ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
夜の儀を1年ほど前のお話とすると
こちらは現在進行のお話で、読み切りです
ランジェリーショップとして著名なブランドの系列でシンプリシティキュートなデザインとリーズナブルな価格設定から、マンホームではとりわけ二十代を中心とするニューエージ世代に人気のあるヴィクシーズ・スイートはチバシティスペースエアターミナル内のショッピングモールにも店舗を構えていた。
休日の午前中、開店して間もないこともあって店内にはまだ客の姿はなく、ワイシャツに紺のベストとタイトスカートをスッキリと着こなした二十代半ばくらいの若い女性が一人、搬入された商品の陳列作業に勤しんでいる。アッシュブラウンの癖のない髪をショートにしたなかなかの美人である。
店の客層は宙港内にあることもあって旅行客が主だったが、近隣住民やときには都市部からの来店客を迎えることもあって売り上げは上々、開店以来ずっと黒字経営を続けている。それというのも惑星間フライトのエアターミナルという場所柄、同社ブランドの新製品のお披露目販売をする拠点ショップのひとつでもあるからだった。
アニータ・ローウェルはハイスクールを卒業後に入社、同店の開店時からのスタッフとして勤務し、二年前からはオーナーに代わって店の運営全てを任されていた。といっても目下、社員は店長である自分一人で、残りはパートやアルバイト等の非正規雇用者でまかなっているのが現状だったが。もっともモール内の殆どの店舗が全自動販売化している中、未だに対面販売に拘っているのは老舗の矜持と言えるだろう。顧客ニーズを肌で感じるのは名のある肌着ブランドとしては外せない一線なのだった。
それに自分で店の経営戦略の全てを担えるのは面白いのだ。ゆくゆくは独立して自主ブランドを立ち上げる野心を抱いている彼女にとって、給料を貰いながら実践的な経営を学べるというのは実にうま味のある美味しい仕事なのだった。
生粋のチバジェンヌでもある彼女の今の営業課題は地元の若年層、とりわけ思春期前後の顧客の掘り起こしと取り込みにあった。都市ローカルな市民性と最先端のターミナルでの出店という微妙な空気感の違いから、そうした若い世代からは中途半端に敷居が高く見られているのか、同ブランドの域内での認知は一定のラインを越えて以降あまり伸びてはいなかったのだ。少女たちの多くは低廉なマスプロの既製品で間に合わせているのが現状なのだった。
しかしアニータが思うのは、体が急速な発展途上にあるミドルティーンの少女たちにこそ自社製品を愛用してほしかったのだ。というのも“鉄は熱いうちに打て”可塑性のある若い体には質の良い肌着が形の矯正や発育に資すると信じていたからだった。
後になって安易にヒストリコンやジェネリビルなどの生理的整形をするよりも、ナチュラルで美しいプロポーションを得る方がずっと良いに決まっているし、そもそも体型の人工調整は初期投資が大きく維持コストもばかにならない。
美しい体を得るのは、まずは日頃の心がけ次第――。
そういうことを若い子たちに商品を通じて教育――“胸育”と言うべきかもしれなかったが――したいというのが彼女の願望だった。
その企画実現の一歩として、思いきって地元出身の美少女アイドルを使ってアピールしてみようかとも考えたのだが、残念ながらタレントの売り出し方に慎重な事務所側との思惑の違いから未だ実現してはいなかった。
かくして今日もまたリッチな旅行者向けのビジネススマイルが中心の、アニータにはいささか退屈な業務が始まった――そのはずだった。
とりわけ時期はバカンスシーズンの真っ盛り、モールの通路にはドロポーターを従えた旅行者たちが豪華で居心地の良いねぐらから、かりそめのスリルを求めて這い出しはじめている。
“第十番惑星、魅惑の遺跡探訪? はたして人類は本当はどこからやって来たのか? 太古のロマンがあなたを待っています”
“今がハイシーズン、アステロイドベルトでバスパワーサーフィン!”
“ネプチューン深海底の驚異、最新鋭潜水船『昴』で行くテラロドンウォッチツアー”
どのツアーも最低でも、10万ユニバは下らない御大尽旅行だ。
なんだって金持ちどもは大金を使ってまで不自由を買おうとするのかしら?
大深度宇宙圏なんて暗くて寒くて狭くて息苦しいだけじゃないの!
そのうえ軍隊のレーションみたいなものを有り難がって食べるなんてバッカみたい!
