ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
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実際にはそれは、ほんのわずかの間のこと。
最初に彼女の姿をみとめてから、そこで、二人――が、なにをしているのかがわかるまで。
陰影に馴れた目に、足下にうずくまるもう一人の肩が見えている。
フラミンゴのように優美な片足立ちのアリシアの、太もものあたりに両腕をまわしている灰色のブレザーの背中が。
顔は、見えない。扇に広がったスカートの中にすっぽり隠れていて。
けれど誰なのかはすぐに判った。
制服の袖口にあるポイントラインは青が三本。自分と同じ中等部三年の男子生徒。
彼、だ――。
灯里の瞳に一瞬、複雑な陰がよぎった。が、すぐに持ち前の明朗さに場所をゆずると、ちょっとだけ詰りたい気持ちになるのだった。
(アリシアさんに、あんなことするなんて……)
ひどい――。
もちろん何がおきているのか知っている。
女子生徒同士の内緒話の中で、驚きと嫌悪、そして好奇をもって話題にされる、ある特別な呼び方をされる愛撫。
他人が盗み見たり、覗いたりしてはいけないこと。
でも、卑劣だと思いながら、灯里はもう二人から目をそらすことができなかった。
こんなにも美しい女性に、それ――が、なされているのをまのあたりにして。
ほの白い内ももを撫でる手の動きは少女の目にはとても新鮮に映る。
男の子が女の人の脚をこんな風にして抱くことがあるなんて、本当にびっくりだった。
まるで小さな女の子をだっこするやさしいお父さんみたい……。
一方で、見えないところでは、きっと太ももに添えられた手よりももっとずっと愛情深くて、それよりもはるかに残酷なことがなされているにちがいなかった。
恋人たちの接吻が。
その証拠に、アリシアはとても辛そうに視線を泳がせている。目のまわりを朱に染めて、しきりに瞬きする瞼に碧い瞳がせつなく翳る。
哀しみと歓びの二重写しになった姿。
微笑みを絶やさない、やさしい眼差ししか知らない灯里にはその様子は少しだけショック。だからといって、けっして淫らとも不潔だとも感じなかった。
これがアリシアさんの女の子の表情なのだと思うと、胸が、きゅん、と甘くときめくのだ。
愛する人にだけに見せる、この上なく美しい女性のもうひとつの素顔、それを今、自分は目撃している、そんなふうに思って。
六つ年下の幼い恋人を、彼女がどんなに深く思っているかをすぐ近くに居てずっと感じていたから。
友人が若い女教師のことをとても大切にしているのを知っているから。
先生と生徒の禁じられた恋――。
ただ、
二人は、もっとゆっくり愛情を育んでいるとばかり思っていた。
それが意外といえば、意外。
アリシアが、軽々しく肉欲に身をまかせてしまうようには見えなかったから。
彼が女性の体にこんなにも強い情熱をもっているなんて、とても想像できなかったから。
自分の知っている二人はともに抑制のある人柄。
そして、どちらかといえば性に関しては、禁欲的というほど頑なものではなくても、どこかで控えているような感じがあった。
でも――。
そんな彼女たちでさえ、ひとたび火のついてしまった心と体はきっと容易には抑えきれないものなのだろう。
それが、
恋――?
人を好きになるっていうことっ――?!
まだ知らない世界に憧れを抱きながら、少女はふたりの演じる静かな情熱のいとなみを、息を凝らしてみまもり続けるのだった。