ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
風呂上がりの浴衣姿のアリシアは清潔感のあるお色気を振りまいて少年の目と心を楽しませていた。
一緒に入浴をして互いに背中を流し合って、彼女の生まれたままの姿をしっかり堪能したばかりだというのに、初めて目にする和装の艶やかな姿にはやはり惹きつけられてしまうのだった。
脱衣籠に置かれてあった着替えの浴衣は生地が薄い上に細帯であるため、そのまま寝巻にもなるもので、ふっくらとやさしい胸の曲線の柔らかさが、すぼんだ腰回りとの対比もくっきりと襟足も眩しい。
体の動きにゆったりと従う薄衣のつくる陰影の輪郭と軌跡がなんびとにも描けない美とエロスを醸しだしている。
おまけに脇が大きく口を開けていて、チラ見えする肌の白さ、ワキ乳にはドキドキさせられる。
アリシアの場合、体つきはほっそりとしていながら両の胸の量感は見事なもので、それが裸になると余計に重たげに痛々しげに見えてオスの庇護本能を刺戟するという面があったのだが、衣に包まれてしまうと今度は中で窮屈そうにしているようにも思えてきて解き放ってあげたくもなってくる。
裸に剥くことが容易くできる寝巻はなんとも悩ましく、清楚な顔立ちのすぐ下でこんなドラマが演じられているのを見せつけられては、今にも前を開いて体の隅々にまで視線を送りつけたいという劣情を掻き立てられるのだった。
「なぁにアキトさん、そんなにじろじろ見ないで……」
「ごめんね、でもすごく、綺麗だなって思ったから……」
言われてアリシアはうっすら頬を染めてこくんとする。
「ありがと……」
彼女にすると幸いにもというべきか、お風呂ではあまりおイタをされず穏便に済ませることができたのだったが、身構えていた分かえって拍子抜けをしてもいるのだった。
ただアキトは自身の肉体の感動を隠さずにいて、それでアリシアも艶めいた気持ちになりながらも心は満たされていた。
あらためて最愛の人の妻となったことへの思いを新たにして幸せをかみしめていたのだった。
「肌着はつけていないんですか?」
浴衣は直に身につけるものだと聞いていて、それで確かめたのだ。
「え? いいえ、ちゃんとしてるわよ……なぁに、どうしてそんなことを聞くの?」
「なんだか胸のあたりが、けっこうわがままでいい感じだから、つけてないようにも見えて……だから、また脱がせたくなっちゃう」
「まあっ……でも……」
少年がちょっとエッチな冗談――本音でもあったが――を口にして、アリシアは頼りなげな視線で自分の胸のあたりを確かめた。
「そうかしら……」
普段は着慣れていないので自分が粗相をしているのかと案じたのだ。
たしかに浴衣というよりも寝衣に近い着心地で開放感もある。心許ないといえば、いえなくもない。
「キミみたいにおっぱいが大きな女の人だと目立ちやすいから……だから外に出る時や他人目が気になる場合はサラシを巻いたりしてるみたいだけれど……」
普段なら“おっぱい”という言葉をアキトが口にするとドキッとさせられるところだったが、今日はずっと一緒にいることができてお風呂までも共にした後だけに、拘らずに流せるくらいには閾値は上がっているようなのだった。
「そうねぇ……」
「でも、ボクはそのままの方がいいな……ここには秋乃先生とアナスタシア先生以外には誰も居ないから……」
そう言いながら少年が浴衣の合わせをめくって中を覗こうとして、流石にそれには反応していた。
せっかく彼の髪を洗ってキレイになってもらったばかりなのに、またペースに嵌ってイケナイ遊びに興じてしまったら、何のためのお風呂だったかわからなくなってしまうからだ。
「もう、いけません――」
アリシアは優雅に腰を捩って逃れると、代わりに頬にキスをプレゼントする。