彼女はヤレヤレと、多少倦んだ気分を抱えながら通路に膝をつき、届いたばかりの商品を売れ筋と思えるものは客の目にとまりやすい上段に、それ以外は下段の奥へという独自のルールに従って、いつものおきまりのレイアウト作業をしていたのだった。
その奇妙な来客を迎えたのは、そんなルーティンワークの最中のことだった。
しゃがみ作業の背中にいきなりのお声がかりとなったのだが、その予想外の声音と、振り返って見上げた声の主の姿に彼女は「あらっ?!」と思わず声をあげてしまった。
その日の一番客はアニータにしてみればあまりにも場違いな訪問者だった。
とっさに思ったのは迷子、きっと道を尋ねに舞い込んだのだろうということ。というのも、どうみても闖入者はローティーンの男の子。アニータが立ち上がると遥かに見下ろすかたちになる。
(この子、中学に上がってるのかしら、それともまだ小学生? でもランドセルじゃないから中一? ぐらいかしらね……)
淡いチョコレート色の肌の黒い目ののくりくりしたすなおそうな愛くるしい顔立ち、きっと大人になったら、さぞかしいい男になるのでは? そんな少年が一人、自分を眩しげに仰いでいたのだ。
ところが、その幼い口許からいきなり「インナーのトップスを選んでいただきたいのですが」との言葉が紡ぎ出されてアニータはまた驚いた。
「あの、トップスって言ってもここは女性用のランジェリーしか扱っていないの、男の子のものはないわ」
「わかってます。ボク、ブラジャーを探しているんです。プレゼントしたくて……でも何を選んだらいいかあまり知識がないから、お姉さんにお手伝いして欲しいんですけど」
「ええ、それはいいけど……でもブラジャーってサイズとかデザインとかいろいろあるし、本人が試着してみないと体に合わないかもしれないからプレゼントとしてはどうかしら? ボディスキャンデータとかはあるの?」
「データは持ってませんけど……でもサイズはだいたいわかってます。彼女のブラをもらってるので。ただ体に合ったサイズじゃないから……たぶんフレームは30でカップサイズはトリプルDかG……」
男の子は、まるで背後から豊満な乳房を包むような感じに両手を広げて見せてアニータは目を丸くする。
「うーん、30だとちょっと余裕がないかもしれないので、一つ上のサイズを含めていくつか見せていただければ……あと、予算は40ユニまでで。ボク、あんまりお金を持ってないんです……あの、難しいリクエストですか?」
「そうじゃないけど……まぁそういうことならお手伝いさせていただくわ」
何も知らないと言いながら、そのちっちゃな見かけ以上に女性の下着についての知識があることに舌をまく。アニータはまんじりと少年の顔に見入ってしまった。
「トリプルDかGって、ずいぶんご立派なサイズだこと……ママにプレゼントするのかしら?」
「いいえちがいます」
「じゃあ、お姉さんに?」
「うーんと……そうです……」
それまで
「あら、あやしい、好きな女の子にプレゼントしたいのね?」
「はい……やっぱりバレちゃいますねっ」
「でもそれだとちょっと大き過ぎやしないかしら? いま私がつけているのがトリプルなんだけど、あなたぐらいの年のガールフレンドっていうと……」
アニータは身を屈めて自慢の胸許を少年の面前に見せつけるようにした。“ねぇボクのガールフレンドとは違うでしょ? どう? 大人の女のおっぱいってこういうものよ”と、ばかりに。
シックな装いの下で襟の大きく開いたワイシャツは深々とした白い胸の谷間と豊かな裾野の盛り上がりを強調していて、それはアニータが男性を振り向かせるために放つとっておきのアトラクトビームなのだった。彼女はしばしば男性の視線をそこへ誘いこんでは巧みにあしらうといったやり方で狙いをつけた獲物をモノにしていた。
が、少年の反応は予想していたものとは少しばかり様子が違ったのだ。
「うーんと、お姉さんのサイズは三十二ですよね……」
「あら、あたりよ、すごい、どうしてわかったの?」
「だってお姉さんの方が体格が全体に大きいから……」
「大きいって……あら、その人って相当な巨乳さんなのね。このサイズになるとあなたぐらいの年の女の子では珍しいのよ」
「ボクよりちょっとだけ年上ですけど」
「そう、ちょっとだけ年上のガールフレンドか……」
アニータはワケ知りに頷いた。そこはかとなく共犯者めいたものを漂わせながら。
思春期の男の子が年上の女に憧れるのは珍しいことではなかった。アニータ自身は手間がかかるばかりの”子供”にはあまり関心は無かったが、友人の中には自身を童貞キラーと
「ボクはおっきなおっぱいに
「違うんです、彼女をたぶらかしてるのはボクの方で……」
幼い口から“彼女”という親称が出てくると何故か胸の琴線に触れる。違和感とまではいかないが微妙に心を落ちつかなくさせる気配にアニータはしばし返す言葉を失ってしまうのだった。
考えるとはなしに理由について頭をめぐらせていたが、不意にそのワケが胸に落ちると、とたんに少年について興味を感じるようになる。
この坊やの中では、年上のガールフレンドは既に対等の存在になっている、ということだった。
でも、それってどういう意味――?
もう男と女の関係を結んでいるっていうこと?
まさか、こんなウブそうな男の子が?
でも、ありえないことじゃないわね……。
童貞好きの女からすると、この時分の男の子はよだれが出るほど美味しい獲物の筈だし。いろんなことを手取り足取り教えて、短い思春期の移ろいを間近で堪能するのは若さを維持するための何にも優る妙薬ともいう。
だけどそういうのって、とても対等の関係になるものじゃないし、男の子は男の子ですぐに若い子の方に目移りを始めてしまうものだし。
所詮、大人の女と少年の恋なんて、ありがちだけど長続きするようなものじゃない――。
でしょ!?
