとつ無い真っ白な下腹部がぴくん、とひきつり、たちまち追いつめられた雰囲気を纏うようになっていった女教師。美しい顔を上気させて、碧い瞳を潤ませて。
だめ――。
すっかり吐息が熱くなっていた。
体の奥がまた潤んだように感じて少女は寝返りをうった。今度は仰向けになる。でも脚は閉じない。
もう閉じられなかった。
腿の間にある女性特有の器官が、蜜を含んではちきれんばかりになっているようで。
とてもあやしい感じなのだった。
灯里は慎重にパジャマの中に手を忍ばせる。触れてはならない部分を避けて。
幸いにも、まだ肌着を汚してはいなかった。
けれど局部にはいけない粘つき感があって、うっかり刺戟しようものなら、熟れきったトマトのようにすぐにも破裂して、恥ずかしい体液を飛びちらせてしまいそう。
どうしよう――。
途方にくれてしまった。
マスターベーションが未経験、というのではなくても、少女にはいまだ禁忌の行為なのだった。
そういうことは、できるだけ避けるようにしなければ、と戒めている。
アリシアとルームシェアをするようになってからはなおさら。
それが、今日はもう限界が近づいていた。
いったん熱をたくわえた体は、解き放たれるきっかけを待っていた。
聞き分けのない肉体の誘惑に愛くるしい顔を半泣きにして、灯里は救いをもとめる目を部屋のあちこちに向けた。くっきりとした睫をせつなくしばたたかせて。
先のないはかない抵抗。
が、もうしばらく前から少女の目には何も映ってはいないのだった。
結局、戻ってくるのは、二人が演じたもっとも官能的なシーン。
暗い色をした少年の指がアリシアの赤らむ谷間をひろげ、つつましげに咲く花びらの合わせ目を指のはらでやさしく撫ではじめたときのこと。
そっとフードを剥かれ、顔を出した珊瑚色の真珠に身を寄せる男の子の舌。舐めあげるのでもなく、舌の上で転がすのでもなく、舌の裏側のいちばん柔らかい部分を使ってただ寄り添わせる。
それなのに、一瞬見せたアリシアの驚きの表情が、事態の深刻さ、女の身に与える影響の大きさを教えてくれた……。
ついに少女は目を閉じた。ティッシュボックスを手探りして、何枚もシートを掴みだしながら。
いけないこと……でも、アリシアさんだって……。
いいわけして、自分に言いきかせて、ティシューの束を肌着のなかへ導いていく。
こぼれ落ちそうになっていた潤みを受けとめ、少女は股間をおさえて小さく呻いた。
うぅ――。
瑞々しい少女の白い顔につくられた官能の翳り、悩ましい途惑いに顰めた眉。
灯里はいま、自分自身がアキトに愛されているときのアリシアとそっくりに、すっかり女の顔をしていることに気づいてはいなかった。
あたし……。
あんなことされたら……。
アキトさん……。
少年のふるまいに自分の指をなぞらえてみる。直接ふれることにはためらいがあって、帽子の上から、そっと。
うふぅ……。
デリケートな部分への、この上ない配慮といたわりを感じる口づけ。
でもそれは身持ちのいい女の子に規を越えさせるための、男の子のたくらみなのかもしれなかった。
温もりだけを伝えようとしていた少年の舌。
けれど、急所をとらえられて、イヤでも女の意識はそこに集中せずにはいられない。
じっと指の温もりを感じていると、自然に息がはずんでくるのだった。
そのくせ、なじんでくると、今度はちょっと、ものたりない感じにもなってくる。
少女は、図書室のアリシアが彼女らしからぬ淫らなしぐさで、せつなそうに、でも必死な感じで、ときおり小さく腰を前後にゆすっていたワケを想った。
ひどいな、アキトさん……いじわるだな……。
灯里もおねだりするように自分から腰を蠢かせてみる。
とたん、目の奥に星が散った。
ふしだらなしぐさに罰が下ったのか、背中に見えない鞭が振り下ろされたように、少女は苦しげに体をよじって甘い息を吐いたのだった。
う……う……うぅ……。
薄闇の中で、少女の漆黒のシルエットが、枕に深く頭をあずけ、無意識に喉を反らせて貪欲に歓びを求めるポーズになる。
ああっ……。
繊細な指が罪深い谷間をさぐって、自らを奏で始めた。
きもち……いい……素敵っ……アリシアさん……。
スレンダーなボディを弓なりにして、両足をつま先までピンとのばして、堪える。
……アキトさん……大好き……。
やがて、はりつめた体の上を小さな波がひとつ、通り抜けていった。
肉体に宿っていた過剰な熱をさらっていきながら。
まだ未成熟な細い腰をぷるぷるっと幾度もわななかせて、少女は熱い息を吐いた。
はぁ、はぁ、はぁ……。
もっと遠くへ、と思う気持ちと、これ以上はダメという気持ちの葛藤が少しあってから、少女は、ごろん、と気怠い身を返した。
胎児のように体を丸めて。分厚いティシューの束が湿っているのにもかまわず。
大きな目を開いて、ゆっくりとまばたき。
頭の中に居座っていたモヤモヤとしたものが薄れて、視界がスッキリと透明感を増したよう。
「はぁ……きれいだったな……アリシアさん……」
歓びの気をはなったときのアリシアは、待ち望んだ飛翔の時を迎えた白鳥のようだった。背中の翼を大きくひろげ、天高く舞う、気高い精霊。
それにひきかえ――。
半身を起こして、少女は顔をしかめた。
狂おしい熱の去った体に、冷えたティシューのぐっしょりした感触が情けなかった。
うとましい異臭をはなつ“汚れもの”を丸めるとデスク横のくず箱の奥におさめ、少女は跫音を忍ばせて自室を出た。
粗相をした陰部を洗い清めたくて。
トイレボールに腰掛けて、温かい洗浄水で洗い流していると、アキトの情の深さにあらためて気づかされる。
アキトさん、あんなにうれしそうに、唇と舌をやさしくして……。
潤いのひと滴も残さないように谷間をきれいに舐めとっている姿に、二人の結びつきの強さを感じるのだった。
恋人を歓びに導こうとするときとは違う、けれど別の意味で愛情深い口づけ。
お口が秘密の花びらをとらえるたびに、舌を長く伸ばして畝の間を分け入るたびに、
大好き――って言っているようだった。
きっとアキトさん、アリシアさんのこと、かわいくて、かわいくてしかたがないんだろうな……。
ああやって、ひとつひとつ、アリシアさんの心と体を追いつめていったんだ。
ひどいな、アキトさん……。
ずるい――。
あんなに一途に思いのせられたら、女の子は、もうどんなに恥ずかしいことをされても、きっとダメって言えなくなっちゃうよ……。
すぐその後で繰り広げられた驚愕の大胆プレイも、二人の親密さを思えば、もう少しも不思議とは思わなかった。
何もかも許しあった恋人たちなら――。
いいな……。
でもアリシアさんたち、いつの間にあんなに仲良くなっていたんだろう?
ちっとも気がつかなかった。
こっそりお忍びデートだって、してる様子はなかったし……。
灯里は、今日みたいに学校で――?
とも考えてみたが、生徒たちの目をかいくぐって関係を深めるのは、やっぱり無理だと思いなおした。