※この作品はR-18です。

ARIA A SECRET SCHOOL DAYS   作:真夜中のミネルヴァ

21 / 163
その 昼下がりのいとなみは…

 

 

          4

 

「顔を見せて……」

 指先が前髪をていねいに整えて、アリシアのつるンときれいな額をおもてにする。秀でたおでこは知的なだけでなく少女の面影をとどめていた。

「きみの顔、間近にするのは久しぶりだから……」

 アリシアは瞳を大きくして、おだやかに笑む少年の顔を見上げながらされるままになっていた。

 やさしい動きで頭を撫でる、彼の手。

 やや長めの、脂っ気のない漆黒の髪、色黒の肌……。

 黒目がちの、澄んだ瞳をした少年――。

 うなじから髪の中に深く指を差し入れられると、きゅん、と身のすくむような感じになるのだった。もう逃げられない、そんな気持ちに。

 近づいてくる顔を見つめる双眸が揺れる。すっかり深い色に変わったアクアマリンの瞳で。

 アリシアには教壇に立つときの大人の女の頬笑みはなかった。少し頑なにもみえる、いたいけな顔で少年の表情を追っている。

「かわいい……」

 言われて、また胸がトキン、となった。

 教え子でもあるアキトから、初めて言われたときには唐突な印象があったけれど、今はすなおにうれしかった。

 愛される歓びも女の身の脆さも知っている。二人だけの時には、年の差も立場もなく甘えられる自分が居た。

 少年の薄い胸に抱き寄せられて目を閉じた。

 眩しいくらいに明るい資料室の白壁の背景が消えると、アキトをずっと強く感じることができるのだった。

 日なたっぽい土のにおい、息づかい、吐息にかすかにオレンジの香りがのっていること、ゆったり拍(う)拍つ胸の音、髪を撫でながら背中を愛撫する手の動き、ぬくもり。

 どれもみんな大好きだった。胸にあたたかいという以上の感情がふくらんでくる。

 このままずっと、時間が止まってしまえばいいのに……。

 窓越しに、本校舎のグラウンドで騒ぐ生徒たちの声が間遠に聞こえる。

 ひと気がなくなって、ひっそりとした昼休みの実習棟。

 アキトとのランチデート。

「先生はいいコだね……おとなしくて……」

 アリシアは唇の端を上げてちいさく頬笑みを返した。アキトの言葉の選び方をおかしく感じて。

「そうなの、おりこうさんなの……」

「お利口さんだ……」

「うふふっ」

 もうじき十五歳になるというけれど、精神的にはたくましい男の子……男のひと。

 ちょっと灯里ちゃんに似てるかも……。

 のほほんとしているようで、実際にはとてもしっかりしている二人。自分のつよさを意識していないところも共通していた。

「お弁当は、なんですか?」

 尋ねる声が教室で聞くときよりも甘くきこえる。

「おむすびとサンドイッチよ……アキトさんはどっちにする? 両方でもいいけど」

「中味によるかな」

「サケとたらこのおむすびと、サンドイッチは生ハムとチーズにレタス、ベーコンにトマトと玉子の二種類……お口に合うといいけど……」

 アリシアは、答えながら、もうおしまいなの? と感じている自分に途惑っていた。

 本音を言えば、ちょっぴり物足りない気分。