でも……。
「へー、あなたがお姉さんを誑かしているんだ?」
と、かまをかける。少年がただの勘違いをしていると思って、老婆心ながらそれを指摘してやろうと思って。その裏には僅かにではあったが女性的な加虐的心理も働いていたかもしれない。
ところが――。
「はい、だって彼女、ヴァージンだったし、セックスのことも知識はともかく実際については殆ど知らないみたいだったから、だからボクが教えてあげないといけなくて。下着だってサイズが全然違うのに小さなカップのものを無理に使っていて可哀想だったんです……だから、ちゃんとしたのをプレゼントしなくちゃいけないなと思っていたから……」
少年の答えは彼女が期待していたものとは些かというよりもかなり違っていたのだ。その分、更に好奇心が刺戟されている。
「そうなの……でも女を誑かすって、いったいどんなことをするの?」
「それは……」
「言いにくいこと?」
「ボクは男だからそうでもないけど、でも女の人には口にしにくいことだと思います」
会話を続けながらアニータはますます興味を惹かれていくのだった。
この少年はどこかおかしかった。何かが普通ではなく、決定的に尋常ではないものが幼い顔の裏側にちらついている。それがいったい何なのか、アニータは見極めたいと思いはじめていた。
「そう、どんなことが口にしにくいことなの?」
「たとえば……」
少年は一度、口ごもったが、アニータがうながすと迷いながらも言葉を絞り出した。
「ボク、お口を使うのが大好きなんです」
「口を使う? 口を使うって、その……」
アニータでさえ、いきなり口にするのを躊躇っていた。
「まさか……オーラル……?」
少年はすなおにこくり、と頷いた。
「オーラルセックスっ!?」
「やっぱり驚かれちゃいますよね」
なんですって――!
こんな子供とオーラルプレイをするなんて、いったいどんなオンナなのっ!
立派な性的虐待じゃない!
クンニはもとよりフェラだって普通のセックスをする以上に犯罪行為だわ!
なんていやらしいっ!
「ボク、変態なのかもしれません。だって彼女のことが大好きで、カワイクてカワイクて仕方がないから……アリシアさん、年上なんだけどスゴく可愛くて、誰にもまけないステキな美人で……だからボク、ガマンできなくて、いつも彼女にはひどいことをして泣かせちゃってるんです……」
アニータは唖然として、相手の顔をじっと見つめてしまった。
いったい二人が何をしているのか問いつめようと頭を巡らしたが、”坊や”のお気に入りのプレイがフェラチオなのかクンニリングスなのかは訊くまでもなかった。
少年は何かを思い出すように視線をさまよわせながら、舌で唇をぺろりと舐め回すようにしたからだ。
大好物やおいしいケーキを前にして、舌なめずりをする子供のしぐさ。
でも、この子がいま想っているのはそんな微笑ましいものではない。それがはっきりと確信できてアニータの胸は常になく脈拍ちはじめている。
「坊や、いったいいくつ?」
「十四歳です、来月には十五になります」
「じゃあ、中学三年生よね? 幼く見えるけど」
「子供っぽいってよく言われます。でも本当です。今は留学しているのでミッドスクールの二年になりますが」
(子供っぽいですって? 冗談じゃない! とんだ猫っかぶりだわ、この子)
「留学? どこへ?」
「AQUAのネオ・ヴェネチアにある美術学校です」
「AQUA?……ああ火星ね、最近、こっちでも人気の観光惑星らしいけど……じゃあボクの恋人っていうのはネオ・ヴェネチアの人なのね」
「はいっ」
「で、その方はおいくつなの?」
「十九歳……この秋には二十歳になるので……ボクと五つ違いのお姉さんです」
(十九か、こっちもまだ子供ね……まあそれなら処女だったとしてもわからなくはないけど……でも十九と十四の幼いカップルにしては随分とお盛んなことだこと)
「相手の方、アリシアさんだったかしら? その方は学生さん? それとももうお仕事をされてるの?」
「仕事をしてます」
「あらそう、どんなお仕事?」
「接客業、になるのかな? お姉さんと同じように……」
(なるほど、相手の女は男あしらいには馴れた、それなりに免疫があるってことか……あら、でもそうなるとさっきの話とは微妙に
「で、どうして
「いいえ、いいんです。まだフライトまで時間があるので」
「あら、今日これから火星に行くの?」
「はい、お昼過ぎの便で”帰ります” 搭乗チケットも発券済みなので、あとはここでお土産を買うだけですから」
少年の話では編入先の学校の都合で、卒業までに必要となった単位を取るためにやむなく地球に戻り、元居たクラスで半年間の授業に参加して、試験を受けて、ようやく昨日単位認定にこぎつけたのだという。
「授業料を稼ぐためにアルバイトをしながらだったので、だから大好きな人にお土産を買うお金もあまり残ってなくて……でも半年ぶりなのに、手ぶらで会うわけにはいかないですから」
少年は恋人の元へと帰る男の幸せそうな笑みを覗かせた。すなおな思いを感じるやさしい笑顔。それがまたアニータの胸をトキンとさせる。
ただ笑顔になると、それまで幼いと感じていた少年が何故かずっと大人びて見えるのはどうしたことかしら、と訝しく感じながら、ますます若い恋人たちに興味を抱いてしまうのだった。
「彼女……アリシアさんって言ったかしら? その人から誘われたの?」
「いいえ、ボクが彼女を見かけて……それで大好きになって、神さまにお願いをしたんです。アリシアさんをボクに下さいって。そしたら神さまが願いを叶えてくれたんです」
「あらまぁ(なんて子供らしいおとぎ話だこと)、でもいいわ、そういうことにしておいてあげるわ。じゃあ質問を変えるけど、交際きあってどのくらいになるの?」
「もうじき一年……かな……まだ正味十ヶ月くらいです……アリシアさんが十九になったばかりだったから……」
「そんなに前から!? 親しい関係になってからって意味だけど……その、彼女とセックスをするようになってからってことでいいの?」
「はい、そうなります……速いですね、月日が経つのは……」
(子供の一年って、大人とは比較にならないくらい変化が激しいものよ、今よりも更に一年も前って、この子、殆ど子供同然だったと思うんだけど……そんな男の子とどうしたら関係を持とうなどと思うかしら? でも……この子、たしかセックスをリードしたのが自分だって言ってなかった? そんなことってある? いったいどうなってるのっ!?)