「浴衣のアキトさんもすてきよ、とっても可愛らしいわ、うふふっ」
意識して話題を変えると自身は浴衣の前をしっかり合わせて帯も固く結ぶ。
女ものに袖を通したアキトも、もともとの顔だちが女性的、中性的な雰囲気であることもあって、花柄ではあったがそれほど違和感を感じさせずにいた。
「そうかな――」
少年は少年で、当惑げに自身に目をやっている。
そもそもユースに泊まるつもりで肌着の替えだけは持参していたのだが、今夜は秋乃宅で厄介になることになって湯上がりに、また外着を身につけるわけにもいかずに浴衣を借りることにしたのだった。
少し前――。
「アキトさんはうちに泊まっておいきなさい――」
との秋野からの申し出には、さすがにこれ以上の迷惑をかけるのも心苦しく、謹んで辞去するつもりでいたのだが、
「そう云わないで、今夜はあなたたち二人のお祝いに内輪だけのささやかなファミリーパーティをするつもりなんだから――」
引き止められてしまったのだ。
実の母親のアナスタシアと、ウンディーネとしての育ての親であるグランマ秋乃に、わりとすんなり結婚の承諾を得られたのは上々の、否、望外の成果といえたが、それ以上、無闇にここに留まるといつ自分が馬脚を露わしてしまわないかと少年はヒヤヒヤしていた。
うっかり逆鱗にふれたりでもして……それで結婚取り消し、なんてことになったりしたら、と……。
が――。
「今夜はね……ウナギよ……うふふっ、あなたもご存知でしょ? 江戸甚の――」
「えっ……江戸甚、あの江戸甚ですかっ!」
この誘惑には抗い難いのだ。
「アナスタシアさんからお土産にいただいたの、江戸甚のうなぎと鯉こくのセットを――」
「江戸甚のうなぎと、鯉こくっ……!」
まるで魔法にかかったように凝固してしまう。
ごくりと喉を鳴らして、口中だらしなく溢れた唾液を飲み下した。
「そのお店、有名なんですか?」
「有名もなにも、あなたのダンナさまに訊いてごらんなさいな」
少年はそれに答えて深く頷くのだ。
アキトのような出自の怪しいものの間ですら知れ渡る、泣く子も黙る、あの『江戸甚』――である。
セントラルからだけでなく、たかだかヨコハマごときからも、“チバ土人”、“人材の謎の真空地帯チバラギ”、“士農工商グンマ犬猫ダサイタマ”と軽侮されて日頃から屈折した思いを噛み締めている、生まれも育ちも外セントラルドーナツ圏の上昇志向だけは一丁前に肥大させた若者たちが、
俺もいつかはセントラルでビッグになってやるっ――。
と、野心を胸に滾らせるのはさして珍しくもなかった。
アキトは興味も関心もなかったが、根っからの千葉人にとって脱千葉、入りセントラルは、もはや住民の潜在意識に刷り込まれた無言のスローガン、悲願と言えなくもないものだったのである。
そのなかで江戸甚――の名前は、わかりやすい道標になっていた。
いつかは此処で、と。
成功した暁には――。
「……創業五百年余、セントラルが東京と呼ばれていた頃よりもさらに大昔、街に暮らす男たちがお相撲さんみたいに、みんなオカシナ髷を結っていた頃からやっていたという、老舗の鰻と川魚料理の料亭ですよ……ボクも名前はよく知ってます……名前だけは……」
千葉の中山に居た頃、悪童仲間とともに江戸川の対岸から向こう岸に聳える大江戸リバー・フェニックス・タワー――まさに千葉を睥睨するセントラルへの関所とも言える高楼だった――を目掛けて石をなげたことがあるのを思い出しながら言った。
もちろん、広い河幅の向こうに子供の投石なんかが届くはずもない。
江戸甚はその十八階に店を構えていたが、タワーの一階には日本庭園もあって、そこにある生簀で鰻や鯉を放っていて、訪れた客たちには活きのいいものばかりを見繕い、腕利きの職人たちが捌いて供しているという。
合成品ばかりが跋扈する中、なんという贅沢!
