ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
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二時限目と三時限目の間の長休み、水無灯里はひとり教室を出ると、続き廊下の先にある本館第一図書室へと足を向けた。
いちばん苦手な数学の抜き打ちテストですっかり意気消沈した心と身体のリフレッシュのために。
だって、次は大好きなアリシアさんの授業。
英語はあんまり得意とは言えないけど、それでも頑張ってる。
はじめてA+をもらったのもアリシアさんのリーダー。
すごくうれしかった……。
だから――。
いつも笑顔で励ましてくれるアリシアさんにだけは自分も元気な顔を向けていたい。
落ちこんだりした顔を見せたくない。
放課後になるとそれなりに活気を見せる閲覧室も、さすがに今は誰もいなくてひっそりとしている。
受付カウンターの向こうには当番を割り振られた図書委員の後輩がひとり、下を向いて読書に夢中になっている。
妨げにならないように入館レバーをそおっと身体で圧して静かに中に入ると、いつものようにまっすぐ開架書庫へと足を運んだ。
本たちのささやき声のシャワーを浴びるのが灯里流の簡単お手軽リフレッシュ法。
タイトルを眺めているだけで心が浮き立ってくる。
夢見がちな少女にとって本はさながら異世界へ通じる扉だった。
天井まで届く高い木製書架の間の通路を縫うようにして歩いていると、テストで萎えた心も、採点結果にしょげかえった気分もまた活気を取り戻してくる。
こうしてお気に入りのルートを閲覧してまわり、一般書架の端までやってきたところで少女は足を止めた。
この先は、ちょっと苦手――。
どこの学校図書館にも創設以来一度も生徒たちの手にとられることもなく、壁の模様のようになって、日に焼けた背表紙だけをさらしている書棚があるものである。
そこに列んでいるのは灯里が「無口で気難しいおじいさんたち」と呼んでいる大きくて厳めしい本たち。
総覧や紀要といったそもそも読み手を意識していない刊行物や、持ち出し禁止の古い美術書、あるいは各種手本や指南書などの大型書籍の類。
でも、今日はご挨拶していこうかな。まだ、ベルまで十五分以上もあるし……。
時間を確かめ、気を取りなおして先を進むことにする。
奥の一角は小さな聖霊たちが賑やかに自己主張する図書館で、いちばん静かな場所だった。
けれども、書棚の列を奥へ進むにつれて、そこが今日に限って雰囲気が違っていることに少女は気づいた。
しんと静まりかえって冷え冷えとしている片隅に、微かに人の気配、熱気を感じる。
誰か……いる――!?
いったい誰がどんな本を探しに来てるんだろう……?
興味がわいて跫音をしのばせる。といっても殆ど踏み固められていない絨毯はまだふかふかで上履きのゴム底は少しも音をたてなかった。
そっとようすを窺うつもりで、棚の陰から本の列びにそって視線をおくってみる。
ほの暗い、一等奥まったあたりに――。
最初に目に入ったのはきらびやかな金髪。
そして、たとえ陰にあっても冴え冴えと白い端正な横顔、愁いをふくんだ長い睫。
アリシア……さん……!?
意外な人物の姿に少女は目を瞠る。
けれども彼女に本を探しているようすはなかった。
前に高く上げた片足の
まるでバレエのバー・レッスンでのストレッチのように、長い脚をまっすぐに、つま先をピンと伸ばして。
白いソックスに白いスニーカーの足。
アリシアらしい、初々しい女子学生っぽさを残した足もと。
それがいま、意外にもお行儀わるく投げ出されていた。
思いがけなく高々と持ち上げられたスカートに、カッコよくひき締まった太ももの線を浮かせて。
(なに……してるンだろう……アリシアさん……?)
目を転じて流れる髪にそわせた。
クリーム色のジャケット、白いブラウス……。
胸もとを飾るパステルブルーのリボンタイが、品のいい可愛らしさを引き立てている。
白き妖精――。
生徒たちからそう呼ばれ、敬慕される美しき女性教師は身につけるものも清楚な淡い色調のものを好んだ。
そして、ジャケットとお揃いのクリーム色のボックスプリーツ……。
でも、どこか不自然なドレープの形。
(どうして、あんなふうに前がぽっこり膨らんでるの? まるで……っ!)
はわわわわっ、ア、アリシアさんっ――!?
思わずあげかけた声をのみこんだ。