「それからどのくらいの頻度で会ってるの?」
「デートは……月に一回、会えるかどうかで……その上、半年も会えないのは辛かったです。ただ、お手紙は頻繁に書いてましたけど……」
「じゃあ、いままで彼女と“した”のは、せいぜい十回くらいかしら?」
「実際にはその半分もしてません……あの、お散歩の途中でキスをしたのを入れて、四回、かな……」
「あのねボク、キスだけじゃ女の子とセックスしたことにはならないのよ」
「知ってます……キスって言っても、普通のキスじゃないですよ」
アニータはまだ自分が相手の見かけに惑わされて見くびっていたのを思いだすのだった。もうこの子はなんでも知っている、そのつもりでいないと話がかみ合わないことになりそうだった。
「ボクがするのはもっとずっとひどいことで……」
「わかったわ、そういうことね……でもどうして? そんなに好き合っているなら、普通はもっともっと一緒に居たいものでしょ?」
「ボクたち、ホントは会ってはいけないんです、だから……あんまり詳しいことは言えないんですけど……」
(そりゃそうでしょうよ、あっちの習慣や法律は知らないけど、こっちじゃれっきとした児童虐待……まぁ、それでもみんなそれなりに裏では盛んにやってるわけだけど……それに十代同士ならギリギリセーフって言えなくもないし……)
「いいわ……でもひとくちにオーラルといっても色んなやり方があるから、一概に変態だとは限らないわよ。ねぇ、その大好きなお姉さんに、いったいボクはどんなひどいことをするのかしら?」
「たとえば……」
「たとえば?」
「おっぱいを舐めます。お姉さんのオッパイみたいに大きいから、とっても舐めるのが楽しくて、それにいいにおいがするんです。だから右のおっぱいも左のおっぱいもいっぱい舐め回します」
「あら、そんなこと? そんなの少しもおかしなことじゃないわ。男だったら誰でもすることよ。だって男は女のおっぱいが大好きなんだから。きっと幼児体験を繰り返しているのね」
「でもそれだけじゃないんです」
「そうよね? じゃあそれを正直に話して」
「ボク、その……アリシアさんの……腋の下を……」
「腋の下をどうするの?」
「……においを嗅いだり、ペロペロ舐めたり……キスしたりします……だってスゴくいいにおいがするから、まるで新鮮な果物みたいな甘酸っぱい香りがステキで……」
「まあ、そうねぇ……女のワキのニオイが好きっていうのは少し変態かもしれないわね、でもそういう男も結構いるから心配しなくてもいいわ。他にはないの? それだけ?」
「それから……」
「それから?」
「おへそを……」
「おへそ? おへそをどうするの? ちゃんと話してごらんなさい。じゃないとボクが変態かそうじゃないか私に判断がつかないでしょ?」
「はい……ボク、アリシアさんのおへそのにおいも大好きなんです。強い香りがして、こんなに綺麗な人でもボクと同じ人間なんだって感じて、それがすごく嬉しくて。だから可愛いくぼみには舌を差し入れて丁寧に舐めるんですけど……本当は穴の奥に溜まったものをごちそうになりたいんだけど、彼女は清潔好きなので、いつもお風呂で綺麗に洗い落としてしまっているみたいで、それがいつも残念で……」
(やっぱりスゴいわ、この子……)
話を聞きながらアニータは内心、次第に穏やかではいられなくなってきている自分にも気がついていた。この年齢でマニアックなプレイを好むというのは末恐ろしいドンファンなのだ、少なくともその才能は十二分に持ち合わせている。
同時に、
もし言っていることが本当なら、この子はとんでもない女の敵よ、いい意味での……。
信じられないけど……。
でも、ホントに本当なのかしら?