ここで食事を楽しむと財布の中にたとえ
可哀想に、どうせあいつらには一生かかったって食えやしないのに――。
千葉側に暮らす住人たちにしてみると、そんな声が頭の上から降ってきそうに思えるくらい、江戸甚の名は格差の象徴とも言えるものだったのである。
千クレジットというと、ファミレスならフードプロデューサーででっち上げた模造鰻の鰻丼――これだって劣悪な学食に馴れて味覚を破壊されたアキトたちには、こんなに美味いものが世の中にあるのが信じられない! と感動するハレの日のご馳走だった――を一学年百余名全員で食べられるほどの価値があった。
それがホンモノ、となると――。
ユースホステルの厨房でボソボソとカップ麺を啜る“豪華ディナー”とは雲泥の差である。
少年からすると、もうどうなったっていいっ、たとえ魂を売ってでも! と、思わせるもはや暴力的な誘惑なのだった。
「今はネオ・トウキョウにも江戸甚さんの出店があるそうで、そこでは本店と変わらないものが提供されているそうなの、それでアナスアシアさんがわざわざ持ってきてくださったのよ」
「あの……そんな高級なものを……ボクが……」
「あらあら、アキトさんはあたしがどんなに引き留めても帰ろうとしていたのにっ、鰻と聞いただけで目の色が変わっちゃうのね、失礼しちゃうわっ」
アリシアの本音とも冗談とも取れる援護射撃を受けて、アキトは秋乃の厄介になることを決意したのだった。
暮れなずむ秋空――。
風呂上がりの少年に、広々を開け放った縁側からの外気も爽やかに感じられる。
アキトはちゃぶ台の前に座って無糖のソーダ水の入ったグラスを傾けながら、茹で上がったばかりのとうきびに舌鼓を打っているのだった。
「さっきあなた方が捥いできてくれたものを茹でたんだけれど、どうかしらお味は?」
「これはすごく美味しいですね」
「そうお、それは良かったわ」
「もっちりしていて食べ応えがあって、普段見かける黄色いコーンとは全然違うのでびっくりしました」
ただ、美女たちを前に無作法に見えないようにマナーを気にして食べるというのは、なかなかのハードミッションで一人でいる時とはどうにも勝手が違い戸惑ってもいる。
スプーンで実を恐る恐る削ぎ取ったりしながら悪戦苦闘していると、
「遠慮しないでいいのよ、あなたは男の子なんだから」
秋乃は柔和な笑顔を向けていて、それが老女に見えていた時のイメージと重なってアキトにはちょっと不思議な気分なのだった。
実際はこんなにも美しい女性だったわけで、改めて魅力的な女性であることを思い知らされている。
それがウンディーネとして頂点を極めたのだから、アリシアが憧れるのも頷けるのだ。
「我が家のもちきびはお上品にいただくより、かぶりつく方がずっと美味しいわ……アナスタシアさんもお気兼ねなく、どうぞそのままで」
「やっぱりそうですよね……ではお言葉に甘えて……」
目の前で美女がコーンを両手に丸かじりをはじめる。
「ああ、美味しいっ」
フィールドワーカーとして百戦錬磨、おそらくワイルドな場面にも適応している筈のアナスタシアだったが、何をしても美しい顔は美しいままで、やっぱりサマになって映るのだった。
多分、食べる前のコーンよりも、食べた後のコーンの方が価値がある――。
そんな危ない妄想をしつつ、アキトがその様子に目を瞠っていると、
「コラ少年っ、いくらあたしが美人でセクシーで魅力的だからって、食べるところをジロジロ見るのは失礼よっ、そりゃ見惚れるのはわかるけど」
窘められて、
「なにもかも先生のおっしゃる通りです」
恭しく平伏する。
「あらあら、すなおでよろしくてよ――」
アナスタシアが満足げに「うふふ」と、アリシアそっくりに微笑んで、少年の胸をまたドキリとさせるのだった。
少年にとっては、実のところ味がわからなくなりそうなほど座りの悪い状況ではあった。
三人の美女たちが目の前を遊弋しているのだ。
どこに視線を落ち着けたらよいものかわからなくなっている。
