ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
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教室の入り口のところで団子になり、欲求不満のニキビ面を晒している少年たちの横を、隣の2年B組の美少女が思いっきり蔑みの流し目をくれながら、ツンと尖ったおとがいを反らして無言で通り過ぎていった。
それから数メートルほど離れて男子の一団が、その後を恐る恐るといった感じで追っている。
件の美少女は廊下の中ほどまで進んだところで、意を決したようにくるっと振り返ると、
「ついてこないでくださいっ! でっかい迷惑ですっ!」
一喝する。
もののみごとに金魚のフンを足止めすると、自分はさっさと階段を上っていってしまった。残された一団と、戸口のところでタムロしていたグループとの間で互いにきまり悪げな視線が交錯する。
その沈黙を破ったのは金魚側の方だった。
「今度はウチがトップ取らせてもらうんで」
言いながら先頭の一人が軽く見栄を切った。
教室側のグループがアリシアのファンだと見越した上での挑発。
が、不意打ちに凝固する悪ガキどもに代わって、応じたのは意外にもついいましがたまでイガグリのイジメにあっていた少年、銀縁眼鏡の小柄な優等生然とした少年だった。
「昨期は惜しかったですよね、アリスちゃん大健闘だったから」
ガタイのいいクラスメートたちの人垣を分けて進み出ると相手方のトップと対峙する。
雰囲気を一変させて、細身で小柄な身体には貫禄すら漂よわせていた。
「アリシアさんもひょっとすると次あたりはあぶないかもしれません。もうそっちは票のとりまとめに入ってるんですか?」
「春はそっちの実弾攻撃にやられましたからね、ジッサイあのやり方はナイですよ」
先方は、相手を認めるやここぞとばかりに恨み節をひとくさり。
「投票締め切り前日に公開された例の水着画像、あれでアリシアさんが隠れ巨乳だってわかったとたん、転んだのが随分いたんです。まったく、これだから浮動票ってヤツは読み切れなくてヤなんだ。でも今度はぜったい負けませんからね、こっちにもとっておきの秘策があるんで」
「あれは意図したワケじゃなかったんですよ。写真部が秘かに入手したのをまわしてくれただけで、こっちも出所のハッキリしないネタを使うのには随分抵抗があったんですけど――」
さっきまでおどおどしていた少年が別人のように物怖じもせず、たった一人でグループと渡り合っているのに驚いたイガグリは、訝しげに仲間の一人にワケを訊いた。
「オメェ、やっぱナンも知らねぇのナ」
傍らの体格のいい少年はあさ黒い精悍な顔を憐れむようにすると、イガグリの耳に小声で説きはじめた。
「愛澤のヤツはああみえて、ウラ実のHP担当なんだよ」
「ウラ実ってあのウラ実っ?」
「バカ、声がデカいっ!」
脇腹に一撃を食らってイガグリは、うげっ、と、小さく呻いて身を丸くする。
「他にナニがあるっ!」
ウラ実――裏の実行委員会。
存在自体が半ば公然の秘密とも言える、非公認の学内集団。
生徒会が学園の正規行事を取り仕切るのに対して、ウラ実は主にウエブ上での情報発信を活動の中心としていた。
構成員の数も顔ぶれも不定不明で実体も曖昧だったが、にもかかわらず生徒からの支持を集め、影響力は表の生徒会をも凌駕する。
「あっちのヤツは前山だろ。アイドル研中等部部長の。まわりにいるのはたぶんその取り巻き連中。アイツら、去年、自分らのクラスに転校してきたアリス・キャロルをしきりに推してるって話だから」
廊下で数人の相手をする優等生をやや遠巻きに、残りの悪ガキもイガグリたちの内緒話にぽつりぽつりとのってきた。
「オマエにやった例のアリシアさんのマル秘ポスターも、モトはといえばウラ実が出ドコさ」
「じゃあ、アイツがオリジナル持ってんの?」
声をひそめたイガグリが小さな目を驚きに丸くする。
「オリジナルだけじゃなくて、他にもイロイロとな。晃センセーとかアテナさんのとか、有名どころはたいがい――」
ウラ実が支持される理由のひとつは、送り出される情報の多くがキワモノ系であることだった。
人気企画の"学内おかずランキング"も、もちろん学食メニューの売り上げ順などではない。オトコ目線での学園女子のランク付けに他ならない。
もちろん女子の中には教職員も含まれる。
「あのガードの固い三大妖精がソロいもソロっての水着シーンなんてもンが、一体どうすりゃ撮れるのかオレにゃあ見当もつかねぇよ」
「ホント、あれはスゲーGJだったよナっ! 特にアリシアさんのなんか肌まっしろだし、白ビキニだと一瞬すっ裸に見えて、もうワケがわかんねぇくらいヌイたよ。デカ乳なのもいい意味でショックだったし……」
「オメェも悪いこと言わねぇからよ、後で愛澤にさっきのワビいれとくんだな。連中を敵にまわすとなにかとヤッカイだぜ」
優等生の小柄な背中に向ける悪ガキたちの眼差しには、一様に畏怖と警戒の念が見え隠れしていた。