女の楽屋裏のニオイを好むなんて、大人の男でもそんなには居ないのに……。
「まぁ、女の臍ゴマが御馳走だなんて、ずいぶんなおませさんねぇ……でも、それだけじゃないんでしょ? もうちゃんとすべて白状なさい」
ガランとしてひと気のないランジェリーショップの奥で、若い美人の店員と無垢そうな少年との間で奇妙な会話が続いていた。
「ボクが好きなのは彼女の腋の下とおへそだけなの? 違うでしょ? もっと大好きなことがあるはずでしょ」
「はい……ボクがいちばん好きなのは、アリシアさんの大事なところを舐めることです」
「そうね、そうだわ……それであなたはどんなふうに彼女の大事なところを舐めてあげるの?」
「女の人の性器はとてもデリケートで傷めてしまいやすいので、つとめて柔らかい刺戟をくわえるようにしてます」
「そう、それはとても大事な心がけね……続けてちょうだい、もっと具体的に」
「クリトリスは……アリシアさんのは未経験でとりわけ傷つきやすいダイジなところなので無理に包皮をめくったりしません。クリトリスがだんだん膨らんできても舐めころがしたりしないで、初めのうちは舌を丸めて柔らかい裏側に埋めるようにして、やわらかく刺戟をしてあげることにしてます。ちょっと馴れてきたら舌の上にのせてあやしてあげたりしてますけど。それから窄めた唇の間に包んであげたり、息をはきかけたりして……弱い刺戟なのでイクまでには時間がかかるから退屈させてるのかもしれないですが……」
「退屈だなんてそんなことないわ、物足りないくらいの刺戟の方が優雅で、女にとっては満足感が大きいのよ。愛されてるって感じて。時間さえ惜しまずに尽くしてもらえれば申し分のない体験になるわ。反対にただクリトリスをベロベロ舐めればいいと思ってるバカな男にあたったりすると大変」
「やっぱりそうなんですか、良かった、オトナの女の人のお墨付きを貰って」
「でも舌が疲れたりしない?」
「それは大丈夫です、舌をぐっと伸ばすのは膣の中に探りを入れて恥垢やオリモノを舐めとる時だけで、それ以外は彼女のいろんなところをお口の中に含んで味をみているだけですから、最高に美味しいペロペロキャンディーをくわているのと変わらないとおもいます……女性器の粘膜の谷間に顔を深く埋めていれば自然にそんな感じになるので……ボク、彼女のステキなにおいに包まれるのって大好きで、だから去年、AQUAを出てくるときには、アリシアさんに無理を言って身につけていたパンティとブラジャー、それから使用済みの生理用品をもらっておいたんです。会えない間はそのにおいを嗅いでずっと我慢しようと思って……でもそういうにおいって時間が経つと薄まっちゃうから……だからむこうへ帰って彼女と会ったら、一晩中、アリシアさんの腋汗や女の子の蜜をいっぱいご馳走になるつもりです。オシッコも飲ませてもらって……ああ、楽しみだなぁ……」
(スゴい子だわ、この子……変態? そんなもんじゃないわ、この歳でオンナゴロシのド変態よ、こんな子にじっくり責め尽くされたりなんかしたら、そりゃもう身も心も蕩けてしまう)
まだ午前中、店を開けたばかりだというのにアニータの股間は疼きはじめている。
「いいわ、もっとお話しして……他にはどんなことをするの? そのアリシアちゃんに」
「うーん……お尻の穴かな……ボク、彼女のお尻の穴を舐めたり吸ったりするのも大好きだから」
「まあ、大変……そんなことまでさせられてるなんて……」
「違います、させられてなんかいません、ボクがしたくてやってるので。彼女は恥ずかしがってイヤがるんですけど、無理やりアニリングスに持ちこんじゃって」
「でも女には嫌がってるふりして、誘うってのもあるのよ」
「たぶん違うと思うな……何度か泣かせちゃったこともあるくらいだから、本気でイヤなんだと思うけど……でも舐めてるとアソコから蜜がいっぱい出てくるようになるから、感じてるのは間違いないと思うんです……ねぇお姉さん、お尻の穴って、女のひとは舐められたらそんなにイヤなものなんですか?」
なにこの質問、立派なセクハラじゃない! とアニータは思いつつ、散々、セックストークに持ち込んでいるのは自分の方だったと思いなおして、
「そうね、感じるわよ……でも男の方があまりやりたがらないし……」
「そうなんですか? アニータさんみたいな美人さんの彼氏なら、やりたいって思うんじゃないかと思うんですけど」
「(あら、あたし今度は口説かれてるの――?)まぁ、あまりきれいな場所でもないし……病気のリスクもあるしね」
「病気? そうなのかなぁ……ボク、そんなこと考えたこともないです。だってアリシアさんのはすごくきれいでカワイイから、舐めずにいられる方が不思議なくらいで……」
「あなた、すごいのね……」
「本当にすごいのはアリシアさんです……すっごく優しくて、すっごく綺麗な、女神さまみたいな女のひとだから……だからたぶん彼女のならうんちだって食べられると思うな……ボク……」