 だって、せっかく二人だけになれたのだから、もっといいコいいコして欲しいのに……。

 でも自分からは言えない、言いだしたくない。

 心を許した異性に向ける、少女っぽいわがまま。

 それなのに……。

「じゃあ、今日は妖精さんの手は血まみれだね」

 アキトは無粋なことを言うのだ。

「え――?」

 たとえ本人にはそのつもりはなくても、皮肉を言われたかたちのアリシアは、つん、となって拗ねてみせた。

「いじわるね……」

「でも、生き物の命を奪って食べる以上は、“食べられる”覚悟もしておかないと」

 アキトは女の顔を胸に抱きながら、そんな辛気くさいことを平気で言った。

 仕方ないわ、と、ため息をついて、アリシアは委ねていた身を起こした。

「お掛けなさい、お昼にしましょ、休み時間、もう三十分くらいしかないわよ」

 立ったままのアキトに傍らの簡易椅子をすすめると、自分は長テーブルの上にランチバッグの中味をひろげはじめる。

 ランチョンマットの代わりにもなるピンク色のお弁当包みを開いて、中から可愛らしいランチバンドのかかった弁当箱を二つとりだした。

 巾の狭い折りたたみの、粗末な事務テーブルがにわかに華やかに彩られる。が、なぜかアキトの表情はさえない。

 目の前に置かれたおにぎりにも、サンドイッチにもなかなか手を伸ばそうとはしないのだ。

「食欲ないの? どこか具合でも……それとも、また三時間目に間食しちゃったの?」

「おなかはすごく空いてるんだけど、でも、ラッピングをみんなといてからにしようと思って」

「あら、これで全部よ。あたし、何か作り忘れたものあった?」

 しかしアキトからは特別にリクエストがあったわけではなく、アリシアは怪訝そうに小首を傾げた。

「ボク、今日はお腹いっぱい食べたかったんだけどな……」

「どうしましょう、困ったわ……」

「でも包んだままなのが、まだひとつあるでしょ」

「包んだままの……どこに……?」

 テーブルの上にあるものはみな、すぐ手に取れるようになっている。おにぎりも、サンドイッチも、温野菜と生野菜のサラダも。

「キミはいつになったら、ラッピングをといてくれるの? それとも、ボクが脱がせるのを待ってるの?」

「アキト……さん……?」

 ようやく真意がわかって、アリシアの顔色がかわった。

 白皙の美貌をいっそう蒼白くしたかと思うと、つぎにはぽッと桜色に染めあげる。

「なにを、いいだすの……」 

「キミがどうしてもイヤ、って言うなら何もしないけど、でも、ボクはキミが欲しい」

 今度はストレートに求められた。

「イヤ?」

 しばらく逢わずにいたあとのデートでは、体を求められる――。

 わかっていたのに、学内だからそんなはずはないと思っていた。

「キミの体を見せて」

 言うなり、いきなりリボンタイに指をかけてくる。

「待ってアキトさんっ、ここではダメ」

「しー、おとなしく。上の音楽教室には昼休みに練習する生徒も居るから、あまりさわぐと聞こえちゃうかもしれないよ」

 いいながら手を休めることはないのだった。プレゼントのリボンを解くようにしてタイをほどくと、ブラウスのボタンを外しはじめる。スルスルと胸の下まで達して、スカートの中におさめた裾を引っぱり出そうとしていた。