しかもそのうちの一人――アリシア母、ママシアのアナスタシア――と二人、差し向かいになるなどいったいどんな罰ゲームだと恨めしく思うのだが、さすがに主賓を一人にするわけにもいかず、厨房に三人も寄せるのはかえって邪魔になるのでこうしたことになっていたのだった。
ただ、えいままよっ、とばかりにかぶりついたとうもろこしの味は絶品で、白い粒の中にパラパラと紫色の粒の混じった野趣のあるもちきびは食感がこたえられなかった。
パンと張りつめた実が口の中で弾けると旨みのある肉汁が溢れてくる。それが岩塩のつくる塩味と混ざると絶妙な自然のコーンスープになるのだった。
アキトがコーンで頬を膨らませたまま目を丸くしていると、
「ね、美味しいでしょう? グランマの畑で取れたトウモロコシはすっごく品質が高いのよ」
食器の入れ替えに、甲斐甲斐しくお盆を抱えてやってきた“新妻”アリシアがしてやったりのわけ知り顔ですぐ隣で両膝をついた。
アリシアはキッチンに立つ秋乃と共に、座卓のある居間との間をそそくさと往復して、パーティを兼ねた夕食の準備をしているのだった。
長い髪を後ろで纏めて、浴衣の袖は襷で結んでいる。細っそりとした白い腕にはやはり目を惹きつけられる。
もしも新婦というのであれば彼女こそ大人しく雛壇に座っているべきだろうと思うのだが、むろん、ここではそのようなことにはならない。
慌てて口の中のものを呑み込むと、
「キミは食べないの?」
「わたしはもう何度も戴いているから大丈夫よ」
アキトからすると、アリシアがどんな顔をしてコーンに齧りつくか、ということにも興味があったのだが、どうやらあっさり躱されてしまったようである。
「お母さま、お食事前にあまりお酒を呑みすぎないで下さいね。せっかくのご馳走のお味が判らなくなってしまいますから――」
アナスタシアは娘の諌言を鬱陶しげに手を振って追い払うと、
「……で、そろそろウチの娘との馴れ初めを訊かせてくれるかしら――?」
また矛先をアキトに突きつけてくる。
「へ――!?」
まるで不意打ちを喰らったように、アキトは喉を詰まらせてしまった。
側にあったソーダ水のグラスをグイッと煽ってようやく落ち着きを取り戻すと、
「あのっ、そのお話は……」
「あの子はね、親のあたしが言うのもおかしいけれど、よくできた子よ……身持ちだって良かったのに――」
暗に、今はそうではないと言いたげで、その因をなした男を前にして炯眼を向けていた。
が、それは責めているというよりも、むしろ何故そのようなことになったのか、科学者らしい純粋な好奇心ともいえるもので、納得のいく説明を求められているようなのだった。
理を愛し、理の扱いに慣れた相手に不用意なごまかしは禁物、あらかじめ答えられることと、そうできないことを伝えることで真摯に向き合うことにする。
幸い、夜の儀でのことを避ければ、それ以外は全て事実を並べることができそうで、アキトはAQUAにやってきたばかりの頃、ネオ・ヴェネチアの水路で迷子になったところから話を起こして、その年の暮れに再会を約して地球に戻っていたこと、約半年に及ぶお勤めを果たしてメストレに戻ってから、二人で将来を誓い合うようになるまでの経緯をなるべく正確に伝えたのだった。
「そう……そういうことだったのね……ちゃんと順を踏んだってことか……まぁ頭のいい男の子は女のあしらい方も上手だってことまでは良く判ったわ――」
ずっと年下のアキトがアリシアを手懐けたように言う。
実際その通りなのだが、普通は大人であるアリシアの方が手引きするように思う筈のところを、アナスタシアの目は既に二人の関係の本質を捉えていたようである。
「まったく、今日は驚かされることばかりだわ……」
「もうしわけ……ありません……」
少年は再びその場で畳に両手をつくと額を下げた。
「顔を上げて、別にあなたを責めているわけじゃないから――」
アナスタシアは瓶からグラスに琥珀色の液体を移そうとしていて、アキトは気働きを利かせて素早く手前にあったビール瓶をとると酌をする。