(十四歳でスカトロって、どうなってるのよっ、この子の頭のなかっ! それにしてもよくも
アニータはさりげなく体をひねってボディラインのメリハリを強調して見せながら、男の子の耳許で囁いた。
「ねぇ、わたしでも試してみる? 奥へ行ってみない……?」
無理を承知で誘いをかけてみることにした。立派な性犯罪になるので、相手に同意されたらされたで逆に困ったことになるのだったが……。
少年はニッコリする。
「ご好意はとても嬉しいですけど。でも、ボク、アリシアさんしか抱かないって心に決めてるんです。ボクもアリシアさんには他の誰とも関係を持って欲しくないから。ボク、結婚したら一生、彼女を大切にして守らないといけないって思ってるので……」
「結婚!?(なんて気の早い、この辺はまだ子供ね)まぁ、断られるとは思ってたわよ、だってあなたぐらいの男の子を誘惑するのって立派な犯罪になるから」
「なぁんだ、やっぱりそうだったんですか……でも光栄です、お姉さんみたいな美人に誘惑してもらえて……ボク、こっちでは女子からまるで相手にされてこなかったから、なんだかすごく得した気分です」
この言いようにはアニータも一本取られたような気分にされるのだった。
女に恥をかかせないという知恵まできちんと備えていることに今更ながら感じ入る。
「どこが女子に相手にされないですってぇ?! どの口が言うのよっ! 美人の彼女をお口を使って悩ませてるあなたがっ」
目の前の少年は悪びれる風もなく無邪気に微笑んでいて、アニータはやられたわ、と鬢の髪を大きな動作でかきあげた。
「お姉さんとした今の話、全部内緒、ここだけの話にしてくださいね。ボクもついAQUAに帰るのが嬉しくて、浮かれて調子に乗って喋りすぎちゃって……きっと盛大に盛ったホラ話ですから」
「そうね……きっとブラジャーのサイズも盛ってるのよね」
「ハイ――」
互いに納得づくの意味ありげな笑顔が交錯する。
アニータは、少年の土産用に胸の大きな女性にも無理なく装着できるフロントホックタイプのブラを見繕って用意するのだった。
少年はデザインをひとめ見るなり気に入って
「これなら脱がせるのも簡単ですね……いいなぁ、早くアリシアさんに着せてみたいなぁ……ありがとうございます」
「それとね……」
ニプレスタイプのものも一組、サービスで持たせることにしたのだ。
「古いタイプのデザインで在庫処分になるけど、イヤじゃなければコレも持っていって」
少年は目を輝かせている。
「いいんですか? 戴いても……アリシアさんの乳輪、けっこう大きめなんですけど、これならちょうど覆えそうです。ありがとうございます……あの、合わせてお幾らになるんですか? ボク、さっきも言いましたけど40ユニ以上は持っていないので、あとは小銭しか残ってなくて……」
「いいのよ、こっちのニプレスはあたしからのお
「え! だってこのブラの値札、55ユニって……」
「いいのよ、サービスよ」
長旅前の子供に、下着を買ったら小銭しか残らないと言われては、全財産を巻き上げるわけにもいかなかった。
「そのかわり……アリシアちゃんに着用してもらったら、彼女からちゃんと装着感を聞いて、今度こっちに来るときに教えてちょうだいね」
「わかりました、お約束します――」
会計を現金で済ませた少年はニッコリ、足音も軽く出て行く。途中、振り返ってはお辞儀をし、を繰り返してすっかり満足げに店を出て行く後ろ姿を見送りながら、アニータは、きっともう二度と会うことはないだろうな、と思うのだった。
旅行客は一期一会、必ず再会しようという空約束は社交辞令のようなものだった。
(ホント、不思議な男の子だったわ……もしも言ってることが全部本当のことだとしたら、いったいどんな彼女なのかしら……あんな男の子の成長にすぐそばで立ち会えるなんて、ちょっと羨ましいっていうか……オンナにマメないい男って、ちょくちょくありそうで、なかなか見つからない優良物件なのよねぇ……その上、浮気性でもなさそうだし……)
そんな感傷的な気分も、店内を訪れた新たな客の姿を認めるとたちまち霧散して、いつもの営業スマイルに戻って出迎えた。
やってきたのは二十ぐらいの学生風のカップルだった。新婚さんかしら、とも思うのだが、見るからに男の方がこういう店に入ることに気臆れを感じている様子で、先の幼い男性客との件もあって苦笑を禁じ得なかった。
女性の方が積極的で、勝負下着――を探しているらしくサポートすることになる。
「こちらのものですと、カワイさの中にもセクシーで、あちらのご主人さまもお喜びになるのではないかと……」
「ご主人? あれは兄よ」
「あら、そうだったんですか、これは失礼いたしました」
「久しぶりに兄妹二人っきりで旅行するっていうのに全然気の回らない兄で、少しは美人の妹の魅力を思い知らせてやろうと思って」
事情は様々で、アニータは追従笑いになるが、ふと女が脇に抱えていたファッション雑誌に目が止まると、表紙を飾るモデルの優雅な美貌が気になってしばしそこから目が離せなくなってしまった。