「イヤならやめさせて、ボクにはもう自分の気持ちが抑えられないから」

「そんな……」

 中学生同士のようだった長閑(のどか)なデートが、とつぜん風景を一変させていた。

 身をかたくするアリシアのおとがいに、指がかかって顔を上向かされる。

 すぐそばに目を細めてやわらかく笑んでいる顔があった。その見覚えのある表情にアリシアはドキッとするのだった。

 それは、ベッドにいるときのアキトの顔だった。

 ためらう自分を励まして望み通りの姿勢にしようと決めたときの、どことなく余裕のある顔つき。

 やりとりを面白がっているような――。

 女の子を口説いているのに……。

 くやしいな……。

 黒い瞳に底意を見透かされているようで、アリシアはせつない視線を流した。

 ことセックスに関する限り、いつでも思いを遂げるのはアキトの方だった。

 この半年あまり、アリシアの心と体はアキトの腕の中で、少しずつ女としての研きをかけられている。

「脱いで、先生」 

 逃れる間もなく、ジャケットとブラウスが一緒に剥かれ、まろみのある肩口をすべって椅子の背もたれの間に落ちていった。

 あらわれたのは玉子のむき身のように、なめらかな肌のまっ白な体。

 さらに背中のホックを外そうと腕をまわしてくるアキトに、仕方なくアリシアは背もたれから上体を起こし、体の脇をひらいて行為を助けていた。

 それなのにブラジャーを奪われると、肩をすぼめ両腕を交差させて前を庇わずにはいられなかった。

 鎖骨のくぼみもいじらしく、押しつぶされて量感もみごとに膨らむ裾野。はちきれんばかりに真っ白になって、輝きを増して。

 腕をはらい退けようとするアキトに弱々しく抗いながら、ついには恋人の視線に裸の胸をさらしてしまう。

 骨細の体には痛々しくみえるくらいに、重力を受けてゆっさり重々しい実り。蒼白く静脈を浮かせた白い肉房に桜色の乳輪のひろがりも豊かな。

「きれいだな……キミは……」

 まっすぐに注がれる眼差しは、それだけで敏感な肌が歓びに目覚めてしまいそう。

「こんなこと、いけない……」

「下も脱いで。スカートも下着もみんな」 

「ダメよ、学校でなんて……そんな罪深いこと……」

 屈み込んだアキトの顔が近づいてきて、アリシアは身がまえて顎をひいた。キスから逃れようと顔を背ける。

 けれど、抱かれてしまうと、たちまち気持ちが挫(くじ)けてしまうのだった。

 背中を愛撫する手の温もりに、アキトの思いがのっているのをを感じて。

 肌にのこる愛撫の記憶がよみがえって。

 ワイシャツの胸に頬をすりつけて甘えてしまう。

「キミはなにも悪くないよ。罪を犯しているのはボクだけだから」

「………」

「キミを傷つけて、はずかしめて、歓びをもらって……」

 アキトの胸の中でイヤイヤをするようにアリシアは小さくかぶりをふった。

「……ちがうわ……」

「ちがわないよ」

 囁きながら額に唇がおちてきた。

 アキトは瞼をていねいにキスでおおうと、整った鼻すじをたどって最後に唇を求めてくる。

 アリシアは今度は従順に顔を上向けて、それを受け容れた。

 恋をして知った口づけの歓び。

 アキトはキスも巧みで、唇の触れ方や重ね方にいつでも変化をつけてくるのだ。

 そればかりか唇への接吻は、数あるキスのレパートリー中でもほんの入り口に過ぎないことも、アリシアにはショックなのだった。

「……でも、もしキミに罪があるとしたら、先生なのにステキすぎることかな。こんなにかわいい女の子、どこにもいないから……」

 日頃ほとんど感情の揺れをみせることのない少年が、愛しあうときには容赦のない情熱をぶつけてくる。

 言葉だけでなく、行為でも。

「だから、少しだけ、また幸せを分けてもらえるとうれしいな……」

「ずるいわ、そんないい方……」

「他に気持ちを伝える方法、知らないから……」

 乾いた声に、アキトの本気とたかぶりを感じる。肌に触れる男の腕の強さと、少年の好ましい体臭とともに、アリシアの体にも昂奮はしっかり伝わっていた。

「見せて、キミのからだ……ボクがこの世でいちばんきれいだって思う人の本当の姿、何も身につけていない女神になったキミを……見たい……」

 アキトの手がスカートの中に忍び入ってきた。スリスリと太腿を撫であがって、肌に甘美な戦慄が起きて、アリシアは、

 もう、ダメだわ……。

 と、観念するしかなかったのだ。

 けれど内腿に分け入ろうとされると、萎(な)えそうになる気持ちをふるいたたせて少年の手をスカートの上から押しとどめた。

「待って……アキトさん……」

 ふくらんでくる恋の熱に、息を乱しながらうったえた。

 心を決めてアキトを見やる。意思をのせた瞳で。

「それなら……アキトさんも、脱いで……罪を犯すのなら一緒に……」

 ちょっと驚いた顔をする少年。

 アリシアが自分から求めたことは、いままで一度もなかったからだった。

「うん……そうだね……」

 少年はすぐにブレザーを脱いでワイシャツ一枚になると、ネクタイを引き抜いて襟をゆるめた。手早くシャツを脱いで上半身裸になる。

 アリシアの目に、午後の陽を受けた若い異性の体がまぶしい。

 十四歳――もうじき十五歳になる男の子の体、なめらかな淡い褐色の肌をした。

 初めて会ったときには本当に幼く見えて、かわいい弟のように思っていたのに。

 それが、今は――。

「今度はキミの番だよ……」

 足許に跪いて、アキトはもうスカートの中にもぐろうとしている。易々と肌着に指をかけてお返しを促していて、

 やっぱり、かなわない……この子には……。

 アリシアは覚悟した。

 あきらめに沈んだ顔で体を持ちあげると、秘所に接したところが裏返される心細い感じがして、下着がお尻の下をくぐっていくのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。