老獪な美女は艶然と微笑んで
「ねぇ、あなた、本当に幾つなの?」
「ご覧の通りの十五歳、ですけれど……」
「どこかの誰かと脳だけ入れ替えたとかじゃないのよね?」
「そんなはず……そんなことがあるわけないじゃないですか、そのことは先生の方がよくご存知の筈ですが――」
「そうよね……もしもそれができるのなら原理的に人間は不老不死になる……」
「でも、できません……オズボーンのパラドクスがありますから……」
オズボーンとバールマンのパラドックスは脳移植を阻む最大の障害の一つだった。
部分なのか全体なのか、突き詰めると常に境界が曖昧になる。
他我問題がここでも立ち現れてしまうのだ。
「そう……そうなのよ……やっぱり知ってるのか……」
アナスタシアは、フン、と鼻で笑ってから、再びアキトを炯眼で見据えると
「だからできないってことは解ってるんだけど……あなたと話をしていると揺らいでくるわ……もしかしたらオズボーンとバールマンが間違ってたんじゃないかってね……」
アキトは弱り果てた挙句の愛想笑いでそれを受け止めていた。
「あたしね、アリシアにあなたとの入浴を勧めた時、あの子のことだからてっきり拒むと思ってたのよ、まさか受け容れるとは思わなかったから……そんなはしたないこと、できませんって言って……いくら好きな男とだからって、あたしたちがいる前で一緒にお風呂に入るなんて、そんなこと以前のあの子だったら絶対にしないし、できなかったわ……」
「…………」
「ちょっとびっくりだった……でもね、あの子なりの覚悟を示していたのだと思うと……あの子は、あなたのことを本当に愛しているんだって判って……アキトさん、あなたについて行こうと必死になってる……」
アナスタシアから、再び――さんづけで呼ばれていて、大切なことを言われていると察したアキトは居ずまいを正した。
「男の子のあなたに、こんなことを言うのはおかしいのかもしれない、親バカみたいで……でも……」
アナスタシアがテーブルから少し下がると、畳に両手を突いて、少年は瞠目する。
「どうか、あの子のことをよろしく、お願いします」
そのままアナスタシアは深く頭を垂れたのだ。
それにはアキトも慌てて深々と平伏して応じるのだった。
「あの子は本当に心のやさしい子だから……」
「存じてます……美しいのは姿だけじゃないことを……」
「だから、あの子には幸せになってほしい……約束してくださる?」
「ボクの命ある限り、命に変えても、お嬢さまを大切に御まもりいたします。今度の事件のようなことは、もう二度と起こさせないと――」
「そうじゃないの――」
「――?――」
「あなたが娘を大切にしてくれているのは判ってるわ……そうじゃなくて、あなたにはどんなことがあっても、生きていてもらわないと困るって言ってるのよ――」
「……!?……」
「父親を失った時の哀しみを、あの時のような辛い思いを、あの子にはもう二度と遭わせないと約束して欲しいの……アリシアのために……あたしの可愛い、誰よりも大切な一人娘のために」
少年はそれまでアナスタシアのことを科学者らしく当然、理を第一に重んじる人だと看做していたが、どうやら大きな誤解をしていたようなのだった。
この人は、本当は情が厚い人なんだ――と。
一見、怜悧で感情の起伏も抑制されているように思えて、その実は、親として常に娘の身を案じ幸せを考えている。
そのためならどんなことも厭わずにできる人だった。
それが判って、やはりアリシアの母親だ、血は争えないと思うのだ。
あの子にしてこの親あり、この親にしてあの子あり――と。
「未来のことは……誰にもわかりません。確固としたことは申し上げられませんが……でも、先生のお気持ちはしっかり受け止めさせていただきました……お義母さまのご希望に適うべく、務めさせていただきたいと思います、ボクにできることであれば何でもいたします」
アキトはまた額を畳におしあてながら、母親の思いに応えようと心に期したのだった。