職業柄、美人モデルはよく見慣れていて、有名どころは大抵、心得ているつもりだったのだが、当該のモデルはさっぱり記憶になかったからだ。
清潔感のある素朴さ中にも気品を感じ、端正な面ざしでありながらも愛くるしい容子は明らかにひとめを惹く。これだけの美人であれば見知らない筈はなかったのだが、きっと新人なのだろうか覚えがなかった。
「そのファッション誌はどちらのものですか?」
訊いてみた。
「ファッション誌? あ、これはファッション誌ではないですよ。月刊ウンディーネっていうネオ・ヴェネチアのゴンドラ遊覧を専門に扱った雑誌です。あたしたち、これからAQUAに行くので」
「月刊ウンディーネ……」
アニータもAQUAのツアー客にとってネオ・ヴェネチアのゴンドラ観光が目当ての一つとなっていることを知ってはいたが、それならわざわざ火星にまで足を伸ばしてコピーに乗らなくても、本場に行けば安くて簡単に済むじゃないと、いかにも現実的に考えてさして気に留めていなかったのだ。
「そちらの表紙の方、ずいぶんきれいな子ですね……」
「そりゃ、現役プリマウンディーネのトップの人ですからね、わたしたちもうまく彼女のゴンドラに乗れるといいんですけど……ちょっとムリかなぁ、競争率がハンパなかったりするかもなので」
「あらゴンドラって、こんなスタイルのいい可愛らしい女の子が漕ぐんですか? わたしてっきりマッチョな男性か、女性でもガタイのいい人が漕ぐものだとばっかり……」
モデルでも珍しいほどの端麗な美女、美少女と力仕事というものが俄かに結びつかずにいる。
「あれぇ、宇宙港内にお勤めでもご存知ないんですか?」
逆に客の女の方が驚いた顔をしていた。
「AQUAのゴンドラは地球のものとは全然違うんですよ。輸送手段というよりも芸術に近いんです、というよりも芸術そのものなんですよ。美しいウンディーネたちの歌や語りを間近に聞きながら、壮大なテーマパークとも言えるネオ・ヴェネチアを観光するという完成されたショーなんですから。私たちも今回が初めてなんですけど、なんでも重力が調整されているとかで、大勢お客さんを乗せてもゴンドラを漕ぐのにそれほど力を必要としないので、だから若い女の子でもできて、向こうでは女子の憧れの職業にもなっているくらいなんです。ただ最高位のプリマにまで成れるのはほんのひとにぎりだそうで、中でもこの表紙のアリシア・フローレンスは三大妖精の一人として、類まれなる美貌とともに街の人からも大変、敬愛されているんです」
「え、この人もアリシアさんって言うんですか?」
「え、ええ、それが何か……この人も、って……?」
「い、いえ、何でもありません……知人もアリシアっていう名前だったので……あの、もし差し支えなければその雑誌、ちょっとだけ拝見させていただけませんか?」
「ええ、かまいませんけど……月刊ウンディーネはこっちでも書籍通販サイトで扱ってますから、割と手に入りやすいと思いますよ」
アニータは客から受け取った雑誌の表紙をしっかり確かめてからページをめくる。
カバー企画として、雑誌の中でもページを割いて、多くの写真とともに彼女を紹介していた。
現役最高位のプリマ・ウンディーネ、三大妖精の一人、
十九歳――!
豊かなブロンドの華やかな美貌、それにもかかわらず慎ましげで楚々とした、どこか儚げな風情、優しい笑顔の愛くるしい顔立ちが、彼女がどこまでも特別であることを教えていた。
純白に青いストライプの入ったコスチュームがとてもよく似合っている。
「この子がアリシアさん……まさかね……でも……」
観光案内というのであれば広い意味で接客業にあたる……。
背はそれほど高くなくて170センチぐらいだとすると……バストは……。
夏の制服の翻ったケープの奥にかなりの量感のある胸のラインが覗いていて、職業柄パッと目算してそれがトリプル以上であることがすぐに読み取れた。
「やっぱりこの子だわ……こんなに偶然がいくつも重なると……だけど、そんなことって……」
アニータは声を落として、自分を説き伏せるように一人つぶやいていた。
「あの、そんなにお気に入りでしたら差し上げますよ、その雑誌……」。
渡された雑誌の誌面に食い入るように目を走らせているアニータの様子に驚いたのか、件の女性客が不思議そうに申し出ていた。
「あ、あらごめんなさい、私ったらつい魅入ってしまって」
「わたしたち、自宅にもう一冊……あそこにいる兄が同じものを持ってるんで」
女は店の入り口付近で所在無げにしている連れの男に目をやりながらさらに付け加えた。
「いえ、お返し致します。これからAQUAに向かおうっていう旅行者の方に……ただちょっとあんまり綺麗な子だったものでびっくりしてしまって……」
「ですよねぇ、アリシア・フローレンスは本当に綺麗ですよね、この落ち着きようでわたしの二個下だなんて信じられないですよ。妖精というより水の女神って言った方が似合ってるような気がしますから……」
さっきの男の子も同じことを口にしていたことが蘇える。
アリシアという名の、女神のように美しく、心優しい十九歳のおっぱいの大きな女の子がネオ・ヴェネチアに何人も居るとは思えなかった。
(きっとこの子……なんだわ、さっきあの子が言ってたガールフレンドって……信じられないことだけど……いったい、どうしてそんなことになったのか分からないけど……でも、きっとそう……)
兄妹のカップル客を送り出して、店に一人になったアニータはカウンターの向こうでひとり佇立したまま、予想を上回る偶然続きにとっちらかったままの頭を整理していた。
秘密のデート、軽々に公にできない関係というのも、相手がアリシア・フローレンスというのなら宜なるかな。
あんな何にも知らないような顔をした綺麗な子がプライベートでは男の子と濃厚なイケナイセックスをしているなんてね……。
もっとも、全部あの子のホラ話、あるいは勝手に描いた夢物語という可能性も残ってはいたが、仮に事実だったとしても、それはそれで頷けるのだ。
たとえ初心な男の子だって夢中になれば大人のオトコ顔負けのことだってするようになる。あれほどの美貌を相手になら、禁忌を乗り越えるのも難しくはないのだろうと。
美人ほど豊かなセックスライフを楽しんでいることを、アニータは自身の経験としても知っていた。
「男ってホント、バカだから……」
不細工な男が思いつめたような顔をして自分の股間を舐っていた時のことを思い出すと、女としての充足感、優越感に満たされて、こういうのもワルくないと思えるのだ。
なんだかんだいって最後はどんだけ奉仕されるか、女の価値、女であることの醍醐味はそこにあると思う。顔だけ良くてもセックスの下手な相手とはやっぱり長続きはしなかった。
向こうは向こうでいろんな相手とメイクラヴをするのが目的みたいなので、それはそれでどうってこともなかったのだが……。
あとはお金――。
現金な話だけど、男女をつなぎとめる最も強靭な絆となるのは、やっぱり経済力だった。
恋愛感情なんてものは時間とともに磨り減っていくものだけど、お金は違う。
来年にはアラサーの二十八になる自身にとって、身を固めるつもりなら、そろそろ潮時。
好条件のパートナーを得るにはここ一、二年が売り時としては最後のチャンスだという自覚は持っている。
外見はソコソコでも、セックスの上手なテクニシャンで金持ちで、あとは社会的にステータスもあればなお良し……。
ちょっとハードルが高いかもしれないが、うち一つでも満たされていれば、まずは良しとしないと、と腹をくくっている。
もとより男よりも女の方が現実的で、生存本能が優位に働くもの――。
女は集団内でのポジションが自分にとって有利になるように行動するべく遺伝子にプログラムされている、とどこかで誰かが言っていたようだったが、まったく同意見だった。
それゆえにアリシアの行動は気になるのだ。
今は若いから良いのかもしれないが、いずれはあの男の子とも別れて、もっと条件の良い相手を求めるようになるのだろうか、と。
あれだけの美貌を子供相手に安売りできるのも、せいぜい今のうち。
もっとも、ベンチャー起業がときにメガカンパニーに爆発することがあるように、あの男の子が将来、大化けすることに彼女が本能的に気がついている、ということもあるのかもしれなかった。
アニータの経験に基づく持論では、身体的に欠陥がないことを前提に、セックスの上手い男は知能も高い傾向にあるのだ。相手の心や身体の状態を観察し、共感して想像して、それに基づいて有効な行動をする。セックスはある意味でもっとも知的で創造的なコミュニケーション能力を必要とするものだった。そして頭が良ければ成功する可能性は高くなり、結果、実入りも大きくなるはず。
会話をして窺えたのは、あの子の知能はかなり高いということ……。
きっとアリシアもそれにはすぐに気がついただろうと思う。そしてあの子に興味を抱いた。興味は好意の初期反応だ。
諸々のことを想ううちに、アニータはアリシア・フローレンスに実際会ってみたくなってくるのだった。
それにもしもウチのブラを着けてくれたのだとしたら……。
ふとそう考えた時、経営を与る身としてはビジネスチャンスと捉えることができないか、と天啓がひらめく。
「ウチの提携モデルになってくれたりしないかしら……」と。
当代きってのプリマ・ウンディーネと契約するのにどれほどの金額を積まないとならないのか分からなかったが、とりあえず地元アイドルと交渉したときの経験が使えそうな気がしていた。
そこで脈アリとなれば、本社の支援を受けつつ交渉をすることも可能かもしれないとも思うのだ。
それに、あの男の子を手掛かりにすれば、ひょっとすると、ひょっとするかも、と皮算用を始める。
「しまった、あの子の名前を聞いておくんだったわ……」
まぁ、ネオ・ヴェネチアにそんなにいくつも美術学校があるわけではないわよね、と、後で調べてみることにする。
アニータは、この際一度、慰安と視察を兼ねて、バカンスにはAQUAにまで足を伸ばしてみようかとも思うのだった。