「未来は誰にもわからないか……そうよね……」
「先が見えないのは不安ですけれど、だからこそ人は誰かと繋がろうとするし絆を結ぼうとするのだとボクは信じてます。憂いがあるからこそ愛情も強くなるのだと」
「憂いがあるから愛も強くなる? 本当に、よく回る頭と口だこと……あの子が夢中になるのもわかるわ……よくもうちの娘を骨抜きにしてくれたものね――」
これには言葉に刃をのせてくる代わりに呆れている様子が汲み取れて、後ろ暗いところのあるアキトはまた恐縮するが、
「いいのよ……もう別に責めているわけじゃないの……あの子の心の扉を開いたのはあなたなんだから……旦那さまとしてちゃんと面倒を見てくれれば親としてはそれで満足よ……ただ……」
アナスタシアが思わせぶりに言葉を途切れさせて、アキトは畏まったままで続きを待っていた。
が、その二人の様子がアリシアの目にはまた自分の母親がアキトに絡んでいるように見えたのか、盆の上にあった前菜となる漬物類の小鉢をそれぞれの前に置きながら、
「お母さま、もう酔っぱってるんですか? アキトさんに管をまいてあまり困らせないで下さい。アキトさんはまだ十五歳の男の子なんですよ――」
小姑のような釘を刺している。
「あたしがビール一本空けたぐらいで酔っぱったりするもんですか」
アナスタシアが異議を唱えると
「お母さまはそんなにお酒がつよくないでしょ――」
さらに父親から聞かされたという昔話をまじえてバッサリ、かえす刀で
「アキトさんもよ、お母さまにお酌なんてしてあげなくてもいいですからっ」
厨房から呼ぶ声がして、アリシアは「はーい、ただいまっ」と、いい返事を返すと、
「いいですか、お母さまが呑みすぎないよう見張っていてくださいね」
無理な注文を言い置いて、またそそくさと戻っていってしまう。
しっかり姉さん女房をしている風の後ろ姿には隠しようもなく女の幸せが滲み出ているようで、アナスタシアもそしてアキトも、互いに顔を見合わせて含み笑いになるのだった。
佐伯さま、お気に入りの列に加えていただき
ありがとうございました
こちらでは物語の進行は非常にゆっくりしておりますので、まどろっこしいかもしれませんが
よろしくお願いいたします
そもそも何も起こらない日常系ヒーリングがベースですのでそのあたりも含めましてどうかご容赦を
連休なので物語から離れて雑感をひとくさり
今季のアニメについて
ダメ人間御用達アニメと何かと話題の、ヤニねこ、当然のことながら嵌りましたっ
前節のメイドさんは~との対比が、同じようなアパートで一人暮らしをするヒロインの話なのに
かくも違う物語になってしまうとは。
日本アニメがついにここまで、いったい視聴対象年齢はいくつなんだよ!
まずなんといってもOPがやたらにカッコいい。普通は飛ばしてしまうところが目を離せない。あれっと思うとどこかで見たことのあるような……これトレスポ? あれマレーナ? と思ったら全編オマージュだったとは。ド底辺をこんなにカッコよく見せて、卑怯者っ! と製作陣を罵りたくなる。やるなぁ、と。
拙もケビン・スペイシーのようにタバコが吸える男になりたかった!
ピート・ポスルスウェイトの車に乗り込むところのカッコ良さ。
泣き言を連ねる障害者から、一瞬であそこに届くなんて、ずるいぞっ!
そして咥えタバコのブロンソンのなんとサマになっていること。
この後、目も合わせずにアラン・ドロンの手だけを取ってタバコに火を点じるシーンは、もう堪えらえないゾクゾクする名シーンでした。
それから出所した健さんが酒を煽るシーンの、なさけなくも惚れ惚れするカッコ良さは、まさに日本の男の中の男、彼ならでは。
大人になったら、あんな男になりたい、と思って育ちましたが、遺憾ながら、酒もタバコもダメで、なんもねぇつまんない大人になりました。
でもねぇ日本のアニメはやっぱりスゴいなぁと脱帽。
こんななんもねぇお粗末な一人言にお付き合い、ありがとうございました